転生生活で大事なこと…なんだそれは?   作:綺羅 夢居

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 すずかに全てを話した次の日、俺は忍の部屋へと来ていた。すずかに全てを話したことを忍に伝えるためだ。

 

「そう、すずかに全部話したんだ…」

 

 俺が忍にすずかに全て話したことを伝えると、忍は少し考え込むそぶりを見せる。しかし、それほど重たい雰囲気ではなく、割と軽いそぶりだった。

 

「それですずかの反応はどうだった?」

 

「少し驚いたみたいだけど、それほど気にしてなかったかな?」

 

「まぁ、いきなり言われても困るわよね。それに今更言われてもって気もするし」

 

 俺が伝えたすずかの反応に忍は苦笑いになる。確かにいきなり言われても困る話しではある。それに忍の言うように一年も一緒に暮らしていて、同じ小学校に通っているのだ。何を今更というのは正直言って否めない。

 それにすずかは小学生だ。いちいちそんなことを気にするような年齢にはまだ達してないし、そのまま受け入れるほかないだろう。

 

「ホント、すずかはいい子だよな」

 

「なに? すずかのこと気に入っちゃった? 私の妹だし、私に似て美人になるわよ」

 

 忍はからかうようにそう言ってくるが、俺は苦笑いで返すしかない。確かにすずかは可愛いし、姉の忍は美人なので将来も有望だ。その上、俺の持つ原作知識では将来物凄くスタイルがよくなることもわかっている。とはいえ、俺はいつ帰ることになるかわからないし、すずかはまだ小学生だ。彼女を好きになってしまえば元大学生としてロリコンという不名誉な称号を得ることになる。まぁ本当に好きなら関係ないんだろうが、俺はすずかに恋愛感情は抱いてない。

 

「反応が悪いわね。すずかのこと好みじゃないの?」

 

「いや、まぁ確かに可愛いと思うけど」

 

「拓斗はロリコンだと思ってたのに〜」

 

「ちょっと待て、誰がロリコンだって?」

 

 今、忍から聞き捨てにならない言葉が聞こえた。忍は俺のことをどう思っているのだろう?

 

「え〜だって、さくらに誘惑されてるのにまだしてないみたいだし、昨日もすずかと一緒に寝たんでしょ。なのはちゃんやアリサちゃんとも仲が良いみたいだし、男友達の話とか聞かないし、てっきり拓斗はロリコンなのかな〜って」

 

「いや、断じて違うぞ」

 

「それに魔法少女もののアニメ見ているみたいだし、エロゲーしてる人って小さい女の子が好みなんじゃないの?」

 

 忍が笑顔でそう言ってくる。確かにアニメのこととかエロゲーのこととか出されると、正直否定できないところがある。というかむしろこの責められ方は色々心に刺さってくる。

 

「それにさくらとまだシテないみたいだし…」

 

「な、なんでそれを…?」

 

 忍が言ったことに俺は動揺してしまう。この前、俺がさくらに血をあげたときのことは誰にも見られてないはずだ。ちゃんとエリアサーチして近くに誰もいないか確認した。

 

「さくらから聞いたわよ」

 

 忍はあっさりと暴露する。どうやら俺がさくらとそういうことをしようとしたことをさくらは忍に話したらしい。その事に俺は頭を抱える。この手のことは他人に知られるのは恥ずかしいし、特に一緒に住んでいる忍に知られるのは家族に知られるみたいでなんとなく嫌だ。

 

「そんなに落ちこまなくてもいいわよ。でも意外ね、さくらが宣言してたから、もうとっくにシテてもおかしくないと思ったんだけど…」

 

 忍の言うとおり、さくらに初めて血を吸われてからも何度かさくらと会う機会はあったし、実際スル機会はあった。でも俺はさくらとシテはいなかった。大人モードにならなくても一応できることはできるし、純粋にシタいという気持ちもあるのだが、俺は我慢していた。

 それは純粋にこの世界に残ることに対して踏ん切りがついていないからだ。帰るための方法を探している俺が彼女とスルのは誠実でない気がした。いや、まぁあそこまでヤッておいてこんなことを言うのも誠実ではない気がするが…。

 

「さくらでもすずかでもダメなら私はどう?」

 

 そう言って忍は俺に迫ってくる。梅雨も過ぎ、そろそろ暑くなってくる時期なので忍は少し露出の多い服を着ていて、スタイルの良い忍の魅力を存分に引き出している。

 

「拓斗…」

 

 忍が真っ直ぐ俺を見つめてきて、少しずつその顔が俺に迫ってくる。先ほどダメだと決意したはずなのにこの雰囲気に流されてしまいそうになる。

 

「なんてね」

 

 忍はそう言うと俺から顔を離す。その表情は笑っていた。俺はからかわれたことに気づき、どっと疲れを感じる。

 

「やっぱり元の世界に帰りたい?」

 

 忍は先ほどの笑みを消し、俺に聞いてくる。それはあまりにもわかりやすい、俺がさくらに手を出さない理由だ。先ほど忍に迫られたときも頭によぎった、俺を忍は感づいたのだろう。

 

「どうなんだろうね。もう一度家族とか友達に会いたいって思ってるけど、帰りたい、向こうで生活したいのかな…?」

 

 最近、わからなくなってきた。PT事件のときは間違いなく帰るためにジュエルシードを集めていた筈なのに、失敗してこの世界で少し時間が経って色々なことを考えるようになってしまった。

 自分が元の世界に帰りたいのは家族や友人達に会いたいだけで、元の世界で生きたいというのとは違うんじゃないか。二つは違うことではあるが、繋がっている。元の世界に帰るということは元の世界で生きるということだ。分けて考えられるからこんな風に考えてしまう。

 

「ねえ拓斗。こっちの生活じゃ満足できない?」

 

「え?」

 

 忍の言葉に思わず俺は声をあげてしまう。忍の表情を見ると真剣で、そして少し寂しそうだ。

 

「あれ以来、まだ帰る方法は見つかってないんでしょ? なら、こっちで生きてくことも考えてもいいんじゃないかしら? …ねぇ拓斗、向こうの生活に比べて、こっちの生活はどう?」

 

 忍はもう一度俺に聞いてくる。俺はその言葉に向こうでの生活とこっちでの生活を比べてみる。

 

「……」

 

 もう一年経っているが元の世界での生活はしっかりと思い出せる。家族や友人の顔も声も、楽しかった思い出も忘れてはいない。こちらと比べて変わったことがあったわけではないが、充実していたと思う。

 対してこの世界は色々変わっていて、今までの常識が簡単に覆された。だから刺激的で一年暮らしてこっちの世界に馴染んできて、忍はすずか達と親しくなった。それに元の世界と比べて、女性陣との交友関係や自分の立場などが恵まれている。

 

「わかっているでしょうけど、さくらは貴方に好意を抱いてる。すずかも貴方に依存している。多分、大人になってもそれは変わらないわ」

 

 忍の言ったことは俺も理解している。さくらから向けられている好意も、すずかの依存も、痛いくらいに理解していた。

 

「それに私だって」

 

「え?」

 

 忍はそう言って俺の体を抱きしめる。子供の姿の俺は忍の腕の中にすっぽりと納まってしまう。

 

「忍?」

 

「私も拓斗のことを必要としてる。家族として、友人として…」

 

 抱きしめられている俺には忍の表情は見えない。でも、忍の言っていることが本当だというのはわかる。その声から、そして、抱きしめられてる腕の力から…。

 

「だからあの時、拓斗がいなくなって悲しかった…」

 

 忍の言うあの時とは俺がジュエルシードを使って転移したときのことだろう。傍目から見れば、俺は虚数空間に落ちてそのまま死んでしまったようにも見えたはずだ。

 

「私達は貴方のことを必要としているの。だから正直、ずっとこの世界にいてほしい」

 

 忍が俺に向かって言う。耳元で囁かれ、抱きしめられてくっついた胸から心臓の鼓動を感じる。コレもまた告白のためか、少しだけ鼓動が早く感じる。

 

「ゴメン、忍…」

 

「え?」

 

 俺の言葉に忍は俺から少し体を離し、俺の顔を見つめる。

 

「ゴメン、忍。まだ、答えを出せない。俺が本当にどっちを望んでるのかを、どっちの世界で生きていたいのかも。それに、まだ帰る方法も見つかってないから…」

 

「それが見つかるのはいつなの? 失敗して、他の方法もまだ考え付いてないんでしょ?」

 

 忍が強く俺に言う。でもその気持ちは理解できる。俺がしようとしているのは答えの先延ばしだ。答えを先延ばしにされて不満に思うのも仕方がない。

 

「一年…」

 

「え?」

 

「一年だけ待ってくれないか?」

 

 俺は忍に対してそう言う。一年、それはマテリアル事件が起きたとして、未来からヴィヴィオとアインハルトの二人が来て、その情報を手に入れられると予想される期間であった。二人から得られる情報で俺がまだ未来にいるようであれば、俺はこの世界で生きていこう。それに多分、あと一年ぐらいが元の世界への想いを保てる限界だ。それ以上この世界に居れば、おそらくこの世界から離れられなくなる。

 それほどまでにこの世界は優しく、刺激的で、魅力的だった。

 

「…わかったわ、一年ね」

 

 忍は俺の言葉に渋々ではあるが引き下がった。こうして明確な日数を出された以上、忍はそれまで答えを出すのを待ってくれるだろう。ただ、俺をこの世界に繋ぎとめるためになにかしら行動を起こしてくる可能性はあるが…。

 

「悪いな、忍」

 

「いいわよ、私も答えを焦りすぎたから…」

 

 俺達はノエルの持ってきてくれた紅茶を飲んで、頭を落ち着かせる。先ほどの会話で少し喉が渇いたのもあるし、少し精神的に疲れた。しかし、話はまだ終わっていない。

 

「それでまだ話はあるの?」

 

「ああ、今後のことについて…だな」

 

 今後のこと、闇の書事件のことだ。既に起こることは確定しているし、俺自身関わろうとしている。だからこそ、忍に話しておかなければならない。

 

「昨日、とある女の子と会った」

 

 俺は忍に昨日出会った、八神はやてのことについて話す。

 

「その子の名前は八神はやて、次の事件の主要人物だ」

 

 俺は忍に全てを話す。八神はやてのこと、闇の書のこと、グレアムのこと、そして俺達が行おうとしていること、その全てを忍に話した。

 

「じゃあ、なに? 拓斗は私に内緒で動こうとしてたわけ?」

 

「そうだよ」

 

 忍は不機嫌そうな表情を隠そうともせずに俺に言ってくる。先ほどのことも含めて、俺は今日だけでどれだけ忍を怒らせているのだろうか。

 

「ハァ、それでそのはやてちゃんはともかく、守護騎士とグレアム提督だっけ? そっちは大丈夫なの?」

 

 忍は溜息を吐きながら俺に質問してくる。俺がその気で動いていることをわかっているので色々と諦めたらしい。

 

「正直、どうなるか予想もできない。俺だけじゃなく和也も動いているから、お互いの動き次第だな」

 

 俺はこれから八神はやてと交流を深めて、彼女の家に行って闇の書を目視、そしてはやてと守護騎士を説得しなければならない。和也はグレアム提督を説得もしくはその行動を封じなければならない。それ以外にも根回しして、様々な準備が必要になる。

 

「そう、無理はしないでね」

 

「ああ、流石に今度はあの時みたいなことはないと思いたいけど、気をつけるさ」

 

 今回の事件もかなりキツイとはいえ、PT事件の最後のように虚数空間に落ちそうになるという事態にはならないだろう。まぁ、多少の身の危険は覚悟しなければならないだろうが。

 それでも原作知識を持っている身として、どうにかできるだけの手段を持っている人間として、そしてはやての友人として成し遂げなければいけない。

 

「じゃあ忍、これからもよろしくね」

 

 答えの期限がきたとしても帰る方法が見つかるまではここにお世話になる。結局、しばらくはココで暮らすことには変わりないのだ。

 

「ええ、よろしく拓斗」

 

 そして俺は忍の部屋を出る。ちゃんと答えを出すためにしっかり考えよう。それが答えを待たせていることに対して、俺ができる最大限の誠意だ。

 

 

 

 

 

「ふぅ〜、疲れたわね」

 

 拓斗が部屋を出て行った後、私はノエルの用意してくれた紅茶を口に運ぶ。今日は予想外のことで一杯だった。

 拓斗がすずかに自分のことを話したのは別に構わない。想定していたことだし、むしろ私も望んでいたことだ。拓斗が自分のことを話せば話すほど、拓斗とこの世界の人の繋がりは強くなる。それは拓斗をこの世界に縛り付けるための鎖になる。

 私個人としてはそのまますずかとくっついてもらいたい。拓斗のことは大切な友人だし、もう既に家族の一員として見てしまっている。すずかも拓斗に好意を向けているし、それが一番良いように思う。だからこそ、さくらが拓斗に本気になるのは少し困る。

 もちろんさくらの幸せも望んでいるが、私としてはやはり妹の傍にいてほしい。

 

「なんであんなこと言ったのかな〜?」

 

 私はテーブルに腕を置いてその上に自分の顔を乗せる。本当は拓斗にあんなことを言うつもりはなかった。確かに拓斗のことは大切だし、私自身必要としている。でも、それは今日ここで言うべきことではなかった。

 拓斗の問題はデリケートだ。すぐに答えを出せといわれて出せるような問題ではない。でも私は感情的になって、それを拓斗に強いてしまった。

 

 ——少し、焦りすぎよね

 

 自分の行動に反省する。拓斗は一年でちゃんと答えを出すと言ってくれたが、今になって申し訳ない気持ちになってしまった。

 正直、今日の私はらしくなかったと思う。感情的になってしまったり、少し拓斗に迫ってみたり、普段の私からはありえないことだ。自分でも自覚できてしまうので恥ずかしい。

 

 しかし、そう言ってくれた以上、私はその答えを待たなければいけない。とはいえ、私もただ一年待つつもりはない。

 

 ——まずはこの世界に繋ぎとめることからかしら

 

 すずかとくっついてほしいとは思うが、それより先にこの世界に残ってもらうことを考えなければならない。男を繋ぎとめるのに一番良い方法は女だろう。さくらを使って体で繋ぎとめるべきか? すずかにはちょっと厳しいから、さくらだけじゃなくノエルやファリンを使って誘うのも良いかもしれない。確か拓斗はファリンのことを好みって言ってたし、それもありかもしれない。ノエルやファリンも拓斗に悪感情は抱いてないだろう。ダメなら、私が混ざってもいい。もちろん恭也には内緒だが…。

 そうじゃなくてもこの世界は拓斗にとって良い世界だと思う。女性関係に恵まれているのは言わずもがな、私達への技術提供によって、拓斗の懐には結構な額のお金が入っているし、拓斗は優秀なので月村の経営している会社でもすぐに出世できるはずだ。それに魔法が使えるから護衛でも良いし、管理局という道もある。

 それに最近始めた勉強会でも拓斗の優秀さはわかる。天才ではないが勤勉で、しっかりと知識を身に着けているし、それの役立て方も考えている。そう考えると技術者の道もある。

 

「でも、まずは…」

 

 ——拓斗のサポートをしましょうか

 

 今は目の前に迫っている問題を片付けなければならない。拓斗が無事に過ごすためにも、私はできる限りのことをしよう。

 私はこの前の交渉の対価としてもらったデバイスを起動する。このデバイスは拓斗のノーパソとリンクしており、少しだけであるがノーパソの機能が使える。

 そして私はデバイスを操作すると今後のためにとある人物へと連絡を繋げた。


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