転生生活で大事なこと…なんだそれは?   作:綺羅 夢居

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57話目 二人との出会い、そして二人の星光

 

 

「全力にて、逃走しますッ!」

 

 そう言ってアミタはこの場から逃げていった。そのあまりの行動になのはは驚き口を開いたまま呆然としている。

 アミタと接触した俺達はとりあえず事情を聞こうとするが、アミタはマテリアル達が復活し、少し焦っているのか余裕がなく、戦闘になった。戦闘自体は2対1であるためそれほど苦労はしなかったが、ここで彼女から事情を聞くために捕縛、もしくはアースラへ同行してもらうとなると余計な時間がかかり、ヴィヴィオ達と接触できなくなる可能性があるので逃げられる程度の余力を残せるように手加減するのが少々面倒だった。

 

「早く追いかけなきゃっ」

 ユーノの言葉で俺達はアミタの追跡を開始する。しかし、時は遅く彼女の反応はどこにも見られず、完全に見失ってしまった。

 

「あの人、時間がないって言ってた…」

 

「そうだね、何が目的かは分からないけど、でも必死そうだった」

 

 飛行魔法でアミタを追跡しながらなのはとユーノが話をしているのを横目で見ながら、俺は一人考え込んでいた。

 

 『時を運命を操ろうなどと思ってはいけない――厳然たる守護者であれ』

 

 これはアミタ、そしてキリエの二人の親である博士が彼女達に言った言葉だ。ゆっくりと滅び行く自分たちの故郷、そして不治の病に罹った博士のため、その言いつけを守りながら方法を探そうとしたアミタ。言いつけを守らず、しかしそれでも自分達の生まれ故郷と博士を救うために時間移動という手段を選んだキリエ。

 ある意味、キリエは俺や和也に似ていると思う。最悪の未来を回避したいキリエ、より良い未来を手に入れたい俺と和也。

 和也はどうか知らないが俺の場合、リリカルなのはという世界、原作と同じような展開を壊す事に躊躇いがなかったわけではないが、それは自分の行動によるイレギュラーの発生やマイナス方向への変化を恐れてのことだ。

 

 ――でも、そういう意味では俺は運がいいんだろうな

 

 自分の行動は少なくとも今のところはマイナスの方向へ作用していない。もし、和也が原作のことを大事にして、介入行動を許さなかった場合、敵対していたかもしれない。そう考えると俺はかなりの運に恵まれていた。

 

「拓斗君っ!」

 

 なのはの呼びかけてくる声で思考を止める。すると少し様子がおかしい事に気がついた。

 

「転移反応…?」

 

 ユーノが少し戸惑った声で呟く。その声に俺の心臓がドクンと跳ねる。

 とうとう来た……来てしまった。このタイミングでのこの反応は間違いなく彼女達だ。

 

「拓斗君、あれって…」

 

 飛行魔法で移動していたなのはが急停止し、指をどこかへと向ける。俺は恐る恐るとなのはの指差す方向へと振り向いた。そこにいたのは……

 

 

 

 

 ……碧銀の髪をツインテールにした少女。そして金色の髪をサイドポニーにした二人の少女だった。

 俺は高鳴る鼓動を必死で抑え込みながら二人へと近づく。元の世界でもこれほどの緊張は味わった事はなかった。

 

「すみませーーーん」

 

 なのはが二人へと声を掛ける。アミタを追跡している途中とはいえ、見慣れない魔導師がいたら、管理局に協力している身として声を掛ける必要があるのだが、今はその行動や動作、一つ一つが俺を追い込んでいく。

 なのはが声を掛けた二人はこちらを向くと驚きの声を上げる。

 

「え、ヴィヴィオさんのお母様!? それに……」

 

「……おとーさん!? ユーノ司書長も」

 

「あ……」

 

 その二人の反応を見た瞬間、俺は意識を失った。デバイスが少し光ったのに気がつかないまま……。

 

 

 

 

 

 

「拓斗君っ!?」

 

 私は目の前で落ちていく拓斗君に驚いて、大声で拓斗君の名前を呼ぶ。

 

「拓斗っ!? クッ…」

 

 ユーノ君が慌てて魔法を使って地面へと落下する拓斗君を止めてくれる。私はそれを見て、ホッとするもいきなり起きた事態に混乱していた。

 

「だ、大丈夫ですか!?」

 

 目の前にいる碧銀の髪の女の人が心配するように声を掛けてくれる。

 

「う、うん。ユーノ君が落下を防いでくれたから…」

 

 声を掛けられたことで少し落ち着きを取り戻すことができたので、私は目の前にいる二人を見る。金色の髪に緑と赤の目を持つ女の人。そして碧銀の髪に、紫と青の目を持つ女の人。どちらも虹彩異色という珍しい瞳を持っていた。

 

 ――綺麗な瞳…でも、確かこの人達って……

 

 二人の瞳に見惚れながら、二人の特徴を見て確信する。この二人は間違いなく拓斗君が探してほしいといっていた二人だ。

 

 ――拓斗君とどういう関係なんだろう…

 

 拓斗君は二人の反応を見てと言っていた。でもその拓斗君は二人に会った瞬間、地面に落下している。詳しい事は何一つ話してくれなかったので、私には二人が拓斗君とどういう関係なのか分からない。でも、なんとなく予想はついた。

 

 ――多分、拓斗君が元の世界に帰ることに関係がある人達なんだ。

 

 そう考えると拓斗君が二人を探していた理由も、二人に会って地面に落ちていった理由もなんとなく理解できる。

 フェイトちゃんもそうだった。プレシアさんに酷い事を言われたとき、ショックで崩れ落ちてしまった。拓斗君の反応もフェイトちゃんのときと同じに見えた。

 

「あのっ、時空管理局、高町なのはです。お話しを伺えますでしょうか?」

 

 拓斗君のことは心配だけど、今は目の前にいる二人から事情を聞かないといけない。幸い、拓斗君の傍にはユーノ君がいるし、本当に危ない状態ならすぐにアースラに連れて行ってくれるはずだ。

 

「え…はい」

 

 反応が返ってきたので私はホッとする。さっきのアミタさんみたいにいきなりどこかへ行かれたら困る。でも、目の前にいる二人は私を見て、戸惑った表情を浮かべている。それと時折、拓斗君のことを見て、心配そうな顔を浮かべていた。

 

「こちら管理外世界です。渡航許可はお持ちですか? よろしければ、ちょっと…」

 

「ご、ごめんなさい。持ってないです。えと、私達もどうしてここにいるのかわからないんで……」

 

 私の言葉に金色の髪の人が答えてくれる。本人達も理由がわかってないってことは拓斗君と同じように事故でこの世界に来てしまったのかも知れない。

 

「もし、よろしかったら別の場所でお話しを聞かせてもらえますか?」

 

 私は二人にそう尋ねると、二人は何かを話し合う。拓斗君のこととか知ってそうだから、お話聞かせてもらいたいんだけど…。

 

「も、申し訳ございません……ちょっと、事情がありまして」

 

「ごめんなさい! 失礼します」

 

 二人はそう言うとさっきのアミタさんのように逃げようとする。私は追いかけようとするが、流石に二人を一人で止めるのは無理だし、拓斗君のことも心配なので二人の追跡を諦めた。

 そして、私は拓斗君とユーノ君がいる場所へと降りていく。

 

「ユーノ君…拓斗君は?」

 

「うん、外傷はないよ。多分、ショックを受けて意識を失っただけだと思う」

 

 ユーノ君の言葉を聞いて、命に別状がないことにホッとする。ただ、だからこそ余計に心配になる。

 

「拓斗君が意識を失った理由ってやっぱり…」

 

「多分、あの二人が原因なんだろうね」

 

 私はさっき逃げていった二人のことを思い出す。珍しい虹彩異色の瞳。髪の色や顔立ちから拓斗君とは血の繋がりはないように見える。ただ、向こうは拓斗君や私のことを知っているような反応をしていた。

 

「拓斗は僕に任せて、なのはは追跡を続けて」

 

 ユーノ君の言葉にハッと我に帰る。私達の目的はもともとアミタさん達の追跡だ。さっきの二人に会ったり、拓斗君が急に意識を失ったりしたので目的を忘れてしまっていた。

 

「わかった、私はアミタさん達を追跡するね」

 

「うん、さっきの二人のことは僕が報告しておくよ」

 

「お願い…」

 

 意識を失って地面に倒れている拓斗君を心配しながら、私は空へ飛び立つ。拓斗君のことは心配だけど、今は追跡任務をしっかりとこなさなければならない。

 

 

 

 

 

 そのまま空を飛んでいると今度は私と同い年ぐらいの子の姿が見える。その姿ははやてちゃんが遭遇したマテリアルの子と同じ姿だった。そして、その子ははやてちゃんの言っていたように私に似ていた。

 

「初めまして…というべきなのでしょうね、タカマチ・ナノハ…」

 

「あなたがマテリアル?」

 

 自分と同じ声、同じ顔をした相手と話すことに違和感を感じる。姿も声も私に似ているけど、はやてちゃんが言ったように正確とかは違うみたい。

 

「ええ、私が星光(シュテル)、水色が雷刃(レヴィ)、我等の王が闇王(ディアーチェ)です」

 

「そう、じゃあシュテルって呼ぶね」

 

 こうやって自己紹介をきちんとやってもらえるとなんだか少しホッとする。そういえば、さっき会った二人のお名前は聞けなかったなぁ。

 

「実を言うとあなたと会うことを楽しみにしていました」

 

「え…どういうこと?」

 

 私はシュテルの言葉に疑問を覚える。まさか一度も会った事のない子からそんな事を言われるなんて思ってなかった。

 

「私はあなたのデータをもとに生み出されて構築体です。その能力は基本的にあなたのコピーとも言えます」

 

 そういえば、他のところで現れる私達の偽者もいるんだっけ。そっちには会った事はないけど、どんなんだろう。ちょっと、会ってみたいな…。

 

「ですが私はあなたの能力のコピーを超えて、私は私として――王のために『殲滅者(デストラクター)』としての力を手に入れました」

 

 ――オリジナルとコピーかぁ~

 

 私はシュテルの言葉でフェイトちゃんのことを思い出す。フェイトちゃんはアリシアちゃんのクローンだ。拓斗君から説明してもらった話では、フェイトちゃんも生み出される段階で魔導師としての資質を追加されたらしい。そう考えるとシュテルと私の関係も少し似ているように思えてくる。

 

「なんか私達って姉妹みたいだね」

 

「そう、ですね。血の繋がりこそありませんが、姉妹と言えば姉妹なのでしょうね」

 

 思わず出てしまった私の言葉にシュテルは言葉を返してくれる。その表情は少しだけ微笑んでいるようにも見えた。

 

「私の焼滅の力――受け止めていただけますか?」

 

「いいよ! 全力でやろうッ!!」

 

 そして私とシュテルの戦闘は開始した。

 

「アクセルシューターーッ」

 

「パイロシューターッ」

 

 私の放った魔力弾をシュテルの魔力弾が迎撃する。その誘導性、操作力は間違いなく私と同等のものだ。ただ、威力は向こうの方が少し高い。その理由はすぐにわかった。

 

「炎熱変換スキル…?」

 

「はい、これが私とあなたとの違いです」

 

 炎熱変換スキルはシグナムさんも持っていた筈だ。ただ、シグナムさんとは戦い方が全く違うので参考にならない。こういった遠距離戦は拓斗君と何度か行っているけど、拓斗君のように手数で戦うのではなく、砲撃のような威力の高い魔法を多く使ってくる。

 炎熱変換スキルがあるとはいえ、同じ魔法を使ってくる相手と戦うのは思ったよりもキツイ。シュテルが相手ということもあるだろうが、お互いの手の内がわかっているため、どうしても押し切れない。

 だったら、この戦況を変えるために手を打つしかない。

 

「いくよ、シュテル。ロードカートリッジッ!!」

 

 私はカートリッジをロードして、自分の魔力を高める。これが私の奥の手だ。闇の書の戦い以降、自分の力不足を感じた私はクロノ君と忍さんに頼んでデバイスにカートリッジシステムを搭載してもらった。

 ミッドチルダ式のデバイスにカートリッジシステムを搭載することは殆どないらしく、私はそのモデルケースとしてデータの提供をしている。

 

「これが私の全力全壊っ! スターーライトォォ――」

 

「こちらも全力でいきますっ、真・ルシフェリオン――」

 

「「ブレイカーーッ!!」」

 

 私とシュテルはお互いに自分が撃てる最高の砲撃を撃ち合う。その砲撃はお互いのちょうど真ん中でぶつかり合い、拮抗する。しかし、その均衡はゆっくりと崩れ始める。

 カートリッジシステムで上乗せされた魔力分、私のブレイカーの威力が勝ったのだ。ブレイカーはそのままシュテルに直撃するけど、ぶつかり合った分どうしても威力は落ちてしまう。それでも決着とするには十分な理由になったみたいだ。

 

「私の負け、ですね。タカマチ・ナノハ」

 

「うん、でもいい勝負だったよ」

 

 お互いの健闘を称えあう。シュテルとの戦いは満足できるものだったけど、私は彼女に聞いておかないといけない事がある。

 

「シュテル達の目的ってなんなの?」

 

「我々の目的は砕けえぬ闇の入手、これは我々の存在理由でもあります」

 

「周りに迷惑がかからないことなら手伝ってあげたいけど…」

 

「そのあたりはどうも、私に責任はもてそうになく……詳しくはディアーチェに聞いていただければと」

 

「うん、わかった。でも…」

 

 シュテルが悪い子ではないというのは戦っていて、こうやって話してみてわかったことだ。でも、闇の書のことを考えると安心はできない。

 

「あなた達の心配は、我々が無辜の民に迷惑や被害を出さぬように…ですよね?」

 

「う、うん」

 

 シュテルの言ってきた言葉に私は戸惑いながらも頷く。少し難しい言葉が出てきたけど、要するに関係ない人に被害がでるという私達の心配は伝わっているみたい。

 

「それについては私は遵守しますし、レヴィやディアーチェにも念押ししておきましょう」

 

「うん、ありがとう。でもね、あの、一緒に来てくれないかなぁって…」

 

 私は確認するようにシュテルに聞く。多分、こういっても無駄になるんだろうなとは思いつつも立場上、聞かなければならない。

 

「すみません、それはちょっと」

 

 シュテルはやっぱり拒否してくる。

 

「我々の目的を果たし終えたら、またご挨拶に伺います。それではごきげんよう、ナノハ」

 

「あっ、シュテル、待って! 行っちゃった……」

 

 私の制止の声も届かず、シュテルはどこかへと行ってしまう。追いかけようにもアミタさん、シュテルと連戦したあとで魔力も心もとない。

 

「でも、大丈夫だよね」

 

 シュテルは関係ない人を巻き込まないと言ってくれたし、最後にもう一度会いにくると言ってくれた。

 拓斗君のこと、アリシアちゃんのこと、アミタさん達、それにシュテル、いろんなことがあって大変だけど、少しだけ楽しみができた事を嬉しかった。

 


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