ミリしら魔法少女アニメ系の男モブに転生したと思ったら、やばい魔導書と契約してTS魔法少女に変身できてしまった   作:春海とまと

18 / 18
第18話 魔法少女マニュアルにもそう書いてある

 陽乾千潮(ひかわちしお)……縦ロールのお嬢様キャラ風で、シンクのライバルキャラっぽい。

 

「偽物ちゃん、動かないでね。せっかく感動の再会をした親子を干(ひ)からびさせたくないでしょ?」

 

 迷子だったりーちゃんを雑に捕まえ、首筋に手を当てる陽乾。

 恐怖のあまり声も出ないのではなく、口を封じられているからだ。

 涙だけはボロボロとこぼれ落ちている。

 

 母親も魔法で拘束され、くぐもった声しかだせず身動きもとれない。

 

 全ては……シンクに見せつけたいからだろう。

 

 そう思えるのは隣の俺なんて眼中になく、蔑称(べっしょう)で呼ぶシンクにしか鬱屈(うっくつ)とした感情をぶつけていないから。

 

「要求はなに?」

「分かってるじゃない。ほら、あんたのグリモワールを床に置いて、下がりなさい。そっちのお前も。下手に動いたら全員殺すわよ。反転結界を起動させようとしても無駄」

「代わりにその人達を解放してくれるって約束できる?」

「ええ、人質交換よ。ほら、私様の気が変わらない間に早くしなさい。この子、涙が涸れて干からびちゃうかもしれないわ」

 

 分かった、とシンクは自分のフェアリーテイル・グリモワールを召喚した。

 薄氷(うすひら)色と赤色の二色で分割され、赤ずきんを被った狼の紋章が表紙に描かれている。

 

「クー太郎」

「……しゃあねえな。相棒、クロワッサン、さらに追加させてもらうぜ」

「分かったよ、好きなだけ食わせてやる」

 

 ニンゲンの事情なんて知ったことじゃねえ、と騒ぐかと思ったけどクー太郎は床にふんぞり返ってくれた。

 

 俺とシンクは要求どおり下がる。

 

「話が分かる奴らで命拾いしたわね。ほら、行っていいわよ」

 

 拘束が解かれた母親がりーちゃんを抱き、震える足を懸命(けんめい)に動かし、ゆっくりとこちらに向かってくる。

 

「二人とも落ち着いて、大丈夫、みんな助かる。焦らず、こっちに」

 

 親子の目を見て、暴走しないように優しい声で話しかける。

 

「滑稽(こっけい)ね。スルト・バーンで油断した? あんなバカ、使い捨ての闇バイトに決まってるわ。ここからが本番よ」

 

 その間も陽乾は勝ち誇ったように喋り続ける。

 

 どう動くか。

 頭の中で対応を組み立てる。

 

 やはり陽乾はシンクにかなりの執着心があるようで、喋る俺も気にしていない。

 付け入る隙はあるけど、執事の黒波(くろなみ)の方が目を光らせ、こちらを警戒している。

 

 最優先すべきは――倒れている人達も含めたみんなの無事。

 

「あたしはお姉さんの魔法、昔も今も信じてるから」

 

 シンクは力強く前を見据えて呟いた。

 

 やっと親子がグリモワールの横を通り過ぎ、目で合図を送るとスピードをあげた。

 フェアリーテイル・グリモワールとクー太郎が、陽乾の手元に吸い寄せられる。

 

「偽物ちゃんが、魔法を語るんじゃないわ。グリモワールがなきゃ魔法も使えない出来損ないが。偽物の魔法使い風情(ふぜい)がいい気にならないで」

 

 そして、親子に手を向けた。

 

「だから残念、生かすわけ――」

「同感――」

 

 乾いた風が氷の壁にぶつかり、一瞬で溶けていった。

 でも、一瞬あれば十分だ。

 

「大丈夫ですか?」

「は、はい……」

 

 親子を助けるくらいはなんてことない。

 

「りーちゃん、もう大丈夫だよ」

 

 声を出せないほどに怯えているりーちゃんの頭を撫でて落ち着かせる。

 

「二人は俺から離れないでください」

 

 親子を俺の後ろに下がらせる。

 

「ちっ、借り物の力で調子にのるんじゃないわよ。偽物ちゃん如きが……こんな物干からびさせてしまえば」

 

 陽乾がフェアリーテイル・グリモワールを握りしめると、手が氷付けにされるが、またしても溶けて蒸発した。

 

「バカね、グリモワールの自己防衛魔法も意味ないわ。偽物ちゃんの魔法なんて、私様の乾きには――」

「あっそ」

 

 フェアリーテイル・グリモワールに視線を移し、シンクから目を切った一瞬、

 

「あんたのことなんて興味ないから、どうでもいいけど」

 

 惚れ惚れする飛び膝蹴りが、陽乾の頬に炸裂した。

 陽乾が床を勢いよく転がり、唇から流れ落ちる血をぬぐって吠える。

 

「お前っ! それでも魔法少女かよ!?」

「悪いけど、あんたほど魔法少女に夢見てないから。それに敵の言葉は信じるな、いざという時は己の肉体を信じろって、魔法少女マニュアルにも書いてあるから」

 

 シンクは自分のフェアリーテイル・グリモワールを取り戻し、

 

「オレ様を蹴る必要はなくねーか!? 召喚で戻れるし!」

 

 見事なシュートで、クー太郎を俺というゴールに決めた。

 

 魔法少女マニュアルにはそんなことが書いてあるのか。

 研修って大事だよな、言わばこれもミリしら魔法少女OJT。

 

「ってか、黒波! なんでボケッと見てるだけなんだよ!」

「その命令は受けていないので。私奴(わくしめ)はお世話係ではなく、お目付役ですから。これも学び、いい経験でしょう」

 

 あっちも大変だな。

 

「あっそ! じゃあ、黒波! 全員爆破しろ!」

「承知いたしました」

「【影落とし】」

 

 黒波に合わせ、魔力の流れを読み、集中する。

 

 日傘を持っていた黒波を影で覆い尽くし、逆に拘束する。

 俺の前でわざわざ日傘を差して影を作ってくれるとはありがたい。

 

 倒れ伏した人、ショッピングモールの施設を狙った爆発魔法を影で全て飲み込み、黒波に返す。

 

 ……ちょっと食べたクロワッサンを戻しそうになった。

 さすがに魔法少女に変身しないと、これだけの規模の魔法の負荷はゼロじゃないみたいだ。

 

 さらに――影から反転結界を起動させる楔を召喚し、かかとで打ち込む。

 魔災を告げる警報が鳴り響く。

 

「形勢逆転かな。こっからの策はまだある?」

「どのみち偽物ちゃんは私様の手で干からびさせて、踏み潰す予定だったから関係ないわよ」

「へーそうなんだ。そもそも人質をとって、あたし達のグリモワールを回収するってさ。あんたがあたしに勝てないからビビってるだけでしょ――干(・)物(・)女(・)」

「はあ? 今、なんて言った? ふざけるなよ、偽物風情が。本物の魔法使いである私様がお前に劣るわけねーだろ」

 

 シンクから殺気があふれ出し、陽乾から余裕が消え、荒っぽい口調になる。

 

 こわ。

 女同士の戦いって感じで、立ち入る隙が無い。

 やはり陽乾はシンクのライバルキャラっぽいな。

 

 これが真の魔法少女――フェアマジの世界。

 薪原(まきはら)ことスルト・バーンは前座扱いというわけか。

 

 鏡写しのようにオーバーライドキーを召喚し、フェアリーテイル・グリモワールとアポカリプス・グリモワールに差し込む。

 

「【オーバーライド】」

「【オーバーライドッォ!】」

 

 フェアリーテイル・グリモワールが開封され、シンクの足下に広がる。

 飛び出す絵本のように、背後に赤ずきんを被った狼――フェンリルが咆哮を上げる。

 

 あれ、もしかして俺の変身の時にも背景に出てたんだろうか?

 

 反転結界が完成し、世界が落ちて入れ替わり、色彩は白黒に書き換えられる。

 その中で圧倒的な真紅の光が目の前で解き放たれ、かすれ壊れたような警告音が鳴り響く。

 

「【フェアリーテイルスキン――フェンリル・スカーレット】」

 

「【アポカリプススキン――マーナガルム・パービリオンッ!】」

 

 ページがめくられる度に、シンクのウルカットの髪が伸びて真紅に染まり、瞳に薄氷色の光が灯る。

 狼耳が生え、尻尾が伸び、赤いマントを羽織り、煌びやかな白のドレスを身にまとう。

 

 エフェクトがキラキラと光輝いて……メルヘンでファンシーだ。

 これが正真正銘、本家本元の魔法少女の変身。

 

 俺の時はなんかこう……禍々(まがまが)しい感じの変身で、魔法少女邪竜系。

 やはり亜種で本来は存在しない外れ値なんだと思わされる。

 

「終末厄災を狩り尽くして終わらせる、真紅の狩狼(かりうど)。フェアリーテイル・マジカルストライカー――フェンリル・スカーレット」

 

 クールに微笑み、ポーズを決めるシンク。

 

「これが私様の終末を奏でる旱災(かんさい)の姿(オルケプス)――マーナガルム・パービリオン!」

 

 一方の陽乾は朱色というか、くすんだ赤い毛の狼女型オルケプスに変身した。

 自分が狼の女王と誇示するようにド派で豪奢すぎるドレスで着飾って、咆哮を上げる。

 

「お姉ちゃんが、フェアマジ?」

 

 背後から声。

 

 今回は鳳(おおとり)先生の時と違い、親子が取り残されてしまった。

 幸いと言うべきか、他の人達は現実世界の安全地帯に転送されたみたいだ。

 

「クー太郎、いくぞ」

「ああ、クロワッサンがオレ様を待ってるからな!」

 

 チビドラゴンからアポカリプス・グリモワールに戻ったクー太郎を握り、オーバーライドキーを召喚する。

 

 これで女性でいる時間はさらに延長だけど、どうでもいい。

 

「【オーバーライド】」

 

 アポカリプス・グリモワールが足下に広がり、チラリと背後を見てみる。

 クー太郎っぽい、黒いドラゴンがドヤ顔で君臨していた。

 

「【アポカリプススキン――クロウ・クルワッハ】」

 

 今回は俺がメインじゃない。

 

 倍速変身、さくさくとページをめくり、髪を紫に染め、邪竜の双角、翼、尻尾を生やし、ヒールを鳴らす。

 

「終末厄災を滅ぼし尽くす……フェアリーテイル・マジカルストライカー――クロウ・クルワッハ・オニキス」

 

 俺の場合、決めセリフは即興(そっきょう)だ。

 

「お姉ちゃんもフェアマジ?」

「さて、どうかな。お姉さんたちとりーちゃんたちだけの秘密だよ」

 

 りーちゃんに向かって人差し指を立てて微笑む。

 

「オニキス、二人を脱出地点まで。それから逃げ遅れた人達の救出に向かって。あたしよりオニキスの方が救助は得意だろうし。干物女達は任せて」

「ぬかせよ、偽物ちゃん! 干からびて乾燥させて、しわしわババアにしてやるよ!」

 

 頷いて、両手で親子を抱きかかえる。

 りーちゃんの教育的にもこの戦い、見せられないしな。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

属性盛りすぎTS青春物語(作者:美しい正露丸)(原作:ブルーアーカイブ)

この物語は明らかに属性が渋滞しているTSした少女が青春物語に巻き込まれるお話。▼クロスオーバータグは若干のProjectMoonの設定を引用しているためつけています。知らない人でもわかるくらいの内容にするので履修必須ではないようにします。▼ブルアカのメインストーリーを読みながら進めるため多分めちゃくちゃ更新が遅いです。▼


総合評価:54/評価:-.--/連載:3話/更新日時:2026年09月09日(水) 02:00 小説情報

ニチアサ魔法少女モノに転生したら性癖終わってる奴らしかいない件(作者:レイ)(オリジナル:現代/冒険・バトル)

▼TSよわよわ魔法少女が歪んだ性癖持ちの味方魔法少女達から劣情を向けられまくるお話です。


総合評価:1186/評価:8.6/連載:6話/更新日時:2026年10月12日(月) 11:58 小説情報

娘を救うため、最強陰陽師の俺はTSする。(作者:匿名杯参加者)(オリジナル:現代/冒険・バトル)

日野江晴臣は、現代に生きる最強クラスの陰陽師。▼ そして、妻と生まれてくる娘を何より大切にする父親である。▼ ところが、儀式によってとんでもない未来が見えてしまった。▼ 妻の静華は出産によって死亡。▼ 生まれてくる娘――環は、やがて世界を滅ぼす鬼子になるという。▼ 一族が突きつけた解決策は、環が生まれる前に処分すること。▼ 当然、晴臣は拒絶した。▼ 妻も娘も…


総合評価:400/評価:8.46/連載:18話/更新日時:2026年10月15日(木) 18:03 小説情報

穏やかに生きたいTS村娘。今日もヤンデレ女勇者様が結婚を迫ってきます。(作者:汝とせがらを愛せよ)(オリジナル:ファンタジー/冒険・バトル)

十年の旅を経て魔王を倒し世界を救った女勇者様が、どういうわけかそこら辺の一般村娘に結婚を迫るお話▼「大丈夫、女神さまに祈れば子供も作れるから!」▼「そういう問題ではなくてですね!」


総合評価:966/評価:8.58/連載:4話/更新日時:2026年09月22日(火) 19:03 小説情報

TS転生美貌SSRを引いたが人生詰んで勇者に助けられ、助け返すだけの話(作者:†エーミール†)(オリジナル:ファンタジー/冒険・バトル)

 タイトルで全てオチついてる話。主人公、勇者共に転生者。平成のネットミーム多め。▼ *恋愛要素はないです


総合評価:165/評価:-.--/連載:2話/更新日時:2026年10月11日(日) 12:30 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>