転生生活で大事なこと…なんだそれは?   作:綺羅 夢居

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35話目 告白

 

 月村邸に帰ってきた俺とすずかはそのまま俺の部屋へと戻り、向かい合っていた。

 

「じゃあ拓斗君、話してくれるよね?」

 

 すずかは真っ直ぐに俺の目を見てくる。その表情は真剣そのものだ。

 

「ああ、まずは…そうだな、俺のことについて話そうか」

 

 すずかに何から話すべきか悩んだが、この機会だ、全てを話してしまおう。はやてのことだけ話そうかとも思ったが、すずかが相手では隠し続けるのは難しいと思った。

 

「拓斗君のこと?」

 

 すずかは俺の言葉に聞き返してくる。すずかの考えていることはなんとなくわかる。すずかは俺が魔導師であることを知っているし、別の世界から来たことも知っている。それに一年も一緒に過ごしているのだ、これ以上知らないことなんてない。そう考えているのだろう。

 

「ああ、俺のこと」

 

 戸惑うすずかに俺は意を決して全てを話すことにした。

 

「すずかは俺が別の世界から来たことは知ってるよな?」

 

「う、うん」

 

 すずかは戸惑った声をあげる。確かに俺が別の世界から来たことは事実であるが、本当のことにはまだ一歩足りない。

 

「俺のいた世界はこの地球となんら変わらない世界なんだ」

 

「えっ」

 

「俺はそこで普通に暮らしていた。普通の大学生として」

 

「えっ? それって…?」

 

 俺はすずかに自分が大学生であることを教える。すずかは戸惑った表情で聞き返してくる。当然だ、目の前にいる俺はすずかと同い年にしか見えない子供でどう見ても大学生には見えない。

 

「実は俺は大学生だったんだよ、すずか」

 

 戸惑っているすずかに念を押すようにもう一度伝える。すずかは絶句して、言葉を話すことはできない。俺はすずかが落ち着くのを待とうかと思ったが、これから話すことはそれ以上に驚く内容なので、そのまま続ける。

 

「普通の大学生だった俺は魔法なんて知らずに生活してた。それで卒業も間近に迫ったある日、俺はいつの間にかとある場所にいたんだ」

 

 あの時のことは今も鮮明に覚えている。目が覚めたら知らない部屋にして、自分が子供の姿に変わっていた。あの場所が何なのかわからない。しかし、間違いなくあの場所が俺がこの世界に来ることになった始まりの場所であった。

 

「その場所で目が覚めたとき、俺は子供の姿に変わっていた。そしてこの世界に来たんだ」

 

 あのトランクケースを持って、この世界へと送られた。そして、彼女たちに出会ったのだ。

 

「本当…なの?」

 

「ああ」

 

 俺の突拍子もない話しにすずかは事実かどうかを確認してくる。当然だろう、こんな話し簡単に信じる方が無理だ。

 

「そっか、だからなんだ」

 

「え?」

 

 すずかが何か納得したような表情を浮かべたので、その反応に思わず声を上げてしまう。

 

「なんか納得しちゃった」

 

「いや、こんな話し信じるのか?」

 

「でも拓斗君、嘘はついてないよね」

 

 俺の言葉にすずかは笑顔で返してくる。確かに本当のことを話しているが、まさかこんな簡単に納得してくれるとは思わなかった。

 

「一年も一緒に暮らしているんだから、嘘をついてるんならなんとなくわかるよ」

 

「そっか、なら嘘はつけないな」

 

 すずかの言葉に思わず笑みがこぼれる。すずかの言葉が本当なのかどうなのかはわからない。ただ、こうやって自分のことをちゃんと見てる人がいるのは少し嬉しかった。

 

「それに拓斗君、初めて会ったときから、クラスの男の子達とは違ってたから…」

 

「まぁ、そうだろうな」

 

 流石に小学生と大学生を比べるのは無理がある。すずか達も小学生にしてはずっと大人びているが、それでも小学生らしさというのはところどころに見られた。

 

「でもさ、大学生ってことでなんか思うところとかないのか?」

 

 今まで同い年だと思っていた人間が大学生だったのだ。普通なら戸惑ってしまうだろうが、すずかにはそんな様子が見られない。

 

「うん、驚いたよ。でも、拓斗君は拓斗君だし、私の大事な…友達だから」

 

 すずかは笑顔でそう言う。話したことで彼女との関係も崩れてしまうかと思ったが、そんなことはなくすずかは受け入れてくれる。大学生が小学生と友人関係を望むのは傍から見るとどうかと思うが、すずかは友達でそして今は大事な家族でもある。だから、彼女との関係は壊したくなかった。

 

「ありがとう、すずか」

 

 俺はすずかにお礼を言う。でも、話しはコレで終わりではない。

 

「それでこの世界に来たんだけど、俺は実はすずか達のこと、この世界に来る前から知ってたんだ」

 

「え?」

 

「すずか達のこと、この世界に来る前から知ってたんだよ。なのはが魔力を持ってることも、ノエルやファリンが人じゃないことも、すずか達が夜の一族だってことも」

 

 これから話すのは先ほどまでのことよりもある意味驚くことだ。それをすずかはどう思うだろうか。

 

「俺の世界にはとあるアニメがあって、そこでなのはのことやすずか達のことが映っていたんだ」

 

「…私達がアニメに?」

 

「うん」

 

 すずかは何か考えるような表情を浮かべる。そして、何かしらの結論が出たのか口を開いた。

 

「それってどんなアニメなの?」

 

「なのはが主人公の魔法少女もの? ゲームも出たりしてる」

 

「なのはちゃんが主人公なんだ。でも納得だな〜」

 

「すずかは自分がアニメの登場人物だってこと、なんとも思わないのか?」

 

 すずかの態度が少し気になって聞いてみる。

 

「まぁ、アニメのキャラクターって言われても困るし、私はこうして生きてるから」

 

 すずかはそう言うと俺の手を握る。手から伝わる温かみが彼女がここに存在していることを俺に伝えてくる。

 確かにすずかの言うとおりだ。彼女達はこの世界にして、ちゃんと現実に存在している。俺も彼女達がアニメのキャラであることはわかっているが、アニメのキャラとして扱っているわけではない。ちゃんと一個人として彼女達を見ている。

 

「ほら、ね」

 

  すずかは俺の手を自分の頬へと運ぶ。俺の手は彼女の頬を撫で、すずかは笑顔で俺の顔を見る。お互いの息遣いが聞こえそうなほど、顔の距離は近づいて、お互いの額をあわせた。

 

 しばらくそうすると、どちらからともなく離れる。少し、名残惜しいがちゃんと話さないといけない。

 

「はやてもアニメに出てたんだ」

 

「そう、なんだ」

 

「それではやての足なんだけど、実は魔法が関わってるんだ」

 

 俺は本題であるはやてのことについてすずかに教える。

 

「はやてが持ってる闇の書っていう本、それはこの前のジュエルシードと同じロストロギアで、それがはやての足の麻痺の原因」

 

「それって」

 

「そのことで和也と色々話してたんだ。今日図書館に行ったのははやてに会うためなんだよ」

 

 サーチャーを使ったり魔力反応で探すことは可能だったが、気づかれる可能性もあったし。できる限り自然な出会い方をする必要があった。すずかを図書館に誘ったのはそれが理由だ。

 

「はやてちゃんの足、治せるの?」

 

「ああ、何事もなければ…な」

 

 上手くいけば何事もなく進むが、楽観視はしていない。というよりそんな簡単に進むわけがない。

 

「無理はしないでね」

 

「ああ、ありがとう、心配してくれて」

 

 確かに難しい問題ではあるが、何とかするつもりだ。出会ったばかりとはいえ、はやては友達だ。それに彼女の境遇も知っている身としては少しぐらい彼女の悲しみを軽くしてあげたい気持ちはある。

 俺はすずかに全てのことを話し終えた。俺は全てを話し終わったことに少し満足感を得るが、すずかは何かを考えるようなそぶりを見せる。

 

「ねぇ、拓斗君。このことお姉ちゃん達は知ってるの?」

 

「あっ」

 

 すずかの質問に俺は今の状況が拙いことに気がついた。フェイトとの通信のことを内緒にしたことを怒ったすずかだ、忍が俺のことを知っていることを話せばどう反応するだろうか。

 

「し、忍も知ってるよ。ノエル達も、それとさくらも」

 

「そう、この家で私だけ知らなかったんだ」

 

 すずかは笑顔で俺に迫ってくる。マズイ、コレは間違いなく怒っている。

 

「それに私達のこと知ってたってことは、氷村遊の誘拐事件の前に、夜の一族のこと知ってたってことだよね?」

 

「あ、ああ、そうだね」

 

「私、あの頃って自分のこと言えなくて困ってたんだけどな〜」

 

 すずかが自分の手を俺の首に回して抱きついてくる。女の子特有の柔らかさを肌に感じ、すずかの髪の香りが鼻をくすぐる。男だったら嬉しい体制ではあるが、この状況では素直に喜べない。

 

「それと同じで、俺も言えなかったんだよ」

 

「年上なのに私と同じことで悩んでたんだ?」

 

 すずかの明らかに皮肉の入った言葉に反論を封じられる。いや、確かに小学生であるすずかが全てを話したのに大学生である俺が秘密にしていたのはどうなんだろう。それ以前に小学生に押されている大学生もどうなんだろうか。

 

「これはお仕置きだね」

 

 俺に抱きついているすずかは俺の脚をひっかけると俺を地面に倒す。倒れた拍子に背中を強打して、痛みで息が止まる。そして、すずかは俺に馬乗りになった。

 

「まずはこっちからかな」

 

 すずかはそう言うと俺の首筋に口付けする。俺はこれから行われることに予想がついた。コレは以前、さくらにされたときと同じだ。

 

「拓斗君、ちょっともらうね」

 

 すずかはそのまま俺の首筋に歯を突き立てる。こうして首筋から血を吸われるのはあの時、さくらに血を吸われて以来で、すずかがこうするのは初めてであった。いつかは血をあげる機会もあると思ったが、この展開は予想外だった。

 しかし、まだ二回目ということもあり慣れない。首筋から血を吸われる感触も、首筋に這わされる舌の感触もだ。この体勢は純粋にスル時ぐらいしか経験がないので、どうしても少し意識してしまう。コレがさくらであれば、間違いなくその気になるのだろうが、すずかが相手ということで意識はするものの興奮したりすることはない。

 

「ん、美味しい…」

 

 すずかは俺の首筋から口を離すと陶酔した表情でそう言った。さくらも同じことを言っていた気がするが、俺の血は彼女達にとってそんなに美味しく感じるのだろうか?

 血を吸われたことで少し身体に倦怠感を感じるが、それを我慢して起き上がろうとするがすずかが覆いかぶさっているため、起き上がることができない。仕方がないので、彼女を抱きしめて上半身を起こす。

 

「すずか、満足してくれた?」

 

「ううん、まだダメ」

 

「どうすればいいんだ?」

 

「まだ話してないことがあったら全部私に教えて、それとそのアニメの内容…一晩中聞かせてもらうからね」

 

 そう言ったすずかの表情は物凄く笑顔で、俺は拒否することができなかった。そして一晩中、すずかにアニメ、リリカルなのはの内容について話した。もちろん同じベッドで…。当然、一晩では話しきれなかったので何日も同じベッドで寝ることになった。

 

 

 

 

 

 私は隣で寝ている拓斗君の寝顔を見つめる。私達が出ているアニメの内容を聞いていたのだが、途中で眠くなって寝てしまった。それで先ほど目が覚めたのだが、拓斗君は既に寝ていた。

 

 今日、拓斗君が話していたことを思い出す。拓斗君が大学生だったと聞いたときは驚いた。でも、なんか納得してしまった。拓斗君は自分の周りにいるクラスメートの男の子とは全然違っていて、子供っぽさとか全くなくて落ち着いた雰囲気だった。

 そんな拓斗君は初めて会ったときから傍にいて安心できる存在だった。拓斗君のその雰囲気が他の男の子とは違って、傍にいても嫌な気にならなかった。

 その後、私達がアニメのキャラだったとか聞いたけど、それは余り気にならなかった。確かに驚いたけど、私にとってそれは大した問題ではない。拓斗君が私をそんな風に見ていないのはわかってるから、だから気にすることはない。

 

 今まで拓斗君が内緒にしてたこととか、お姉ちゃん達が既に知っていたこととかに少し嫉妬してしまうが、こうしてちゃんと話してくれたので許してあげよう。これで拓斗君のことを深く知ることができた。

 

「あっ…」

 

 拓斗君の首筋にある私が血を吸った痕が見える。そこを指でなぞると拓斗君は身じろぎして寝返りをうった。

 私は拓斗君の血の味を思い出す。輸血パックとは違う、初めて直接吸った人の血、その味は輸血パックとは比べ物にならないほど新鮮で濃厚で、とても美味しかった。コレは直接吸ったからだろうか? いや、多分拓斗君の血だからこそあれほど美味しいのだと私は本能的に感じ取った。

 お姉ちゃんから聞いたことがある。自分の好きな人の血は美味しく感じるらしい。拓斗君の血は本当に美味しくて、私を満たしてくれる。

 

 私は寝返りをうって、私に向けている拓斗君の背中に抱きつく。正面から抱きついているとき、抱きしめ返してもらえたときの感じも良いが、こうして背中に抱きつくのもなかなか心地よい。

 

「大好きだよ、拓斗君」

 

 私はそう言って背中に抱きついたまま眠る。眠っているが初めて拓斗君に自分の思いを伝えた。拓斗君が起きているときには伝えられない私の想いだった。

 


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