ミリしら魔法少女アニメ系の男モブに転生したと思ったら、やばい魔導書と契約してTS魔法少女に変身できてしまった 作:春海とまと
お金も稼げて、人助けもできて、一石二鳥。
そう考えている偽善者だ。
あの人みたいにお人好しじゃないと、常日頃から言い聞かせている女子高生だ。
「さっきまで威勢の良さはどこにいったんだよ、偽物ちゃん!
マーナガルム・パービリオンは幻想太陽の下で、偉そうに吠える。
反転結界全体を照らし出す幻想太陽。
万物を乾かし、
シンクは足を止めずに、器用に熱線を回避していく。
ハティーダガーとスコールショットガンで攻撃を行うが。
「だから、ムダ! 私様に偽物ちゃんの魔法は効かないんだよ!」
氷の斬撃も炎の弾丸も、錆色の体毛に届く前に蒸発する。
マーナガルム・パービリオンは周辺の熱を支配し、蜃気楼が発生し、歪んで揺れている。
死角からの攻撃も幻想太陽の熱線で、自動的に迎撃されていく。
シンクは今のフェンリル・スカーレットでは、こいつを終わらせられないと理解した。
高温の中、激しく動き続けてるせいで汗が流れ落ち、体内の水分が減っていくのが分かる。
シンクはその度に口内に小さな氷を作り、噛み砕いてしのいでいる。
「そっちこそ偉そうな口だけ叩いて、ビビってるんでしょ。干物女」
「煽ってもムダだよ、偽物ちゃん。さっきは不覚をみせてやったけど、もうムダ。接近戦だけケアすりゃ完封なんだからな。近づくバカがどこにいんだよ」
マーナガルム・パービリオンの尋常じゃない憎悪をのせた攻撃は激しさを増していく。
長期戦は不利。
イツキを始め、マリンやカグヤの合流を待って倒せばいい。
そうシンクは考えるが。
「偽物ちゃんはいつになったら学習するんだよ! ぜーんぶ、ムダだバーカ! とっとしわしわババアになっちまえよ!」
これだけバカにされて言いたい放題とくれば、干物女だけは一人で狩りたくなってもおかしくない。
そうでなくても親子に怖い思いをさせ、人々を苦しめた。
なによりも、またお姉さんタイムを延長させてしまった。
だから……まずはあの目障りな幻想太陽を喰らうとシンクは決めた。
「全部ムダかどうかはあんたが決めることじゃないから」
スコールショットガンの弾丸に魔力を込め、幻想太陽に狙いを定める。
「
「だから、ムダっているだろ。そんなチンケな弾丸じゃ私様の幻想太陽は――」
代わりと言わんばかりに嘲り、笑うマーナガルム・パービリオンの顔が陰る。
あれだけ
「は?」
マーナガルム・パービリオンは状況を確認しようと、思わず幻想太陽を見上げてしまった。
その隙を見逃さず、ハティーダガーで喉もとを狙うが。
「だから、さっきのは見せてやっただけって言っただろうが!」
反射的に避けられ、飛び膝蹴りのようなクリーンヒットは叶わなかった。
与えたダメージはドレスを破き、わずかに血を流す程度。
マーナガルム・パービリオンに変身しているおかげで、身体能力は人の姿の時より数倍に向上しているおかげだった。
「クソが! 偽物ちゃんごときで私様の幻想太陽が陰るなんて許されないだろうが!」
マーナガルム・パービリオンは支配権を取り戻そうと幻想太陽に魔力を注ぐが、影に浸食されていく。
「お好きにどうぞ。あたしは好きにやらせてもらうから」
その間にもシンクは攻撃を続ける。
マーナガルム・パービリオンに近づけば近づくほど、水分が失われる速度が速まる。
それでも一歩目よりも速く、二歩目はさらに速く、どんどん加速し斬りつけていく
狼女の血が流れ、床に散って広がっていく。
物体を乾かし、干からびかせ、熱を操ると言っても限度はある。
自分が干上がり、朽ちる前に仕留めればいいだけの話。
シンクは魔法がなくても接近戦ならこちらが上と踏んだ。
「チッ! ちょこまかと
錆色の光と黒い影がせめぎ合い、やがて大半が黒く染まった。
外周から錆色の光がこぼれ落ちる程度になり、完全とはいわずも封じた。
「ありえない、私様の幻想太陽が……落ちるなんて」
マーナガルム・パービリオンが絶望を口にし、隙をまた見せた。
シンクは喉もとに狙いを定める。
初めて届く、致命傷を与える一撃――一気にたたみかけ――狼の顔が歪み、笑っ
た。
「なーんてね。バカ決定――【ブラッディ・グレイプニル】」
なにかがシンクの身体を突き刺した。
拘束され、自由を奪われ、床に
シンクはそのなにかを確認し、赤い結晶――血の塊だと理解した。
床に広がった血が凝固し、鎖と杭になってシンクに襲いかかっていた。
気がつくべきだったと悔いた。
今の環境なら蒸発し、乾くはずなのに、どうして床に気持ち悪いくらいに残っていたのかを。
「形勢逆転。言い様だね。喉が渇いたから、私様のドリンクバーになれよ。偽物ちゃん」
マーナガルム・パービリオンがシンクの頭を踏みつける。
手の甲や足に突き刺さった血から、水分や血液が吸われていく。
さっき倒れた人達と同じ症状――いや、それよりもなお悪辣な激痛。
「あくまで
マーナガルム・パービリオンの傷ついた身体やドレスが再生し、完全に復活する。
「じゃあ、しわしわババアターイム。全身から血も水も一滴残らず吸ってやるから覚悟しろ」
(……このままだと負ける、かも。でもあたしが負けてもマリンやシンク、お姉さんがいる)
……視線を感じる、とシンクは空の一点を見つめる。
(あの強そうな巨大機械邪竜をもう倒したんだ。強いな、お姉さんは)
彼女が助けに入る様子はない。
(まだあたしが勝つと信じてくれているのかな。……そうだね。恥ずかしいけど、いいかな。もう裸の付き合いに、下着の試着をお手伝いした仲だし)
だから、あたしは悪い
「……誰が干物女の養分になるか。【フローズヴィトニル・ウォークライ!】」
「な!?」
シンクの全身に魔力が駆け巡り、人の姿の部分が減り、腕や足がマーナガルム・パービリオンと同じ狼に変化した。
血の杭や鎖を強引に引き抜き、凍らせ、焼き尽くす。
同じように血が流れる手や足の傷が治り、失われた血や水分まで再生する。
「お前、それでも魔法少女かよ!? 頭イかれてんのか!?」
「だから、言ったでしょ。あたしはあんたほど魔法少女に夢見てないから」
また逃げようとするマーナガルム・パービリオンに対し、シンクはハティーダガーで一閃をおみまいする。
「チッ! 手のかかる偽物ちゃんだこと……熱っ!?」
マーナガルム・パービリオンは違和感を覚え、斬りつけられた右手を見た。
紅氷で凍りづけにされているのに、右手が尋常じゃない熱さで焼け焦げている。
「なんで――!?」
「さあ、なんでだろ、ねっ!」
ここにきて、初めてのスコールショットガンで近距離射撃。
散弾である以上、守る範囲は短剣より増える。
マーナガルム・パービリオンは否が応でも防御に徹する必要があった。
放たれた蒼炎の散弾は蜃気楼の守りを突破し、マーナガルム・パービリオンのドレスをズタズタに引き裂いた。
「だからなんで!? 燃えてるのに冷たいんだよ!?」
蒼炎で焼かれながら身体は凍てつき、霜焼けになり、凍傷の激痛に襲われた。
「別に。炎だから燃える。氷だから凍る。当たり前の魔法とかどうでもいいから。あんたみたいな夢見がちな魔法使いじゃないから。あ、そっか。あたしと違って本物の魔法使いなんだから、これくらい対応できるでしょ」
氷なのか炎なのか、正しいのか偽りか、旱災魔法――熱の調節に一瞬、迷いが生じ、優劣を覆した。
シンクは銃と短剣、氷と炎のコンビネーションで駆り立てる。
「クソ、クソクソクソ! 【ブラッディ・ネイルチェイン!】」
マーナガルム・パービリオンは血を凝固して伸ばした爪や鎖で猛攻を受けるが、劣勢に追いやられていく。
焼け、凍てつき、燃え、氷り、手負いの獣に成り果てていく。
「どうして! どうしてお前が主様の愛を受けるんだよ! 魔法も使えない、無能な偽物だったくせに!」
「あんた達の事情なんて興味ないから」
呆れるシンクに構わずマーナガルム・パービリオン――
「お前の親父が勘違いの偽善で勝手に死んで迷惑をかけてもかよ!?」
「何を言って……」
自分ではなく父親の話題を出され、さすがのシンクもうろたえた。
それが不利を覆す一手だと信じ、陽乾千潮は続ける。
「そもそも偽物ちゃん――お前が原因なんだよ! 一度ここが終末を迎えたのも! 魔法少女が認知される世界になったのも! お前が魔法少女になれたのも! 全部全部全部全部全部ぜーんぶ! お前と親父の偽善のせいなんだよ!」
「だから何を言って……」
「お前の親父が勝手に助けようとしたのが、私様の偉大な主様だからだよ!」
「え?」
告げられた事実にシンクの意思に反して、動きが遅くなる。
「主様は別に死ぬような危機でもなかった! それをお前の親父は勘違いの偽善で勝手に死んだ! なのに、お優しい主様は遺族のお前のために、輝ける場所を作ろうとした! お前が魔法が使えない、無能者だったから! 主様は慈悲をくださって、お前が魔法少女になれる世界のために動き、世界を敵に回してでも、作り上げた!」
シンクの動きが完全に止まった。
「だからこそ私様はお前みたいな魔法も使えない無能者がいる世界を終わらせてやる! 本物の魔法使いだけが生きる世界に創り変える! そうなれば――きっと!」
勝機と見て、マーナガルム・パービリオンは空に残っていた陽光を集め、眼前に小型の幻想太陽を生み出す。
「【
「【
「な!?」
幻想太陽が完全に黒に染まり、
乾ききった世界が吹雪で赤く染まり、
「要は……お節介の押し付け合いでしょ。どうでもいいから」
完全に狩り場の支配権を握ったシンクは、衝撃の事実にも涼しい顔で受け流した。
「どうでもいいって……お前の父親の話だろ!」
「そっか。口が悪い不良お嬢様のくせして、両親が大好きなんだ」
「ッ!?」
マーナガルム・パービリオンは図星をつかれて硬直し、逆に勝機を与える隙を見せてしまった。
「そもそも干物女、敵であるあんたの話は信憑性にかけるから。【デュアルコンバート――フェンリルシャッガンブレード】」
ハティーダガーとスコールショットガンが合体し、一つの弾倉付き大剣に変形した。
「ま、待て――!」
「知らなかった? 今時の赤ずきんとかってお話しどおりにいかないから。普通に狼を返り討ちにするから。マリンが言うなら、狼特攻ってやつかな」
圧倒され、戦意を失ったマーナガルム・パービリオンにシンクは淡々と歩み寄る。
「
「フェンリル・スカーレット――!」
シンクがマーナガルム・パービリオンの胴体ど真ん中に大剣を突き刺した。
憎悪に駆られた女は最後まで吐き捨てることも叶わず、醜く絶叫した状態で凍結された。
「【ラグナロク・アブソリュートエンド】」
紅氷が暴れ狂い、蒼炎をまとった蹴りで、マーナガルム・パービリオンを爆砕し、終わりを与えた。
アポカリプススキンが解け、人の姿に戻った陽乾千潮がズタボロの状態で雪原にさらされる。
シンクは彼女を
鮮やかな紫の長髪を
◆
――あの時、あたしの宝物を見つけてくれた時と変わらない、いつも挨拶をした時と変わらない、出会ってからも変わらない。
ちょっと気の抜けた優しい笑顔を返してくれた。
あたしは魔法少女に夢を見ない、現実主義者だ。
だって、あたしの夢はお姉さん……あ、間違えた。
お兄さんのお嫁さんなんだから。
実現可能な夢、地に足が着いたつまらない女子高生だ。