転生生活で大事なこと…なんだそれは?   作:綺羅 夢居

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71話目 戦闘機人事件

とある管理世界の上空。そこでは数名の少年たちがその時を待っていた。

 

「そろそろか……」

 

 黒いバリアジャケットをまとった少年――クロノが呟く。それに答えるように傍らにいた少年、薙原和也は言葉を放つ。

 

「ああ、もう予定時間になってる」

 

「しかし、よかったのか? 勝手にこんなことに参加することは許されない身だろう」

 

 クロノは和也に問いかける。そう和也がこの場にいるのは上からの命令ではなく、独断であった。

 

「やだな~、クロノ。それはお前も同じだろう。命令があったわけではないのにこの場にいる」

 

 和也は傍らにいる男性――クロノにそう言うと深呼吸をして心を落ち着かせる。

 

(大丈夫、俺ならできる)

 

 何度も自分に言い聞かせるように頭で考える。何度もシミュレーションを行ってきた。この日のために準備を行ってきた。だから大丈夫だと……。そう、今日はゼスト達が所属する首都防衛隊――ゼスト隊がナンバーズによって壊滅させられる日であった。

 もちろん正確にこの日であると確定したわけではないが、集めた情報から考えてこの日しかないと和也が予想づけたのだ。

 もともとゼスト隊に対して自分達の参加を告げようと思ったのだがすぐに却下された。当然だ。陸と海、立場も違い、最近では技術部にも所属している和也がわざわざ別の隊の作戦に参加しようとしたら怪しまれる。

 そして彼らが調査している内容も和也に不信感を抱かせるのに一役買ってしまうことになる。そう、彼らが調べているのは戦闘機人事件。いわば科学と魔法のハイブリット、技術者として知られている和也が怪しまれるのは確実と言えよう。

 

「僕は僕が正しいと思ったことをしようとしているだけだ」

 

 戦闘機人、この情報についてはクロノも和也から教えられていた。確かに万年人手不足である管理局にとって、戦闘機人という存在は魅力的だ。しかし、そこに生命という倫理観を考慮しなければだが……。

 クロノも執務官として勝手に動ける立場ではない。だが、戦闘機人という存在が管理局に深く関わっていることを知ってしまった。

 和也もたらされた情報を見た時はクロノは我が目を疑った。自分の所属している組織が、法の番人たる管理局がこのようなことを行っていることに……。そして、和也の決意を、覚悟をクロノは聞いた。聞いてしまった。

 クロノにとって和也は親友といってもよい存在であり、同時にライバルと言ってもよかった。だからこそ、和也の話を聞いた時は身体が震えた。

 管理局の変革、和也は管理局を変えると言ったのだ。それはいったいどれだけの人間が考えて行動してきたのかわからない。内部から意見を出し、変えようと試みた者もいれば、テロという方法を取ったものもいる。確かにそれで管理局は少し変化したのかもしれない。しかし、和也の言っていることは違う。最高評議会の排除、それは今まで積み重ねてきた時空管理局の歴史が終わり、新たな時空管理局が始まるということだ。

 時空管理局の設立以来、常にトップには最高評議会が存在していた。彼らがいなくなるということは、新しい代になり組織が変わるということになる。

 

(本当にあれには驚かされたな)

 

 クロノはその時のことを思い出し笑みを浮かべる。思えば、その時からクロノ自身も変わった。少しだけ自分に素直になったのだ。今まで自分の立場や組織という存在で自分を縛りつけるのはやめ、自分に正直に行動するようになった。それは今回の件を見れば明らかだ。以前のクロノであれば自分からこうやって参加しようとは思わなかったはずだ。

 もちろん、それには理由がある。一つは先ほど和也に言ったように自分の正義のためだ。そしてもう一つは和也の見ているものを自分が知りたいからであった。

 和也の決意を聞いた時から、クロノの中で和也は目標となった。大きな目標を持ち、新たな時代を作ろうとするその姿にクロノは憧れを抱いた。そして親友のその姿を見て、クロノの目標も決まった。それは和也と一緒に管理局を変えていくことだ。

 

「さてと、それでは行きますか」

 

 和也はデバイスを持った手をぐるりと回し呟く。それと同時にクロノも自分に魔法をかける。

 クロノが使った魔法は変身魔法だ。自分の正体がわからないように念には念を入れる。すると和也も同じように変身魔法を使い正体を隠した。

 

「行くぞ!!」

 

「ああ!!」

 

 和也の掛け声とともに二人は飛び出した。

 

 

 

 

 

 和也達と時を同じくして、一人の少年が木陰にて待機していた――烏丸拓斗だ。

 

「そろそろ二人も動き出したころかな?」

 

 誰もいない虚空に呟く。和也、クロノとは違い、拓斗は別行動であった。当然、それには理由がある。

 

「建物の内部構造把握、データ送信っと」

 

 拓斗はゼスト隊、そして和也達が突入する研究所のデータ収集に取り組んでいた。そのデータは和也達に逐一送信し、和也達の動きやすい状況を作る。それが拓斗に与えられた役割である。

 

「しかし、なんともまあ準備のよいこと……」

 

 拓斗は険しい表情を浮かべながら、モニターに映る情報を見る。研究所内のセキュリティ、そして用意されている戦力は研究所の規模から見れば過剰とも言えるほどだった。

 

(よっぽどゼスト隊が邪魔なのか、それとも……)

 

 拓斗は頭の中で過剰戦力の理由を考える。ゼスト隊は管理局内でもかなりの力量を持った舞台である。それゆえに管理局内でも一目置かれている。そんな部隊が戦闘機人のことについて知ってしまえば、最高評議会側も邪魔だろう。そうでなくても強い部隊に追われるというのはスカリエッティからすれば好ましくはない。

 それに原作ではここでゼストという戦闘機人用の素体を手に入れている。最初からそれが目的で戦力を用意したのかは拓斗には分りかねるところであった。

 

「とりあえず、ここまでが限界かな……」

 

 拓斗はそう言うと一旦手を止める。調べられることは調べた。あとは細かい状況の変化に対応していくだけである。欲を言えばセキュリティを乗っ取り、ガジェットのコントロールも掌握したかったが、さすがにそれをするだけの余裕はなく、その上リアルタイムでのクラッキング勝負でクアットロに勝てるとも思っていない。

 確かにノーパソは万能ではあるが、全能ではない。その性能は使用者に依存する。俺がいくらセキュリティを書き換えようと、それを上回る速度で書き換え続けられたら、意味がないのだ。

 

(和也とクロノが二手に分かれた、クロノはガジェットの殲滅、和也は戦闘機人と交戦か……)

 

 拓斗はリアルタイムで戦況を把握する。原作との変更点は拓斗を含む、三人の参加だ。本来であればなのは達にも声をかけ、戦力を充実させたほうがよかったのだろうが、拓斗達はそれを選ばなかった。単純にこの戦いは今までよりも遥かに危険なものになると想像できたからである。

 この場は冗談抜きで殺し合いの場となる。なのは達は今までそのような状況を経験していないのでこの場では足手まといになるという和也の判断だ。

 

(現在確認されている戦闘機人は4人。おそらくウーノ、トーレ、チンク、クアットロだろう)

 

 戦闘機人は普通の人間とは違い、反応が少し違う。エリア全体に仕掛けられたサーチの魔法が戦闘機人達の情報を細かに拓斗に教える。ガジェットのほうは順調に処理されていく。まだⅣ型が出ていないようだが、それでも有利に進んでいるといっても過言ではないだろう。

 

「よし、それじゃあ俺も介入させてもらおう、かっ!!」

 

 拓斗がそう言い、戦闘準備を行い、戦闘に介入しようとしたその時だった。突然近くに気配を感じ、拓斗はその方向に魔力弾を放つ。

 

「あらあら、良く気づいたわね」

 

 すると拓斗が魔力弾を放った方向から金髪の美少女が現れた。切れ長の目が拓斗を捉えて離さず、口元は笑みを浮かべているが少し獰猛さを感じさせる。突然現れた敵に拓斗は少し焦りを見せる。

 

(金色の髪の戦闘機人、おそらくドゥーエか……)

 

 スカリエッティが作り出した戦闘機人――ナンバーズの次女ドゥーエ。保有している個人能力であるISはライアーズ・マスクという変装能力で主に潜入や諜報、暗殺といったことを行っている存在だ。

 拓斗はこの時点ですでに自分の予想が外れていることに気づいた。最初にいた四人のうち一人はウーノではなく彼女だったのだ。拓斗が戦闘機人を確認したときには既にスカリエッティとウーノは研究所内から離脱をしていた。

 

「可愛らしい坊やね。ここへは何の用かしら」

 

「気づいているだろうに、見ての通りだよ」

 

 拓斗は内心舌打ちする。気付かれていないことを前提に行動していたので、拓斗はまだ変装魔法を使っておらず、自分の姿をよりにもよって敵に晒してしまっていた。

 

「クスクスッ、残念ね。アナタみたいな子……」

 

 ドゥーエはそう言って力強く踏み込んだ。

 

「嫌いじゃないわよ!!」

 

 

 

 

 

 拓斗がドゥーエと接触した頃、和也は戦闘機人と交戦しているゼスト達の戦闘に介入しようとしていた。

 

「ゼスト隊と戦闘機人発見、これより戦闘に介入ッ!!」

 

 和也は身体強化魔法に上乗せして加速魔法を使い、速度を上げる。一直線にしか進めないという欠点もあるが、そのスピードは仲間内で最も早いフェイトのおよそ2倍は速い。戦闘機人達は急に現れた和也の姿を見て、慌てて反応するがそれよりも早く和也の攻撃が到達する。

 

「あああぁぁぁっ!!!!」

 

「チンクッ!?」

 

 その場にいた戦闘機人の一人、銀色の髪の小柄な少女――チンクに和也の持っているデバイスの切っ先が到達するとチンクはそのまま吹き飛ばされる。

 

「一人目……」

 

 和也は冷静に次の敵に目を向ける。この場にいたのは二人だけ、先ほど和也が攻撃した吹き飛ばしたチンクと、目の前にいる背の高い女性――トーレだけのようだ。

 

「誰だか知らんが、やつらを攻撃したということは貴様もアレと敵対しているという認識でいいか?」

 

 和也がトーレに警戒していると、ゼストが和也に声をかけてくる。急に現れた存在に動揺は隠せず、また警戒も怠ってはいないようだが、その存在が自分達が相手をしていた存在と敵対しているということは理解したようだ。

 声をかけてくるゼストに和也は頷いて肯定の意思を示す。もちろん変装魔法で声も変わっているのだが、与える情報は少ないほどいい。

 

(奇襲で一人にダメージを与えることができた。これで二対一と考えたいが……無理だよな)

 

 和也がトーレに警戒したまま、視線を外す。外した先にいたのは先ほど和也が攻撃したチンクであった。チンクは和也の奇襲によってダメージは受けているものの立ち上がってくる。

 

「首都防衛隊のゼストに謎の介入者か……」

 

「どうするトーレ、私としてはその介入者にお返しをしたいところだが……」

 

 和也達の目の前でトーレとチンクが話を交わす。しかし、そこに隙というものは一切存在しない。彼女らの後ろには十数体のガジェットの姿も見える。

 

「いや、無理は禁物だな。チンク、お前も先ほどのダメージは浅くないだろう。ここは大人しく引かせてもらおう」

 

 トーレがそう言うとともに近くにいたガジェットがAMFを発生させる。AMF――アンチ・マギリンク・フィールド。AMFとは簡単に言うと魔力無効化装置だ。一定空間内の魔力結合と解き、魔法を無効化させる。もちろん、この場にいるゼスト、和也の二人は魔導師であるのでその効果は絶大である。高位の魔導師であれば、この空間内でも魔法を使うことができるが激しい消耗を強いられる。しかし、この場にいるのは高位の魔導師であると同時にかなりの実力者であるゼストと和也の二人であった。

 

「フンッ!!」

 

「……」

 

 ゼストが一斬りでガジェットを数体破壊すると、和也が残りの撃ち漏らしにとどめを刺す。そして二人は瞬く間にガジェットすべてを片づけた。

 

「逃げたか……」

 

 ゼストがそう言うとともに和也も周囲を警戒するがトーレ、チンクの姿は見えない。

 

「話を聞きたいところではあるが、こちらもまだ終わっていないのでな」

 

 ゼストはそう言うと仲間と合流するためにその場を離脱した。和也もそれを確認すると他の場所に支援に向かうために離脱する。

 この時、ゼストと別れてしまったことを和也は後に後悔することになる。この時、別れてしまったがためにゼストが戦闘機人達の奇襲を受け負傷してしまうことになるとは、この日が終わるまで気づくことはなかった。

 


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