4話目 実際言うほど勉強していない
「拓斗、貴方学校通いなさい」
魔法のお披露目が終わった後、夕食時に忍はそんなことを言ってきた。
「やっぱり?」
正直、予想はしていた。ヒモのように何もせず、一日中過ごすわけにもいかない。しかし、家事を手伝おうと思ってもすぐに出来るものではない。
「ええ、普通なら学校に通う年齢でしょ」
忍は当然でしょといった顔で言ってくる。まぁ、わかっていたのだが……。
「まぁそうなんだけど」
「すずかと同じ聖祥大附属小学校に入ってもらうつもりなんだけど、試験があるからそれの結果次第ね」
忍がにやけながら言う。大学生だったんなら余裕でしょ、落ちたら恥ずかしいわね〜と言いたげだ。すずかがいなければ間違いなく言っていただろう。
「拓斗君、聖祥に入るんだ」
「いや、試験通ればだけどね」
すずかが嬉しそうな表情でこっちを見る。俺も突っ込むのだが落ちるなんて思っていない。だって、この世界とはなんの関係もなかったフェイトが編入試験に合格したのだ、なら自分も大丈夫だろう。
「なら、入れるように一緒に勉強しよ」
「うん、ありがとう」
正直、前の世界とこの世界の差異があったとしたら少しまずい。流石に、国語や算数などは大丈夫だろうが、歴史なんかはやばそうだ。……やべっ少し不安になってきた、真面目に勉強させてもらおう。
夕食が終わった後、すずかの部屋に案内され、一緒に勉強を始める。教科書を見てみるが、算数、国語、に関してはほとんど問題がない。社会も少し歴史に違いがあったが、覚えなおせば問題はなかった。
「拓斗君、勉強できるんだね」
「まあ、少しだけだよ」
だって大学生だもん。などとは言えない。いや、だってちょっと間違えたし。
大学では一般教養科目をとっていなかったためか、結構忘れていることもあった。ちょっと恥ずかしいが、編入試験を通るだけなら大丈夫だろう。
よく二次創作でテストで百点を取っている転生者を見るが、実際こんなもんだよと内心毒づいてみる。別に悔しいわけじゃない……あれもフィクションだしね。
すずかの教科書やノートを見て、授業でやっている内容を確認してみる。自分の小学生のときを思い出して、少し懐かしくなる。
というか流石私立、自分が通っていた公立とは違い結構難しいことをやっている。
「ねえ拓斗君ここはどうなるの?」
「ああ、そこは単位を直すんだよ」
しばらく勉強しているといつのまにかすずかに勉強を教えていた。
「あっ、ゴメンね、勉強しないといけないのに、私ばっかり聞いて」
「いいよ、こうやって教えるのだって自分の勉強になるしね」
すずかの申し訳なさそうな表情に返す。人にモノを教えるには自分が正しく理解していないといけないので、こうやってすずかに教えつつ、内容を頭に叩き込む。
「ふう、とりあえず今日はここまでかな?」
時計を見ると結構時間が経っていた。今までこんなに授業以外で勉強したのは、夏休みの宿題を片付けるのに時間をかけたときぐらいだろう。そもそも大学も推薦を貰ったので受験勉強すらしていない。
「そうだ、拓斗君。今度の日曜日に友達に紹介してもいいかな?」
すずかが聞いてくる。アリサとなのはのことだろう。そういえば、俺の他にも転生者っているのかな? もしいるんだったら既に彼女たちにも接触している可能性もある。
「いいよ、それでその友達ってどんな子なの?」
アリサとなのはのことは知っているが、他の転生者の存在や自分の知らない友人がいるかもしれないので聞いてみる。
「アリサちゃんとなのはちゃんっていってね……」
どうやら俺の知らない友人などはいないようだ。まあ、友人でないだけでクラスに紛れ込んでいるかも知れないが……ダメだ、どうも疑い深くなる。自分の知らないことがおきてしまいそうで怖い。なまじ原作知識など知っているせいで、色々考えてしまう。
すずかはそんな俺の内心など知らず、楽しそうに二人のことを話す。友達の良いところを言っているあたり、本当にすずかはいい子だね。コレが大人になってくると友人の紹介がネタのような感じになってくるし、基本的に少し馬鹿にしたような説明になるのは、俺だけであろうか?
「すずか、でも魔法のことは内緒だからね」
「うん、わかってるよ」
「それじゃあ、おやすみ」
「おやすみ、拓斗君」
すずかに魔法の秘匿を念押しして、俺は自分の部屋に帰る。すると、俺の部屋には忍がいた。
「あ、やっと帰ってきた」
「ずっと待ってたのかよ」
忍は俺の部屋においてある椅子に腰掛け雑誌を読んでゆったりとくつろいでいる。
「それで勉強は大丈夫そう?」
「ああ問題ない。まぁ、歴史なんかはいくつか違うところがあったりしたよ」
一応、異世界から来たということもあって心配してくれたのだろう。俺は忍に包み隠さず話した。
「へぇ〜、例えばどんなところ?」
「総理大臣とかだね。まあ、全部確認したわけじゃないけど、他も結構違ってそうだ」
特に技術とか、それとこの世界の漫画やゲームなんかも気になるところだ。音楽もフィアッセ・クリステラや椎名ゆうひなどの歌も気になるところだし、正直、この世界に興味は尽きない。
「歴史だったら図書館もあるし、行ってみたら?」
「そうだな、編入試験までは暇になるだろうし、それに色々街とか確認したいしな」
「平日だったら、ノエルかファリンを連れていきなさいよ。流石に補導されたら面倒でしょ」
忍が俺に言ってくる。正直、ありがたいのだが……
「でもいいのか? 二人とも仕事があるだろうし、俺が休日に行けばいいだけの話だろ」
「いいわよ、流石に何日もってわけには行かないけど、一日ぐらいなら多少仕事が滞っても問題ないわ」
「ありがとう」
「二人にも言っておくから、一緒に行きたい方に声を掛けるといいわ」
忍の顔が少しにやける。大方、二人のうちどっちが好みとでも言いたいのだろう。
「それじゃあ、ファリンで」
「ファリンの方が好み?」
「いや純粋にノエルを連れて行ったら、なんかちょっと不安になるから」
正直、俺のことを知っている分、ノエルを連れて行くべきかと思ったが、そうなるとファリンがこの屋敷に残ることになるので、昼のこけたところを思い出すとちょっと心配になった。
「つまんないわね〜」
「でもファリンが好みっていえば好みだね。かわいいし、ノエルもきれいだし、ホントにここ、いい女の子そろいすぎじゃない?」
「アハハッ、ホント、ストレートに言うわね」
忍は笑顔になる。こういう本音の暴露って嫌な気になる女って意外と多いと思ったんだが、そうでもないらしい。いや、合コンのときみたいにシャレのような感じで聞けば、大丈夫なんだろうが……。
「そういえば、コレ、大体の使用方法とかは何とかわかったけどどうする?」
そういって指で指したのはノートパソコンだ。昨日からずっと作業を行っていたため、大体の操作方法などは理解できた。
「それで、どういったものなのそれ?」
「大体は普通のノートパソコンと同じだね。それ以外にもコレに魔法をインストールしたり、コレの改造も出来るみたい」
クロックシューターを起動させて銃の形態に変える。
「他にもコレの設計図とか情報なんかも手に入るみたいだね。技術関係も見れるみたいだし」
「へぇ〜、面白そうね」
「ただ、俺以外には動かせないみたいだな。ノエルやファリンに頼んで試してみたけど、キーボードに触っても何の反応もなかった」
昼に試したことからわかったことを説明する。このノーパソは本当に俺専用のようだ。
「でも、画面は私たちでも見れるのよね」
ノーパソの画面を見ながら忍がつぶやく。昨日からわかっていたことではあるが、コレは他人が操作することこそ出来ないが画面に出てくる情報は見ることが出来るのだ。
「セキュリティの意味ではあんまり意味がないんだよな〜コレ」
「ええ、脅して操作させることもできるし、内容をごまかすことができるわけじゃないし」
セキュリティの設定画面は存在する。他人がケースをこじ開けようとしたときにブザーがなったり、そのことをデバイスに知らせたり、触った人間にダメージを与えたりするものだ。
「まあ、細かい設定もできるみたいだけどね」
セキュリティの設定画面を開いて忍に見せる。そこには忍の言った、使用者以外への表示内容の秘匿など多数の項目が存在した。
この画面を忍に見せるのは、彼女への信頼を見せるためだ。ごまかすこともできるけどしない。コレをはっきりさせておくことで、彼女との関係を強化するつもりだ。
下の方まで画面をスクロールさせていくと使用者権限の欄がある。そこをクリックし、新たな項目を開いた。
「コレって?」
「さっきも言ったけど、コレは本来俺以外の人間は使えない。ただ、ここにある使用登録者に登録すれば、いくつかはロックされるけど、その登録者は使うことができる」
俺が開いたのはユーザーの登録画面だ。俺以外の人間がこのノーパソを操作するための唯一の方法がコレであった。コレに登録することでいくつかの機能は使えないが、忍もこのノーパソを使用することができる。
コレも既にノエルたちで試した。ロックされる機能はデバイスの設定であったり、持ち主である俺が作ったファイルの操作など基本的に俺に直接影響するものだ。データの閲覧や検索だけであるならノエルたちにも使えた。
「それでわざわざ教えてくれる理由は?」
忍は俺の意図がわからないといった表情で質問してくる。当然だろう、俺のやっていることは自分のメリットをわざわざどぶに捨てるような行為だ。
「誠意だよ。純粋に、まあ、奪われても大丈夫なようにはしてあるけどね」
何も隠さずありのままを話す。
「俺はね忍。あんまり腹芸とか得意じゃないんだ。君たちが俺のことをまだまだ信用しかねていることは知ってるし、わかってるよ」
「ッ!?」
忍の身体が少し震える。表情に変わりはないが、少しは動揺しているみたいだ。
「それは別にいいんだよ。だって、当然のことだからね。だから、コレなの」
俺はノーパソを忍のほうへと向ける。
「言わないでおくメリットを捨ててでも、仲良くしておきたいんだよ。ただ、それだけ」
「ふふっ、なんか特別なことがあるかもと思えば案外単純な理由なのね」
「仕方ないだろう。何も考えずにただ楽しんで生きれるほど、神経図太くないんだよ」
「むしろこっちの方がすごいと思うけど」
クスクスと二人で笑いあう。
「とりあえずそれは今日持っていってもいいよ。その代わり、壊さないようにね」
俺が操作して忍のユーザ登録を行う。そして、忍が操作できるのを確認すると俺はそう言った。
「ええ、色々調べさせてもらうわ。それじゃあ、おやすみなさい」
「おやすみ、操作しすぎて徹夜なんかしないようにね。肌に悪いらしいから」
「それは約束できないわね」
忍が部屋から出て行く。彼女のノーパソを見る目は本当にいいものを見つけたという目であった。間違いなく、朝まで操作し続けることだろう。
「よっと」
俺はベッドに横になると指輪状態のデバイスを見る。
「まだ二日目だけど、ホントこれからどうなるんだろうね」
先のことを考えて少し憂鬱になる。今度の休日にアリサとなのはと会うことになった。それ自体は悪いことではないし、彼女たちに会うことは純粋に楽しみだ。ただ、これから起こることなどを考えるとあまり嬉しがったもいられない。
「ホント、どうなるのかな」