転生生活で大事なこと…なんだそれは?   作:綺羅 夢居

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6話目 カレの立場

 俺の目の前には金色の髪の活発そうな少女と茶色の髪をツインテールにまとめた少女がいた。

 

 今日は日曜日、すずかがアリサとなのはを紹介してくれる日であった。特に原作キャラの二人に会いたいという気持ちにはならなかったが、こうして目の前にいると感慨深いものがある。

 

「アリサ・バニングスよ」

 

「高町なのはです、よろしくね烏丸君」

 

「烏丸拓斗だ、二人ともよろしく」

 

 二人と自己紹介を交わす。二人を見比べてみるが、アリサは元気そうな、なのはは明るい印象を受ける。

 

「俺のことは拓斗でいいよ」

 

「そうなら拓斗って呼ぶことにするわ。私のこともアリサでいいわよ」

 

「私もなのはでいいよ」

 

 二人に気軽に話しかけてもらえるようにするため、名前で呼んでもらうようにする。そして、すずかを交えて四人でファリンの持ってきてくれた紅茶やお菓子に手をつけながら、会話を楽しむ。

 

「じゃあ、すずかちゃんと拓斗君は親戚なんだ?」

 

「うん、ちょっと遠縁になるんだけどね」

 

 あらかじめ忍たちと話して作っていた嘘を二人に話す。俺と月村家の関係は遠い親戚ということにしていた。

 

「親が海外に転勤になったんだけど、俺は日本に残りたかったからね。そうしたら、忍さんがうちに来るといいって誘ってくれたんだ」

 

 当然のことではあるが、この世界に俺の両親はいない。自分の口から出る嘘に少しばかり嫌気がさすがこればかりは仕方がない。だって本当のことを話すわけにはいかないのだから……

 

「へぇ〜、そうなんだ」

 

「でも、寂しくない?」

 

 なのはが聞いてくる。

 

「やっぱり寂しいかな」

 

 これは素直な気持ちだった。この世界に来て、まだ元の世界に帰る方法がわかったわけではない。それはすなわち、自分の両親にも友人にも会えないことを意味する。

 

「拓斗君……」

 

 すずかが俺の表情を見て、少し暗い表情を浮かべる。俺が異世界から来たということを知っているすずかはどんな気持ちでいるのだろうか?

 

「でも、すずかがいるし、忍さんやファリン、ノエルもいるから大丈夫だよ」

 

 少し暗くなった場の雰囲気を変えるように自分の言葉に付け加えてみる。すると、場の空気も少し明るくなった。すずかの表情も少し嬉しそうに感じる。

 

「それより聖祥に入るんでしょ? 勉強とか大丈夫なの?」

 

「う〜ん、まぁ大丈夫だと思うよ」

 

 アリサの言葉に俺は少しぼかして返す。元大学生の自分としてはいくら世界が違って、歴史などに少し変化があろうと小学生の試験程度で落ちるわけにはいかない。でも、それを自信たっぷりに言うとあまり印象が良くないのであえてこういう言い方にしたのだ。

 

「なんか不安な言い方ね〜」

 

「なら、みんなで拓斗君の勉強を見てあげようよ」

 

 なのはがそんなことを言い出す。

 

「いいよ。みんな休みの日まで勉強したくないでしょ?」

 

「いいわよ、これもアンタのためなんだから、この私に任せない」

 

 俺は遠まわしに拒否するのだが、アリサやなのはに押し切られ、すずかの部屋で勉強することになった。ちなみにすずかは俺の頭脳を知っているためか、二人の行動に苦笑いを浮かべつつも止めたりはしなかった。

 

 

 

 

 

「なによ、アンタ勉強できるじゃない」

 

「うぅ〜、私よりも頭がいいの」

 

 数十分後、アリサはつまらなそうな、なのはは少し落ち込んだ表情を浮かべていた。すずかの部屋に来て、アリサやすずか、なのはの出す問題に次々と回答していくといつの間にかこうなっていた。

 

 アリサは自分が考えいていたよりも遥かに俺の頭が良かったことにつまらなそうだ。きっと教えるつもりだったのに、その必要がないことに肩透かしを食らったのだろう。

 

 なのははなのはで、自分の苦手な教科である国語などをすらすらと解いている俺の姿を見て落ち込んでいた。

 

「でもみんなのおかげでいい勉強になったよ」

 

 俺は素直に感想を言う。三人でやったことで自分の知識との差異などを確認しなおすことができたのは大きな収穫であった。といっても1〜2問程度だけど……。

 

 結局、勉強はやめて、みんなでゲームをして交流を図った。ちなみにこちらのゲームは元の世界と同じものもあれば、少し違うものも存在した。

 

 名作はそのままにちょっとダメなゲームはいくらか良作へと変わっているようだ。

 

 結論、四人でやるス〇ブラはやっぱり面白かった。

 

 

 

 

 

 アリサちゃんやなのはちゃんが帰った後、私と拓斗君の二人きりになる。拓斗君は私の教科書やノートを使って勉強していた。

 その姿を横目で見ながら、私は今日拓斗君が言ったことを思い出す。

 

『やっぱり寂しいかな』

 

 拓斗君は異世界からきた魔法使いだ。当然、拓斗君にも家族はいただろうし、仲の良い友達もいたと思う。その人たちと会う事ができなくなれば、寂しいに決まってる。

 

 ——拓斗君はやっぱり帰りたいって思ってるのかな?

 

 拓斗君の本心を考えると胸が痛む。私だったら、こんな風に過ごせるのかな?

 

 ……無理だ。多分、寂しくて泣いてしまう。

 

 でも拓斗君は泣いたりせずに頑張っている。

 

 その姿を見て、なんとかしてあげたいと思うと同時にでもいなくなってほしくはないと思ってしまう。

 

 結局、お姉ちゃんに相談に行ってはいない。アドバイスを貰おうかと思ったが、最近、忙しそうで邪魔をするのもどうかと思ったからだ。

 

「ねえ、拓斗君」

 

「ん? どうしかした?」

 

「編入試験頑張ってね」

 

 今は応援することしかできない自分が悔しい。いつか、彼の力になりたい。そう強く思った。

 

 

 

 

 

 夕食が終わり、俺は忍と二人きりで話をしていた。

 

「どうかしたの?」

 

「頼みがあるんだけど、できれば戦闘訓練がしたいんだ」

 

「戦闘訓練?」

 

 俺の頼みに忍は聞き返してくる。

 

「ああ、一年後にはここにジュエルシードが落ちてくるし、そうなってくるとやっぱり戦闘訓練をしておきたいなって」

 

「ジュエルシード……確か、なのはちゃんが魔法に関わるきっかけとなったものよね?」

 

 俺の言葉に忍は前に説明したことを思い出し、聞き返してくる。

 

「そうだ、実際、どれだけの被害が出るかわからないし、できれば被害が出ないようにしたい」

 

 アニメの中のシーンを思い出す。槙原動物病院は塀が壊されたし、サッカー少年の樹のときも街には被害が出たはずだ。

 

「なのはちゃんに魔法を教えたりすることはできないの?」

 

「残念なことに教えるだけの知識もない」

 

 俺は溜息を吐く。実際、俺が魔法を使えるのはデバイスにインストールしているからに他ならない。ノーパソから教本などのデータを見て練習するという手もあるが、そんな付け焼刃で人を指導するなど危ないだろう。そんなことは自分だけがやればいい。

 

「心当たりがないこともないけどね〜」

 

 忍は悩んだような表情を浮かべる。おそらく、彼女の恋人である高町恭也のことだろう。

 

「この際、多少魔法のことがばれるのは仕方ない」

 

「そう? でも安心して、いい相手がいるから」

 

「え?」

 

 忍の言葉に俺は思わず間抜けな声をあげてしまう。いい相手? いったい誰のことだろう?

 

「ノエルよ、まあファリンでもいいけど」

 

「あっ」

 

 忍の言葉に俺は彼女たちのことを思い出す。ファリンはどうかは知らないが、ノエルはそういえばとらハシリーズでもかなりの戦闘能力を持ってるんだった。……あまりにメイドさん過ぎて普通に忘れてたわ。

 

 なんというか戦闘といえば高町家の面々だったり、神咲などが思い当たってしまうので、その思考にはいたらなかった。

 

「いいのか?」

 

「貰ったデータから新装備でも作ろうと思ってたし、ちょうどいいわ、二人に相手してもらいなさい」

 

 忍は楽しそうに笑う。そういえばコイツって機械いじりとか好きなんだっけ……

 

 彼女の趣味を思い出し、これからノエルとファリンに起こるであろう事を想像してみる。色々と改造されるであろう彼女たちには同情してしまった。

 

「それでね、あなたから貰ったデータなんだけど……」

 

「あまりに高度すぎる、もしくは危険すぎるってとこかな」

 

 ノーパソから得られるデータのことを思い出して、忍の言いたいことに見当をつける。技術データ、情報などあれから得られるものはあまりにも膨大で危険なものだ。

 

「ええ、正直あまりの内容に驚いたわよ。もし、私が悪人だったらどうしたわけ?」

 

「一応マスター権限を使って止めることはできるんだよ。まあ、あまり心配はしてなかったけどね」

 

 もしものときのための手段は用意してある。もし、彼女がデータを悪用しようとした場合、強制的にシャットダウンするか、彼女の記憶を消すようになっていた。

 

「ねえ、あなたは私たちのことを、夜の一族のことを知ってるのよね?」

 

 忍がこれまでとは話題を変えて、問いかけてくる。

 

「知識としてはね」

 

「怖くないの?」

 

 忍は俺に聞いてくる。自分たちが夜の一族という吸血鬼であること俺が怖がらないのが不思議なのだろう。

 

「まあ、ホラ、見た目が普通ならいいんじゃね。性格も悪くないし、こうして助かってるんだし」

 

 俺は自分の本音を暴露する。正直、見た目があまりに化け物なら恐れるだろうが、目の前にいるのは普通に美人な年下の女だ。何も怖がる必要がない。

 

「でも普通の人とは力も違うし、寿命だって違う、それに異能だってある」

 

「精神操作とか、再生能力だっけ?」

 

 俺の言葉に忍はこくんと頷く。ゲーム上で彼女たちが行っていたことを思い出す。テキスト上ではあるが、確かに人間離れはしていただろう。

 

「再生能力は便利だなとしか思えないけど、精神操作はされると嫌だね。力に関しては暴力じゃなければどうでもいいかな。寿命とかは、若いままでいられるんだから、うらやましいし、恋人とかラッキーじゃないか?」

 

 いつまでも若い姿のままの恋人を想像してみる。でもまあ、自分だけ老いるのは嫌かもしれないな。

 

「まあ、総じて襲ってこられたりしない限りは特になんとも思わないね」

 

「そっか」

 

 忍は何かが吹っ切れたように笑う。その姿は見惚れるほどにきれいであった。

 

「私たちのことを知ってるんなら、契約のことも知ってるわよね?」

 

「まあ、多少はだけど」

 

 盟友になるだっけ? 要するに夜の一族の敵にならないことを誓うものだったと記憶している。

 

「私たちとそれを結んでくれますか?」

 

 忍の言葉に俺は……

 

「いいよ」

 

 と返す。

 

 これは最初から決めていたことだ。

 夜の一族はともかくとして、世話になっている彼女たちの敵にはならない、なりたくない。それゆえの契約である。

 

「それですずかにも言っていいんだよね?」

 

「それは少しだけ待ってくれないかしら」

 

 契約した以上、すずかにも俺が夜の一族のことを知っていることを話そうと思ったが、忍がそれを止める。

 

「あの子にはまだ秘密にしておいてほしいの」

 

「どうしてだ。少なくとも俺が知っているというだけでも精神的にはだいぶ違うぞ」

 

「それでもよ。あなたがもし元の世界に帰れることがわかったらどうするつもり、自分のことを理解してくれる人間がいきなり消えてしまったら、あの子の受ける物凄いショックを受けることになるわ」

 

 忍の言い分はわかる。ただ、輸血パックなどを飲むとき、すずかは俺の存在に気を遣わなければならない。

 そうでなくても、やさしいあの子のことだ。自分が夜の一族であることを秘密にしているのは気にしているだろう。

 

「ええ、だから、後一年だけ待って、それかあの子が自分で言うまでは」

 

「それで知ってましたっていうのもショック受けるだろうが」

 

「上手く誤魔化しなさい」

 

 無茶を言う。そんな簡単にできるものではない。

 

「まあ、とりあえずは理解した。でも、あまりに酷くなるなら、こっちから話すぞ」

 

「それは……任せるわ」

 

 忍の言葉を聞くと、自分の部屋へと戻る。

 

「これも、俺のせいなんだろうけど」

 

 もし、これですずかが精神的に追い込まれることになれば俺の責任だ。俺がいたから彼女が追い込まれることになる。

 

 ——願わくば、できるだけ早くすずかが自分から言い出してくることを

 

 すずかのことを思い、俺は眠りについた。


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