ミリしら魔法少女アニメ系の男モブに転生したと思ったら、やばい魔導書と契約してTS魔法少女に変身できてしまった 作:春海とまと
りーちゃんと母親を脱出地点から現実世界に帰し、飛翔しながら逃げ遅れた人々を救出していく。
反転結界内に太陽、月、空に浮かぶ星々の光は差さない。
明るいところは白、影のところは黒。
色づくのは現実世界に生きる人々や幻想の魔法。
だから今、反転結界を照らす太陽は魔法による産物だ。
血が
倒れた人達も体内の水分や血液が失われ、脱水症状や貧血になったんだろう。
シンクの氷や炎魔法との相性は互角か……いや、ある意味熱を操ると考えれば悪いのかもしれない。
ショッピングモールに戻ると、交戦の音はまだ激しく鳴り響いている。
亀裂が走る床に溶けた氷が蒸発し、サウナみたいな状態になっていた。
「スカーレット、避難誘導は終わった。二人はまだみたいだ」
シンクも陽乾――マーナガルム・パービリオンも健在。
お互いに身体が温まりつつあるのか、汗がしたたり落ち、目が血走っていて……こわ、近寄りがたいオーラを放っている。
「ありがとう、オニキス。ごめん、こっちはまだかかるかな」
「もう帰ってきたのかよ。おら、いつまでそうしてるんだよ。お前の相手はそっちの裏切り者だ。とっと動けよ、
マーナガルム・パービリオンが影で覆われた塊に向かって話しかける。
俺の影魔法でずっと拘束していた、もう一人の終末厄災布教会の幹部。
黒波自身の爆発魔法を返してやったたけど、スルト・バーンと同様、返し技の期待値はあまり高くないようだ。
影を通して黒波の命の鼓動、気配は確かに感じられるから。
「承知いたしました――【オーバーライド】」
「【アポカリプススキン――ニーズヘッグ・ドレッドノート】」
影の拘束をすり抜け、アポカリプス・グリモワールが足下に広がり、閉じられる。
強引に拘束を打ち破って開かれ、ショッピングモールの高い天井さえ突き破る――黒く巨大な機械邪竜が顕現した。
「これが
「相変わらずデカいんだよ、邪魔だ。とっと余所でやれよ」
「承知いたしました。お嬢様には不評のようで申し訳ありませんが、お付き合いいただけますか、クロウ・クルワッハ・オニキス様」
「ご指名とあれば、喜んで」
おそらくマーナガルム・パービリオンは、フェンリル・スカーレットにとってのライバル。
そして
邪魔をするのは野暮だ。
それに女の戦いに、なんちゃってお姉さん枠の俺はお呼びではないだろう。
……少なくとも今は。
「あたしは大丈夫だから。オニキスはそっちをよろしく」
シンクは声だけを俺に向け、一瞬たりともマーナガルム・パービリオンから視線を切らない。
「スカーレットも気をつけて。またあとで」
心配はいらないな。
ニーズヘッグ・ドレッドノートと共に飛翔し、二人の戦場から距離をとる。
ニーズヘッグはクロウ・クルワッハを知らなかった俺でも知っている。
怒りに燃えてうずくまる者とか、死者を運ぶとか呼ばれる神話の邪竜だったはず。
「図体のデカさが強さを決めるんじゃねーよ。大事なのはハートだよ、ハート。なあ、相棒」
「ですが、度量の大きさもデカさに比例する場合がありますよ?」
「はあ? 図体がデカいだけの機械仕掛けの竜もどきが言うじゃねーか」
「女性の衣を借りて吠えている方に言われたくありませんね」
邪竜同士プライドがあるのか……バチバチだ。
ヤンキーマンガであるよな、チビとデカい奴の対決って。
この場合、チビドラゴンとドデカドラゴンか。
「しかし、それはそれとして。私奴の相手が貴方のような美しい女性が光栄です」
「あー……どうも」
元男子といえど、今は禁断の扉を開いて女性に変身してるからなあ。
幸か不幸か分からないけど、その情報は共有されていないようだ。
知っていたら
「特にその双角、翼、尾。
……あれ、どっちかって言うと、クー太郎のことか?
ツンデレインテリモノクルヤンキーデカドラゴンとか、属性の大渋滞を引き起こしているぞ。
やはり俺が転生したのはイロモノ魔法少女系なのか?
でも、シンクや陽乾を見たら、とてもそうとは思えない。
「ですが、残念です。大変心苦しいですが、私奴とキャラ被りしておりますので。やはり主にお仕えする執事ドラゴンキャラは――」
二人からだいぶ距離を離した。
ニーズヘッグ・ドレッドノートの全身が稼働し、砲門が開かれ、照準がこちらに向けられる。
「【
空中では影がなく、地面から影を引き寄せ束ね、刀にして備える。
「私奴で十分――ウェポンズフリーでございます」
開戦を告げる炸裂音が響いた。
ミサイル、グレネードの弾幕が張られ、空が爆発で埋め尽くされる。
爆災とはいうけど、戦略攻撃兵器のオンパレード。
ある種……人災の類いだ。
疑似太陽で乾燥している空間のバフ効果か、火力が高いけど。
刀で斬り捨て、迎撃できる。
あっちが女子のプライド対決なら、こっちは男子のロマン対決でもあるわけだ。
この時点でこれなら……いや、究極のアレを考慮すれば――さすがにまずいかもしれないけど。
反転結界には雲も存在しない。
空には影がない、澄みきった空間だ。
影の充填は少々難儀するが、問題ない。
弾幕を突破し、刀を振り下ろす。
刀が装甲に触れた瞬間、爆ぜた衝撃で刀身の影がブレた。
「
「なるほどな。まあでも、あんた……スルト・バーンほど熱くないな」
純粋な火力だけならあいつの方が何倍も上で暑苦しかった。
爆発に押し返されずに、余裕で切り刻める。
「聞き捨てなりませんね。あのキャンプバカより下に見られては。こうなれば、【アトミ――】」
緊張が走る。
やはりあるのか究極のアレ!?
「おっと、核撃魔法はトップの承認を受け、私奴の許可スイッチを押してもらわないと放てませんでした」
確かにトップがスイッチを押す決断に迫られているシーンを見たことがあるけど。
あくまで執事、命令に忠実ではあるのか。
「ちなみに許可スイッチは……お嬢様にも教えていません。教育的によろしくありませんから」
……少なくともモブであった俺の相手だけ、イロモノ敵キャラがあてがわれている可能性が出てきたな。
しかし、ニーズヘッグ・ドレッドノートも、バカ話ができるくらいの余裕が残っている。
デカい分、硬い。
火力重視に見えて、耐久力重視のオルケプスのようだ。
逆に言えば、それだけ。
核撃魔法さえなければ、圧倒できる――。
「……悪い、相棒。ちょっと……なにか出そう」
「はあ!? 出そうってこのタイミングで!?」
クー太郎の気持ち悪い声に水を差される。
さすがに空中戦で酔ったとは思えない。
元々チビドラゴンで、いや、アポカリプス・グリモワールか。
魔法生物と言えど、魔導書にクロワッサンを食べさせたのはまずかったのか。
出そうなものといえば、まさか、あの……どっちだ?
魔法少女にあるまじきワードを想像し、思わず口に出しそうになったのを飲み込む。
「クロワッサンじゃなくて、その前に食べたアポカリプス・グリモワールが……出そう」
「そっちかい」
ツッコミをいれつつ、クー太郎の異変について考え、フラメル司令の言葉を思い出した。
もしもアポカリプス・グリモワール――スルト・バーンの魔法がコピー……使えれば、こいつには相性はかなりいいはずだ。
ニーズヘッグ・ドレッドノートに向かって、試しに手をかざしてみる。
「【バーンイラプション】」
しかし、何も起こらなかった。
良く思い出せ。
俺だけの工程を作り上げろ。
「【
薪原は、スルト・バーンはどんな風に放った?
まさか……いや、そんなまさか……いやしかし、可能性があるのなら思いきって心の限り叫ぶしかない。
「【ババババババババババババババアアアアアアーーーーァァァンッ! イラプション!】」
瞬間、虚空に魔法陣が展開し、巨大な噴火口が召喚され、マグマのドラゴンブレスが吹き荒れた。
「これは、あのキャンプバカのキャンプファイヤー!?」
ニーズヘッグ・ドレッドノートが初めて声を荒げ、大爆発を引き起こした。
コピーの条件は忠実な音声認識が必要だったのかよ。
でも、良かった。
また何も起こらなかった時の方が精神的ダメージは大きかったからな。
「ふぅ……スッキリしたぜ。ありがとな、相棒。あ、次のを撃つにはしばらくチャージがいるみたいだな」
しかもクールタイムありで、思ったより燃費が悪い。
「――お見事でございます。私奴の耐爆衝撃装甲鱗を全て焼き払うとは」
しかし、まだニーズヘッグ・ドレッドノートは撃破されていない。
耐爆衝撃装甲鱗が剥がれ落ち、内部の機械部分が火花をあげていたとしても、まだ。
大破していてもまだ落ちない。
むしろ膨大魔力が練り上げられ、臨界点に達しようとしている。
「もはや私奴は丸裸。こうなれば最終手段に移行します――【ラストドラゴニック・ディストラクション】」
「【
ニーズヘッグ・ドレッドノートが自爆に至るより早く、コアに向かって終わりを与える斬撃を放つ。
完全に自爆を防ぐことは叶わず爆ぜるも、アポカリプススキンを引き剥がすことには成功した。
人の姿に戻った黒波は爆風の中、真下に落ちていく。
放っておくのもよくないので、アポカリプス・グリモワールを回収するついでに、影で縛り上げて捕らえる。
「お見事でございます。私奴も幸せですね。貴方のような美しく、流麗な太刀筋を極めたフェマジに撃破されるとは光栄の極みです」
「いや、まあ……お前に言われても嬉しくないんだけどな」
元男だから、って言う必要もないよなあ……面倒だし。
「それは失礼しました。では、あとは爆ぜて爆ぜて打ち上げ花火として爆ぜさせるなり、ご自由にしてください」
それ系の敗北セリフがお約束なの?
言うだけ言って満足して気絶した黒波を連行し、二人の戦場に戻る。
俺達の戦いとは緊張感が違う。
近づき、空気に触れただけで分かる。
やはり本筋の世界観はとても真面目でシリアスなものに見える。
ショッピングモールだった場所は離れる時よりもさらに荒れに荒れ、激しさは増し、魔力の高鳴りを感じる。
これは……もうすぐ決着が付きそうだな。