転生生活で大事なこと…なんだそれは?   作:綺羅 夢居

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56話目 明るい未来、暗い未来

 

『アリシア・テスタロッサか…』

 

 俺の話しを聞いて和也は黙り込む。アースラでの会議が終わり、俺は今、和也と通信を行っていた。

 

『マテリアル達はともかくとして、まさかこんなイレギュラーが起こるとはな…』

 

「こっちも予想外のことが多すぎてパニック状態だ。できれば色々と聞きたいこともあるんだけどな」

 

 マテリアル事件はこっちも望んでいたことだから問題ないが、それにアリシアが絡んでくるとなるとややこしいことになる。

 ヴィヴィオやアインハルト、トーマ達は現状、俺達となんら関わりがないのでさほどの問題はないのだが、アリシアは違う。

 プレシア・テスタロッサの娘、フェイトの姉にしてオリジナル。この二つの要素がアリシアを複雑な立場へと立たせている。

 

「それでアリシアのことなんだけど…」

 

『とりあえずリンディさんと相談して、色々と動いてみる。そっちはそっちでまずは問題を片付けてくれ』

 

 死亡した人間が現れたと分かったら、管理局は当然ながら調査を行ってくる。そうなればアリシアが実験に使われる可能性も否定できない。それにあのケースのことを嗅ぎ付けられれば厄介な事になる。

 その辺りのことは和也も理解しているため、こうして行動に移ってくれる。

 

『お前もお前で色々あると思うが、あんまり無茶はしてくれるなよ』

 

「ん、了解」

 

 俺はそう言って和也との通信を切る。アリシアが現れ、色々面倒な状況にはなったが俺の目的は変わらず、ヴィヴィオ達から未来の俺に関する情報を得る事だ。

 直接会うに越した事はないが、皆にも頼んだ以上、殆ど問題はないと言えるだろう。

 

「とりあえずフェイト達の様子でも見に行こうか…」

 

 会議の後、フェイトはアルフと共にアリシアに話しかけていた。俺は和也に連絡を入れるために席を離れたが、三人がどんな状態なのか気になる。

 

「あまり酷い事になってなければいいけど…」

 

 普通であればフェイトがアリシアに対して複雑な感情を持つだろう。フェイトの性格では暴力的なことは起こらないが、色々と溜め込んでしまう事もある。

 

「あれ? なのは? それに皆も?」

 

「しっ、拓斗君、声が大きいよ」

 

 フェイト達を探していると扉に耳を当てているなのは達を見つけ、声を掛けるとなのはが注意してくる。

 

「なにやってんの?」

 

「しっ」

 

 俺がそう言うとはやてが注意してきて、扉の隙間を指差す。俺はその扉の隙間に目をやると少しだけ中の様子が見えた。部屋の中にはフェイトとアリシア、そしてアルフの姿が見える。どうやら三人はこの部屋で話しているようだ。

 三人の邪魔をするのはどうかと思ったが、色々アリシアに確認したい事もあるため、俺は部屋の中に入るために扉をノックする。

 

「ちょ、拓斗君」

 

「どうぞ」

 

 はやての咎める声が聞こえるがそれより先にフェイトが部屋の中から返事を返してくれる。

 

「お話中に邪魔してゴメンね。少し、アリシアに聞きたいことがあるんだけど…」

 

「ふぇ、私に?」

 

 俺は話の邪魔をしたことを三人に詫びると単刀直入に用件を伝える。

 

「うん、君がこの世界に来る前のことなんだけど、何か覚えてない?」

 

 俺はアリシアに質問をぶつける。あのケースがあることから、おそらくは俺と和也と同じくあの場所へ行った筈だが、もしかしたら違う可能性もあるし、俺達が知らない事を知っている可能性もある。

 

「えっと、目が覚めたら変な部屋に寝かされてて…」

 

 アリシアは一つ一つ思い出しながら、自分がこの世界に来たときのことを教えてくれる。

 

「起きたら誰もいなくて、それで人を探していたら大きな部屋に出て、そこであのトランクケースを拾ったの…」

 

 その大きな部屋というのはおそらく俺がこの世界に来る前に入った部屋のことだろう。

 

「そしたら、いつの間にか森の中にいて、君が助けてくれるまでずっと一人で人を探してたんだ」

 

 どうやら基本的には俺達と変わらないようだ。変な部屋で起き、別の部屋に行ってトランクケースを拾ったら別世界へ。

 俺は月村家に和也はハラオウン家にすぐ見つけられたから良かったが、彼女の場合、ここに来たとき回りには誰もいなかったようだ。とはいってもそれほど大きな違いはなく、結果的に俺が見つけたことを考えても大差ないだろう。それに知り合いも家族もいない俺達とは違い、彼女の場合この世界に家族がいる。

 ただ少しだけ違和感を感じる。俺達のときとの違いというか、何かが足りない?

 

「あ…」

 

 俺は違和感の正体を思い出す。それが正しいかどうか確認するため、アリシアに質問をぶつけた。

 

「アリシア、その森の中に跳ばされる前だけど、声というかアナウンスみたいなの聞かなかった?」

 

「? 聞かなかったよ」

 

 なるほどここが先ほどの違和感の正体らしい。俺が来る前はリリカルなのはの世界だとアナウンスのようなものがされていたが、アリシアはされてない。微妙な違いではあるが、手がかりにはなるかもしれない。

 もともとアリシアがこの世界の住民であるからか、それともアリシアの言う大きな部屋と俺達が知っている部屋は別物なのか、様々な推測が立てられる。

 じっくりと考え込みたいし、できれば和也の意見を聞きたいところではあるが、それほどのんびりとしてはいられない。

 和也に言われたようにまずは問題を解決しなければならない。マテリアル事件はまだ終わってはいないのだ。

 

「皆、ちょっと聞いてくれ」

 

 アリシアからもっと話を聞こうとすると部屋にクロノがやってくる。その切羽詰った顔を見るとなにやら良くない事態が起こったらしい。

 

「先ほど現れたアミタとキリエと呼ばれていた二人、そしてマテリアルらしき反応があった。皆にはそこに向かって欲しいんだが構わないか?」

 

「いいけど、クロノ君は?」

 

「僕や他の管理局員は皆の偽者を片付ける。予想以上に数が出てきているらしいから皆も気をつけてくれ」

 

「了解や」

 

「わかった、行ってくるね」

 

 クロノの話を聞いて、皆すぐにトランスポーターへと急ぐ。アリシアのことは気になるが優先するべきはやはりヴィヴィオ達との接触だ。

 

「座標はバラバラやな」

 

「うん、ここは手分けしていこう」

 

 はやての言葉にフェイトが答える。アミタ、キリエ、そしてマテリアルらしき反応はすべて別々の場所だ。

 

「主はやて、我々は管理局員達と偽者の掃討へと向かいます。お気をつけて」

 

「分かった、みんなも無理せんようにな」

 

 近くで守護騎士達とはやてが声を掛け合っているが、俺は先ほどの用事のことを思い出してフェイトに話しかけた。

 

「フェイト、大丈夫?」

 

 もともと俺がフェイト達を探していたのはアリシアへの質問のためではなく、三人の様子が心配だったからだ。先に別の質問をぶつけてしまったため、すっかり忘れてしまっていた。

 

「うん、大丈夫だよ」

 

 フェイトはそう言って笑みを浮かべてくれる。

 

「アリシアのこと始めは驚いたしショックだったけど、話していてなんとなく分かるんだ」

 

「なにが?」

 

 俺はフェイトの言葉が気になり、それを知ろうと質問する。

 

「私とアリシアは違っていて、でも近い存在なんだって……」

 

 その言葉を聞いて俺はフェイトのことを思い出す。プロジェクトF、フェイトはアリシアをよみがえらせようとして生まれた存在だ。フェイトはアリシアの記憶も少し持っている。ただ、二人は間違いなく違う存在だ。

 魔法資質、利き腕、性格、そしてそれが違っていたゆえにフェイトはプレシアから失敗作扱いされ、虐待を受けた。でも二人は限りなく近い存在なのだ。

 

「お母さんのこと話したんだ。アリシアが死んでどんなに苦しんでたか、それに私のことも…」

 

 フェイトの話を黙って聞く。それを話す事は少なからず、フェイト自身迷うこともあっただろうが、アリシアに話したようだ。

 

「そしたらアリシア、謝ってくれたんだ。アリシアは悪くないのに…それと母さんのことありがとうって」

 

 アリシアも話を聞いて戸惑っただろう。自分は死んでいて、何も分からないままこの世界に来て、その上数十年経っていて、自分とそっくりの女の子がいて、その女の子が自分を生き返らせるために生まれたと聞いて、すぐに納得できるとは思えない。

 映像を見せたのか、それともアリシアが純粋で素直にそのまま納得したのかは分からないが、二人とも仲良くできるならそれに越した事はない。

 

「それでね、アリシアは私のことを妹って言ってくれたんだ。私達は姉妹だって、家族だって」

 

 フェイトの顔は本当に嬉しそうだ。あまり親の愛情に恵まれなかった彼女にとって家族という存在はやはり嬉しいのだろう。リニスやアルフもいたがリニスは既におらず、アルフも家族であり使い魔という立場だ。血の繋がった存在というのはやはり少し違う意味を持つ。

 

「この事件を解決したら一緒に暮らそうって話してたんだ」

 

「じゃあ、頑張ってこの事件を解決しよう」

 

「うん」

 

 フェイトはそう言って、反応のあった場所へと向かう。俺はというとフェイトとではなく、なのはと共に行動する事にした。理由は単純にヴィヴィオ達に接触するのがなのはとユーノだからである。

 欲を言えばヴィヴィオに接触したい。機動六課で保護され、なのはとフェイトの娘であるヴィヴィオはその関係上、俺に近い位置関係になる。stsに関わるかは分からないがもし俺が未来にいたとして、一番俺のことを知っていそうなのは間違いなくヴィヴィオだ。

 

 ――できれば多くの情報を持っていて欲しいが、まぁ無理だろうな……

 

 この状況を予測して誰かがヴィヴィオに俺のことを伝えてくれとか言われていたら良いのだろうが、それは流石に望みすぎだろう。未来の俺登場の可能性も考えたが、それも普通にあり得なさそうだ。

 

「ねぇ、拓斗君…」

 

「どうしたなのは?」

 

 なのはに合流して目的地まで向かう最中になのはが話しかけてくる。

 

「アリシアちゃんと拓斗君って同じ所からきたの?」

 

「そう、みたいだね…」

 

 なのは達は、先ほど俺がアリシアに質問している最中も後ろで見ていた。はやてやフェイトは俺のことを知らないため、俺がした最後の質問を少しおかしなぐらいしか感じなかっただろうがなのはは違う。なのはは俺が元の世界に帰りたがっているのを知っているのだ。

 

「ねぇ、拓斗君。もし、拓斗君がアリシアちゃんみたいに…」

 

 なのははそこまで言って口を閉ざす。自分が言おうとしている事がどれほど俺を傷つけるのかを分かっているのだろう。でも、それでもなのはは言わざるを得なかったのだろう。

 もし、俺がアリシアのように既に死んでいて、生き返ってこの世界に来たという可能性を……。

 今まで自分の記憶を疑っていなかったため、普通に寝て起きたらあの部屋にいたと考えていた。だがアリシアがこの世界に俺達と同じように現れてしまったため、それが揺らいだ。

 もしかしたら寝たまま死んでしまったのかもしれない。この世界に来たときに覚えているときまで記憶しか持たなかった可能性もある。

 可能性として有り得るので少なからずショックは受けた。元の世界に帰っても既に死んだことになっているので居場所がない。

 とはいえ、元の世界に帰って家族に会いたいという気持ちが薄れたわけではない。あくまで可能性でしかないのだ。

 

「ゴメン、拓斗君……」

 

「いいよ、気にしないで」

 

 なのはは罪悪感からか俺に謝ってくる。人によっては確かに聞きたくないことだろうが、むしろ俺は言ってくれた事に感謝している。否定しているだけでは前に進めない。事実を事実として言ってくれる人がいる事は有難いのだ。

 なのははそれが有り得る可能性だからこそこうやって言葉にしてくれた。それがいくら否定したいものでもそういう可能性がある以上、それは受け入れなくてはいけない。

 

 ――でも、こう一向に前に進まないと嫌になるな……

 

 元の世界に頑張ろうと色々調べているが得に何も得られず、今回現れたアリシアは手がかりになるかも知れないができれば否定したい可能性を孕んでいた。これでヴィヴィオ達にあって元の世界に帰るという可能性すら否定されたら一体どうなってしまうのやら…。

 

「こんな事考えている時点で少し諦めてるのかな?」

 

「え、何か言った?」

 

「ううん、なんでもない」

 

 少しだけ自分の感情が分からなくなり思わず言葉を漏らしてしまう。色々な事があって少し悪い方へ物事を考えがちになっているようだ。

 

「なのは、アレッ」

 

「うん、見つけた。あの、すいませーーんっ!」

 

 反応があった場所を捜索していると青い服を着た人の姿が見える。間違いなくアミタのようだ。

 

「はい、わたしでしょうか?」

 

 アミタはこちらの声に反応し振りむいた。

 


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