ミリしら魔法少女アニメ系の男モブに転生したと思ったら、やばい魔導書と契約してTS魔法少女に変身できてしまった 作:春海とまと
男性の時はなるべく近寄らないよう、興味が無いですよと見て見ぬふりをしてきた女性の下着売り場。
まさか自分が身につけるために訪れるとは夢にも思わなかった――と、女性に変身してから何度目の体験か。
現実の正夢だ。
「……ところでお姉さん。ブラの外し方、知ってる?」
シンクも困惑しておかしな聞き方をしてくるくらいだ。
「そこは付け方じゃ? なんで外し――」
「大事なことだから。お願い」
「知らないよ。ブラを外した経験なんてないよ」
真剣な眼差しにおされ、素直に答えた。
「良かった。じゃ、あたしが教えてあげるから」
シンクは涼しげに笑った。
なんでそんな嬉しそうに?
まあ、男性でブラジャーの身に付け方を知っていたら、上級者だろうからなあ。
近所のお兄さんがそういう趣味だったら嫌だよな。
そりゃ安心もするか。
「初めての下着だし。仕事の時はスポブラとかノンワイヤーの負担がなくて、シンプルなデザインで動きやすいのがいいかな。普段や大事な日とかはこだわって可愛いのにしよう。寝る時の用のナイトブラも忘れずに」
「用途によって色んな種類があるんだな」
しかし、近所のお兄さんがお姉さんになっても、親身になって付き合ってくれるとはいい子すぎて頭が下がる。
シンクのレクチャーを受けながら、目に付いた興味がある下着をカゴに入れていく。
一通り見て回り、試着室に向かう。
「じゃあ、サイズ
「え?」
シンクは通学カバンからメジャーを取り出し、涼しげな声で言った。
「お姉さんのサイズは目測で分かるけど、念には念を入れて計らせて」
「えっと、必要?」
「とても必要だから。ブラがズレて肌を傷めたら、大事な時に痛みで力が
「……それは、そうだな」
敵との死闘、一瞬の隙をついての全身全霊の一撃――を放つ瞬間に、痛みで失敗に終わり、致命傷を受けるのは避けたい。
「分かったよ。お願いするよ」
「任せて。最初はノンワイヤーの薄いのから。少し身体を前に倒して、ストラップ――肩紐に腕を通して、後ろにあるホックをつけて。困ったらいつでも呼んで」
紫色のシンプルなデザインのブラを受け取る。
試着室に入り、カーテンを閉じる。
シャツを脱ぎ、サラシを取り、双丘が解放される。
……なんだか、この解放感、癖になりそうだ。
そういわけで試着。
シンクに言われたとおりにブラを付けていき、ホックを留める。
たわわな双丘がほどよく抑えられ、身が引き締まる。
鏡で確認してと……おお、似合ってるんじゃないか?
「お姉さん、どう? 付けられた?」
「付けられたよ。一度、見てくれるかな?」
「分かった。お邪魔するね」
シンクがカーテンをわずかに開け、顔を覗かせてかたまった。
「……どっか、付け方、おかしかったかな?」
不安になって確認する。
「ううん。そんなことないから。計るから入っていい?」
「もちろん、お願いします」
二人が入るのには少々
シンクも動きづらそうにしているし、早く終わらそう。
「サイズの測り方ってどうやるんだ?」
「トップとアンダーを計るんだけど。アンダーはバストの下、トップはバストの一番高いところ……つまり、先っぽの部分を水平に」
「なるほど……」
シンクが言葉をにごしたのも分かる。
「始めるから。あたしの正面を向いて、背筋を伸ばして、力を抜いて」
言われるがままに従う。
シンクは真剣な顔つきでメジャーを伸ばす。
「先っぽ、どこ?」
「ここです」
自分の――乳首を指で指し示す。
……さすがに近所の女の子になんかいけないことをしているようで、申し訳なくなってきたな。
危機管理力のない、ずぼらで手のかかるダメお姉さんに進化……いや、さらに退化してしまうのでは?
そもそも自分でバストサイズって測れないんだろうか?
しかし、声をかけるのがはばかられる。
もの凄い集中力で、黙々とメジャーと向き合っているから。
そして狭い分、距離も近い。
ブラ越しにシンクの吐息を感じてくすぐったい。
作業の邪魔をしないように我慢し、息を殺す。
「トップ88、アンダー62。D……やっぱりあたしの目に狂いはなかったね」
以前の公開処刑の自己確認と同じ判定結果だった。
「D60かD65のブラがオススメかな。選んだのは全部そうだから。試着してみて」
「分かったよ。測定してくれてありがとう」
「別に必要だったから。またなにかあったら呼んで」
シンクはそう言って試着室の外に出た。
待たせるのも悪いし、さくさくいこう。
男性の時はファッションにはそこまで興味が無かった。
機動応援課に所属してたから隊服が支給されていたし、私生活でも必要とされる場面もなかった。
少なくとも下着は
実際、今も下には男性のトランクスを穿いてるし。
ボクサーパンツはちょっときつくなっていたけど、特にお尻側が。
ブラとセットのショーツも丁度いいフィット感で、引き締まる。
大切な日の用のキャミソール付きのレース柄ブラも、俺には可愛いすぎる気もするけど悪くない。
なるほどこれは気合が入り、テンションが上がる。
勝負下着とはよくいったものだ。
結局、選んだ下着は全部購入決定。
サラシもあれはあれで悪くなかったけど、世の青少年に悪影響を及ぼすわけにはいかない。
購入した内の一つを着用し、普通のお姉さんとして下着売り場を後にする。
「ありがとう、シンク。付き合ってくれて助かったよ」
「どういたしまして。……あとでマリンとカグヤにも見せてあげて、きっと喜ぶから」
「そうかな? まあ、晴れて普通のお姉さんデビューしたし、二人にもジャッジしてもらおう」
「ちょっと違うけど、いいや。次はエプロンを買いに行こっか」
爽やかな気分に一新され、軽い足取りで別の売り場に向かう。
「男性と女性、両方買う?」
「エプロンは共用できるだろうし、二つくらい買おうかな」
気になったエプロンを身体の前で合わせて、シンクに見てもらう。
「男子小学生が付けそうなエプロンだね」
「さすがにドラゴニックブレイブヒーローエプロンは攻めすぎか」
「攻めすぎかな。でも、二つと言わず、ウルフ柄、シャーク柄、堕天使柄はどう?」
「そんなに……いる?」
「いるから。おとぎ荘の家事をするなら予備はいくらでもあった方がいいし、日替わりで楽しんだ方がいいと思う。あたし達もそっちのが楽しいから」
「なるほど……なら、買うよ」
エプロンはシンクがオススメしてくれたのに加え、落ち着いた感じの無地の黒に決めた。
下着にエプロンまで日替わりで
シンクが一度、スマホに目を落とす。
「カグヤもマリンも……遅れるみたい。服選びは二人が来てからにして。機動応援課の人達に差し入れのお菓子を買いたいんだけど、いい?」
「もちろん構わないよ。俺も十班のみんなに差し入れ買おうかな」
クー太郎と契約した一件の後、十班のみんなには会えていない。
重症だった
悪いことをしてしまったし、お見舞いも兼ねてメッセージカードを
◆
下着にエプロン、差し入れのお菓子と手荷物が増えてきた。
でも、俺には影魔法がある。
いざとなればこうして影に入れてしまえばいい。
「お姉さんの影魔法便利だね。どのくらい入るの?」
シンクの質問に答える。
「んー、今はかなりいけるんじゃないかな。学生時代はダンベルとか入れまくって鍛えてたし」
「つまり、入れた重さの影響を受けるってこと?」
「俺の体重そのものは変わらないけど、俺自身には重みが反映されるっていう不思議な状態なんだよな。おかげで機動応援課にも所属できるくらいには鍛えられたよ」
「凄いんだね、お姉さんは。どうりでスタイルもいいわけだ」
「まさか、その影響がこんな形で出るとは思わなかったけどね」
談笑しながら食品コーナーを通っていると、
「ただいま当店自慢のクロワッサンが焼きたてでーす! お一ついかかがでしょうかー!」
パン屋の店員さんの元気な声が聞こえてきた。
そして、俺の影からクー太郎が顔を出した。
「なあ、イツキ。今、オレ様の名前呼ばれなかったか?」
「今のはクロワッサンだよ。クルワッハじゃない。まあ……クロワッサンの由来も三日月って聞いたことはあるけど」
「オレ様違いかよ……
クー太郎は
「……クロワッサン、食べてみるか?」
「はあ!? なんでオレ様がニンゲンの食べ物を食べなきゃいけねーんだよ!」
強がるクー太郎は一端無視して。
「シンクも小腹すいてない? 付き合ってくれたお礼になにか
「ありがとう。お言葉に甘えて、お姉さんに奢ってもらおうかな」
店内のイートインスペースで食べるのはクー太郎がうるさいので、ショッピングモール内にあるベンチで腰を落ち着ける。
「……なんだよ、ニンゲンの食べ物も中々どうして悪くねーじゃねーか」
クー太郎は不機嫌そうに言いながら、クロワッサンに食らいつく。
尻尾ブンブン、翼バッサバッサと、どこかで見たようなご機嫌な様子で。
なんならアポカリプス・グリモワールを食べた時よりも食いつきがいいぞ。
「ありがとう、お姉さん。カフェラテまで奢ってくれて」
「どういたしまして。今日のお礼だから、安いくらいだよ」
シンクと仲良くクロワッサンを食べつつ、コーヒーに口をつける。
当店自慢、焼きたてと言うだけあって、香ばしくて美味しい。
シンクはまだ半分くらい。
久々のゆったりとした時間に、思考にも余裕ができる。
そうなると色々と考えごとも浮かび上がってくるわけで。
共同生活をしていることもあり、シンク、マリン、カグヤはいつも仲良く、三人一緒だ。
だから、踏み込んだことを聞きづらい。
シンクは俺のことを近所のお兄さん――お姉さんにしては色々知っている様子だけど。
俺は近所の
なのに今日といい、親身に付き合ってくれるいい子だ。
今なら彼女を知るいい機会だと思った。
……しかし、何を聞けば?
さっそく手詰まりになるくらいに、シンクのことを知らないのだ。
いきなりどうして魔法少女になったの? と聞くのもやぶから棒にすぎるし。
俺が知っていることと言えば。
「……お母さん、元気?」
年上のお姉さんにあるまじき質問能力の低さが
急に聞かれたシンクも、カフェラテに口を付けようとして固まっちゃったくらいだ。
「……え? お母さん? 元気だよ。今日もスマホでチャットしたし」
「そ、そっか。お父さんは心配していない? 可愛い娘と離れて暮らしてるしさ」
「……どうだろ。分からない」
シンクはいつもの涼しげな笑みではなく、遠くを見つめて
彼女のことを知らなくても。
聞いてはいけないことを聞いてしまったと理解できた。
「……お父さんはあたしが産まれて間もない頃に死んじゃったから」