無事にはやて達と聖王教会の面談が終わり、すずか達のいる部屋に戻るとそこでは既に女の子たちが話に花を咲かせていた。
「あっ、拓斗君。お帰りなさい」
俺が戻ったのを見つけて、すずかが声を掛けてくる。
「はやてのことは上手くいったみたいね、ご苦労様」
「俺は大したことはしてないよ。苦労したのはこっち」
アリサが俺の労を労ってくるが正直あまり大したことをしていないので働いた和也の方を示す。するとここにいた全員が和也の方を向いた。
「そういえばはやてにはまだ紹介してなかったな。薙原和也、時空管理局の執務官で今回のことでかなり動いてくれた人だ」
俺ははやてに和也のことを紹介する。するとはやては和也に近寄った。
「あの私のために動いてくださって、本当にありがとうございますっ!!」
「あ~、まぁこれも仕事だから気にしなくてもいいよ」
はやては和也にお礼を言う。その真っ直ぐ向けられるはやての感謝の言葉に和也は照れを隠すように頬をかく。その姿にツンデレか、と思ったが声には出さない。管理局員ならこうやってお礼を言われることも少なくないと思ったが意外とそうでもないのか、それとも単に和也が慣れてないだけなのか…。
「拓斗君もありがとうな」
「えっ、あ、ああ、でもまだ終わったわけじゃないから、お礼はまだ早いよ」
はやては俺にもお礼を言ってくる。まさかこっちにもお礼を言ってくるとは思わず、少しどもってしまった。
――俺も和也のことを言えねぇよな
はやてからの感謝の言葉を受けて少し照れくさい気持ちになる。こういった純粋な気持ちを向けられるのはなんというか恥ずかしい。
和也の方を見てみるとこちらを向いて苦笑いを浮かべている。どうやらお互いに似たような気持ちになっているみたいだ。
「ここが海鳴臨海公園だよっ」
なのはがフェイトに向かって今いる場所を紹介する。今、俺達は月村邸から外に出ていた。フェイトに街を案内するためだ。
「此処、あの時の……」
フェイトの口から言葉が漏れる。その表情には色々な感情が浮かんでいた。そう、此処はフェイトとなのはがお別れした場所であり、お互いの思いをぶつけ合った場所だ。
「ほんの数ヶ月前なのに懐かしいね」
「うん、そっか、もう数ヶ月も経っちゃったんだね」
フェイトとなのはは向かい合って懐かしむように笑う。
「此処でなのはとフェイトが戦ったんだよな」
「ああ、アレは凄かったな。確か『始めよう。最初で最後の本気の勝負!』だっけか」
「『これが私の全力全壊』とかっていうのもあったな」
「うぅ~~、もうやめてよ~~」
俺と和也はなのはとフェイトの戦いを思い出しながら話す。俺達の話しを聞いてそのときのことを思い出したのか、なのはの顔は真っ赤になっていた。そんななのはの表情を見てその話に興味を持ったのか、すずか、アリサ、はやてが興味深そうな顔をしながらに近づいてくる。
「へぇ~、なのはってばそんなことしてたんだ」
「なぁ拓斗君、そのお話しもっと聞かせてーな」
「今日はフェイトの案内だし、また後でな」
アリサとはやてが過去のなのは達のことが気になるのか聞いてくるが、今の目的はフェイトの案内なので話を逸らす。
「じゃあ、今日はすずかの家でお泊りね」
しかし、アリサは諦めなかったのか。そんなことを言ってきた。
「すずか、大丈夫よね」
「うん、大丈夫だよ」
「皆はどう?」
すずかに確認を取れたアリサは満面の笑みで他の皆に聞く。
「私は大丈夫だよっ、皆でお泊りとか久しぶりだねっ!!」
なのはは嬉しそうな表情を浮かべる。なのはは自分のことがネタになることをわかってないのだろうか?
「私もええよ。なら着替えを持ってこんといかんな~」
はやてもお泊りに同意する。今まで友人の家に泊まるっていう機会がなかっただろうから楽しみなのだろう。楽しみにしているのがわかりやすいほど伝わってくる。
「えと、私は……」
「いいんじゃないか。どうせすぐに戻ることになるわけじゃないんだ。一日ぐらい楽しんでくるといい」
フェイトはお泊りすることに躊躇うが、和也が背中を押すように許可を出す。一応、裁判が終わったとはいえ、まだ保護観察がついている状態なので本来こういったことを簡単にできるような立場ではない。
「和也…いいの?」
それをわかっているのかフェイトは戸惑いながらおずおずと和也に質問する。
「いいよ。リンディさんには言っておくし、どうせ俺も泊まるつもりだから」
「って、お前も泊まるのかよ」
和也が余りにもあっさりと言うので思わず突っ込んでしまう。俺が聞いてなかったことを考えると忍がわざと教えなかったとしか思えない。
「あ、ありがとう、和也…」
「どういたしまして」
お礼を言うフェイトの頭を和也が撫でる。フェイトはそれを黙って受け入れる。その表情は恥ずかしそうに、でも嬉しそうに見える。そんな二人の姿はまるで…
「兄妹みたいだな」
優しい兄と純粋な妹、二人の今の姿はそう見える。
「ああ、一応、後見人がリンディさんってことになるし、兄妹にはなるのかな」
「そうなんだ」
このあたりは原作通りになるのだろう。プレシアはまともに生活できるような体調ではないし、もしそうでなかったとしてもPT事件の罪が問われる。である以上、フェイトには保護者や後見人が必要となるのでこれはおかしなことではない。この分だとフェイトは海鳴に引っ越してくるのも時間の問題だろう。
そんなことを話しながら俺達は海鳴の町を皆で廻る。そして最後に来たのは翠屋であった。
「いらっしゃいませーってなのは。それに皆もいらっしゃい」
店の中に入ると店を手伝っていたのか美由希が出迎えてくれる。そして席に案内してくれるが少し人数が多いので俺と和也は別の席に座る。
「ふぅ」
「お疲れ様、とりあえずはひと段落だな」
席に着いた瞬間、息を吐く和也に声を掛ける。本当に行き着く暇もないという状況だったのだろう。
「ああ、これで残りは向こうでってことになる」
和也は背もたれに体を預け、ぐでーと全身で疲労をアピールする。ふとすずか達の席の方を見ると楽しそうに談笑していた。
「それで、そっちはどうなんだ」
「なにがだよ?」
いきなり話題を振ってきた和也に、言葉の意味が理解できずに返す。
「ほら、気持ちの変化とか、それとあの子達との関係とか…」
和也はこっちを見ながらそんなことを言ってくる。
「あいつらとの関係ねぇ~」
この数ヶ月ですずかやなのは、アリサとの関係は少し親密になっているといってもいい。すずかには俺の秘密が全て知られてしまい、なのはやアリサは全て話していないとはいえ、少しずつ知られていっている。はやてはまだ付き合いが浅いゆえにそうでもないがそれでも親しくしていることには変わりない。
「あまり親しくなるなよ、帰るときに辛くなるぞ」
和也は俺にそう警告してくる。繋がりが深くなればそれだけ帰ることに未練が残る。親しい人間が多くなれば、それだけ離れるのが辛くなる。
「……わかってるよ、そんなこと」
和也の警告に俺はそう返すのが精一杯だった。
翠屋を後にした俺達は月村邸に戻り、夕食を楽しんだ後、広間に集まっていた。今はあの時、俺が撮影したなのはとフェイトの戦いを鑑賞している。
「うわぁ~、凄いわね。二人とも」
「本当や、あっフェイトちゃんの攻撃がなのはちゃんに当たった」
「なのはちゃんもフェイトちゃんも、物凄く怪我してる」
アリサ、はやて、すずかの三人は各々に二人の戦いの感想を述べる。二人の戦いは壮絶と言っても過言ではないほど、凄まじい戦いなのでひくんじゃないかと思ったが、すずかとアリサは訓練を見ているし、はやても意外とこういうのには耐性があるようだ。
――はやては二人みたいにならないよな~
はやての将来を思い不安になる。才能があるのはわかっているし、おそらくこれくらいの魔法を使えるようになるのは想定できるのだが、二人のように戦闘にばかりになってほしくはない。いや、二人が戦闘狂というわけではないのだが、原作を見ている限りなのはは戦いばっかりのイメージだし、フェイトもなんだかんだで戦闘が多いイメージがある。二人もそうなのだがあまり荒っぽいことに慣れてほしくはない。
――とはいえ、無理な話ではあるよな~
今の管理局の状態、管理世界の情勢を見る限り、そんなことが不可能であることはわかっている。地上、海に限らず犯罪はあるし、その規模は地球の比ではなく、その上管理局は万年人手不足だ。才能のある魔導師であるなのはやフェイト、はやてが管理局に関わるというのであれば、そういうところに出向くのはある意味必然とも言えよう。彼女達がその道を選ぶのであれば、止めることはできない。
――そっか、先のこともあるよな
strikers、vivid、force、俺がもとの世界に帰るということは未来に関われないことを意味する。帰還方法も見つかってないのに言っても仕方ないことだが、帰るということはそういうことだ。
――結局、後悔が残る……かぁ
もし帰ったとしても、なのは達の未来が気になる。今後がどうなるか気になってしまう。それは既に未練と言えよう。帰っても残っても未練が残る。
『あまり親しくなるなよ、帰るときに辛くなるぞ』
――もう手遅れだよ
和也の言葉を思い出し、心の中で自嘲する。何事もなく帰るには皆と親しくなりすぎた。大切な人達ができてしまった。どちらを選んでも後悔することは間違いない。
「どうしてこうなった」
先ほどまで憂鬱になっていた俺であるが今は現状に戸惑っていた。というのも今の状態に問題があった。
「すぅ、すぅ」
「ん、たくとぉ」
今、俺の両隣ではなのは、そしてアリサが寝ている。いつもであれば自分の部屋で寝ているはずだが、皆が泊まると言うことで大部屋で皆で寝ることになったのだ。ちなみに和也はというとちゃっかりと客室で寝ている。まぁ密着しているわけではないのだが、その距離はかなり近く寝息が聞こえてくる。
「まったく……」
二人を起こさないように物音に気遣いながら起き上がると窓へと近づく。窓から見える夜空は綺麗な星とくっきりと見える月が輝いていた。
「拓斗?」
不意に俺を呼びかける声が聞こえたのでそちらを見るとフェイトが起き上がり、こちらの方を向いていた。
「眠れないの?」
「ちょっとね、起こしちゃったか?」
寝ている皆を起こさないように気遣いながら小声で話す。
「ううん、私もちょっと眠れなくて…」
フェイトは俺に近づくと窓の近くに座っている俺の隣に座る。
「今日はどうだった?」
話題がないのでとりあえず今日のことを聞く。基本的に話したいことはもう寝るまでに話しきってしまった。
「うん、楽しかったよ。こんなの初めてで本当に楽しかった」
「そっか」
フェイトは本当に嬉しそうな表情を浮かべる。こう言ってくれた以上、今日の予定は正解だったようだ。
「私、今までずっと母さんのために生きてた。でも、なのはに会えて、皆と一緒にいるのが本当に楽しいことだってわかったの」
「……」
フェイトの話を黙って聞く。
「だから今の私を作ってくれたなのはには本当に感謝の気持ちで一杯なんだ」
フェイトはそう言って少し頬を赤らめながら微笑んだ。
「もちろん、拓斗にもだよ」
「えっ」
フェイトはそう言って俺の手に自分の手を重ね、俺の肩に自分の頭を置いてもたれかかってくる。
「拓斗がいなかったら母さんは死んでたかもしれないって和也から聞いたの。確かに母さんは許されないことをしたし、色々なことをされた。でも、私の大切な母さんだから」
フェイトは真っ直ぐにこちらを見つめてくる。
「だから、ありがとう拓斗」
「どういたしまして、フェイト」
俺はフェイトの頭を撫でる。さらさらしている髪が指に絡まり気持ちがいい。ふわっと髪を弄るたびにフェイトから漂ってくる香りが俺の鼻をくすぐった。
「だからね、困ったときは私を頼って、た、大切な…友達だから、力になりたいんだ」
フェイトは真っ赤になりながらもそんなことを言ってくる。
「ああ、その時は頼むよ」
俺はフェイトにそう言うと軽く頭をポンと叩き、自分の布団には戻らず、部屋の方へと戻る。流石にみんなと一緒に寝る気はなくなった。
「フェイト、おやすみ」
「あっ、うん、おやすみ」
部屋を出るときにフェイトから少し寂しげな声が聞こえ、後ろ髪を引かれる思いになるがそのまま部屋を出て行き自分の部屋へと向かった。