転生生活で大事なこと…なんだそれは?   作:綺羅 夢居

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更新が遅れて申し訳ありません。ブログのほうには最新話まで上がっているので気になる方はそちらへどうぞ。


2話目 転生生活でまず思うこと

2話目 転生生活でまず思うこと

 

「今日からここで暮らすことになった烏丸拓斗です。よろしくお願いします」

 

 夕食時、俺は始めて顔を合わせる二人に挨拶をする。一人はメイド服を着た少女。そしてもう一人は

 

「あ、あの、月村すずかです。よろしくお願いします」

 

 月村忍の妹、月村すずかだ。

 

「すずか〜、男の子が相手で緊張した〜?」

 

 すずかの目に見えてわかる態度に忍はくすくすと笑っている。

 しかし、すずかの態度はおかしいものではないだろう。初対面の異性がこれから一緒に暮らすということになれば、戸惑うのは無理ないし、初対面ということで緊張してもおかしくない。

 

「君が助けてくれたんだよね?」

 

「う、うん」

 

 俺の質問に彼女はおずおずと答えてくれる。もちろん、すずかが俺を助けてくれたことは忍から聞いて知っているが、この場合、話しかけるきっかけになればいい。

 

「助けてくれてありがとう」

 

 すずかにお礼を言う。これは本心からのものだ。彼女が助けてくれなければどうなっていたのか予想もできない。少なくとも、まともな生活にはありつけなかっただろう。

 するとすずかは慌てて

 

「い、いいよ。お礼なんて」

 

「それでも、助けてくれたことには変わりないから」

 

 そういってもう一度彼女に頭を下げる。すると忍が間に入ってきた。

 

「すずか、感謝は受け取っておきなさい。それにこれから一緒に暮らすんだから、あんまり固くならないようにね」

 

「うん、じゃあ、どういたしまして。それと私は月村すずかです。これからよろしくね拓斗君」

 

「よろしく、すずか」

 

「あの〜」

 

 すずかと親睦を深めていると横からメイド服を着た少女が話しかけてくる。

 

「私のこと、忘れてませんか〜?」

 

 仲間はずれにされていると感じたのか、少し涙声で彼女は話しかけてくる。なんというかむちゃくちゃカワイイ。

 

「ごめんなさいっファリン」

 

「いいんですよ〜。私はすずかちゃんのメイドのファリン・K・エーアリヒカイトです。よろしくお願いします、拓斗君」

 

 ファリンは俺に自己紹介をしてくる。君づけで呼ばれることがここ数年なかったので少しむずかゆく感じてしまう。

 

「はい、よろしくお願いしますねファリンさん」

 

「私のことはファリンでいいですよ〜」

 

「じゃあ、ファリン、よろしく」

 

 ファリンを呼び捨てにできるのは少々嬉しい。流石に自分より年下の女の子に敬称をつけたり、敬語を使ったりするのはめんどくさかった。

 

 その後、みんなで夕食をとると、すずかやファリンに俺のことを説明する。当然だが、内容は少しぼかしてある。流石にそのまま説明するのは無理があった。

 

「じゃあ、拓斗君は魔法使いなんだ?」

 

「うん、といってもまだ大した事ないんだけどね」

 

 二人に話した内容は、俺が異世界から来た魔法使いだということだ。とりあえず、見習いの魔法使いということにしてある。忍もそれとなく口裏を合わせてくれるお陰か彼女たちはそれを信じてくれた。

 ここに転送されたのを直に見たすずかもあの不思議な現象が魔法ということで納得してくれたようだ。

 

「あの、私も魔法が使えるのかな?」

 

 すずかは俺に聞いてくる。魔法使いというファンタジーな存在が実在する以上、自分も遣ってみたいと思ったのだろう。

 

「魔法使いはね、体内にリンカーコアって言う特殊な器官があるんだ。すずかにそれがあれば使えると思うよ」

 

 俺は答えをはぐらかす。魔力の有無がわかるわけではないし、もしかしたら彼女も魔法がつかえる可能性があるかもしれないからだ。

 

「私が魔法を使えるかはわからないんだ……」

 

 すずかは少し落ち込んだ表情を見せる。それだけ魔法が使いたかったのだろう。

 

「じゃあ、魔法を見せてほしいな」

 

 すずかは俺に魔法を見せるようにお願いする。これに俺は少し焦った。

 

 ここに来たばかりでまだ魔法を使えるわけじゃない。正直言うとできるのはバリアジャケットの展開ぐらいだ。

 

「はいはい、すずか。もう夜だし、そこまでにしておきなさい。拓斗が困ってるわよ」

 

 忍は俺のことを知っているのでフォローに入ってくれる。俺は目で忍に感謝をすると忍は笑顔で返してくれた。

 

「なら明日っ、明日見せてっ」

 

 すずかは必死に俺にお願いしてくる。流石にコレは断ることができないので、いいよと返答した。すると、すずかは嬉しそうな表情を浮かべる。

 

「じゃあ明日、私が学校終わってから見せてね。約束だよ」

 

 すずかはそういって自室へと戻っていった。

 

「すずかったらホント魔法が楽しみみたいね」

 

 忍はすずかの部屋を出て行くときの表情に笑みをこぼす。

 

「まぁ、受け入れてもらえたようでなにより…かな」

 

 すずかに受け入れてもらえて本当に良かった。もし受け入れてもらえなければ、ここに居づらくなる。

 

「それで明日までに何とかできそう?」

 

「まぁ、今日中にアレの内容を理解することができればたぶん大丈夫かな?」

 

 すずかに魔法を見せるためにどうすればいいかを考える。どうやら、魔法はノートパソコンを使ってデバイスにインストールすれば使えるようになる見たいなので魔法を使うことは問題ないと思う。

 

 問題があるとすれば、俺の資質の方だろう。俺の持っている魔力がどの程度なのかがわからなければ、魔法を使うのに困ってくる。

 

「そういえばすずかが言ってたけど、私たちも魔法が使えるのかしら?」

 

「原作では使えなかったみたいだけどね。まあ、調べる方法がわかったら調べてみるよ」

 

 自分のすることが増えてくるが、ここの主導権を握っているのは忍のほうだ。抵抗しても特に意味はないのでおとなしく従う。

 

「それでうちの妹はどうだった? 私の妹だからかわいいと思うんだけど?」

 

 忍はそういって、すずかの印象を聞いてきた。

 

 俺にかわいいと言わせたいのか? 流石にロリコン扱いは勘弁してほしいぞ。

 

「確かにかわいいな。あと五年位したら、口説いてたかもね」

 

「アンタ大学生だったんでしょ。五年経ってもあの娘、十三なんだけど」

 

 忍がジト目でこちらを見てくる。流石に二十歳を超えている人間がかなり年下の女の子に興味を持っているのに、問題を感じているらしい。

 

「中学生以上ならわりと女の子として見れるからね。流石にいろいろ問題は感じるけどね」

 

「その割には私に興味ないようだけど?」

 

 忍は表情を変えずに疑問をぶつけてくる。やっべ、流石に言葉を間違えたか?

 

「まあ今はほら子供だし、流石に恋人持ちわね。でも、元の身体だったら間違いなく興味は持ってただろうね」

 

「クスッ、子供の格好で言われてもね〜」

 

 忍の表情が和らぐ。どうやら毒気を抜かれたようだ。

 

「それに世話になっている人間に手を出したりは流石に無理だわ」

 

「意外と律儀なのね」

 

 忍は笑う。

 

「まあ、そのあたりは大人になるか、元の身体に戻るかしてから考えるわ」

 

 そうなってくると元の世界に帰るっていう選択肢も出て来るんだろうけどな。

 

「元の世界に帰りたいとは思わないの?」

 

「今は帰りたいと思ってるよ」

 

 忍の質問に即座に返す。

 

 家族に会いたい、友人に会いたい、元の世界で生活したい、就職も決まってる。

 

 向こうでの生活に今すぐ戻れるなら戻りたい。家族は大切だし、友人と一緒に居るのは楽しい。でも、ここでは彼女たちが居るとはいえ、一人になってしまったのだ。

 

 このまま、こちらで過ごしていくうちに未練が残ってしまえば、帰ることもままならなくなる。

 

 かといって未練を作らないように人間関係を構築していくわけにも行かない。親しい友人を作らず、理解してくれる人を作らず、すごしていくのは寂しく、もし、このまま帰ることができないまま一生涯を終えるのは酷く辛いことだ。

 

「……そう」

 

 忍がそれだけ言って黙り込む。俺たちの居る場は静まり返った。

 

 忍がどれだけを理解しているのかはわからない。ただ、忍の表情が少しだけ暗くなる。

 

「帰るアテがあるわけじゃないし、元の身体に戻れるわけでもない。まだしばらくはお世話になるつもりだからよろしく頼むよ」

 

「ええ、でも貴方がここに居る間は私たちのことを家族と思ってくれてもいいからね」

 

 俺たちはお互いに言葉を交わすと俺は与えられた部屋へと戻る。

 

 部屋に戻るとすぐにノートパソコンを起動して、デバイスの魔法を確認したり、ノートパソコンでできることを確認する。

 

 落ち込んでいる暇などない。できることをやっていかなければならない。そうすれば、少しは今の寂しさも忘れることができるから……

 

 俺は作業に打ち込む。少しでも寂しさを紛らわせるため、少しでも悲しみを軽くするため……

 

 

 

 

 

「そうよね。寂しくないわけないわよね」

 

 拓斗が出て行った後、私は椅子の背もたれに身体を預け、手の甲で額を押さえる。

 

 いきなり一人になって、家族と友人とも会えなくなって、生活が一変してしまう。

 

 それは実際に自分の身に起こらなければわからないだろう。もし、私がもう家族や友人、そして恋人と会えなくなったら……

 

 そう考えると、少し、いやかなり怖い。間違いなく自分は耐えられなくなると思う。

 

 でも拓斗は悲しんだ表情は見せていなかった。帰りたいといったときに少しだけ、寂しい顔を見せたぐらいだ。

 

 もしかしたら、今泣いているのかしらね。

 

 新たに増えた同居人のことを考える。彼のことを全部知ったわけではないが、少なくとも敵意も泣ければ悪意も感じない。まあ、少し性癖が気になるところだけど…

 

 今、月村の情報網を使って、彼のことを調べている。時間は必要だが、もし彼がうそを吐いていたりするなら、情報網に引っかかるはずだ。

 

「ホント、嫌よね。人を疑っていかなければならないって」

 

 月村の当主としてもしものときのために備えなければならない。それは人間関係が一番疑わなければならないことだ。たとえ、友人であっても、恋人であっても関わる人間を調べる必要がある。

 

 打算とか関係なく人間関係を構築したいのに人を疑わなければならない。

 

「ジレンマ……よね」

 

 少しだけ、こんな自分が辛くなった。


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