ミリしら魔法少女アニメ系の男モブに転生したと思ったら、やばい魔導書と契約してTS魔法少女に変身できてしまった   作:春海とまと

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第19話 チビドラゴンとドデカドラゴン

 りーちゃんと母親を脱出地点から現実世界に帰し、飛翔しながら逃げ遅れた人々を救出していく。

 

 反転結界内に太陽、月、空に浮かぶ星々の光は差さない。

 明るいところは白、影のところは黒。

 色づくのは現実世界に生きる人々や幻想の魔法。

 

 だから今、反転結界を照らす太陽は魔法による産物だ。

 

 血が凝固(ぎょうこ)したような錆色の陽光が降り注ぎ、コンクリートがひび割れ、建物が一気に朽ちていく。

 

 旱災(かんさい)――陽乾(ひかわ)がよく言っていた干からびる……って響きから乾き、日照り、干ばつみたいなことか。

 

 倒れた人達も体内の水分や血液が失われ、脱水症状や貧血になったんだろう。

 シンクの氷や炎魔法との相性は互角か……いや、ある意味熱を操ると考えれば悪いのかもしれない。

 

 ショッピングモールに戻ると、交戦の音はまだ激しく鳴り響いている。

 亀裂が走る床に溶けた氷が蒸発し、サウナみたいな状態になっていた。

 

 

「スカーレット、避難誘導は終わった。二人はまだみたいだ」

 

 シンクも陽乾――マーナガルム・パービリオンも健在。

 お互いに身体が温まりつつあるのか、汗がしたたり落ち、目が血走っていて……こわ、近寄りがたいオーラを放っている。

 

「ありがとう、オニキス。ごめん、こっちはまだかかるかな」

「もう帰ってきたのかよ。おら、いつまでそうしてるんだよ。お前の相手はそっちの裏切り者だ。とっと動けよ、黒波(くろなみ)」

 

 マーナガルム・パービリオンが影で覆われた塊に向かって話しかける。

 

 俺の影魔法でずっと拘束していた、もう一人の終末厄災布教会の幹部。

 

 黒波自身の爆発魔法を返してやったたけど、スルト・バーンと同様、返し技の期待値はあまり高くないようだ。

 影を通して黒波の命の鼓動、気配は確かに感じられるから。

 

「承知いたしました――【オーバーライド】」

 

 慇懃無礼(いんぎんぶれい)な声が発せられ、カウントダウンを刻むような発射音が響く。

 

「【アポカリプススキン――ニーズヘッグ・ドレッドノート】」

 

 影の拘束をすり抜け、アポカリプス・グリモワールが足下に広がり、閉じられる。

 強引に拘束を打ち破って開かれ、ショッピングモールの高い天井さえ突き破る――黒く巨大な機械邪竜が顕現した。

 

「これが私奴(わたくしめ)の終末を奏でる爆災の姿(オルケプス)――ニーズヘッグ・ドレッドノート。以後お見知りおきを」

「相変わらずデカいんだよ、邪魔だ。とっと余所でやれよ」

「承知いたしました。お嬢様には不評のようで申し訳ありませんが、お付き合いいただけますか、クロウ・クルワッハ・オニキス様」

「ご指名とあれば、喜んで」

 

 おそらくマーナガルム・パービリオンは、フェンリル・スカーレットにとってのライバル。

 

 そして狼神真紅(ろうかみしんく)にとって、彼女だけの物語において、陽乾千潮(ちしお)は越えるべき敵と思える。

 邪魔をするのは野暮だ。

 

 それに女の戦いに、なんちゃってお姉さん枠の俺はお呼びではないだろう。

 ……少なくとも今は。

 

「あたしは大丈夫だから。オニキスはそっちをよろしく」

 

 シンクは声だけを俺に向け、一瞬たりともマーナガルム・パービリオンから視線を切らない。

 

「スカーレットも気をつけて。またあとで」

 

 心配はいらないな。

 

 ニーズヘッグ・ドレッドノートと共に飛翔し、二人の戦場から距離をとる。

 

 ニーズヘッグはクロウ・クルワッハを知らなかった俺でも知っている。

 怒りに燃えてうずくまる者とか、死者を運ぶとか呼ばれる神話の邪竜だったはず。

 

「図体のデカさが強さを決めるんじゃねーよ。大事なのはハートだよ、ハート。なあ、相棒」

「ですが、度量の大きさもデカさに比例する場合がありますよ?」

「はあ? 図体がデカいだけの機械仕掛けの竜もどきが言うじゃねーか」

「女性の衣を借りて吠えている方に言われたくありませんね」

 

 邪竜同士プライドがあるのか……バチバチだ。

 ヤンキーマンガであるよな、チビとデカい奴の対決って。

 この場合、チビドラゴンとドデカドラゴンか。

 

「しかし、それはそれとして。私奴の相手が貴方のような美しい女性が光栄です」

「あー……どうも」

 

 曖昧(あいまい)な返事をする。

 

 元男子といえど、今は禁断の扉を開いて女性に変身してるからなあ。

 幸か不幸か分からないけど、その情報は共有されていないようだ。

 

 知っていたら薪原(まきはら)の時みたいにネタバレ反応になるはずだし。

 

「特にその双角、翼、尾。見(み)目(め)麗(うるわ)しく素晴らしいですね」

 

 ……あれ、どっちかって言うと、クー太郎のことか?

 

 ツンデレインテリモノクルヤンキーデカドラゴンとか、属性の大渋滞を引き起こしているぞ。

 

 やはり俺が転生したのはイロモノ魔法少女系なのか?

 でも、シンクや陽乾を見たら、とてもそうとは思えない。

 

「ですが、残念です。大変心苦しいですが、私奴とキャラ被りしておりますので。やはり主にお仕えする執事ドラゴンキャラは――」

 

 二人からだいぶ距離を離した。

 ニーズヘッグ・ドレッドノートの全身が稼働し、砲門が開かれ、照準がこちらに向けられる。

 

「【邪影圧縮(じゃえいあっしゅく)――邪竜影月刀(じゃりゅうえいげつとう)】」

 

 空中では影がなく、地面から影を引き寄せ束ね、刀にして備える。

 

「私奴で十分――ウェポンズフリーでございます」

 

 開戦を告げる炸裂音が響いた。

 

 ミサイル、グレネードの弾幕が張られ、空が爆発で埋め尽くされる。

 

 爆災とはいうけど、戦略攻撃兵器のオンパレード。

 ある種……人災の類いだ。

 

 疑似太陽で乾燥している空間のバフ効果か、火力が高いけど。

 刀で斬り捨て、迎撃できる。

 

 あっちが女子のプライド対決なら、こっちは男子のロマン対決でもあるわけだ。

 

 この時点でこれなら……いや、究極のアレを考慮すれば――さすがにまずいかもしれないけど。

 

 反転結界には雲も存在しない。

 空には影がない、澄みきった空間だ。

 影の充填は少々難儀するが、問題ない。

 

 弾幕を突破し、刀を振り下ろす。

 刀が装甲に触れた瞬間、爆ぜた衝撃で刀身の影がブレた。

 

「耐爆衝撃装甲鱗(たいばくしょうげきそうこうりん)でございます。言わば全身地雷原のグレネードドラゴンと申しましょう」

「なるほどな。まあでも、あんた……スルト・バーンほど熱くないな」

 

 純粋な火力だけならあいつの方が何倍も上で暑苦しかった。

 爆発に押し返されずに、余裕で切り刻める。

 

「聞き捨てなりませんね。あのキャンプバカより下に見られては。こうなれば、【アトミ――】」

 

 緊張が走る。

 やはりあるのか究極のアレ!?

 

「おっと、核撃魔法はトップの承認を受け、私奴の許可スイッチを押してもらわないと放てませんでした」

 

 確かにトップがスイッチを押す決断に迫られているシーンを見たことがあるけど。

 あくまで執事、命令に忠実ではあるのか。

 

「ちなみに許可スイッチは……お嬢様にも教えていません。教育的によろしくありませんから」

 

 ……少なくともモブであった俺の相手だけ、イロモノ敵キャラがあてがわれている可能性が出てきたな。

 

 しかし、ニーズヘッグ・ドレッドノートも、バカ話ができるくらいの余裕が残っている。

 

 デカい分、硬い。

 火力重視に見えて、耐久力重視のオルケプスのようだ。

 

 逆に言えば、それだけ。

 核撃魔法さえなければ、圧倒できる――。

 

「……悪い、相棒。ちょっと……なにか出そう」

「はあ!? 出そうってこのタイミングで!?」

 

 クー太郎の気持ち悪い声に水を差される。

 さすがに空中戦で酔ったとは思えない。

 

 元々チビドラゴンで、いや、アポカリプス・グリモワールか。

 魔法生物と言えど、魔導書にクロワッサンを食べさせたのはまずかったのか。

 

 出そうなものといえば、まさか、あの……どっちだ?

 魔法少女にあるまじきワードを想像し、思わず口に出しそうになったのを飲み込む。

 

「クロワッサンじゃなくて、その前に食べたアポカリプス・グリモワールが……出そう」

「そっちかい」

 

 ツッコミをいれつつ、クー太郎の異変について考え、フラメル司令の言葉を思い出した。

 

 もしもアポカリプス・グリモワール――スルト・バーンの魔法がコピー……使えれば、こいつには相性はかなりいいはずだ。

 

 ニーズヘッグ・ドレッドノートに向かって、試しに手をかざしてみる。

 

「【バーンイラプション】」

 

 しかし、何も起こらなかった。

 良く思い出せ。

 俺だけの工程を作り上げろ。

 

「【影写(えいしゃ)――】」

 

 薪原は、スルト・バーンはどんな風に放った?

 まさか……いや、そんなまさか……いやしかし、可能性があるのなら思いきって心の限り叫ぶしかない。

 

「【ババババババババババババババアアアアアアーーーーァァァンッ! イラプション!】」

 

 瞬間、虚空に魔法陣が展開し、巨大な噴火口が召喚され、マグマのドラゴンブレスが吹き荒れた。

 

「これは、あのキャンプバカのキャンプファイヤー!?」

 

 ニーズヘッグ・ドレッドノートが初めて声を荒げ、大爆発を引き起こした。

 

 コピーの条件は忠実な音声認識が必要だったのかよ。

 

 でも、良かった。

 また何も起こらなかった時の方が精神的ダメージは大きかったからな。

 

「ふぅ……スッキリしたぜ。ありがとな、相棒。あ、次のを撃つにはしばらくチャージがいるみたいだな」

 

 しかもクールタイムありで、思ったより燃費が悪い。

 

「――お見事でございます。私奴の耐爆衝撃装甲鱗を全て焼き払うとは」

 

 しかし、まだニーズヘッグ・ドレッドノートは撃破されていない。

 

 耐爆衝撃装甲鱗が剥がれ落ち、内部の機械部分が火花をあげていたとしても、まだ。

 

 大破していてもまだ落ちない。

 むしろ膨大魔力が練り上げられ、臨界点に達しようとしている。

 

「もはや私奴は丸裸。こうなれば最終手段に移行します――【ラストドラゴニック・ディストラクション】」

「【宵月夜(よいつきよ)斬り】」

 

 ニーズヘッグ・ドレッドノートが自爆に至るより早く、コアに向かって終わりを与える斬撃を放つ。

 

 完全に自爆を防ぐことは叶わず爆ぜるも、アポカリプススキンを引き剥がすことには成功した。

 

 人の姿に戻った黒波は爆風の中、真下に落ちていく。

 放っておくのもよくないので、アポカリプス・グリモワールを回収するついでに、影で縛り上げて捕らえる。

 

「お見事でございます。私奴も幸せですね。貴方のような美しく、流麗な太刀筋を極めたフェマジに撃破されるとは光栄の極みです」

「いや、まあ……お前に言われても嬉しくないんだけどな」

 

 元男だから、って言う必要もないよなあ……面倒だし。

 

「それは失礼しました。では、あとは爆ぜて爆ぜて打ち上げ花火として爆ぜさせるなり、ご自由にしてください」

 

 それ系の敗北セリフがお約束なの?

 

 言うだけ言って満足して気絶した黒波を連行し、二人の戦場に戻る。

 

 俺達の戦いとは緊張感が違う。

 近づき、空気に触れただけで分かる。

 

 やはり本筋の世界観はとても真面目でシリアスなものに見える。

 

 ショッピングモールだった場所は離れる時よりもさらに荒れに荒れ、激しさは増し、魔力の高鳴りを感じる。

 これは……もうすぐ決着が付きそうだな。

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