ミリしら魔法少女アニメ系の男モブに転生したと思ったら、やばい魔導書と契約してTS魔法少女に変身できてしまった   作:春海とまと

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第16話 あたしの目に狂いはなかった

 男性の時はなるべく近寄らないよう、興味が無いですよと見て見ぬふりをしてきた女性の下着売り場。

 

 まさか自分が身につけるために訪れるとは夢にも思わなかった――と、女性に変身してから何度目の体験か。

 

 現実の正夢だ。

 

「……ところでお姉さん。ブラの外し方、知ってる?」

 

 シンクも困惑しておかしな聞き方をしてくるくらいだ。

 

「そこは付け方じゃ? なんで外し――」

「大事なことだから。お願い」

「知らないよ。ブラを外した経験なんてないよ」

 

 真剣な眼差しにおされ、素直に答えた。

 

「良かった。じゃ、あたしが教えてあげるから」

 

 シンクは涼しげに笑った。

 

 なんでそんな嬉しそうに?

 

 まあ、男性でブラジャーの身に付け方を知っていたら、上級者だろうからなあ。

 近所のお兄さんがそういう趣味だったら嫌だよな。

 そりゃ安心もするか。

 

「初めての下着だし。仕事の時はスポブラとかノンワイヤーの負担がなくて、シンプルなデザインで動きやすいのがいいかな。普段や大事な日とかはこだわって可愛いのにしよう。寝る時の用のナイトブラも忘れずに」

「用途によって色んな種類があるんだな」

 

 しかし、近所のお兄さんがお姉さんになっても、親身になって付き合ってくれるとはいい子すぎて頭が下がる。

 

 シンクのレクチャーを受けながら、目に付いた興味がある下着をカゴに入れていく。

 一通り見て回り、試着室に向かう。

 

「じゃあ、サイズ計(はか)ろうか」

「え?」

 

 シンクは通学カバンからメジャーを取り出し、涼しげな声で言った。

 

「お姉さんのサイズは目測で分かるけど、念には念を入れて計らせて」

「えっと、必要?」

「とても必要だから。ブラがズレて肌を傷めたら、大事な時に痛みで力が発揮(はっき)できなくて困るでしょ」

「……それは、そうだな」

 

 敵との死闘、一瞬の隙をついての全身全霊の一撃――を放つ瞬間に、痛みで失敗に終わり、致命傷を受けるのは避けたい。

 

「分かったよ。お願いするよ」

「任せて。最初はノンワイヤーの薄いのから。少し身体を前に倒して、ストラップ――肩紐に腕を通して、後ろにあるホックをつけて。困ったらいつでも呼んで」

 

 紫色のシンプルなデザインのブラを受け取る。

 試着室に入り、カーテンを閉じる。

 シャツを脱ぎ、サラシを取り、双丘が解放される。

 

 ……なんだか、この解放感、癖になりそうだ。

 

 そういわけで試着。

 シンクに言われたとおりにブラを付けていき、ホックを留める。

 たわわな双丘がほどよく抑えられ、身が引き締まる。

 

 鏡で確認してと……おお、似合ってるんじゃないか?

 

「お姉さん、どう? 付けられた?」

「付けられたよ。一度、見てくれるかな?」

「分かった。お邪魔するね」

 

 シンクがカーテンをわずかに開け、顔を覗かせてかたまった。

 

「……どっか、付け方、おかしかったかな?」

 

 不安になって確認する。

 

「ううん。そんなことないから。計るから入っていい?」

「もちろん、お願いします」

 

 二人が入るのには少々窮屈(きゅうくつ)だけど、動けないほどじゃない。

 シンクも動きづらそうにしているし、早く終わらそう。

 

「サイズの測り方ってどうやるんだ?」

「トップとアンダーを計るんだけど。アンダーはバストの下、トップはバストの一番高いところ……つまり、先っぽの部分を水平に」

「なるほど……」

 

 シンクが言葉をにごしたのも分かる。

 

「始めるから。あたしの正面を向いて、背筋を伸ばして、力を抜いて」

 

 言われるがままに従う。

 シンクは真剣な顔つきでメジャーを伸ばす。

 

「先っぽ、どこ?」

「ここです」

 

 自分の――乳首を指で指し示す。

 

 ……さすがに近所の女の子になんかいけないことをしているようで、申し訳なくなってきたな。

 

 危機管理力のない、ずぼらで手のかかるダメお姉さんに進化……いや、さらに退化してしまうのでは?

 そもそも自分でバストサイズって測れないんだろうか?

 

 しかし、声をかけるのがはばかられる。

 もの凄い集中力で、黙々とメジャーと向き合っているから。

 

 そして狭い分、距離も近い。

 ブラ越しにシンクの吐息を感じてくすぐったい。

 作業の邪魔をしないように我慢し、息を殺す。 

 

「トップ88、アンダー62。D……やっぱりあたしの目に狂いはなかったね」

 

 以前の公開処刑の自己確認と同じ判定結果だった。

 

「D60かD65のブラがオススメかな。選んだのは全部そうだから。試着してみて」

「分かったよ。測定してくれてありがとう」

「別に必要だったから。またなにかあったら呼んで」

 

 シンクはそう言って試着室の外に出た。

 

 待たせるのも悪いし、さくさくいこう。

 

 男性の時はファッションにはそこまで興味が無かった。

 機動応援課に所属してたから隊服が支給されていたし、私生活でも必要とされる場面もなかった。

 

 少なくとも下着は穿(は)きやすい、通気性がいいのを選んでいた。

 実際、今も下には男性のトランクスを穿いてるし。

 ボクサーパンツはちょっときつくなっていたけど、特にお尻側が。

 

 ブラとセットのショーツも丁度いいフィット感で、引き締まる。

 大切な日の用のキャミソール付きのレース柄ブラも、俺には可愛いすぎる気もするけど悪くない。

 

 なるほどこれは気合が入り、テンションが上がる。

 勝負下着とはよくいったものだ。

 結局、選んだ下着は全部購入決定。

 

 サラシもあれはあれで悪くなかったけど、世の青少年に悪影響を及ぼすわけにはいかない。

 購入した内の一つを着用し、普通のお姉さんとして下着売り場を後にする。

 

「ありがとう、シンク。付き合ってくれて助かったよ」

「どういたしまして。……あとでマリンとカグヤにも見せてあげて、きっと喜ぶから」

「そうかな? まあ、晴れて普通のお姉さんデビューしたし、二人にもジャッジしてもらおう」

「ちょっと違うけど、いいや。次はエプロンを買いに行こっか」

 

 爽やかな気分に一新され、軽い足取りで別の売り場に向かう。

 

「男性と女性、両方買う?」

「エプロンは共用できるだろうし、二つくらい買おうかな」

 

 気になったエプロンを身体の前で合わせて、シンクに見てもらう。

 

「男子小学生が付けそうなエプロンだね」

「さすがにドラゴニックブレイブヒーローエプロンは攻めすぎか」

「攻めすぎかな。でも、二つと言わず、ウルフ柄、シャーク柄、堕天使柄はどう?」

「そんなに……いる?」

「いるから。おとぎ荘の家事をするなら予備はいくらでもあった方がいいし、日替わりで楽しんだ方がいいと思う。あたし達もそっちのが楽しいから」

「なるほど……なら、買うよ」

 

 エプロンはシンクがオススメしてくれたのに加え、落ち着いた感じの無地の黒に決めた。

 

 下着にエプロンまで日替わりで彩(いろど)りを変えていけば、日々の家事効率は格段に上昇すること間違いなしだ。

 

 シンクが一度、スマホに目を落とす。

 

「カグヤもマリンも……遅れるみたい。服選びは二人が来てからにして。機動応援課の人達に差し入れのお菓子を買いたいんだけど、いい?」

「もちろん構わないよ。俺も十班のみんなに差し入れ買おうかな」

 

 クー太郎と契約した一件の後、十班のみんなには会えていない。

 

 甘熊(あまぐま)班長や浅葱(あさぎ)さんに心配をかけてるだろうし。

 重症だった鴨居(かもい)さんなんて意識を取り戻した後、女性に変身した俺を見て再び気絶してしまったくらいだ。

 

 悪いことをしてしまったし、お見舞いも兼ねてメッセージカードを添(そ)えて送ろう。

 

 ◆

 

 下着にエプロン、差し入れのお菓子と手荷物が増えてきた。

 でも、俺には影魔法がある。

 いざとなればこうして影に入れてしまえばいい。

 

「お姉さんの影魔法便利だね。どのくらい入るの?」

 

 シンクの質問に答える。

 

「んー、今はかなりいけるんじゃないかな。学生時代はダンベルとか入れまくって鍛えてたし」

「つまり、入れた重さの影響を受けるってこと?」

「俺の体重そのものは変わらないけど、俺自身には重みが反映されるっていう不思議な状態なんだよな。おかげで機動応援課にも所属できるくらいには鍛えられたよ」

「凄いんだね、お姉さんは。どうりでスタイルもいいわけだ」

「まさか、その影響がこんな形で出るとは思わなかったけどね」

 

 談笑しながら食品コーナーを通っていると、

 

「ただいま当店自慢のクロワッサンが焼きたてでーす! お一ついかかがでしょうかー!」

 

 パン屋の店員さんの元気な声が聞こえてきた。

 そして、俺の影からクー太郎が顔を出した。

 

「なあ、イツキ。今、オレ様の名前呼ばれなかったか?」

「今のはクロワッサンだよ。クルワッハじゃない。まあ……クロワッサンの由来も三日月って聞いたことはあるけど」

「オレ様違いかよ……紛(まぎ)らわしーぜ」

 

 クー太郎は愚痴(ぐち)るわりに影に戻らず、じっとパン屋を見つめている。

 

「……クロワッサン、食べてみるか?」

「はあ!? なんでオレ様がニンゲンの食べ物を食べなきゃいけねーんだよ!」

 

 強がるクー太郎は一端無視して。

 

「シンクも小腹すいてない? 付き合ってくれたお礼になにか奢(おご)るよ」

「ありがとう。お言葉に甘えて、お姉さんに奢ってもらおうかな」

 

 店内のイートインスペースで食べるのはクー太郎がうるさいので、ショッピングモール内にあるベンチで腰を落ち着ける。

 

「……なんだよ、ニンゲンの食べ物も中々どうして悪くねーじゃねーか」

 

 クー太郎は不機嫌そうに言いながら、クロワッサンに食らいつく。

 

 尻尾ブンブン、翼バッサバッサと、どこかで見たようなご機嫌な様子で。

 なんならアポカリプス・グリモワールを食べた時よりも食いつきがいいぞ。

 

「ありがとう、お姉さん。カフェラテまで奢ってくれて」

「どういたしまして。今日のお礼だから、安いくらいだよ」

 

 シンクと仲良くクロワッサンを食べつつ、コーヒーに口をつける。

 当店自慢、焼きたてと言うだけあって、香ばしくて美味しい。

 

 深煎(ふかい)り苦めのコーヒーとよく合い、あっという間に完食してしまう。

 シンクはまだ半分くらい。

 

 久々のゆったりとした時間に、思考にも余裕ができる。

 そうなると色々と考えごとも浮かび上がってくるわけで。

 

 共同生活をしていることもあり、シンク、マリン、カグヤはいつも仲良く、三人一緒だ。

 だから、踏み込んだことを聞きづらい。

 

 シンクは俺のことを近所のお兄さん――お姉さんにしては色々知っている様子だけど。

 

 俺は近所の狼神(ろうかみ)さん親子、としか認識していなかった。

 なのに今日といい、親身に付き合ってくれるいい子だ。

 今なら彼女を知るいい機会だと思った。

 

 ……しかし、何を聞けば?

 

 さっそく手詰まりになるくらいに、シンクのことを知らないのだ。

 いきなりどうして魔法少女になったの? と聞くのもやぶから棒にすぎるし。

 

 俺が知っていることと言えば。

 

「……お母さん、元気?」

 

 年上のお姉さんにあるまじき質問能力の低さが露呈(ろてい)した。

 急に聞かれたシンクも、カフェラテに口を付けようとして固まっちゃったくらいだ。

 

「……え? お母さん? 元気だよ。今日もスマホでチャットしたし」

「そ、そっか。お父さんは心配していない? 可愛い娘と離れて暮らしてるしさ」

「……どうだろ。分からない」

 

 シンクはいつもの涼しげな笑みではなく、遠くを見つめて儚(はかな)げに呟いた。

 彼女のことを知らなくても。

 聞いてはいけないことを聞いてしまったと理解できた。

 

「……お父さんはあたしが産まれて間もない頃に死んじゃったから」

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