ミリしら魔法少女アニメ系の男モブに転生したと思ったら、やばい魔導書と契約してTS魔法少女に変身できてしまった 作:春海とまと
「偽物ちゃん、動かないでね。せっかく感動の再会をした親子を
迷子だったりーちゃんを雑に捕まえ、首筋に手を当てる陽乾。
恐怖のあまり声も出ないのではなく、口を封じられているからだ。
涙だけはボロボロとこぼれ落ちている。
母親も魔法で拘束され、くぐもった声しかだせず身動きもとれない。
全ては……シンクに見せつけたいからだろう。
そう思えるのは隣の俺なんて眼中になく、
「要求はなに?」
「分かってるじゃない。ほら、あんたのグリモワールを床に置いて、下がりなさい。そっちのお前も。下手に動いたら全員殺すわよ。反転結界を起動させようとしても無駄」
「代わりにその人達を解放してくれるって約束できる?」
「ええ、人質交換よ。ほら、私様の気が変わらない間に早くしなさい。この子、涙が涸れて干からびちゃうかもしれないわ」
分かった、とシンクは自分のフェアリーテイル・グリモワールを召喚した。
「クー太郎」
「……しゃあねえな。相棒、クロワッサン、さらに追加させてもらうぜ」
「分かったよ、好きなだけ食わせてやる」
ニンゲンの事情なんて知ったことじゃねえ、と騒ぐかと思ったけどクー太郎は床にふんぞり返ってくれた。
俺とシンクは要求どおり下がる。
「話が分かる奴らで命拾いしたわね。ほら、行っていいわよ」
拘束が解かれた母親がりーちゃんを抱き、震える足を
「二人とも落ち着いて、大丈夫、みんな助かる。焦らず、こっちに」
親子の目を見て、暴走しないように優しい声で話しかける。
「
その間も陽乾は勝ち誇ったように喋り続ける。
どう動くか。
頭の中で対応を組み立てる。
やはり陽乾はシンクにかなりの執着心があるようで、喋る俺も気にしていない。
付け入る隙はあるけど、執事の
最優先すべきは――倒れている人達も含めたみんなの無事。
「あたしはお姉さんの魔法、昔も今も信じてるから」
シンクは力強く前を見据えて呟いた。
やっと親子がグリモワールの横を通り過ぎ、目で合図を送るとスピードをあげた。
フェアリーテイル・グリモワールとクー太郎が、陽乾の手元に吸い寄せられる。
「偽物ちゃんが、魔法を語るんじゃないわ。グリモワールがなきゃ魔法も使えない出来損ないが。偽物の魔法使い
そして、親子に手を向けた。
「だから残念、生かすわけ――」
「同感――」
乾いた風が氷の壁にぶつかり、一瞬で溶けていった。
でも、一瞬あれば十分だ。
「大丈夫ですか?」
「は、はい……」
親子を助けるくらいはなんてことない。
「りーちゃん、もう大丈夫だよ」
声を出せないほどに怯えているりーちゃんの頭を撫でて落ち着かせる。
「二人は俺から離れないでください」
親子を俺の後ろに下がらせる。
「ちっ、借り物の力で調子にのるんじゃないわよ。偽物ちゃん如きが……こんな物干からびさせてしまえば」
陽乾がフェアリーテイル・グリモワールを握りしめると、手が氷付けにされるが、またしても溶けて蒸発した。
「バカね、グリモワールの自己防衛魔法も意味ないわ。偽物ちゃんの魔法なんて、私様の乾きには――」
「あっそ」
フェアリーテイル・グリモワールに視線を移し、シンクから目を切った一瞬、
「あんたのことなんて興味ないから、どうでもいいけど」
惚れ惚れする飛び膝蹴りが、陽乾の頬に炸裂した。
陽乾が床を勢いよく転がり、唇から流れ落ちる血をぬぐって吠える。
「お前っ! それでも魔法少女かよ!?」
「悪いけど、あんたほど魔法少女に夢見てないから。それに敵の言葉は信じるな、いざという時は己の肉体を信じろって、魔法少女マニュアルにも書いてあるから」
シンクは自分のフェアリーテイル・グリモワールを取り戻し、
「オレ様を蹴る必要はなくねーか!? 召喚で戻れるし!」
見事なシュートで、クー太郎を俺というゴールに決めた。
魔法少女マニュアルにはそんなことが書いてあるのか。
研修って大事だよな、言わばこれもミリしら魔法少女OJT。
「ってか、黒波! なんでボケッと見てるだけなんだよ!」
「その命令は受けていないので。
あっちも大変だな。
「あっそ! じゃあ、黒波! 全員爆破しろ!」
「承知いたしました」
「【影落とし】」
黒波に合わせ、魔力の流れを読み、集中する。
日傘を持っていた黒波を影で覆い尽くし、逆に拘束する。
俺の前でわざわざ日傘を差して影を作ってくれるとはありがたい。
倒れ伏した人、ショッピングモールの施設を狙った爆発魔法を影で全て飲み込み、黒波に返す。
……ちょっと食べたクロワッサンを戻しそうになった。
さすがに魔法少女に変身しないと、これだけの規模の魔法の負荷はゼロじゃないみたいだ。
さらに――影から反転結界を起動させる楔を召喚し、かかとで打ち込む。
魔災を告げる警報が鳴り響く。
「形勢逆転かな。こっからの策はまだある?」
「どのみち偽物ちゃんは私様の手で干からびさせて、踏み潰す予定だったから関係ないわよ」
「へーそうなんだ。そもそも人質をとって、あたし達のグリモワールを回収するってさ。あんたがあたしに勝てないからビビってるだけでしょ――
「はあ? 今、なんて言った? ふざけるなよ、偽物風情が。本物の魔法使いである私様がお前に劣るわけねーだろ」
シンクから殺気があふれ出し、陽乾から余裕が消え、荒っぽい口調になる。
こわ。
女同士の戦いって感じで、立ち入る隙が無い。
やはり陽乾はシンクのライバルキャラっぽいな。
これが真の魔法少女――フェアマジの世界。
鏡写しのようにオーバーライドキーを召喚し、フェアリーテイル・グリモワールとアポカリプス・グリモワールに差し込む。
「【オーバーライド】」
「【オーバーライドッォ!】」
フェアリーテイル・グリモワールが開封され、シンクの足下に広がる。
飛び出す絵本のように、背後に赤ずきんを被った狼――フェンリルが咆哮を上げる。
あれ、もしかして俺の変身の時にも背景に出てたんだろうか?
反転結界が完成し、世界が落ちて入れ替わり、色彩は白黒に書き換えられる。
その中で圧倒的な真紅の光が目の前で解き放たれ、かすれ壊れたような警告音が鳴り響く。
「【フェアリーテイルスキン――フェンリル・スカーレット】」
「【アポカリプススキン――マーナガルム・パービリオンッ!】」
ページがめくられる度に、シンクのウルカットの髪が伸びて真紅に染まり、瞳に薄氷色の光が灯る。
狼耳が生え、尻尾が伸び、赤いマントを羽織り、煌びやかな白のドレスを身にまとう。
エフェクトがキラキラと光輝いて……メルヘンでファンシーだ。
これが正真正銘、本家本元の魔法少女の変身。
俺の時はなんかこう……
やはり亜種で本来は存在しない外れ値なんだと思わされる。
「終末厄災を狩り尽くして終わらせる、真紅の
クールに微笑み、ポーズを決めるシンク。
「これが私様の終末を奏でる
一方の陽乾は朱色というか、くすんだ赤い毛の狼女型オルケプスに変身した。
自分が狼の女王と誇示するようにド派で豪奢すぎるドレスで着飾って、咆哮を上げる。
「お姉ちゃんが、フェアマジ?」
背後から声。
今回は
幸いと言うべきか、他の人達は現実世界の安全地帯に転送されたみたいだ。
「クー太郎、いくぞ」
「ああ、クロワッサンがオレ様を待ってるからな!」
チビドラゴンからアポカリプス・グリモワールに戻ったクー太郎を握り、オーバーライドキーを召喚する。
これで女性でいる時間はさらに延長だけど、どうでもいい。
「【オーバーライド】」
アポカリプス・グリモワールが足下に広がり、チラリと背後を見てみる。
クー太郎っぽい、黒いドラゴンがドヤ顔で君臨していた。
「【アポカリプススキン――クロウ・クルワッハ】」
今回は俺がメインじゃない。
倍速変身、さくさくとページをめくり、髪を紫に染め、邪竜の双角、翼、尻尾を生やし、ヒールを鳴らす。
「終末厄災を滅ぼし尽くす……フェアリーテイル・マジカルストライカー――クロウ・クルワッハ・オニキス」
俺の場合、決めセリフは
「お姉ちゃんもフェアマジ?」
「さて、どうかな。お姉さんたちとりーちゃんたちだけの秘密だよ」
りーちゃんに向かって人差し指を立てて微笑む。
「オニキス、二人を脱出地点まで。それから逃げ遅れた人達の救出に向かって。あたしよりオニキスの方が救助は得意だろうし。干物女達は任せて」
「ぬかせよ、偽物ちゃん! 干からびて乾燥させて、しわしわババアにしてやるよ!」
頷いて、両手で親子を抱きかかえる。
りーちゃんの教育的にもこの戦い、見せられないしな。