転生生活で大事なこと…なんだそれは?   作:綺羅 夢居

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51話目 一難去ってまた一難

 

 闇の書事件が終わった次の日、聖王教会で計画終了の打ち上げパーティが行われるため、参加メンバーは聖王教会へ招かれていた。

 

「皆様、この度はお疲れ様でした。闇の書は消え、不幸の連鎖は止まりました。これも偏に皆様の尽力によるものです」

 

「えと、皆さん。私の家族を助けてくださり、本当にありがとうございます。皆さんのお陰で私も、私の家族もこれからの人生を歩んでいく事ができます。本当にありがとうございました!!」

 

 壇上ではカリムとはやて、そして和也が立っている。カリムの言葉で闇の書事件が本当に終わりを向かえた事を感じ、はやての言葉で自分達が何を助けられたのかを確認する。

 

「では皆様、かんぱーいっ!!」

 

『かんぱーいっ!!』

 

 和也の乾杯の音頭でパーティは始まる。昨日の今日で疲れている人もいるだろうが、皆それすらも忘れたかのようにパーティを楽しんでいる。

 

「拓斗君」

 

「拓斗」

 

「おっ、はやて、和也、お疲れ様」

 

 出された食事を皿に持っていると壇上から降りてきたはやてと和也が声を掛けてくる。

 

「それでどうだった?」

 

 俺は二人に質問する。昨日の件が終わった後、はやては検査と夜天の書の機能の確認が行われていた。和也は今回の事件の担当ということではやての検査に立ち会っていたのだ。

 

「私は大丈夫。皆も異常なしやって」

 

「まぁ、暫くはリハビリとかあるが問題はないだろう。守護騎士達もリィンフォースも夜天の書もとりあえず問題は見つからなかった」

 

 はやても和也も疲れを見せながらも嬉しそうな表情を見せる。やはり機能からの検査はかなりの疲労を二人に与えたようだ。

 

「それで守護騎士達は?」

 

 俺は周囲に守護騎士達の姿がないことを疑問に思い、二人に質問した。異常がないならこの場にいてもおかしくはないのだが、どこにも見当たらない。

 

「あ、皆は…」

 

「今回は不参加だ」

 

「えっ、どうして?」

 

 不参加という和也の言葉に問い返す。

 

「表向きには検査中ってことになってる」

 

 という事は事実は違うって事だが、色々思いつくがどれが事実かはわからない。

 

「まぁ、元凶である闇の書の管制人格や守護騎士を出すのは好ましくないとかっていうお偉いさん方の考えとかがあってな」

 

「この場で出して、安全性を示すってのも手ではあるのにか?」

 

「それをするにはこのパーティは早すぎるんだよ」

 

 昨日の今日で確認したって言われても信じられないだろ? と和也は俺に言ってくる。まぁ、和也自身、今回の件の担当者とはいえ、それほどの権限があるわけではないので上の命令には逆らえないのだろう。

 

「とりあえずは皆の分も楽しんどけよ」

 

 和也はそう言って俺達から離れていく。すると途中で色々な人に囲まれていた。今回の事件の立役者として、純粋に話しをしたい人、どういう人物か見極めたい人、コネを作りたい人など色々集まってくるのだろう。

 

「拓斗君…」

 

「和也もああ言ってることだし、俺達も楽しもうか?」

 

「うんっ」

 

 俺ははやてとともにパーティを楽しむことにした。守護騎士達には悪いがせっかくのパーティなのだ。楽しまなければ損というものだろう。

 

「あっ、はやてちゃんっ」

 

「二人ともここにいたんだ…」

 

「なのはちゃん、フェイトちゃん」

 

 出されている料理に舌鼓を打っているとなのはとフェイトの二人が声を掛けてくる。二人は俺達を見て、少しホッとした表情を浮かべていた。

 周囲を見渡してみると、二人に近づこうとしていたのか結構な人数の人間がこちらを見ていた。どうやら二人は彼らに声を掛けられていたようだ。

 

「二人ともお疲れ様」

 

「アハハ、昨日よりこっちの方が辛いかも…」

 

 俺の言葉になのはが苦笑いを浮かべる。まぁ、小学生ぐらいだと大勢に囲まれる機会もそれほどないだろう。

 まぁ、彼らの思惑はわからないでもない。昨日の戦闘で彼女達が優秀な魔導師であることがわかったので、自分達のところで取り込んでおきたいのだろう。

 管理局に数パーセントしかいないAAAランクの魔導師。それを管理局に入れたというだけでも手柄になる。特になのはは民間の魔導師なので、余計にそういった思惑に晒されてしまう。

 

「拓斗は大丈夫だった?」

 

「まぁ、ね」

 

 フェイトの質問に言葉を濁しながら返す。はやては既に聖王教会からの保護を受けているため、そういった人間は寄ってこないし、何より夜天の書の主という事で今は近づく人間がいない。そういう俺ははやての近くにいるためかあまり人が寄ってこなかった。

 

「じゃあ、俺はちょっと料理でも取ってくるよ」

 

 俺は三人にそう言うと料理を取りに他のテーブルへと向かう。するとやはり何人かが声を掛けてきた。

 どこに所属しているのか、所属していないのなら管理局に入ったらとやはり勧誘が多い。俺の場合、昨日のことで戦闘力を見られたのもあるが、和也と一緒にサルベージを手伝ったということで技術分野からの質問があったりと余計に人が集まってくる。

 

「お疲れ様ですね」

 

 それらの対応をし終わり、料理を皿に盛っていると髪の長い聖王教会のシスターがこちらに声を掛けてくる。

 

「ええ、ある程度は覚悟してましたけど」

 

 俺はそのシスターに愛想笑いで返す。まさか、この場でこういった気遣いをされるとは思っていなかった。

 

「闇の書の修復、貴方も手伝ったと聞いております。まだ幼いのに凄いですね」

 

 シスターはそう言って俺のことを褒めてくる。それ自体は嬉しい事なのだが、先ほどのこともあってこういった言葉を素直に受け取れない。

 

「まぁ、殆どは彼のお陰ですけどね」

 

 俺はそう言って和也の方へ視線を向ける。和也はというと人の対応に明け暮れていた。流石に無下にできない人達もいるらしく、かなり丁寧に対応しているようだ。

 

「そんなことありませんわ。先ほど彼に話しを窺いましたが、彼も貴方のお手柄だと言ってましたよ」

 

 どうやら彼女は和也のところにもいったらしい。あっちはあっちで忙しそうだから、こっちに声を掛けてきたというところだろう。

 

「そういえば先の戦いでリミットブレイクを使用したようですが、お身体は大丈夫ですか?」

 

 どうやら彼女は俺がリミットブレイクを使った事まで知っているようだ。昨日の戦いで彼女の姿は見ていないので参加した人間から聞いたのだろう。流石に聖王教会や管理局員といった専門の人間にはわかるらしい。

 なのは達にはフルドライブもリミットブレイクも唯の奥の手としか説明していないので身体への反動については知らない。

 

「まぁ少々身体は痛みますけど、問題はないですね」

 

「そう、ですか。少々お待ちを…」

 

 彼女はそう言うと俺の手を握って魔法を唱える。すると俺の身体から痛みが和らいだ。

 

「回復魔法をかけました。これで少しは楽になるでしょう」

 

「ありがとうございます」

 

 わざわざ回復魔法を使ってくれた彼女にお礼を言う。シャマルも魔法を使ってくれたがやはり一度くらいではあまり回復しなかったので、彼女のこれは素直にありがたい。

 

「そういえば闇の書の「失礼」?」

 

「友人を待たせていますんで、お話しは後日ということで」

 

 俺は彼女との話しを切り上げる。そうしないと向こうでこちらを睨んでいる少女達が怖いからだ。

 

「もっとお話ししたかったのですが、残念ですね」

 

「まぁ、いずれ縁があればということで…」

 

「そうですね、ではごきげんよう」

 

 彼女はそう言って少し残念そうにしながら離れていく。俺はそのままなのは達のところへと戻ろうとするが、そこに声を掛けてくる人物がいた。

 

「よう、なかなか楽しんでいるじゃないか?」

 

「一応ね…」

 

 和也のからかうような言葉に俺は曖昧な笑みを浮かべてしまう。こういったパーティが主にコネ作りの意味合いが強かったりするのはわかっているが、やはり少々疎ましい。

 

「さっきの女性とか…な」

 

 和也はそう言ってニヤリと笑う。

 

「アレだけ露骨だと余計に警戒しかされないのにね~」

 

 俺は素直に先ほどの女性についての感想を述べた。

 

「やっぱり気づいたか?」

 

「当たり前だろ」

 

 先ほどの女性、明らかにこちらを探るつもりだった。相手を褒め、優しさを見せて警戒を解かせる。ついでに美人だから男ならある程度警戒も緩む。まぁここは子どもである俺には関係ないところだが…。

 

「向こうも子ども相手ならと侮ったんだろ」

 

 まさかその見た目で大人なんて思わないだろと和也は誰にも聞こえない程度の声で呟く。まぁ、それに関しては俺も同感ではある。少なくとも相手が侮ってくれている以上、そこは上手く使わせてもらおう。

 

「しかし、面倒であることには変わりない」

 

 和也はそう言って溜息を吐く。相手の目的は夜天の書をサルベージした技術力、それがどこから来たものかを調べるためだろう。俺達に近づいてきたのは、そのメインとなって動いていたのが俺達だからだ。

 

「で、相手はやっぱり…」

 

「お前のご想像通り」

 

「「ジェイル・スカリエッティ」」

 

 俺と和也は彼女の後ろにいる人物を予想し名前を言う。闇の書のサルベージ計画、表に出した事でやはり気づかれてしまった。知識から当てはめて、おそらく彼女がジェイル・スカリエッティの作った戦闘機人、ナンバーズの次女ドゥーエの筈だ。確か年齢的にはまだ14~5ぐらいの筈だから、能力であるライアーズ・マスクで年齢も誤魔化しているのだろう。

 

「まぁ、こればかりは仕方ないか」

 

「計画を表に出した以上、あのマッドが気にしないというのは少し無理があるな」

 

 今までどうする事もできなかった闇の書、それがいきなり修復できるという話が出てきたのだ。技術者であれば、どこからその技術が出てきたのか、あるいは誰がその技術を発案したのか気になるところではあるだろう。しかもそれが聖王教会主導で、さらには今までそんな形跡が一切なかったとしたら…こればかりは調べられない方が無理な話だ。

 もしこれが原作通りの展開なら、俺達が独自行動でサルベージを行っていれば、気づかれない可能性も少しはあったが、終わった事を考えても仕方がない。

 

「どうする?」

 

「どうするって言われてもな…」

 

 俺の質問に和也は曖昧に返してくる。どうやら和也もこういった展開は予想してなかったようだ。

 

「とりあえず警戒は怠らないように…でいいんじゃないか?」

 

「了解、そっちも気をつけろよ」

 

 俺は和也の言葉に少し呆れながらも返す。なんだかんだで管理局にいるコイツは色々ヤバイ。最高評議会が干渉してくる可能性もあるし、ナンバーズが襲ってくる可能性もある。

 

「それを言うならお前もだろ」

 

 和也にああ言ったものの、俺も少しヤバイ立ち位置ではある。管理外世界の住民、つまり管理局にとって重要性はなく、行方不明でもそれほど問題はない。その上、同居人が夜の一族に自動人形…スカリエッティの興味をくすぐる要素がかなり多い。

 

「一難去ってまた一難…か」

 

「まぁ、情報がある分マシなんだろうが…」

 

 俺と和也はもう一度溜息を吐いた。もうパーティは楽しめそうになかった。


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