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「フッ!!」
「ッ!!」
男の気合と共に男の手に持った武器が振るわれ、刃が俺を襲う。俺はそれに反応し身体を回転させて回避すると、その勢いを使って男に回し蹴りを放つ。
「クッ…」
魔力によって身体能力が底上げされ、さらに回転による勢いのついたそれは男に受け止められたものの、男の顔が苦痛でゆがんだ。それを見た俺は、さらに懐に潜り込むと掌を男の腹部へと腹部に当てる。
「しまったっ!!」
男が慌てて俺から離れようとするが遅い。男が自分から離れるよりも早く、俺は魔法を完成させ、それを放った。
「クッ!!」
「そこまで」
俺の魔法によって男が吹き飛ばされるが大したダメージではないようで男はすぐに立ち上がる。それを見たもう一人の男性が声を上げ、俺達を止める。俺はそれを確認すると集中を解き、深く息を吐いた。
「恭也さん、大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だ」
俺は先ほどまで戦っていた男、恭也に近づくと声をかける。そう、先ほどまで戦っていた相手は恭也であった。訓練では恒例となった模擬戦なのだが、最近の模擬戦は以前とは変わっている。
「まさか近接戦で一撃貰うとは思ってなかった」
「まぁ、でも魔法を使ってですからね」
今回の模擬戦では俺は近接戦闘で恭也に挑んでいた。魔法は身体強化と近距離の魔法のみ、恭也も鋼糸や飛針を使わなかった上、いつもなら二刀持っている小太刀も一刀しか持っていない。
この模擬戦をするようになったのは、俺の戦い方を増やすためだ。今まで俺はデバイスを使った射撃魔法などを基本とした戦い方をしていた。もちろんこれからも基本はそのスタイルのつもりだが、それだけでは接近戦に不安を覚えた。相手を近づけさせない戦い方であったり、近づいてきた相手を罠に嵌めたりという手段も持ってはいるが、もしものときのために手札を増やしておきたかった。
今、ベースとなっている近接戦の攻撃手段は蹴り技がベースだ。というのもクロックシューターが銃型で手が塞がってしまうため、どうしても蹴りがメインになる。
「謙遜することはないよ。武器を持っている相手の懐に潜り込んで一撃を与えたんだ。もっと自信を持った方がいい」
士郎さんが近づいてきて褒めてくれる。それを嬉しく思うが、まだ自分では満足できていなかった。
「それじゃあ、次はこっちの練習に移ろう」
士郎さんはそう言って竹刀を取り出す。俺も少し離れたところに置いてあった竹刀を取りにいくと、士郎さんの前で構える。
「じゃあ、まずは素振りからだ」
士郎さんの声と共に剣の練習が始まる。ただ素振りを行うのではなく、相手をイメージして竹刀を振るう。剣道とは違い、攻撃箇所が限られているわけではないので、相手のどこへ向かって竹刀を振るうかは自由だ。とはいえ、面、胴、小手、喉などは基本として教わっているのでそれが主になってしまうが…。
「うん、大分形はできてきたね」
俺の素振りを見た士郎さんがそう言ってくる。自分ではわからないが素振りだけはようやく見れるようになってきたみたいだ。その後も素振りだけに終わらず、足捌きであったり、打ち込みなどを何度も何度も確認しながら繰り返す。士郎さんに剣を習い始めてから半年程度が経過するが、動きが少しずつ慣れていくのは感じる。
「じゃあ、最後は試合だ。今日は俺がやろう」
士郎さんはそう言って俺の前に立つ。いつも練習の最後には試合が行われる。これは習い始めたときからずっとであった。士郎さんが言うには実戦のイメージをつかむことが重要らしい。ただ、剣を振るうのではなく、実戦をイメージして振るう。試合を行うのはそういうイメージをつかむためであるらしい。そして実戦での感覚を覚えろとも言われた。素振りのようにいつもいい姿勢で武器を振れるわけではない。バランスを崩しているときもあるし、相手によって自分も攻撃方法を考えなければいけない。
「それと今回は竹刀じゃなくてコッチを使おうか」
士郎さんはそう言って、木刀を手渡してくれる。
「木刀…ですか?」
「ああ、そうだ。これの方がより武器に近いからな。拓斗君も今は竹刀だけど、いずれはこれで練習するよ」
士郎さんは言い終わると両手に普通の木刀より短いものを両手に持ち、構える。その瞬間から一気にその場の雰囲気が変わった。
「じゃあ、いくぞっ」
士郎さんが踏み込んできて、俺に向かって木刀を振るう。俺はそれを受け流して、士郎さんの背後に回りこむがすぐに反応され、横薙ぎで払ってくる。それを俺は後ろにステップして躱し、士郎さんから距離をとった。
「うん、ちゃんと受け流せたね」
「ええ、そう教わってますから」
俺は士郎さんの初撃を受けるのではなく、受け流した。これは士郎さんから教わったことだ。俺は子供であり体格で劣る。そんな俺が攻撃を正面から受けてしまえば、衝撃が手にダイレクトに伝わり、武器を落としてしまうかもしれない。そうでなくても受けきれないということもある。だからこその受け流しだ。相手の攻撃を受け流して、自分への衝撃を和らげる。まだ未熟なため失敗することも多いが、それでもこの技術は俺の役に立っている。
まず、これを覚え始めてから防御面が上手くなった。相手の攻撃をどうやって受けるか、どうやったら効率よく受け流すことができるか、それを考え始めたためか、少しだけではあるが防御面が上がっている。
「じゃあ、今度はどうかな?」
また士郎さんが踏み込んできて、俺に攻撃を加える。今度は連続して木刀が振るわれる。
「クッ!!」
もともと二刀流は連撃が当たり前のため、攻撃と攻撃の間の隙が少ない。それに苦労して回避、時には防御を選びながらも何とか防ぐ。
士郎さんの攻撃を俺が懸命に防ぐ。士郎さんと戦うときは大体がこんな感じであった。士郎さんは攻撃のスピードも威力も俺の技量に合わせて手を抜いている。俺が反応できるギリギリの攻撃で攻撃してくるので俺も必死だ。いずれ捌ききれなくなった俺がいつも攻撃を喰らって終わってしまう。何とか隙を見つけ攻撃しようとするが、それも簡単に回避されるか、逆にカウンターを喰らってしまう。
今回も例に漏れず、俺が捌ききれなくなり、士郎さんの一撃を貰い、試合は終了した。
「あ、ありがとうございました」
「うん、お疲れ様」
士郎さんにお礼を言って下がる。身体は疲労でいっぱいだった。まず全力で動かなければ攻撃を防げないということ、そして士郎さんの動きに集中していなければ反応できないということ、ずっと集中していた上、全力で動いていたのだ。練習時間は短かったとはいえ、正直、かなり疲れた。
しかし、まだ終わらない。これからは魔法訓練の時間であった。トレーニング用の魔力負荷の魔法を使って自分に負荷をかけて鍛えると同時にその状態で魔法を使って技術の向上を目指す。基本的にこれは原作でもなのはが同じようなトレーニングを行っていたので、それを真似する形だ。日常生活のありとあらゆるところで魔力を消費するため、結構辛かったが、今は慣れてきたためそうでもない。先ほどの士郎さん達との剣の練習のときもしていたが、あまり気にならなくなった。なのはも同じことをやっているみたいであるが、それを止めることはしない。というより自分もやっているため、止めることができない。
魔法の訓練は二種類、デバイスを使った訓練と使わない訓練だ。デバイスを使わない訓練は主にデバイス無しでの魔法行使を訓練している。先ほどの恭也との模擬戦のように、デバイス無しでの試合も行っているがまだ危なっかしいので、模擬戦の場合、身体強化と簡単な射撃魔法しか使わない。
先ほども言ったとおり、魔法行使と制御の訓練が主になるが、これがまた難しい。ただ使うだけならできるのだが、誘導弾のように魔力弾をコントロールしたり、ソニックムーブや飛行魔法のように動きを制御したりするのはかなり難しい。
ちなみにデバイス無しでの魔法行使という点では俺はなのはに劣るようになってきた。なのははジュエルシード事件以降、危険なことから身を守るために魔法訓練の時間が延びたが、俺は士郎さんと剣の練習や他にもいろいろすることが増えたため、魔法訓練の時間が少し減ってきている。
デバイスを使った戦闘では負けはしないだろうが制御面から見ると俺はなのはに負けている。
最近ではなのはに魔法を教えることも少なくなり、訓練などはクロノ達から教導メニューを送ってもらったり、なのはが独自でトレーニングを行うようになった。俺がしているのは魔法のマニュアル作りだ。ノーパソで今ある魔法についてを調べ、その種類や効果、使い方であったりをデータにまとめてレイジングハートに渡している。
「ねぇねぇ拓斗君、今日はどんな訓練するの?」
なのはは屈託のない笑みで俺に聞いてくる。その表情を見てか、身体の疲労が少し軽くなった気がする。
「いつもと同じように模擬戦でもいいんだけど、今日はちょっと別の訓練をしようか」
そう言って俺はなのはから少し離れると空中にいくつかの魔力弾を展開する。
「今回の訓練はこれの撃ち落し、飛んでいるこれに当てる。できたら交代して、今度は当てられないように誘導するっていう訓練、制限時間は一分」
「それ凄く面白そうっ、拓斗君っ早くやろうよ!!」
なのはは訓練の内容を聞いて、面白く思えたのか目を輝かせて、俺を急かす。こういったように子供にやる気を出させたりするのはとても重要であるらしい。
ゴールデンエイジと呼ばれる言葉がある。この場合は子供の成長に関わるものという風に思って欲しいが、スポーツなどで子供が成長しやすい時期をさす言葉だ。大体五歳から八歳ぐらいまでをプレゴールデンエイジといい、この時期は脳を始めとする体内の神経回路が複雑に張り巡らされていく時期であるらしい。この時期の子供は集中力が高いけど、色々な刺激を求めているため、集中力が長続きしないといわれている。だから、遊びの要素を加えながらこの時期に色々な経験をさせることで神経系が発達し、後に専門的なスポーツを行う際、覚えるのが早いらしい。
その後、九歳から十二歳にかけてをゴールデンエイジといい、神経系の発達がほぼ完成に近づき、動作を習得したり、スキルを身に着けるときに最適な時期と呼ばれている。これはプレのときの神経回路の形成が影響するらしいので、プレの段階が重要となるようだ。
なのははちょうどプレとゴールデンエイジの間の時期だ。神経を発達させ、スキルを身に着けていく。これからどんどんと成長する時期に差し掛かっている。だからこそ、彼女のやる気を出させ、彼女の力を伸ばしていくことが大事なのだ。
「アクセルシューター、シュートッ」
なのはの誘導弾が俺の魔力弾を狙う。俺が展開した魔力弾は全部で五発、これは俺がデバイスを使わずにコントロールできる自信のある最大数である。
あちらこちらへ飛び回る俺の魔力弾をなのはの魔力弾が襲う。なのはも五発発射し、その誘導弾は真っ直ぐに俺の魔力弾へと向かう。
「やべっ」
魔力弾を動かし、なのはの誘導弾に当たらないように動かすが、一発がなのはの誘導弾に当たってしまう。
「やったあ、次いくよ〜」
なのはは喜んで残った四発の誘導弾を同時にコントロールし、それぞれ別の魔力弾を狙う。しかし、俺もそう簡単には当てられてはやらない。一発は当たってしまったがこれからは一切、なのはに誘導弾を当てさせないつもりであった。
「うう〜〜、結局一発しか当たらなかったよ〜」
なのはが目に見えて悔しがる。結局、なのはは最初の一発しか当てることができなかった。
「それに私の誘導弾同士がぶつかっちゃったの」
途中なのはの誘導弾同士がぶつかって消えるということがあった。誘導弾が魔力弾を追いかけているとき、ちょうどその軌道がクロスしてしまい、なのはの誘導弾はぶつかってしまったのだ。まぁ、俺が誘導したのもあるがまさか上手くいくとは思っていなかったので、少し驚いてしまった。
「初めてだから仕方ないよ。今度は俺の番だね、なのはお願い」
「うん、絶対拓斗君には当てさせないの」
落ち込んでいたのから一転、なのはは気合を入れなおし、先ほどの俺と同じように五発の誘導弾を上空に展開する。
「じゃあ、いくよ」
俺も先ほどと同じように魔力弾を展開する。今度は当てる側だ。目標はもちろんパーフェクトなのだが、先ほどのなのはは最低でも超えておきたい。
俺は誘導弾をコントロールしてなのはの誘導弾を狙う。先ほどのなのはと違うところは五発を使って一発を追い込むところだろうか。
「えっ?」
あっという間に俺の魔力弾はなのはの誘導弾一発を囲み、撃ち落す。なのはも思わず呆気に取られた声を上げた。
「どんどんいくよ」
その後も同じように俺の誘導弾がなのはの誘導弾一発を囲み、撃ち落す。そして、残る誘導弾は一発だけになる。
「これだけは当てさせないのっ!!」
既になのはの記録より俺のほうが上回っているがなのはは全部は落とされたくないのか必死に俺の誘導弾から自分の誘導弾を逃がす。時間も残り少ない。しかし、俺の誘導弾は徐々になのはの誘導弾に迫る。
「これでお仕舞いっと」
なのはが迫ってきた誘導弾に焦り、急旋回させたが俺もそれに反応し残った最後の誘導弾にぶつけた。
「うう〜、全部撃ち落されたの〜」
「じゃあ、なのは。どうして自分が全部当てられなかったのかはわかった?」
俺はなのはに対して質問する。
「私が別々の誘導弾を狙ってたから?」
「うん、正解。なのはは別々の誘導弾を狙おうとして当たらなかった。でも俺は一つに対して全部の誘導弾を使って当てようとした。だから簡単に当たっただろ」
一つに対して一つより、複数で狙ったほうが当然当たる可能性が高くなる。別々で狙うのも悪くはないが、そう簡単に当たるものではない。
「こういう風に当てるためにはどうすればいいかっていうのを考えながらもう一度やろうか」
「うんっ、今度は負けないよ」
こうして今日のなのはとの訓練は終始これだけで終わってしまったが、なのはは最終的に俺の誘導弾を全て撃ち落すことができるようになり、俺も誘導弾のコントロールが上がったように感じた。