『エインの戦場』 〜かつて死神と呼ばれた君へ〜 作:KASOKE
(よくも、よくも……ッッ!)
血が滲む程に拳を握る。この作戦はついでだ、その『ついで』のせいで、彼らは犠牲になった。優秀な部下を死なせた。
「……全て、私の責任だ」
先程の点呼では、既に『パンツァー5』を含んだ二輌から反応が無かった。少なくとも、その数だけ部下を失った。
「……副隊長、あいつらも軍人だ。こうなる時があるって事ぐらい、覚悟の上ですよ」
「分かっている。だが、私の責任で死なせた事は事実だ。ご遺族への謝罪は私一人で行く」
途端、敵兵排除の為に集結した戦車の一輌が、急にコントロールを失ったように揺れ始めた。小型の地雷が爆発し、機動力を失ったらしい。
「副隊長ッ!何が……」
「操縦手!速度を維持!『パンツァー3』の横をすり抜けろ!」
「了解!」
「装填手!主砲を装填次第、無線を開き『パンツァー3』の被害確認!」
「分かりました!」
『パンツァー5』の報告では、敵は歩兵一人だと言っていた。普通に考えたら無謀だが、もし相手がゲリラ戦に慣れており、目的が足止めならば合点がいく。
(……あの兵士が、命を賭して状況を伝えてくれなければ、知らないうちに被害は拡大していたかも知れない)
既にこちらの戦車が二輌も無力化されている。故に、タカを括らず全力で潰す。
「ぐっ!?」
突如、車体が激しく旋回するように揺れた。
「操縦手!どうした!?」
「な、何かが履帯に挟まったようです!」
「……くっ、砲手!機関銃を温めておけ!装填手はペリスコープで周囲の確認!操縦手!私と共に履帯の確認だ!」
「「「了解!!」」」
上部ハッチを開け、操縦手は車体を降りて履帯を確認する。装填手が警戒しているとはいえ、拳銃を片手に周囲を警戒する。
「副隊長!これが……」
操縦手が履帯から引っこ抜いて持ち上げたものは、普遍的な道具の一つだった。
「……スコップ?いいや、シャベルか?」
地面に突き刺してあったのか、偶然巻き込んだのかは分からない。だが、なぜこんな場所に……
カンッ!
瞳が反射的に蠢く。投げ付けられたのは筒状の何か。放物線を辿った先には、燃え盛る炎を背に、瓦礫の上に立つ完全武装の兵士。
「砲手ッ!撃てぇぇ!!!」
脊椎に弾かれるように、言葉が飛び出る。奴が再び何かを投げると同時に、戦車の機関銃が斉射された。
「……ッッ!!」
数発命中したのか、敵の身体は弾むように飛び、瓦礫の後ろに落ちていく。直後、投げつけられた筒状のものに目を落とした。
(爆発物……ではない?)
どうやら、先程投げられた二つの物体は、ただの発煙筒だったらしい。白濁色の煙が勢いよく吹き出している。
「副隊長!ご無事ですか!?」
「あぁ、砲手。お前も良くやった」
彼が咄嗟に反応してくれなければ、逆に此方がやられていたかも知れない。
(それにしても……)
不意打ちで手榴弾でも投げておけば、私を殺せただろうに。なぜ奴は奇襲のアドバンテージを捨ててまで、戦車の前に出てきて発煙筒を……
(……いや、考えても仕方が無い。今は戦況の把握が最優先だ)
……報告では敵兵一人だと言われていたが、伏兵がいる可能性もある。思えば、軽々にハッチを開けたのは失策だった。もし狙撃手でもいれば、私は死んでいたかも知れない。
(いかんな、冷静だったつもりだが……)
帯びた熱を吐き出すように、フーッと深く息を吐く。一度気持ちを落ち着かせるように、拳銃をしまった。もし伏兵がいるなら、長く同じ場所に留まるのは危険だ。急ぎ、索敵へと戻らなければ。
「操縦手、車内に戻れ!急いで……」
瞬間、視界の端……白濁色の煙の中から。
……ヌッと、何かが這い出てきた。
(バズーカ!?いや、無反動砲!?)
機関銃に撃たれた筈の奴が、槍のような弾頭の入った武器を此方に向けていた。
(そうか……斉射の瞬間、僅かに早く自分から飛び退いたのか。直撃して無かったんだな)
初手の発煙筒は、その兵器を確実に当てる為。ワザと姿を見せたのも、『敵を倒した』と油断させる為……全ては、この戦車に肉薄する為の布石だったというのか。
……敵ながら、戦車相手に見事な物だ。
ピッと、名も知れぬ兵士に敬礼をする。
「貴殿の奮闘に敬意を。なに、恨まんさ。戦争だからな」
「そうだね。お互い、出来る事やっただけだ」
槍のような弾頭が放たれる。直撃の寸前、思い残す事など無いと思っていた。
だが、ほんの僅かな……たった一縷の未練が過ぎった。
(……早く、想いを告げていれば良かった)
刹那、衝撃と爆発が身を包んだ。
◆
「……ゲホッ、はぁ……」
1発限りの兵器を確実に当てる為とはいえ、少し無理をした。
「……ははっ、エインちゃんに怒られちゃうかな」
予想通りではあるが、『黒鉄』の副隊長……彼女を失った連中は、オレを追いかけて来なかった。
「……はぁ……ゲホッ」
咳き込むと同時に、生ぬるい血が飛び出る。防弾装備をしているとはいえ、戦車の機関銃だ。数発は身体を貫通している。
「潮時かな」
これ以上の足止めは、もはや無理そうだった。武装は殆ど消費した。身体も満身創痍。加えて、副隊長を討ったとはいえ『黒鉄』の戦車はまだ残っている。
「……はぁ、困ったな」
既に持ち直したのか、それとも躍起になっているのか……キャタピラの音が、複数近付いてきている。
(武器は殆ど品切れなんだけど)
自虐するように笑いつつ、破損した武装を切り離していく。止血をしながら、残った武装を点検する。
「ま、這ってでも生き延びてやるか」
その為の努力は、惜しみなく積み重ねてきた。