転生生活で大事なこと…なんだそれは?   作:綺羅 夢居

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8話目 上には上がいる、さらにトラブル発生

8話目 上には上がいる、さらにトラブル発生

 

 聖祥に入学して数週間が経ち、前世の知識というすばらしく有利な面を持つ俺は授業を適当に聞き流しながら、魔法の練習に励んでいた。

 

「——つまり、ここの計算はこんな風になります」

 

 先生が黒板に書いたものをノートに移しながら、その横で新しい魔法の組み立てを行う。

 

 忍に頼んでノエルやファリンを相手に実戦形式で何度も戦っているのだが、実はこれまで勝てたことが一度もなかったりする。

 

 俺のノーパソから引き出されたデータをもとに忍の手によって魔改造された彼女たちのスペックはこの世界で間違いなく最強といえるほどのものであろう。

 

 問題であった彼女たちの稼働時間も六時間充電の二十時間稼動から、さらに伸びて最大百時間の連続稼動が可能になった。

 これは忍がカートリッジシステムの応用で作ったバッテリー機関によるものだ。彼女たちにそれを組み込むことにより、まるで電池を変えるようにしてエネルギーを補給する。

 

 彼女たちのテストと俺の戦闘経験のために何度か手合わせをしているが、彼女たちはさらに魔法を使えるというチート具合だった。

 フラッシュムーブによる超高速移動や新カートリッジバッテリーのロードによって、高出力の魔法砲撃を撃つことも可能だ。

 

 その上、もともとのスペックの高さや各種センサーの向上などにより、こちらの攻撃は簡単に探知され、逃げることすら間々ならなかった。

 

 ——俺もチートかなと思ったんだけどな〜

 

 指輪の状態であるデバイスに目を落とす。

 ノートパソコンによる様々なデータや知識の取得、ここに来るに当たって得ることになった魔力、そして自由に改造できるデバイス、これだけあってもノエルとファリンの二人に勝つことができない。

 

「——くと君、拓斗君ッ」

 

「っ!! どうかした?」

 

「どうかした?じゃないわよ。授業終わってるのになにボーっとしてるのよ」

 

 どうやら授業は既に終わっているようだった。俺は慌ててノートを閉じて机の中に入れる。アリサやなのは達にノートに書かれている魔法のことなどを見られるわけにはいかないからだ。

 

 まぁ見られても俺が魔法使いだとはわかるはずはないのだが、この手のノートを見られるのはやはり恥ずかしい。

 

 こんな感じで俺は小学生ライフを満喫とはいえないが、過ごしている。

 

 

 

 

 

 放課後になり、すずかやアリサはバイオリン教室ということで彼女達を送り、月村邸へと戻る。すると庭の方から音が聞こえてきた。

 

 荷物を置かずに音がするほうへと足を伸ばす。そこにはノエルと忍、そしてもう一人両手に刀を持った男性が一人いた。

 

「どう恭也、バージョンアップしたノエルの実力は?」

 

「くっ、こちらの反応が追いつかないほど速いっ。それに攻撃手段も今までとは段違いに増えている」

 

 ——あれが高町恭也

 

 忍の言葉にノエルと相対している男性を思わず注目してしまう。ここにいる時点で予測はしていたことであるが、彼はとらハ3の主人公兼、なのはの兄の恭也のようだ。

 

「申し訳ございません。高町様」

 

「ぐわっ」

 

 ノエルがフラッシュムーブを使い恭也に接近すると、その勢いを使って一撃を加える。恭也は反応できずにその一撃を貰った。

 

「お疲れ様ノエル。これで対人戦闘のデータも充実するわ」

 

「はい、お嬢様。それと拓斗さんがそちらに隠れていらっしゃるのですが……」

 

 どうやらノエルのセンサーからは逃げられないようだ。

 

「アハハ、やっぱり気づかれてた?」

 

「はい、今から四十秒前からこちらを覗いていたことは、それとお帰りなさいませ」

 

 流石はノエル、恭也との試合最中であるにもかかわらず、周囲を警戒することすら簡単にできるようだ。

 

「あら、お帰りなさい」

 

「ただいま忍さん。それでこちらの方は?」

 

 一応、人前ということで口調を変え、恭也さんの紹介を求める。

 

「ああ、この人は高町恭也。なのはちゃんのお兄さんで、私の恋人よ」

 

「高町恭也だ。よろしく頼む」

 

「烏丸拓斗です。家の都合でこの家にお世話になっています。あとなのはさんとは同じクラスで友達です」

 

 忍の堂々とした恋人紹介に思わず嫉妬心が湧いてしまうが、それを隠して丁寧に挨拶をする。

 

「ああ君が拓斗君か。なのはから聞いてるよ、仲の良い友達ができたって」

 

「はい、彼女は大切な友達です」

 

 恭也の言葉に俺も返しておく。友人関係に年齢は関係ないのだが、もとの年齢が二十歳を超えていることを考えると小学生と友達というのはなんとなく犯罪臭が漂う。

 

「そうだ、せっかくだし拓斗も恭也と戦ってみたら?」

 

 俺が恭也と話していると横から忍がそんなことをいってくる。その手元には俺のノーパソがあり、先ほどの戦闘データをまとめているようだった。

 

「いや、しかし彼は小学生だぞ」

 

「拓斗の実力は私が保証してあげるわよ。それに拓斗もいつもノエル達が相手じゃ詰まんないでしょ」

 

 ——いや、まあ確かにその通りではあるんだけど

 

「そうですね。恭也さん、俺の方からもお願いします」

 

 忍のいきなりの提案にどうするべきか判断に迷うが、恭也の実力も気になることからお願いしてみる。その時、忍が嬉しそうにしていたのを見逃さない。

 

 忍の目的はわかりやすい。俺と恭也を戦わせることで俺の実力を正確に測るつもりだろう。……純粋に面白そうだからというのもありそうだが。

 

「そうか、そう言うなら俺も相手をしよう」

 

「なら、すぐに準備をしてくるので待ってください」

 

 恭也にそう言うと荷物を置きに自室へと戻る。荷物などその辺に置けばいいだけなのだが、デバイスのセットアップはそういうわけにもいかない。

 

「クロックシューター、セットアップ」

 

 クロックシューターをセットアップして握り締める。結局、デバイスは銃型のままだ。初期の状態からデザインなどは結構変わっているが、形状は変えることはしなかった。

 

 剣型や杖型というのも悪くないのだが、接近戦は正直あまり好みではないし、杖というのも魔法使いらしすぎてなんか違う気がした。

 

 デバイスを持って庭へと出る。そこには恭也が待ち構えていた。

 

「それが君の武器か?」

 

「ええ、ですが実弾ではないので安心してください」

 

「実弾じゃない? ああ、忍が作ったものか……」

 

 恭也は俺のデバイスの形状や言葉に疑問を持ったようだが、忍の技術力を知っているためか勘違いしてくれたようだ。

 

「じゃあ、始めっ!!」

 

 忍の合図とともに恭也にクロックシューターを向けて引き金を引く。その動作に一秒もかからない。

 これにはかなり訓練した。瞬時に狙いをつけて外さないために腕をおろした状態から構えて的に狙いを定めて引き金を引く訓練を何度も繰り返した。いわゆるクイックドロウと呼ばれる技術だ。

 

 デバイスから魔力弾が恭也に向けて数発飛んでいく。そのスピードはもちろん実弾には劣るがなかなかの速度を誇っている。

 

「なっ!?」

 

 開始と同時に撃たれたことに驚いたのか、もしくは俺の技術に驚いたのかはわからないが恭也は驚いた。しかし、流石というべきか身についた技術によって無意識のうちに反応したのか横に跳んで魔力弾を回避する。

 

 俺も恭也に狙いをつけて何度も引き金を引き、魔力弾を放つ。誘導弾や砲撃、バインドなどは使わない。純粋な銃技のみで戦いを挑む。

 

 しかし、恭也も俺の技量に最初は驚いたようだが、すぐに冷静になり、魔力弾を回避しながら近づいてくる。途中、飛針を投げて魔力弾を打ち落とし、鋼糸が繰り出される。

 

「ソニックムーブッ」

 

 恭也から距離をとるためにソニックムーブを使い離れるが、やはり同じように距離を詰められる。

 何度も繰り返しているうちに今度は引き金を引くタイミングさえ読まれ始めた。飛針を使って打ち落とされていたものが、最小限の動作によって回避され、今度は攻撃パターンに飛針まで増えてくる。

 

 ここに来て俺は完全に追い込まれた。既に始まったから二十分近くが経過し、体力、集中力は限界へと差し掛かっている。攻撃も読まれ始め、一方的に攻撃されていた。

 

 しかも恭也はまだ神速を使っていない。こちらの高速移動に対抗するために使ってくるかと思ったが、使わなくても大丈夫だと判断されたのか、今に至るまで全く使われなかった。

 

 こちらもソニックムーブと魔力弾程度しか使ってないとはいえ、これはかなりきつい。かといってバインドなど他の魔法も使うつもりはあまりなかった。

 

「仕掛けてこないのか? なら、こちらから行くぞっ!」

 

 恭也が踏み込んでくる。持っている小太刀で攻撃してくるのは目に見えて明らかだ。飛針では俺を傷つけるだろうし、安心して峰打ちできる小太刀での攻撃を選んだのだろう。

 

「貰ったっ」

 

 恭也が切りかかろうとする直前に引き金を引く。すると銃口から強い光が発生した。目くらましの閃光弾である。

 

「何だとっ!?」

 

 恭也がひるんだ隙にソニックムーブで回りこみ、銃口を恭也に向けて引き金を引く。

 

 ——獲った

 

 魔力弾は一直線に恭也に向かい飛んでいき、俺は勝利を確信するが、その瞬間恭也の姿が消えた。

 

「まだまだ甘いな」

 

 後頭部に衝撃を感じると俺は意識を失った。

 

 

 

 

「う、ん」

 

「大丈夫か?」

 

 目が覚めるとそこには恭也の顔とノエルの上半身が見える。その先には茜色の空が広がっていた。

 

「大丈夫です。ノエルもありがとう」

 

「いえ、構いません」

 

 横になったまま恭也さんに返す。後頭部の感触やノエルの上半身が見えることから、どうやらノエルが膝枕をしてくれていたようだ。

 

 ——メイドさんの膝枕

 

 かなり幸せに気分になり、このままこうして過ごしていたいという気にもなったが、そういうわけにもいかないので名残惜しいが起き上がることにする。

 

「すまなかったな。本当は軽くダメージを与えるだけのつもりだったが、予想より君が強かったので気絶までさせてしまった」

 

「いえ、むしろそこまで力を出してくれて嬉しかったです」

 

 恭也の謝罪に俺は礼で返す。少なくとも一部の魔法だけで恭也とそれなりに戦うことができることがわかったのは収穫であった。

 

「しかし、まさか君ぐらいの年であそこまでできるなんて思っても見なかったな」

 

「アハハ、俺も割りと特殊な人間なんで結構鍛えているんですよ」

 

「そうか、できれば今度も手合わせをお願いしたいな」

 

「でしたらお願いします。俺も強くなりたいですし、恭也さんみたいな強い人と手合わせできるなら嬉しいですから」

 

 恭也と今後の鍛錬の約束をする。恭也と戦えることは戦闘経験的な意味でも人間関係的な面でもかなり良いことだ。

 

「そういえばノエル。夕食なんかは大丈夫なのか?」

 

「今日は高町様がいらっしゃるということでお嬢様が夕食を御作りになるようです」

 

 今日は忍が食事を作ってくれるようだ。とらハでは翠屋のチーフになったり、恭也に食事を作ってあげるためにかなり料理の腕が上達したという話しだから楽しみにしておこう。

 

 その時であった。ノエルが何かを感じたのか、俺達から離れ、誰かと会話している。相手の声が聞こえないことから相手はファリンだろう。内蔵されてある通信機でお互いに連絡をとっているのだ。

 

「お嬢様ッ!! すずか様がッ!!」

 

 ノエルの表情が変わり、忍がいるであろうキッチンへと慌てて走り出す。

 

「恭也さんッ!!」

 

「ああッ!!」

 

 この事態に俺達も何かあったと理解し急いでノエルと忍のところへと向かった。


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