転生生活で大事なこと…なんだそれは?   作:綺羅 夢居

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7話目 生きていくうえで必要なもの・・・一つ目

7話目 生きていくうえで必要なもの・・・一つ目

 

 編入試験を軽く突破した俺は今日から聖祥に通うことになった。今は聖祥の制服を身にまとい、今日から一緒に勉強することになるクラスメートを教壇から見渡している。

 すると、クラスメートの何人かがこちらに軽く手を振ったり、嬉しそうな表情を向けている。……すずか達だ。

 

「今日からみんなと一緒にお勉強することになった、烏丸拓斗君です。じゃあ烏丸君、自己紹介をお願い」

 

「烏丸拓斗です、よろしくお願いします」

 

 先生に促され、クラスメートたちに自己紹介する。その後も好きなことや前住んでいたところなどを適当に話して、彼らに嘘の情報を流した。

 

「じゃあ烏丸君は後ろの空いている席に座ってください。みんな質問したいと思うけど、休み時間まで我慢してね〜」

 

 後ろの空いている席に歩いていく途中、なのはとすずかにすれ違う。彼女達は一緒のクラスになれたことが嬉しいようで笑顔を向けてきたので笑顔で返しておいた。

 

 席に座ると周りの子達が話しかけてくる。彼らと軽く話しをしていると、チャイムが鳴り授業が始まった。

 

 朝、貰った教科書に目を通しながら授業を聞き流す。教科書の内容を流し読みするが、やはり一度習っているもののため、簡単に理解できる。

 

 ——あの名探偵もこんな気分なのかね〜

 

 眼鏡をかけた少年探偵を思い出しながら、授業を聞く。まさか二次元の存在と同じ気分を味わうことになるとは……

 

 ただ授業を聞くのは苦痛なので、先日から練習しているマルチタスクを使って授業を受けながら、魔法の練習を行っていた。

 

 今、行っている魔法は簡単なステルスの魔法だ。

 

 魔力で作ったサーチャーにステルスをかけて、決して誰にも見つからないように海鳴市を観察する。……これが意外と楽しい。

 

 街にある店を見るのはもちろんだが、映画などを見たり、他人が読んでいる雑誌を覗くのはかなり暇つぶしになる。

 

 ……ここで勘違いしないで貰いたいが、決してスカートの中や更衣室などを覗いたりはしていない。流石に小学校で授業を受けながらやることではないからだ。

 

 授業が終わり、休み時間に入るとクラスメート達が押し寄せてくる。やはり、この手の行動はお約束のようだ。

 

「前の学校はどんなだった?」

 

「どうして転校してきたの?」

 

「運動とか得意?」

 

 などなど、彼らは口々に俺に質問をぶつけてくる。その質問に一つ一つ答えるが彼らの質問は収まる気配が見えない。

 

 結局、午前の休み時間は全て彼らとの交流で時間を使うことになった。

 

 

 

 

 昼休みに入ると、一緒に昼食をとろうと誘ってくるクラスメート達を遮って、すずか達が昼食に誘ってくる。俺は彼女達の誘いに乗って、彼女達と屋上で食事をすることにした。

 

「アハハ、みんなすごかったね〜」

 

「転校生だし、仕方ないわよ」

 

 屋上に着くとなのはとアリサが先ほどの光景を思い出して、言葉を漏らす。確かにクラスメート達の行動力は凄かった。

 

 これも子供であるがゆえだろう。大人になれば、あんな風に無邪気に話しかけたり、質問をしたりすることができないようになったりする。自分の意見を言えなかったり、自分から行動することができなかったり、そういう子供ながらの行動が少しうらやましい。

 

「拓斗君、大丈夫?」

 

「大丈夫。流石に驚いたけど、結構楽しかったから」

 

 すずかの心配に笑顔を向けながら返す。ああやって子供と話すのは童心に返ったようで楽しい。

 

「でも同じクラスになれてよかったね〜」

 

「そうだね、みんなと同じクラスになれて嬉しいよ」

 

 なのはの言葉に肯定するが、彼女達と同じクラスになることは確定していた。というのも学校に出した住所はすずかと同じものであり、さらにこの聖祥は私立ということもあってお金があれば少しくらいの融通が利く。

 

 俺は一応、すずかの護衛という立場もあったりするので、その辺はお願いして融通を利かしてもらった。まぁ、同居人であるすずかと同じクラスであれば、少しは安心するだろうという学校の配慮もあって、同じクラスになったんだけど。

 

 ……お金とか使って一緒のクラスというのはちょっと後ろめたい気もしたので、学校側の配慮に感謝しよう。

 

「拓斗、聖祥はどう?」

 

「楽しいところ…だね。まだ一日目だからわからないけど、楽しめそうな学校だよ」

 

 アリサの質問に答える。聖祥は少なくとも今日来てみた限りでは悪いところではなさそうだ。まぁクラスメートが分け隔てなく俺のところに質問に来ていたところを見ると、仲が悪いということはないだろう。

 

 ——これも年取ると変わってくるんだろうな〜

 

 半端に年を重ねているせいか、彼らの将来に関して悪い方にばかり考えてしまう。小学校高学年になれば、異性を意識し始めたりする頃だ。他にもイジメであったりが起こりそうなので、少し微妙な気分になる。

 

 小学生に混ざってると自分の心の汚さを感じてしまうので、なんともむなしくなってきた。

 

 昼食を終えて、教室に帰るとクラスメート達がすずか達との関係を聞いてくる。どうやら屋上で食べている子達も何人かいたようで俺達が楽しそうにしているのを見ていて気になったようだ。

 

「すずかは親戚なんだ。それでここに入る前に二人を紹介してもらったんだよ」

 

 特に隠すことでもないのでクラスメート達に教える。まぁこの情報は嘘なんだけどね。

 

 俺の説明にみんなは納得したみたいで、前の休み時間同様、みんなは俺に質問したり、会話したりして交流を図った。

 

 

 

 

 

 授業が終わり、すずかとともに帰る。とはいってもすずかはバイオリンの稽古があるため、彼女をそこまで送り届けると俺は一人で帰った。

 

 月村邸に到着しノエルとファリンの出迎えに少し気分を良くしながら自室へと戻る。そして、制服から着替えると、ノートパソコンを開いた。

 

 これから行うのはデバイスの改良だ。このノーパソの機能の一つとして、デバイスの改造を行うことができる。それはもちろん、性能の向上であったり、システムの追加、もしくはデバイスの形状自体を変更することもできる。

 

 ——ならはじめから銃型でなくてもいいのに

 

 と思ったものの、初期にインストールされてある魔法やすぐに戦闘があったりする可能性を考えると銃型のほうが便利なのかもしれない。

 

 銃であれば引き金を引くだけで攻撃することができるし、敵に近づく必要がない。まぁ製作者の目的がわからない以上、あくまで推論だけど。

 

「こっちだとパワーが上がるのか、でも容量をアップして多彩な魔法を使えた方が良いのかな?」

 

 一つ一つ確かめながら、デバイスに改造を施していく。純粋なスペックアップもできないことはないが、自分の魔力量であったり技量を考えて改良しないとデバイスが扱いきれなくなる。

 

「とりあえず使えそうな魔法を片っ端から入れていくべきか? そもそもベースを銃型から杖、もしくは武器にしたら……」

 

 色々組み込んでみたり、弄ったりしては画面で性能を確かめて、それを保存する。後でノエル達と戦闘訓練をするときに色々試してみるつもりだ。

 

「デバイス自体にもスペックの限界が存在するのか。組み込みすぎると無駄になるだけだな」

 

 新たにわかったことをノートにメモする。これはこちらに来てから書き始めたことで、このノーパソでできることなどをメインにしてメモとして残している。ノートは既に半分近くが文字で埋まっており、これからもまだまだ埋まっていくであろうことが想像できた。

 

 他にもこっちに来てからの日記や街で見たことや気づいたことなどを書いたものもある。

 

「拓斗〜入るわよ〜」

 

 ノーパソでデバイスの改造に励んでいると忍がノックもせずに入ってくる。

 

「せめてノックぐらいしろよ」

 

「な〜に? 見られて困るものでもあるの?」

 

「いや、普通にマナーとしてだよ。……その内、否定できなくなるかもだけど」

 

 忍に苦言を漏らすが彼女はどこ吹く風のように聞き流す。最後の言葉は思わず小声に出してしまったが、聞かれてないようで何よりだ。

 

「で小学校はどうだった?」

 

 やはり忍も小学校からやり直すことになった俺が気になっているようだ。

 

「一度習った授業をもう一度受けるのは少し苦痛かな〜、まぁ大学に比べたら授業の時間は短いし、楽といえば楽なんだけど……」

 

「小学生に混ざるっていうのは?」

 

「精神的にきついな。こう子供の純真なところを見ると自分が嫌な大人になった気分になる」

 

「クスクス、そう」

 

 俺の言葉に忍は楽しそうに笑う。俺の境遇を楽しんでいるようで少し文句を言いたくなるが、精神的に疲れそうなのでやめることにした。

 

「それで、なんか用事でもあったのか?」

 

「あっ、そうそう。はい、コレ」

 

 忍がそう言って手渡してきたのは通帳とカードであった。ご丁寧にも俺の名義だ。

 

「これは?」

 

「見ての通り、あなたの通帳とカードよ。見せてもらった技術がかなりの利益になることがわかったから、コレはその報酬よ」

 

 通帳を開いて残高を確認する。そこには元の世界では縁がなさそうな桁の数字が記載されていた。

 

「コレは少し多すぎないか?」

 

 あまりの桁の多さに思わず忍に聞き返してしまう。

 

「正当な報酬よ。すぐに流用できそうな技術で上げられた利益でも相当なものだし、あと少しすればこっちでもできそうなものもかなりの利益を見込めるわ。それだってまだまだほんの一部よ」

 

「いやでも、俺が開発した技術ってわけじゃないし」

 

 そう、忍に見せた技術は俺が開発したものではない。それでこうやって報酬を貰えることはなんか悪い気がした。

 

「でも、あなたによってもたらされたことには変わりないでしょ。いいから受け取っておきなさい、あまり考えすぎると損よ」

 

「じゃあ、まあ、ありがたく受け取らせてもらいます」

 

 通帳とカードをノーパソの隣において忍に頭を下げる。技術を開発した人たちへの罪悪感も残っているが、このお金は私利私欲に使わせてもらうことにしよう。

 

 ——楽して稼ぐことに越したことはないんだけど、まぁ、このノーパソを使って新技術の開発とかで頑張ってみようか。

 

 ノーパソでできることを考えながら、貰った通帳の残高をもう一度確認する。

 お金という存在はかなりありがたいものだ。もし生活に困窮していたのであれば、間違いなく喜んだに違いない。しかし、余裕のある生活を送っている今では少し考えてしまう。

 

 ——ありがたく使わせてもらうんだけどね。

 

 罪悪感は感じるが、せっかく手に入れたお金だ。大事に使わせてもらうことにしよう。

 

 結局、生きていくうえでお金は必要になってくるのだ。こうして得られたことに文句を言うのはやめることにした。……人はコレを開き直りというだろう。

 

 こうして俺は生きていくうえで必要なもの……お金を手に入れた。


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