ミリしら魔法少女アニメ系の男モブに転生したと思ったら、やばい魔導書と契約してTS魔法少女に変身できてしまった 作:春海とまと
シンク、マリン、カグヤには悪いことをしてしまった。
事情が事情とは言え、余計な不安を抱かせてしまった。
後で謝っておかないとな。
一度、三人が通う学園を見学しておくといい。
魔法少女系世界ならメインの舞台になる可能性もあるし、構造を理解しておくのに越したことはない。
まさか女子校だとは思わなかったけど。
これなら魔法少女に変身して、女性になってからの方が違和感をなくせたんじゃないか?
ただそれはそれで余計に不安にさせてしまいそうだし、まだ疑惑の段階だ。
フラメル司令の指令はもう一つある。
「チビドラゴンさん……いませんねえ……」
五時限目の科目を請け負っていなかった
コモドオオトカゲの親戚のチビドラゴンは侵入していない。
いるとしたら、俺の影の中だけだ。
実質、散歩のようなもので、だいたい見て回ったかな。
「今のところ
「あとは屋上ですかねえ」
鳳先生が手を叩き、屋上を指さす。
「了解です。念のために確認しましょう」
校舎の昇降口を目指す。
「
鳳先生はなにげなく聞いてきた。
やっぱり先生として気になるところなんだろう。
「はい、幼少の頃に。それからはそこまで話をした仲ではないんですが。昨日、また再会しまして」
「だから、今日は三人ともとってもいい笑顔で挨拶してくれたんですねえ。随分慕われているようで羨ましい限りです」
「そう、ですね。ありがとうございます」
正直言えば、俺がどうしてそこまで慕われているのか、実感が湧かない。
大事な思い出やきっかけを作った一因だとしても、今を成したのは彼女達自身の努力の結果。
大したことなんてしてないんじゃと思えてしまう。
俺の方が三人に対して尊敬の念があるくらいだ。
「ええ、担任として負けてはいられません」
ガッツポーズでやる気を見せる鳳先生。
「はい。僕も三人に負けてはいられません」
なら、実感が湧くくらいの自分になればいいだけの話でもある。
しっかり任務をこなそう。
「さあ、着きました。ここにチビドラゴンさんがいればいいんですが」
鳳先生が開けてくれたドアから屋上に入る。
当然、チビドラゴンなんているはずもない。
――だけど、何もないわけじゃない。
「……鳳さん。あの方は用務員さんですか?」
屋上の端でフェンス越しに外を見ている不審者を睨む。
用務員とは思えない、とても目立つ赤い作業着姿。
「いえ、あのような方は見覚えがありません」
「この時間帯に校舎に立ち入り作業をする業者は僕以外にもいましたか?」
「……いえ、『サヴァプラス』の影倉さんしか訪問は……予定されていないと聞いていますが」
鳳先生も警戒心が強まり、言葉の端々に緊張しているのが伝わってくる。
「……せっかく、キャンプファイヤーの組み立て方を考えていたのに、邪魔が入ったな」
赤い作業着姿の男がこちらを振り向く。
外見は俺より年上っぽい、二十代くらい。
野性的な雰囲気を身に纏い、同じように睨み返してくる。
「臭うぜ、相棒。『アポカリプス・グリモワール』の契約者だ」
「わっ! 本当にチビドラゴンさんがいたんですねえ」
クー太郎が俺の影から顔を出し、鳳先生が驚いた。
俺も別の意味で驚いた。
つまり終末厄災布教会の幹部――最初のボスクラスというわけだ。
本来ならなにかしらのイベントがあって、FMSの三人と相対するんだろうけど。
男二人、しかも作業着姿で、乙女の花園で対峙するとは花がない。
だがそれでも、出会ってしまったものは避けられない。
「鳳さん、
「は、はい」
意識を切り替える。
下手に助けを呼びに一人で行かせるわけにはいかない。
こいつ以外に刺客がいないとは限らない。
影を通して周辺の気配を探ってみるが、今のところ怪しい存在はない。
それでも油断はできない。
俺はこの世界がどう動き、どんな終わりに向かうか知らないのだから。
「いいねえ、ジェントルマン。レディの扱いを良く心得ている。だが、あいにく男と踊る趣味はないんだ」
「俺もだよ。どうしてここにいる?」
「いきなり目的を聞く男は嫌われるぜ? だが、今日は気分がいいから教えてやる。キャンプファイヤーをするためだ」
鳳先生と顔を見合わせる。
「学校の林間学校や文化祭じゃ定番だろ?」
また鳳先生と顔を見合わせる。
もしかして、俺が転生した世界はイロモノ魔法少女系なのか?
「俺の学生時代は灰色だった。キャンプファイヤーを囲んでフォークダンスを踊るみんなを、片隅でひっそり眺めているだけだった。だから森でキャンプをし、己を鍛え、業を極めてきた」
不審者はふざけた様子もなく、大変真面目に語っていらっしゃるし。
「そして運命的な出会いをし、一つの夢に辿り着いた。永遠に踊り続けられる、終わりなきキャンプファイヤー。なあ、星を燃やしてでっかいキャンプファイヤーをしたいと思ったことはないか?」
「ないよ、考えたこともない」
言ってることは理解できないけど、ぶっ飛んでいるヤバい奴だとは理解できる。
「つれないねえ。真の男ならキャンプだろ」
不審者は炎の紋章が描かれた赤色のアポカリプス・グリモワールを召喚した。
「俺は終末厄災布教会の幹部が一人、終末の火災を奏でる者――
突発的な遭遇、戦闘だが受けて立つ。
終末厄災布教会の幹部、つまり魔災――終末厄災レベル6以上の相手。
イロモノ魔法少女系なのかもしれないけど、被害の規模が尋常じゃないのは昨日で経験済み。
今までにない甚大な被害が出る。
その対策である反転結界は異常な魔力を検知し、自動的に発動する。
アポカリプス・グリモワールやフェアリーテイル・グリモワールの契約者は、安全地帯には強制転移させられない。
危険因子を閉じ込め、迎え撃つ防衛機構でもある。
そうフラメル司令から新しい説明を受けている。
御籠聖女学園にも避難シェルターや脱出地点は完備されているし、避難誘導は三人に任せれば問題ない。
そして魔法少女課に転属した俺には、反転結界を起動させる権限がある。
影から密かに浮かび上がらせた反転結界を起こす楔を踏みつけ、床に打ち込んだ。
瞬間、魔災の発生を知らす警報が学園中に響き渡った。
あとは反転結界が完成するまでこいつを引きつけ、逃がさない。
「鳳先生――これから見たことは秘密にしてください」
「は、はい!」
少なくとも今は鳳先生を守り、逃げてもらう。
無事に安全地帯に転送されることを願う。
「いくぞ、クー太郎」
「待ってたぜ、相棒! 後輩にきっちり上下関係叩きこまねえとな!」
クー太郎が影から飛び出し、アポカリプス・グリモワールに戻る。
「変わったグリモワールだな! だが、そうこなくっちゃな!」
薪原が応じ、お互いにアポカリプス・グリモワールとオーバーライドキーを手に取る。
――魔法少女の素性は公表されていない。
だからと言って、緊急時に身バレを恐れて目の前の人を助けない愚は起こさない。
仮に身バレしたとしても後で魔法管理局が対処してくれる。
なによりも我が身可愛さに誰かを見捨てるなんて、先輩である彼女達に示しが付かない。
「【オーバーライド】」
「【オーバーライド!】」
オーバーライドキーを鍵穴に差し込み、回し、開封する。
アポカリプス・グリモワールが開かれ、光となって足下に広がっていく。
あらゆる火災報知器まで鳴り響き、終末厄災の到来を告げる。
「【アポカリプススキン――スルト・バーン!】」
お互いの『アポカリプス・グリモワール』が閉じられ、身体が闇に飲み込まれる。
膨大な魔力が全身を駆け巡り、自分が別の自分に、性別が変わっていく感覚に支配される。
そして禁断の扉は開かれる。
「これが俺の終末を奏でる火災の
薪原は昨日みた炎の人型オルケプス、鬼のような姿になった。
しかし、炎の密度は桁外れだ。
触れれば一瞬で消し炭になる熱さで燃え盛っている。
既に足下から焦げ臭い煙がのぼり、いつ校舎に火の手が上がってもおかしくない。
「そしてそれがお前の……? なんだ、その、お、女!?」
「影倉さんが影倉ちゃんに……!?」
薪原と鳳先生の驚きを肯定するように、俺が着ていた作業着のファスナーが勢いよく弾け落ち、双丘が大きく揺れた。
「ククク! いいねえ! 相変わらずの反応で最高だぜ!」
唯一喜ぶクー太郎も無視し、続きの詠唱を行う。
「【アポカリプススキン――クロウ・クルワッハ】」
ページがめくられる度に、俺の姿がさらに変化していく。
長い髪に紫の輝きが灯され、邪竜の双角が生え、翼が広がり、尻尾が伸び、漆黒のゴシックドレスを身に纏い、ネイルもバッチリに決める。
「フェアリーテイル・マジカルストライカー――クロウ・クルワッハ・オニキス。そんなに踊りたきゃ俺が踊ってやる」
凛とした女性の声で高らかに宣言する。
反転結界が完成し、世界が落ちていく。
色彩に溢れた景色は脱色され、白黒に落ちていく。
……良かった。
鳳先生は無事に安全地帯に脱出させられたみたいだ。
「驚いたぜ……お前が昨日取り逃したクロウ・クルワッハの契約者、フェアリーテイル・マジカルストライカーだったとはな。どういう魔法だ?」
「魔法少女だけの秘密だよ。そっちこそ、昨日の炎のオルケプスはお前の眷属ってところか?」
「ああ。そうさ、あいつらは俺の眷属――ムスペルズ。まあ、そういう話は」
戦いの中で語りあおう――と構えたけど、不発に終わった。
薪原がどこからともなく、どでかいバーベキューコンロを取り出したから。
「キャンプ飯――バーベキューしながらにしようぜ」
「なんでだよ」
「当たり前だろ。最後のキャンプ飯を食わないで、キャンプファイヤーができるか」
至極当然と言わんばかりに、クーラーボックスから食材を取り出し、串に刺していく。
とまどい、戦意が削がれる。
まあ、昼飯まだだったからありがたいけど。
……やっぱり俺が転生した世界はイロモノ魔法少女系なのか?