ワーウルフになったら毎日が大変! 略して「ワー大変!」 作:べあうるふ
さて、これからどうすりゃいいんだろう、俺。
とりあえず警察に電話して報告した。だけどこの姿じゃダメだ。となったら俺も逃げるしかないか。
でも、逃げるってことは、俺もさっきの犯人と一緒じゃないか?
犯人!?
その言葉に、俺の鼓動が思いっきりドクンと鳴った。
そうだ、犯人ほっぽらかしのままなんだ、奴はまだ逃げてる最中なんだ。
でも、それってお巡りさんに任せておけばいいじゃない、だって俺はまだ未成年なんだぜ、そういうことに首突っ込むことなんて出来やしない。それに相手は武器を持っている、巻き添え食って俺が大ケガでもしちゃったら…
いや、ひょっとして俺、今なら大丈夫なんじゃないか?
俺は狼なんだ。今の姿なら誰よりも早いし頑丈だし、そして強い。大の大人とケンカしたって恐らく勝てるだろう。
警察より先に、俺があの強盗をやっつけちゃえばいいんだ!
その時、ぞわっと俺の背中を震えが襲ってきた。あぁ、なんか分かるぞ、これって武者震いだ。
今からあの強盗を追っていって、捕まえて、そして警察に突き出してやる。そうすれば大手柄、俺は一躍ヒーローだ!
そう思うと、自然に口からふふっと笑いが漏れてきた。今から俺は正義の味方になってやる、そうすりゃこの姿を誰が見たって怖がったりはしないはずだ。
決心して俺は外へと飛び出した、だけど相手は確かバイクに乗っていたっけ、あいつの姿分かるかどうか、それに間に合うかどうか…
って思った時、俺の鼻に今度はガスのような匂いが飛び込んできた。
一回深呼吸して、この匂いを俺は頭のなかで判断してみる…これは排気ガスだ! 道路を真っ直ぐに走っていくガスの匂い、間違いない、あいつが乗ってたバイクの排気ガスだ! だけど、外の風にまぎれて、だんだんと匂いが薄れていくのが俺の鼻に「見えて」いるんだ。
よし、今ならまだ間に合う。
大丈夫、俺は自動車よりも早いんだ、バイクなんてすぐ追いつけるさ。辺りは真っ暗だけど、この鼻と耳と足さえあれば、きっと追いつける!
俺は排気ガスの残った道路を、思いきりダッシュした。
以前公園の中を走った時と同じように、俺の行く方向に、白い線がうっすらと見えている。
言葉にすると難しいんだけど、人間の時と同じく真っ暗なのは見えにくい代わりに、匂いでものが見えるようになってくるんだ。線として。
犬は人間の何万倍も鼻が利くっていうからな、きっと犬もこんな感じで見えてるんだろうね。
どのくらい走ったのかはわからないけど、今度は俺の耳の奥に、バイクのエンジン音が聞こえてきた。
恐らく奴だ、音がかなり高い、全速で走って逃げ切るつもりなんだ。
俺は2足で走るのをやめて、手を使った四足でのケモノ走りへとチェンジした。見栄えが悪いかもしれないけど、こっちの走り方のほうが断然早くなる。
だんだんと見えてきた、バイクの赤いテールランプが。
それと同時に奴との距離が近づくたびに、俺の胸の中でイライラに似たものがこみ上げてきた。
別に長い付き合いとかそんな意味はなかったんだ、コンビニのおじさんとは。ただ一回だけ、初めて行った時に揚げ物をオマケしてくれただけなのに、それ以来行ってないのに、でもそれが今でもうれしい思い出なんだ。だからこそ俺は許せなかった、目の前にいる強盗を。生まれて初めて衝撃ニュース映像みたいな光景を目にしたからかも知れない。それに今こいつを逃したら、またどこかで同じような犯罪をする危険性だってあるんだ、のろのろ来る警察なんかに任せてはおけない、俺がこいつをこらしめてやるんだ! もう二度と悪いことが出来ないように。
奴の背中が見えた時、俺は確信した。黒いメットに黒いジャンパー、手には大きなリュックと野球のバットらしき物をを重そうに下げている。人違いじゃない、間違いない、こいつが強盗だ。
だけどもう少しで追いつくって所で、あいつはふとバックミラーを覗きこんだ、ヤバい、俺が走ってきたのが感づかれたのかな。
俺も全速力で走って息が切れかかってきた……
こうなったら勝負だ! って俺は思い、奴の背中へとジャンプで飛びかかった。
これ以上スピードを出されたら俺の方が参ってしまうし、今逃げられたら、もう……!
俺は走る強盗の背中にしがみついた。
「うわあああああああああっ!」黒いメット越しに叫び声が聞こえた、男の声だ。
止められなくてもいい、持っているリュックでも落とせればって思ったんだけど。
ガッシャアアン! って音とともに、盛大にバイクが転んだ。
思い切りブレーキしたか、ハンドルを切ったか、どっちかは分からないけど、俺は強盗の背中にしがみついたまま、思いきり道路に投げ出された。
どのくらい転がっていったのかわからない…それにしがみついてたはずの強盗もどこかへ行ってしまった。
とにかく今は全身が激しく痛い、頭から手足から、それに背中も、ずっと前に自転車で急な坂をノーブレーキで降りてった時、突然前輪に飛んできた木の枝が刺さって、俺だけ空中2回転くらいした状態でそのまま坂を転げ落ちたことを、ふと頭の隅っこで思い出した。あの時は肘と膝のすり傷だけで奇跡的になんともなかったんだよな、俺って悪運強いって感じたもん。
立ち上がってみると、頭のなかがぐるんぐるん回転している。俺はいつも通り両手のひらで顔をピシャリと叩き、意識を整えた。大丈夫、頭の中は恐らく平気っぽい。
その次に俺の身体をあちこち見回してチェックしてみた。だけど不思議なことに、あれだけ転がっていったのに、身体には傷ひとつ無いんだ。痛いことは痛いんだけど、これは打ち身ってことだろうな、今の身体はたしかに頑丈だけれど、この全身を包む青い毛が俺を助けてくれたんだ。頑丈な身体に頑丈な毛、あとは俺の悪運もプラスしてくれたんだな、きっと。
振り返ると、俺のずっと後ろの方にバイクが転がっていた、あれ、強盗どこ行っちゃったんだろって思って、俺は戻って探そうとした……ら!
「!!!!!」右足首に凄い激痛が走った、いつもの筋肉痛とは比べ物にならない、思いっきり叫びたくなるような強烈な痛みだ。
恐らく転がってる最中にひねったのかな……折れてはいないと思う、だけど右足を踏みしめるたびに泣き出したくなるほどの痛さが走った。
つーかなんか変な方向に曲がってねーか足首!?
参った……こんなとこで骨折なんて。
だけど今は強盗を探すことのほうが先決だ、無我夢中であいつにつかまったのはいいけど、俺より強盗のほうがケガがひどかったりしたら、そっちのほうが一大事だ。それに姿も見えない、まさか、逃げちゃったとか……!?
俺はガードレールにつかまりながらよろよろと歩いた。くそ、情けない……これじゃ走ることもできねぇ。
ようやくのことで俺はバイクのところまで来ることができた。ヘッドライトは砕け、辺りに細かなガラスが散らばっている。それにハンドルも思いきり曲がってた、結構な速度出してたんだな。
でも強盗がいない、どこ行っちゃったんだろう。
そのときふと思いついたんだ、鼻を空に向け、すうっと深呼吸。そうだ、俺にはこの嗅覚があるんだ。強盗の匂いまでは分からなくても、それ以外になんか手がかりはあるはず。あとはこの耳。
足の痛みでガンガンする意識をぐっと落ち着かせ、風の音にも耳を傾ける……
とっても静かだ、それに草の香りしかしない。
すると突然、俺が捕まっていたガードレールの向こう側から、じゃらっと音が聞こえた、あれは強盗の持ってたリュック、詰め込まれたお金の音だ。
俺はガードレールを乗り越え、牙をぐっと食いしばりながら道路脇の草むらの方へと足を進めていった。
強盗がいるとこが草むらで助かった。ここなら歩くときの足の痛みも結構和らいでくれる。
そんなことを思いながらずっと暗闇の中を歩いてると、コツンと足先に何かがぶつかった。軽そうな音だ。
拾い上げてみると、それは真っ黒なフルフェイスのヘルメットだった。あちこち凹みができていて、バイザーの部分は割れている。ってことは、この持ち主は……
その時だった、後ろからいきなりガン! と俺の頭にすごい衝撃が響いたんだ。鉄パイプか何かで頭を思い切り殴られたような、そんな感じに。
唐突に喰らったんで、一瞬意識が飛んだ。
「な、なんだお前!? コスプレでもしてんのか」殴られた方向、背後から男の声が聞こえた。
強盗の野郎か、もしかして暗闇に隠れてて俺を殴ったとか!?
そう思い、俺は声のする方向へと振り向き、グルルと唸り声を上げてみた。
ついでに口の端っこを吊り上げてみて、犬で言うところの怒りの形相をしてみたんだ。っていうか狼だけどね。
俺と強盗、初めて目があった。
ちょっと年のいった男、姉貴よりずっと年上っぽそうだ、ボサボサの髪の毛に切れ長の目、それに無精髭を生やしている。
着ている黒いジャケットにはあちこちから白い綿が飛び出していた。転んだ時に破けたんだな。
そして左手には大きなリュックを、右手にはくの字に折れ曲がった金属バットを持っている。
……って、バットが曲がってる、これってもしかして俺を殴った時に!?
「何でだよ、思いきり殴ったのに! なななんで平気なんだよ!」強盗の声が震えていた。
殴られた頭をさすってみた、確かに鈍い痛みはするが、捻挫した足首ほどの痛さじゃない。
となると、今の俺の頭って、金属バットのフルスイングすら効かないくらい頑丈になってるのかな。
いやいや、そんなことは今はどうでもいい、とにかくこいつを、この強盗野郎を捕まえて警察に突き出さなくちゃ。
「な、なんだよ、やる気か!?」曲がったバットを放り投げ、後退りする強盗。言ってることとやってることが違うぞ、もしかして俺に怯えてるのかな?
すると強盗は、突然くるっと俺に背中を向けて逃げ出そうとした、この野郎、逃がすか!
俺は左足に全力を集中させて、強盗へと飛びついた。
このまま逃しちゃったら俺が今までやってきたことが無駄になっちまう、そうだ、俺はヒーローなんだ。絶対にこいつを懲らしめてやるんだ!
飛びついたその手で、俺は強盗の持っているリュックをぐっと掴んだ。片足だけのジャンプだと、いまいち奴には届いてくれなかったのは仕方ない。だけど今はそんなことはいい!
俺は思いっきりリュックを引っ張った。だけど強盗も必死だ、俺の顔面に何度も蹴ってくる。だけど衝撃だけで痛いとは全然感じなかった。
何度蹴られたかは分からなかったけど、強盗も諦めたのか、リュックを手放し、そのまま草むらのずっと奥へと走って逃げていった。
俺、どうにか勝ったのかな。本当ならあいつに何発かお返しして、それで警察へ連行させたかった。
けど結果は散々なだけだった、顔面蹴りまくられるわ足首折れたっぽいわで全身ボロボロだし。
でもとりあえず盗られたお金が入ったリュックだけは取り返すことができた、持ち上げるとじゃらっとかなりのお金が詰まった音がする。
おじさん、喜んでくれるかな……