転生生活で大事なこと…なんだそれは?   作:綺羅 夢居

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70話目 絶望、決意、

 

 

「……」

 

「……」

 

 とある一室。そこは今、緊張に包まれていた。

 

「これは本当の事なのか? 和也……」

 

「ああ、それに書いてある通り事実だよ、クロノ……」

 

 クロノの言葉に和也が返す。クロノはそれを聞いて唇を噛み締めた。その表情は怒りにも、悲しみにも、そして絶望にも見える。

 俺はそれを見て、いたたまれない気持ちになり、息を吐いた。どうしてこのような状況になったかというと、それは数時間前に遡る。

 

 

 

 

 俺はいつものように学校から戻ると部屋でノーパソを使っての情報収集に当たっていた。これは最近になって行い始めたもので、管理世界、管理外世界問わず犯罪者についてわかる範囲で調査を行ったり、単純に様々な分野についてを調べたりしている。割合は大体3:7ぐらいだ。

 

「あっと、通信か……」

 

 いつものように情報収集を行っていると、通信が入る。ノーパソ側に通信してくるという事は相手は管理局側の人間だ。となると心当たりは極僅かしかいない。

 

『久しぶりだな、拓斗……』

 

「ああ、久しぶりクロノ。と言っても数日前に通信したと思うんだけど?」

 

 通信を開くとクロノの姿が画面に映る。最近、よく連絡を取り合っている相手だ。というのも、ノーパソの事を知ってからクロノは俺の事をよく使うようになった。もちろん、いくらかの報酬は頂いているが、それにしても結構頻度が多かったりする。

 これにはもちろん理由がある。同じようにノーパソを使える和也は管理局員であるため、あまり表立って扱う事ができず、その上かなり忙しい。だから、学校に通っているだけで大した用事もない俺にクロノは仕事を持ってくる。まあ、コレは俺だけではなくユーノにもかなり仕事を頼んでいるらしいが……。

 

「それで今度は何について調べるんだ?」

 

 クロノからの通信は仕事の依頼ばかりなので今回もそうなのだろうと予測をつける。しかし、クロノは首を左右に振って、それを否定した。

 

『今回は仕事の依頼じゃないんだ』

 

「珍しいな、クロノが仕事の依頼以外で連絡してくるなんて」

 

 クロノの言葉に俺は驚く。クロノは執務官として基本的にかなり忙しかったりする。仕事の依頼ならともなく、それ以外で連絡してくる暇など作ってる余裕はないといっても過言ではないだろう。それに休日はエイミィと遊びに行ったり、リンディさんと共にフェイトやアリシア達を色々なところに連れて行ったりしている。

 

『そんな事ないだろう、ちゃんとそれ以外の事も話してる』

 

「大体が仕事の依頼が終わった後にだけどね」

 

 クロノが雑談するときは大抵仕事の話とセットだ。雑談をメインに連絡してくる事など殆どない。

 

『まぁ、それはいい。今日は君に聞きたいことがあったんだ……』

 

「聞きたいこと?」

 

 クロノの言葉に俺は思わず聞き返した。別に珍しい事ではないが、クロノの様子がどうもおかしい。

 いつもなら単刀直入にその質問をぶつけてくる筈だが、少し躊躇いが見える。

 

『ああ、聞きたいことというのは……和也の事だ』

 

 クロノはそう言って俺に質問をぶつける。最近どうも和也の様子がおかしいらしい。技術部の兼任をするようになってからではあるが、ここ最近はあまり顔も合わせることもなく、会っても自分の仕事のことを話すことがないらしい。

 以前までの和也なら最近はどんな事を調べているとか、どういう犯罪者を追っているからその情報が手に入ったら連絡してくれなどといった会話があったようだが、最近ではそれがないそうだ。

 

「それは単純に守秘義務とかそういうんじゃなくて?」

 

 そう言って俺もその可能性は低く感じる。犯罪者を追っているなら別にそれはオープンにしていてもいい筈だ。それが同じ管理局員で信頼できる相手ならなおさら……。技術に関しても設計図などが盗まれれば問題だが、その概念などあくまで上辺の事だけなら問題ないだろう。

 

(な~んてね)

 

 とは言っても俺は既に和也の考えている事は理解していた。和也が仕事関係について話さない理由、それは知っている人間であればわかりやすい理由だ。

 

『少なくともその可能性が低いというのは君も知っているだろう。理由が思いつかないわけではないが、それならアイツはもうとっくに動いているだろう』

 

 クロノが思いつく可能性、和也の行動が守秘義務が理由ではないとすると考えられるのはもう一つ……内部の人間が関わっている場合だ。犯罪者の関係者がもし管理局内にいた場合、仕事の進行度などの話をすることはそいつらに聞かれてしまう可能性があるため避ける必要がある。これがおそらくクロノの予想だろう。

 しかしながらクロノはそれを否定する。管理局に内通者がいようとも和也であればばれないように行動を行い、一気に確保に動く筈だ。それはギル・グレアムのときの行動を見ていれば予想できる。

 

「内通者?」

 

『ああ、しかしさっきも言ったとおり、これも可能性は低いだろうな』

 

「いや、当たってるよソレ……」

 

 俺はクロノの言葉を否定する。そう、クロノの予想は当たっているのだ。

 

『なっ!?』

 

「まぁ、後で詳しく教えるよ。本人も交えてね」

 

 俺はそう言ってクロノに場所と日時を送る。日時は数時間後、場所は地球でだ。そして俺はクロノとの通信を切った。そして和也にメッセージを送る。

 

 ――クロノが気づいた、〇時間後、場所は海鳴の××で

 

 そして俺は息を吐く。予想よりも早くクロノは気づいた。それは嬉しい誤算だ。クロノの予想である内通者、それは当たっていた。もし、相手が少数なら、和也も自分で動いただろう。あるいは強大な権力を握っていなければ……。しかし、敵は管理局最高評議会……和也達管理局員のトップにして次元世界最高の権力者だった。

 下手すれば管理局内での和也の行動は筒抜け、先の闇の書事件でも目立っていた和也は目を付けられている可能性があるので下手な行動ができない。故に管理局内ではクロノ相手に仕事の話はしないという不自然な状況を生み出した。

 当然、ソレを疑問に思ったクロノはその事について質問するため、和也と一番交流のある俺に連絡をしてくる。それを利用したのだ。

 正直、もっと簡単にクロノに教える事ができた。俺から直接クロノに教えればいいだけなのだから。しかし、俺達はそれを選ばなかった。

 これは単純にクロノだけに気づかせるのが目的ではないからだ。和也の事を知っている人間であれば、今の和也の態度がおかしいことに気づく。もし、技術部も兼任する事になったからかと思っても、和也に声を掛ける事ぐらいはする筈だ。そして、和也が曖昧に返事を返せば疑問に思う人間も必ず出てくる。

 和也の交友関係は結構広く、人望もある。それゆえに気づく人間は気づくだろう。和也の態度がおかしいことに……。そうして和也は少しずつ味方を増やしていくつもりであった。もしも、最高評議会側にスカリエッティに先手を打たれても対処できるようにするために……。

 

 

 

 

 そして数時間後、地球でとあるお店に入った俺達はそこでクロノに最高評議会の事、そしてスカリエッティの事などについて話した。確実たる証拠も見せて……。そして話は冒頭に戻る。

 突きつけられた証拠を見て、クロノは言葉を失う。当然だ。今まで信じてきたもの、誇りに思っていたものが他ならぬトップの手によって崩されてしまったからだ。

 法の番人たる管理局のトップが不正を働いている。それは管理局の仕事に誇りを持っているものだからこそ大きなショックを受ける。

 

「まさか、ジェイル・スカリエッティが……」

 

 クロノは一つの資料に目を落とす。それはジェイル・スカリエッティの資料であった。ジェイル・スカリエッティ……あらゆる分野に精通した科学者であり、多岐に及ぶ罪状で広域指名手配されている次元犯罪者だ。アルハザードの技術によって管理局最高評議会のメンバーの手により造られた人造生命体でもある。つまり、彼の犯罪の元を辿れば管理局のトップが関わっていたという事だ。

 

「まぁ、事実だから仕方がない。それで問題なのはこれからどうするかだ」

 

 呆然としているクロノに和也が告げる。知ってしまった以上、クロノはこの件に関わるしかない。クロノ本人もこのことを見て見ぬフリはできないだろう。クロノはそういう人間だ。

 

「君達はどうするつもりなんだ……?」

 

「もちろんスカリエッティを捕まえて、管理局も変革する。それが俺の目標だ」

 

 クロノの言葉に和也は力強く答える。しかし、その道は険しく、簡単に進めるものではない。現に今、満足に行動もできない状況だ。でも、和也は言い切った。それが自分の目標だと、その瞳には決意の色が見える。それを見て、俺は和也を羨んだ。

 

(和也にはこの世界での目標がある。少しだけ羨ましいな……)

 

 和也と俺とでは立場が違う。もともとこの世界で暮らすことを選んでいた和也と元の世界に帰ろうとしていた俺、管理局で既に働いている和也とまだ学校に通っている俺、その立場の違いからか和也の位置がずっと遠くに感じられる。

 

「そうか、なら僕も手伝おう。僕も管理局員だ。犯罪者を捕まえ、不正を正す義務がある」

 

 和也の言葉を聞いてクロノも覚悟を決めたのか力強く返す。コレで俺たちの味方が一人増えた。

 

 そして、この日から俺達の戦いが始まった。


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