転生生活で大事なこと…なんだそれは?   作:綺羅 夢居

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65話目 あなたの傍に

「拓斗君……」

 

 俺は今、すずかに抱きしめられている。かなり強い力で抱きつかれているためか、解く事もできず、されるがままだ。

 どうしてこんなことになったかというとそれは一時間ほど前に遡る。

 

 

 

 

「アリシアちゃんの事はこっちでやっておいたわよ」

 

「ありがとう、忍」

 

 忍の報告に俺はお礼を言う。和也との話が終わった後、忍にアリシアが地球で暮らせるように手を回してもらった。

 

「いいわよ、お礼なんて。リンディさんからもお願いされていたし、そっちから対価は貰ってるから」

 

「ああ、なるほど……」

 

 アリシアはミッドに戻った後、フェイトと共にプレシアに会いに行ったらしい。プレシアは俺達がちょうど砕け得ぬ闇事件に関わっているときに亡くなったらしく、二人はそれをミッドに戻る最中に聞いたようだ。

 プレシアの表情は安らぎに満ちていたらしいとは、フェイトの言葉だ。プレシアの遺体はそのままミッドへ埋葬され、プレシアが残した遺産などはフェイトが継ぎ、その後アリシアと分け合ったらしい。というのも、アリシアがそのまま相続してしまってはアリシアの事が外に漏れてしまう。だから、少し回りくどいがこういう方法で遺産を相続する事になった。

 アリシアは地球で暮らすことになったのだが、後見人はさくらということになっている。これはリンディさんが後見人ではアリシアの存在が管理局に知られてしまう可能性が高くなるということ、忍が後見人では若すぎるという理由からさくらが選ばれた。

 リンディさんもアリシアの事は危惧していたようで、地球で暮らせるように忍にお願いしたらしい。忍としては俺があらかじめ頼んでいたのもあるが俺と同じく、ケースを持つ存在としてアリシアに興味があったらしく、喜んで協力する事となった。とはいってもリンディさんから対価を頂いているあたり、本当にちゃっかりしている。

 

「それで拓斗はこれからどうするつもり?」

 

 忍は俺の今後を聞いてくる。その表情は少し不安げで元の世界に帰るという目標を失った俺の事を心配しているように見える。

 

「とりあえずはゆっくり今後の事を考えるよ」

 

 元の世界に帰るという目標が無くなり、少し無気力になっているのは否めない。しかし、この世界のことを悪く思っていないのも事実だ。なら、この世界でどういう風に暮らしていくのかを考えるべきだろう。幸い若返っているため、時間はまだたっぷり残されている。

 

「拓斗……」

 

 そんな俺を忍はゆっくり抱きしめる。事件が終わってから、忍は俺と二人きりになるとこうやって抱きしめてくる事が多くなった。俺も寂しさを紛らわせるため、忍にされるがままだ。そして、いつもであればそのまま少しの間過ごすのであるが、今日は違った。部屋にすずかが入ってきたのだ。

 

「なに、してるの……拓斗君? お姉ちゃん?」

 

 すずかは俺達の状態を見て、固まる。俺が忍に抱きしめられている状態は、それほどまでに彼女にショックを与えたらしい。

 

「なにって、見ての通りよ」

 

 そう言って忍は俺を強く抱きしめると首筋を舐める。その瞬間理解する。こいつは俺を使ってすずかで遊んでいる。

 すずかがこの部屋に来たのは忍も予想外だっただろうが、一瞬にして俺を使って妹の反応を見ようと思いついたのだろう。明らかに忍はすずかの反応を楽しんでいた。

 

「拓斗も男の子だから、女性には興味があるわよね~」

 

 そう言って忍は自分の胸に俺の顔を押し付ける。苦しくも柔らかいその感触を楽しみたい気持ちもあったが、忍には恭也という恋人もいる上に、目の前にはすずかがいるので抵抗はする。というか忍も俺の年齢知っているなら自重してほしい。

 すずかはそんな忍の行動を見て明らかに動揺する。

 

「ちょ、ちょっと、お姉ちゃん!」

 

「ほら、すずかも来なさい」

 

 忍は動揺するすずかを自分のもとに招くと、すずかを俺に抱きつかせる。すずかはその行動に戸惑った声をあげた。

 

「おねえ、ちゃん?」

 

「すずかは知らなかったわね、あのこと……」

 

 すずかはまだ砕け得ぬ闇事件のことについて知らなかった。つまりは俺が元の世界に帰る可能性が絶望的になってしまったことを……。

 俺はすずかに砕け得ぬ闇事件のことを説明した。そして、元の世界に帰ることを諦め、この世界で暮らしていくことを決めたことを……。

 俺の話を聞いたすずかはもう一度俺を抱きしめてくる。今度は自分の意思で。

 

「こんなとき、なんて言ったらいいかわからないけど……」

 

 すずかは俺を抱きしめたまま、こう言った。

 

「これからは私が、傍にいるよ……」

 

 そんなすずかの言葉が嬉しくて、俺もすずかを抱きしめ返す。

 

「うん、ありがとう。これから、よろしくね」

 

 そう言った俺をすずかは強く抱きしめたまま離さない。忍はというと俺とすずかのやり取りに満足したのか、にっこり笑って部屋を出て行った。あの様子だと、どうせ後でからかわれるのは目に見えている。

 そして、俺達はそのままずっとこうしているわけだ。さっき、忍が煽ったのもあるだろうが、すずかが離してくれる雰囲気ではない。

 

「あの、すずか?」

 

「ん、なに? 拓斗君……」

 

「そろそろ、離してくれないかな?」

 

 俺はすずかに離してもらうようにお願いする。別に問題ないといえば問題はないのだが、せっかくの休日もっと有意義に使いたい。

 

「ん、もうすこし、このまま……」

 

 すずかは普段は聞いた事もないような甘えた声で俺の言葉を拒絶する。俺は抵抗する気もなくし、されるがままになる。

 

 ――まったく、忍もすずかも……

 

 俺は自分に抱きついたすずかの顔を見て、そんな事を思う。忍は様々な面で俺を助けてくれる。そしてすずかは、俺が辛いときに欲しい言葉をくれる。

 

 ――二人とも俺より年下なんだけどな~

 

 もともとが大学生の俺にとって、高校生である忍と小学生であるすずかは当たり前だが年下だ。今の身体の事があるとはいえ、この二人にいいように手玉に取られているのは少し悔しいものがある。

 

「ん、ちゅ、かぷっ」

 

 そんな事を考えているとすずかが俺の首筋に吸い付いてくる。いつもの吸血行為とは違う。ただの口付けと甘噛みだ。

 

「すずか?」

 

「ちゅ、れろ、なに? 拓斗君?」

 

 突然のすずかの行動に戸惑い、すずかに声を掛けるがすずかはその行為を止めようとしない。首筋、そして鎖骨を舐め、口付け、甘噛みする。小学生の彼女がどこでこういう行為を覚えたのかが心配になるが、多分忍が仕込んだんだろうと予想する。

 すずかはそのまま俺の手を取ると自分の太ももの上にのせる。そして、俺の手を使い自分の太ももを撫でさせた。

 俺はすずかのその行動にさくらのことを思い出す。さくらが月村邸を訪れたときに吸血をさせた事は何度もあるが、いつもこうやって首筋を舐めたりする。それに抵抗して、俺も太ももを撫でたり、色々やり返しているのだが、それがすずかの行動と重なった。というか、明らかに……

 

「覗いてたね?」

 

 俺がそう言った瞬間、すずかの身体がビクンと跳ねる。それを見逃さず、俺はすずかと体勢を入れ替え、すずかを背中から抱きしめる。

 

「えと、その、ごめんなさい」

 

「クスッ、いいよ、許してあげる。ただ……」

 

 俺はすずかの耳元に唇を近づけると、小さな声で囁く。

 

 ――ちょっとだけお仕置きするけどね。

 

 俺はすずかのその綺麗な首筋に噛み付いた。

 

「ひゃうっ!」

 

「可愛い声……」

 

 すずかの悲鳴が俺の嗜虐心を擽り、その行動をエスカレートさせる。抵抗できないようにすずかの両手をバインドで拘束しつつ、先ほどすずかがやったことをそのままやり返す。

 

「ん、ぅ、ああ!」

 

 首筋を舐め、そのまま舌を鎖骨へと移す。その瞬間、堪えきれずすずかが声を上げる。しかし、それでもすずかは抵抗しようとしなかった。

 

「もっとされたい?」

 

「……」(コクッ)

 

 俺の言葉にすずかは無言で頷く。すずかの目は潤み、すずかの白い肌は朱に染まっている。息遣いは荒く、身体は熱を帯び、これ以上を求めている事がわかる。

 

「たくとくん、もっとぉ」

 

 俺が何もしないことにすずかは堪えきれず、声を上げる。そのすずかの瞳は紅に染まっていた。それは夜の一族としての特徴、そして精神が高ぶっている証拠であった。

 

「駄目、ここまでだよ」

 

 しかし、俺はここで止める。これはお仕置きなのだ。決してすずかが望むようにはしてあげない。

 

「いじわる、かぷっ」

 

 すずかは小声でそう言うと俺の首筋に歯を立てる。そして、俺から血を吸い始めた。

 

 

 

 

 

「結局、何もしないんだ」

 

 俺の血を吸ったすずかが俺の膝を枕に寝てしまった後、忍が部屋に入ってくる。

 

「何を見てたんだよ。結構、色々しただろ」

 

 明らかに小学生相手にわいせつ行為をしたようにしか見えないだろうが、忍の目には何もしなかったように見えたらしい。

 

「そうね、小学生相手のわいせつ行為。元は大学生っていうのにね、逮捕されちゃうわよ」

 

「それは勘弁……」

 

 流石に冗談とはいえ、言われると辛いものがある。まぁ、わいせつ行為は問答無用で犯罪だ。言われても仕方が無い。

 

「すずかを相手にしなきゃならないほど溜まっているなら、私がシテあげよっか?」

 

「おい、彼氏持ち……」

 

 忍の言葉に思わず呆れてしまう。いくら冗談とはいえ、言っていいことと悪い事がある。

 

「冗談よ、相手をさせるならさくらを呼ぶか、ノエルかファリンにさせるわ」

 

「それもそれでどうなんだ?」

 

 自分は駄目だから別の人間を薦めるのは、人としてどうなんだろう。しかも、自分の叔母であるさくらと自分のメイドである二人をだ。

 

「さくらはむしろ喜ぶんじゃない?」

 

「……」

 

 忍の言葉に俺は黙る。それが肯定を意味しているのは言うまでもない。さくらに血を吸わせているとき、いつも喜んで俺の行為を受け入れている。キスすらしていないので、その事は不満に思っているようだが……。

 

「まぁ、それはあなたが選ぶ事よ。さくらかすずかか、それとも別の誰かか……なんなら皆もらっちゃう?」

 

「そこまでの甲斐性があるならね」

 

 忍の軽口に俺も冗談で返す。まだ、そんな事は考えられないが、俺もいつか誰かを選ぶときがくるのだろう。

 

 ――それがいつになるか、誰を選ぶか、わからないけどね。

 

 この世界で生きるとはいえ、どういう風に生きるかはまだ決まっていない。管理局に就職するべきか、地球で生活していくべきか、それとも別の生活か、一番の目標を失った俺には将来の指針となるべき目標が無い。

 

「幸せになれたらいいな……」

 

 膝元で寝ているすずかに目を落とす。そう、幸せになれたらいい。自分だけではなく、この子達も……。

 

「幸せにしてあげる……くらい言ってあげたら、それだけで喜ばれるわよ」

 

「機会があれば……ね」

 

 その言葉を言ってあげられるほど、俺はできた人間ではない。俺はこの世界を捨て、元の世界に帰ろうとしていた人間だからだ。皆に助けてもらってばかりで、何も返してあげようとしなかった。忍にもすずかにもずっと与えてもらってばかりだった。だから……

 

 ――いつかきっと、返すから……

 

 この恩は返す。忍にもすずかにも、他の皆にも……。

 

「いつか、きっとね」

 

「そう、じゃあ今日くらいはすずかのことお願いね」

 

 そう言って忍は部屋の外へ出て行く。

 

「まぁ、今日くらいはね」

 

 俺は膝の上で眠っているすずかの頭を軽く撫でると、今日一日どう過ごすか考え始めた。

 

 


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