膨大な魔力を纏ったユーリとそれを取り囲むようになのは達は対峙していた。
「王――どうしてここに……?」
ディアーチェの姿を見て驚いたのかユーリが動揺を露わにする。
「知れた事。貴様を我が手に収めに来たのよ」
ディアーチェはその傲慢な態度を崩さずユーリに言い放つ。
「君は、私に敵わない――それは君もわかっているはず」
「ふん、我をあまり甘くみるではない。貴様の力を我がものとして、制御しきってくれる」
「無限の力を手に入れて……仮に制御できたとして……それであなたは何をする?」
ユーリはディアーチェに問いかける。自らを手に入れて、力を手に入れて、それで何を為そうというのかと…。
「そうさの。この世界を粉々に砕いてやっても良いが……もう一つ考えている事がある」
ディアーチェはユーリの質問に答える。
「塵芥のような人間共のおらぬ地に赴いて――ゼロから我が王土を築いてやろうとな」
「……夢物語だ……そんな事はできません」
ディアーチェの夢をユーリは否定する。
「出来るか出来ぬかは知らぬ。だが、やるかやらぬかは我が決めることよ。貴様と無駄な問答をする気はない。これは命令ぞ……我が下に来いU―D」
ディアーチェはユーリに向かってそう言い放つ。しかし、呼んだ彼女の名前は本来の名前ではない。
「……」
「貴様をその永遠の牢獄から連れ出すっ!!」
ディアーチェのその宣言により、ディアーチェ達とユーリの戦いが始まった。
アースラのブリッジ、そこで俺はディアーチェとユーリの会話を聞いていた。
――結局、名前は思い出せなかったみたいだな。
ディアーチェがユーリの事をU-Dと呼んだのを見て、俺はユーリに少し同情する。モニターの中ではディアーチェ達とユーリの戦闘が始まっていた。
先ほどの会話中に用意されたプログラムカートリッジをロードしたなのは達により、ユーリとの戦いは少しこちら側に有利に進んでいるように見える。
「タクト、これ…」
「ん? ああ、ありがとうアリシア…」
アリシアから渡されたコーヒーを受け取り、一口飲む。
アリシアはこの世界に着たばかりの上、戦闘に関しては初心者であるため、今回のメンバーには選ばれていなかった。
「フェイト達……大丈夫だよね?」
アリシアは不安そうに画面に映るフェイト達を見る。アレだけの人数で挑んでも簡単に勝利する事は出来ない相手に不安を覚えているようだ。
「大丈夫だと思うよ」
そんなアリシアに俺は無難な答えしか返せない。正直ユーリの力がここまでだとは俺も思っていなかった。ゲームでは1対1の戦いだったので人数さえ揃えれば苦戦する事は無いだろうと考えていたのだが、現実はそう甘くないらしい。
「皆、物凄く強いから…」
俺はアリシアにそう言ってまた皆の戦闘に目を向ける。そう、皆は物凄く強い。俺は持っているデバイスの特性で様々な魔法が使えるが、それがなく普通に支給されたデバイスでという事になれば基本的にこの戦闘に出ているメンバーに勝てる気はしない。
「頑張れ……」
――無事に帰ってきてくれ
外から見ていることしか出来ない俺はそう皆を応援する事しか出来なかった。
「流石にキツイ…かな」
「でも、向こうだってかなりダメージを受けてる」
私の言葉にフェイトちゃんが返してくる。私達とU-Dちゃんとの戦いも始まって既に10分以上が経っていた。フェイトちゃん達、前衛陣がかく乱しているうちに私達後衛が魔法を放つという作戦は上手くいき、少しずつではあるけど着実にU-Dちゃんにダメージを与えていっている。
「よしっ! これでっ!!」
ディアーチェちゃんが放った黒い大きな魔力弾がU-Dちゃんを襲う。しかし、その瞬間U-Dちゃんの魔力が膨れ上がり、何かが弾けたような音がする。
U-Dちゃんを見てみると先ほどまであったダメージが回復していた。
「嘘っ、ダメージが回復してる!?」
「落ち着き、なのはちゃん。ダメージは回復してるけどあの鉄壁の防御は無いみたいや」
ダメージが回復している事に驚く私にはやてちゃんは冷静にそう言ってくる。良く見てみると、今フェイトちゃんが放った攻撃がU-Dちゃんにダメージを与えているのが見えた。それも今まで見たいに少しずつではなく、結構大きなダメージだ。
「あとちょっとや、なのはちゃん」
はやてちゃんはそう言ってU-Dちゃんの攻撃に参加する。私も参加しようと思ったが予想以上に攻撃が通っているため、あまりすることがなかった。
「うぁああーーー」
ユーリが叫ぶ。自身を守っていた防御も無くなり、ダメージを追ったユーリはその身を乗っ取ろうとする意思に必死で抗っていた。
自分だって破壊したいわけではない。止められるのであればこの暴走を止めたい。そんな思いでユーリは慟哭する。それと止めたのは闇の王――ディアーチェであった。
「もう泣くな! 貴様の絶望など――」
ディアーチェの前に魔法陣が展開される。
「打ち砕いてくれるわぁーー!!」
ディアーチェの放った魔法がユーリを撃ちぬく。そしてユーリは行動不能になったのかゆっくりと地面に落下していった。
「機能破損……エグザミアにダメージ……私は……壊れたのでしょうか…」
ディアーチェの魔法に撃ちぬかれ、落下してくユーリの口から言葉が漏れる。自身の機能の殆どが破損しており、どうする事もできない。
「何も見えない……何も聞こえない……」
本来、目に映るはずの光すらも感じず、音すらユーリの耳には届かない。
「とても……静かで――――?」
このまま終わる事すら考えたユーリを誰かが抱きしめ、その落下を止める。そしてその人物はユーリに声を掛ける。それは確かにユーリの耳に届いた。
「無事か! 貴様、しっかりせぬか!」
ユーリに声を掛けたのはディアーチェ――彼女の王であった。
「王……?」
「我が戦術が上手く嵌ったようだな」
ディアーチェは作戦が上手く言った事を喜び顔を綻ばせる。
「飽和攻撃によって貴様のエグザミアの誤作動を止め、その隙に我が貴様のシステムを上書きする。しかし、まさかここまで苦労するとは思わなかったぞ」
ディアーチェの言葉にユーリは自らが持つエグザミアを確認する。
「本当に、エグザミアが止まってる……」
「我が力があれば必然の結果よ。他の連中の助けもまあ……ないよりはマシな程度にはあったかもしれん」
そう言ったディアーチェの顔は微笑んでいた。
「ともあれ、貴様はもう、無闇な破壊を繰り返す事もない。暫くは不安定な状態もあろうが、我がしっかり縛り付けておいてくれる」
「何故…そんな事を……?」
ユーリはディアーチェに何故底までしてくれるのかを問う。ここまで他者に迷惑をかけた自分に底まで行うメリットなどない。そうユーリは感じていた。
「シュテルが思い出したのだ……貴様の事」
ディアーチェはシュテルから聞いた事をユーリに話す。
「我らはもともと一つだった――エグザミアとそれを支える無限連環の構築体――すなわち四基が揃ってはじめて一つの存在。
闇から暁へと変わりゆく、紫色の天を織りなすもの――紫天の盟主とその守護者」
それが自分たちだとディアーチェがユーリに告げる。
「我が王、シュテルとレヴィの2人が臣下。そしてお前が…」
ディアーチェが抱きかかえたユーリの目を真っ直ぐに見る。ユーリはその目を、真っ直ぐと見つめるその眼差しを見つめ返す。
「我らの主であり……我らの盟主」
「それは……」
ディアーチェから告げられた言葉をユーリは否定する事が出来ない。それはユーリは思い出すことが出来ない遠い遠い昔の記憶。
「無理に思い出さずともよい――いや、思い出す必要も無い」
ユーリの言葉を遮りディアーチェが言う。
「我らはずっと、お前を探していたのだ……我らが我らであるために。お前が一人で泣いたりせぬように」
ディアーチェの言葉がユーリの心の中に入り込んでくる。
「王……あなたは……」
「惰眠を貪り、探すのにも手間取り……随分と待たせた。たった今より、もうお前を一人にはせぬ。望まぬ破壊の力を震わせたりもせぬ」
ディアーチェは優しく、しかししっかりとユーリに告げる。
「シュテルとレヴィもすぐに戻る――安心して我が元に来い」
「王……」
「お前は我らが盟主ぞ、王などと呼ばず単の名で呼べ」
「……ディアーチェ」
ユーリはディアーチェの名前を呼ぶ。その繋がりを確かめるかのようにしっかりと。
「それからな……シュテルがお前の名も思い出した。システムU-Dなどという無粋な名ではない、お前が生まれたときの名だ」
「名前…?」
「ユーリ・エーベルヴァイン――それが、人として生まれたときのお前の名」
「……ユーリ……エーベルヴァイン」
ユーリはディアーチェに教えてもらった自分の名を確かめるように呟く。その瞳からは涙が溢れ出していた。
「さて、戻るぞ」
「……うん」
ディアーチェの言葉にユーリは頷く。こうして今回の事件……後に砕け得ぬ闇事件と名付けられた事件は終わった。
事件終了後、俺は疲労によって休んでいる皆のお見舞いに行く。まず始めに未来組だ。もう未来の情報とかに興味は無いが、でももしかしたらという希望を残し会いに行く。
未来組は疲労が流石に酷かったのかヴィヴィオはテーブルに突っ伏し、トーマはソファに背中を預けていた。
「お疲れ様、はい、コレ」
俺は未来組に声を掛けると先ほど食堂で貰ってきた飲み物を配る。
「あ、パパ」
「ありがとうございます、ヴィヴィオさんのお父様」
ヴィヴィオとアインハルトの二人から父と呼ばれ、微妙な気分になる。もう未来の事とか二人とも隠すつもりは無いようだ。まぁ、一度知られているわけであるし隠す事に意味は無いわけだが、今の自分と同い年か年上の子に言われると本当に微妙な気持ちになる。
「え、タクトさん?」
トーマの方を見ると俺の顔を見て驚いた表情を浮かべていた。どうやら彼とも交流があるようだ。
――となると未来ではミッドとかにいるのかな?
今、手に入る情報を整理し、もっともありえそうな未来を想像する。この感じだとミッドとか管理世界で暮らしている可能性が一番高そうだ。
自分の未来を想像して少し暗い気分になる。わかっていたことだがこのままこの世界に暮らす事になり、未来でこのメンバーと関わりがあるとなると事件なりなんなりに巻き込まれていそうだ。
「あの~、大丈夫ですか?」
アインハルトが軽く落ち込んだ俺の様子を見て心配してくる。
「あ~君達よりは大丈夫だよ、それより質問なんだけど…」
「? 質問?」
俺の言葉にヴィヴィオが首を傾げてくる。この子が自分の娘になることを考えると俺の青春ってこの世界の年齢的に19までなのかな~とか考えてしまう。元の世界で19と言えば大学入って二年目だから、かなり楽しんでいた気がするが、娘が出来るとなるとそんな余裕なさそうだ。
とはいえ流石にその関係をなくすというのも違う気がする。STSのときに地球に残っていればヴィヴィオを娘にする事はないのかもしれないが、俺達の関係がわかってしまうとそれを選ぶのは見捨てるという感じがしてなんか嫌だ。
「未来の俺は笑ってるかな?」
俺はヴィヴィオ達に質問する。未来の自分が笑っているかと、笑えるくらい人生を楽しんでいるかと、ただそれだけが今の俺には気になった。
「うん、パパは笑ってるよ。皆が、この世界が大好きだって…」
ヴィヴィオは俺にそう言って笑顔を向けてくれる。
――そっか、その未来の俺は笑えているんだ……。
そう思うとなんとなくホッとした。色々なことがあっただろうし、悩んだこともあっただろう。でも彼女達の知っている俺が笑えているのは嬉しい事だ。
「ありがとう、ヴィヴィオ」
俺はヴィヴィオの頭をポンと軽く叩いてお礼を言うとその場から離れる。その時にこちらを見ている集団がいる事に気づく。
「あ、拓斗君」
「ちっちゃいママだ~」
なのはが俺の方を見て声を掛けてくる。そのなのはの姿を見て、ヴィヴィオが嬉しそうに顔を綻ばせる。
「皆、お疲れ様」
「うん、本当に疲れたよ」
「私もや」
フェイトとはやてが俺の労いの言葉に反応を返してくる。はやては今回戦闘に参加したメンバーの中では魔法の経験が少なかったので心配ではあったが、無事なようで何よりだ。
「しかし、時間移動か…」
「うん、あの子達は未来からやってきた私達の知り合いみたい。特にヴィヴィオは拓斗となのは、あ、あと私の娘みたい」
シグナムの言葉にフェイトが返す。ヴィヴィオが自分の娘と言ったときに恥ずかしがったのは娘と言うことにか、それとも……まぁ、そのあたりは気にしないことにする。
「でも、あんまり未来の事を知っちゃうと色々な誤差が出てくるんや~」
「そうね、例えばなのはちゃんとヴィヴィオちゃんが親子じゃない可能性が出てきたり「「それは困ります!」」あ、ハモッた」
はやての言葉にキリエが説明すると途中でなのはとヴィヴィオがハモる。まぁ、仲が良さそうで何よりだ。
「ヴィヴィオさんとトーマさんの場合、色々あったようなのでもしかしたらどこかでお亡くなりになったり「それはすげーー嫌だ!!」とはいえあくまで可能性ですからね」
アミタの説明にトーマが言葉を挟む。というかアミタは物凄く失礼なことを言った気がするが誰も突っ込まない。とはいえ、二人の事はおそらく大丈夫な気がする。まぁ、俺や和也が動くのであればヴィヴィオとかはやばそうな気がするが、そのあたりは和也と調整すればいいだろう。
「ですので『時間移動という出来事が存在した』という箇所だけを、慎重に封鎖させていただきます」
「私たちや王様たちと会った事、戦いがあった事…その辺については消すと色々問題おきそうだから『時間移動』に関しての事だけね」
アミタとキリエが今回の事についての記憶封鎖について説明してくる。俺の場合は二人の事もこの事件の事も大体知っているのでそもそもあまり記憶封鎖とかしても無意味であるし、時間移動の事についてとはいえ記憶封鎖をされるのはちょっと面倒なわけだが…。
「事件そのものについては忘れたりしないんですよね」
アミタとキリエの二人にはやてが質問する。この事件も皆に会えたことも大切な思い出だ。忘れたくは無いんだろう。
「そこまで封鎖しちゃうと逆に思い出しやすくなっちゃうからね。封鎖後はわたしやお姉ちゃんはどこか、ええと…管理外世界? から来た人って事になると思う」
「ヴィヴィオさん達も、過去の記憶は封鎖してしまう方が良いと思います。この先の未来に影響を及ぼしかねませんし」
「あ、えーとお願いします」
ヴィヴィオ達は今回の事件の記憶封鎖をお願いするようだ。流石に自分たちのいる未来に影響を及ぼしかねないのは拒否したいらしい。
「アミタ達の治療データも破棄しないといけませんよね」
「まあ、仕方ない。持っていてもどうせロストロギア扱いさ。書類作業の手間が増えるだけだ」
アミタとキリエの二人を治療したマリーさんの言葉にクロノが答える。残念な事にそのデータは既に吸い上げ済みだったりするのだが、ここで言うのは無粋だろう。
『そういえば拓斗はどうするんだ?』
クロノが俺に念話で質問してくる。
『拓斗は今回の事件の事知っていたんだろう? なら記憶封鎖はどうするのかと思ったんだが…』
『とりあえず説明して、それからかな。正直対応とかはわからないし』
今回の事件が記憶封鎖されたとしてももともとある知識との誤差を考えればまた思い出してしまう可能性が高い。説明して理解してもらえるかはわからないが、とりあえずアミタとキリエの二人に説明してみようとは思う。
「そういえば、ヴィヴィオやトーマ君達はちゃんと帰れるんですか?」
「その辺は間違いなく。私達が帰るときにちゃんと元の世界にお連れします」
「王様とユーリが力を貸してくれることになったからね。ちゃんと戻せると思う」
なのはの質問にアミタが答える。それを聞いて未来組は安堵の表情を浮かべた。
「あ、そのユーリと王様は?」
「気安く呼ぶでないわ」
マテリアルやユーリの姿が見えないのを気にしてフェイトが聞くと丁度良くマテリアル達が現れる。
「オリジナルオイッすーー、戻ってきたよ」
「ナノハ、皆さん。ご無沙汰です」
今まで姿の見えなかったシュテルとレヴィが挨拶してくる。二人は先ほどの戦闘でディアーチェに力を化すために一時的にディアーチェの中にいた。戦闘も終わったので二人とも表に出てきたというわけだ。
「シュテル! レヴィ!」
「二人とも戻ってきたんだ」
なのはとフェイトが二人の姿を見て嬉しそうに声を上げる。ユーリも結構なダメージを受けた割には立って歩けるぐらいには回復しているようだ。
「ありがとうございます。皆さん……私を止めていただいて」
ユーリはマテリアル達の前に出てお礼を言ってくる。何もしていない俺としてはユーリのお礼を受け取る事は出来ないので、少し疎外感を感じる。
「それでな、状況も一段落したところでぼちぼちうぬらを皆殺しにして、この世界の塵芥どもに我が闇の恐怖を味わわせてやろうかと思っておったが」
「うん」
ディアーチェの言葉になのはが頷く。正直まともに話しに付き合う必要もないと思うが、反応してあげてるあたり見ていて和む。
「うぬらのこの世界は、我らには窮屈でいかん。よって我らは赤毛と桃色の世界に侵攻する事とした」
「え? それって…」
ディアーチェの言葉にフェイトが意味を聞き返そうとしたときアミタからの説明が入る。
「そうなんです。王様達、私たちの世界へ来てくれるって」
マテリアル達はエルトリアへ向かうようだ。図らずしもキリエが最初に望んだとおりになる。
「なんか色々エキサイティングな世界だって聞いてるから退屈しなさそうだし、ダンジョンとかあるし、モンスターとかもいるんだって」
「そ、そんな世界なんだ」
レヴィの言葉にフェイトが戸惑った声を上げる。
「古い遺跡が多いですし、死蝕地帯には危険生物もいますので…」
RPG的なものを予想していたのだがどうやらそれは幻想らしい。
「私たちの暮らす場所はもちろんですが、ユーリの力――無限連環がエルトリアの復興に役立つかも知れないと聞いてユーリが…」
「はい、壊すばかりだった私の力が世界の復興に役立つのならと思い、ディアーチェやアミタさん達に我が儘を言いました」
「やりたい事が見つかるのは良いことだよ」
今までユーリはやりたい事も出来なかったのだ。やりたい事があるのであれば自由にやってもいいだろう。
「でも、それだと会うこともできなくなっちゃうね」
「ですね。時間が異なりますから文通するというわけにもいきませんし」
なのはの寂しそうな言葉にシュテルが答える。周りを見てみるとフェイトもはやてもマテリアル達と離れてしまうので寂しそうな表情を浮かべていた。
「もう永遠に会わないと決まったわけでもありません…いつか、また会える日が来るかもしれません」
「うん、そうだったらいいな」
シュテルとなのはが言葉を交わす。そしてシュテルは俺の方に近づいてきた。
「どうした?」
「いえ、お礼をと思いまして」
シュテルはそう言うと俺の頬に唇を当てる。
「ユーリの名前を思い出させてくれたお礼です。また会いましょう、タクト」
俺はシュテルの突然の行動に動揺しながらも少し前の事を思い出す。確かアレはなのは達がテストしていたときの事がクロノやはやてとの話が終わったシュテルにユーリの名前の事を尋ねた。マテリアル達がユーリの名前を思い出したか確認するためだ。
シュテルはその時になってようやくユーリの名前を思い出した。だからコレはそのお礼というわけなのだが…。
「どどど、どうしてシュテルが拓斗君にキスしてるの!?」
「シュテルと拓斗がキス……」
「うわー、シュテルも大胆やなー、皆が見てる前でなんて」
なのは達がシュテルのいきなりの行動にそれぞれ反応する。いや、本人より動揺するってどうなんだろう。
「そうだね、また縁があったら…」
俺はシュテルと握手を交わす。また会える日を楽しみにして…。
そうして、ひとときの休息のあと、別れの準備は滞りなく進み――
「さてと、それじゃ戻る準備をしましょうか」
「ええ、時間移動で来られた皆さんはもと居た時間へお送りします」
「あ、はい」
アミタの言葉で未来組みはアミタの近くに近づく。
「それでは皆さん! 本当にありがとうございました」
「おじゃましました~」
アミタとキリエが明るく別れの挨拶を告げてくる。そして彼女達はもとの時間軸へと戻っていった。
記憶封鎖であるがなのは達は正常に行われた。俺も一応彼女達から記憶封鎖を受けたのだが、あっさりと思い出してしまい、皆に話さない事を条件にそのままでいることになった。
そしてアリシアはフェイトと共に一度ミッドへと赴き、母親と会ってくるそうだ。これからどうするかはまだ決まってないらしいが、この世界で皆と一緒にいたいというのは言っていた。
そして俺はというと……
「お帰り、拓斗…」
「忍……うん、ただいま……」
月村邸へ帰ると忍が俺の事を出迎えてくれる。もう既に結果は説明した以上、あの時した約束の答えも決まっていた。
「お疲れ様」
「何もしてないけどね」
忍の労いの言葉に苦笑いで返す。今回の事件、俺は何もする事は無かった。だから労いの言葉をかけられても困る。
そのまま通り過ぎようとした俺の手を忍は掴むと、そのまま俺を抱き寄せた。
「拓斗、ごめんね。あんな約束して…」
「いいよ、いつかはどっかで決めなきゃならないことだから……」
忍が俺に謝ってくる。この世界に残るかどうかの決断。それは俺には避けて通れないものだ。だから忍は悪くない。
抱きしめてくる忍の暖かさを感じ、涙が零れ落ちてくる。この体温が寂しさを紛らわせていく。
「ごめん、ちょっとだけ泣く…」
「いいよ、存分に泣いて…」
もとの世界に帰ることが出来ない苦しさを、悲しみを、寂しさを吐き出すように俺は忍の腕の中で泣いた。