ミリしら魔法少女アニメ系の男モブに転生したと思ったら、やばい魔導書と契約してTS魔法少女に変身できてしまった 作:春海とまと
日が暮れる前におとぎ荘を出る。
「緊急の魔災があってもマリンとカグヤで即現着するから、二人は大船に乗って行ってきていーよ!」
「今日はお二方の分まで私達が責任をもって魔災に対処し、オルケプスもぶちのめしてみせますわ!」
マリンとカグヤに見送られ、シンクと一緒に彼女の実家に向かう。
久々の実家。
普通なら家族の顔が見られるとあって、明るい気分で向かえるはずだけど。
シンクは
用件が用件なので無理もない。
シンクが物心つく前に亡くなり、話したこともなく、記憶にほとんどない父親のこと。
死因である事故に、敵の首魁であるロキ――ヨハネス・ファウストがどう関わりがあるのか。
同じく辛い思いをしたお母さんに聞かなければいけないのだから、心が重くなって当然だ。
「苦しくなったら無理しないようにな。今日で全部聞く必要はないからさ」
「ありがと。でも、心配ないから。それよりお姉さんの家も近所だし、顔を……って、そっか。お姉さんじゃ無理だよね」
「家族には黙っておくよ。俺の場合、特殊な事情込みで正式な契約をして所属したわけじゃないからさ」
「あたしたちとはちょっと事情が違うから、しょうがないか」
三人は家族にのみ魔法少女の正体を明かしている。
そのあたりの調整はフラメル司令たちがうまくやっている。
だから、シンクのお母さんもある程度の話は知っているのだ。
俺の家の場合、女性に変身したのも込みで、すんなり受け入れてくれるとは思うけど。
特に母さんは。
父さんはまあ……もの凄く驚いたあとで。
今、父親の話を出すのもどうかと考え、内心にとどめる。
「そういうわけで心配はいらないよ。今はこのあとのことを考えよう。困ったら頼ってくれていいからな」
「うん。いつも助けられてるから」
シンクはほんの少しだけ口元を緩めてくれた。
懐かしい公園を横目に通り過ぎ、シンクの家へ。
「お母さん、まだ仕事から帰ってきてないみたいだから。どうぞ」
「お邪魔します」
シンクが鍵を開けて招いてくれる。
家に上がらせてもらうと、中は整理整頓されており綺麗だ。
「……まずはお父さんに挨拶しても、いいかな?」
「いいよ。こっち」
シンクはリビングの片隅に置かれている仏壇に案内してくれた。
手際よく線香に火を点け、さっと手を合わせて終わらせるシンク。
「お父さんの名前って、教えてもらっていいかな?」
「お父さんの名前は……
「教えてくれてありがとう」
素っ気なく言うシンクに、お礼を言う。
優しげに笑う宗一さんの写真を前にし、線香を上げ、手を合わせる。
「ありがとう、お姉さん」
お礼を言うシンクに頷く。
「じゃあ、お母さんが帰ってくる前に……お父さんの仕事部屋、見てもいいかな?」
シンクと事前に何をするかは話し合っているので、やるべきことはやろう。
「そうだね。お父さんの仕事部屋……今は物置兼お母さんのダイエット部屋になってるから」
人によっては故人を忘れられず、整理もできずにずっと放置してまう人もいる。
カゲクラサービスに遺品整理の依頼をする遺族の思いを、両親から聞かされたことがある。
残すか一新するか、どちらが正解とかはなくて、どう折り合いを付けて選び、進んでもらうお手伝いができるかが大事だと。
「ダイエット部屋、か。お母さん元気なんだな」
「うん。呆れるくら元気だよ」
シンクは呆れたようにカラッと笑った。
そんな風に言えるだけ、まだいいのかもしれないな。
「ここだよ」
シンクに案内されたのは和室。
ダイエット器具や健康グッズ、丸められた運動マットが隅に置かれている。
本棚には料理やダイエット、美容関係の雑誌。
長机に唯一置かれた写真立てには、家族写真が飾られている。
ショッピングモールでシンクが見せてくれたスマホの画像と同じ、赤ちゃんのシンクを抱きか抱える宗一さんとお母さんの。
「研究資料や本の処分はしてないけど、片づけてあるんだ。押し入れにしまってあるから」
「手伝うよ。いっぱい……だな」
大学教授と言っていたし、押し入れには綺麗な箱がぎっしりつまっていた。
和室に並べて箱を開けてみる。
中身はフォトアルバムで、以前見せてもらったニホンオオカミの色あせた写真が多くある。
他のフォトアルバムにも様々な動物の写真が収められている。
分厚く難しい学術書や論文、レポートなどもある。
シンクが言っていたとおり宗一さん自身の写真はほとんどなく、シンクと映っているのは写真立てのだけ。
これは研究関係の箱だから、家族写真は別のアルバムにあるんだろう。
そして予想どおりロキ――ヨハネス・ファウストと思しき人物も写っていない。
事前にフラメル司令からヨハネス・ファウストの顔写真を見せてもらった。
優しそうな風貌の宗一さんとは正反対、他を寄せ付けない冷徹な雰囲気で、端正な顔をした異国の男だ。
「クー太郎、どうだ? ロキの魔力とかなにか感じるか?」
「なーんにも感じねえな」
クー太郎が俺の影から顔をのぞかせ、周囲を見渡す。
「この家自体魔力がない、普通のねぐらだぜ」
「ありがとう。じゃあ、またなにかあったら呼ぶから、それまで影で休んでてくれ」
「分かったぜ。オレ様はしばらく寝ておくから、クロワッサンタイムになったら呼んでくれ」
クー太郎は聞き分けよく影に潜っていった。
俺も魔力の気配を感じない。
ここでロキやヨハネス・ファウストに繋がる手がかりはない。
ただ宗一さんの一端に触れることができた。
シンクが言っていたとおり研究熱心な人だったみたいだ。
「じゃあ、片づけようか。それでお母さんが帰ってくるまで……少し掃除でもしていいかな?」
「……お姉さん、ゆっくりしていいんだよ?」
今度は俺が呆れられてしまったようだ。
◆
箱を片付け、押し入れに戻すと、
「あら、真紅? 先に帰ってたー?」
玄関の方で音がして、女性の声が聞こえてきた。
「お母さん帰ってきたみたい。行こっか」
シンクに連れられ、玄関に向かう。
「おかえりなさい」
「ただいま、真紅。元気そうね」
スーツ姿の女性がスーパーの袋を片手に、玄関に上がっていた。
シンクに似た切れ長の目に涼しげな雰囲気で……いや、シンクがお母さん似なんだな。
「まあ、うん。それなりに元気だよ」
「そう、それなりに元気ならいいわ」
素っ気なく答えるシンクを見て、気にした様子もなく頷くお母さん。
「それでそちらの方が……あら? もしかして
俺の顔を見てから視線を下げ、立派な双丘を認識した。
「あら、ごめんなさい。人違いだったようで」
「初めまして。僕は影倉イツキと申します。おとぎ荘で管理人をしています」
女性の時の偽名、役職で挨拶をして頭を下げる。
シンクが暮らしているおとぎ荘についても、家族には教えられている。
つまり、それが意味するのは俺も魔法少女課の関係者ということ。
「あら。これはいつも娘がお世話になっております。真紅の母の
シンクのお母さん――茜さんも察し、必要以上には言葉に出さずに頭を下げた。
「シンクさんは家事も率先してやってくれて助かっています。とてもいい子ですよ」
「そうですか、ありがとうございます。しかし、顔だけじゃなくて名前まで影倉さんの息子さんと似ているとは――あ、ごめんなさい。こんなこと言っても分からないですし、困りますよね」
「お気にせず。シンクさんからも話は聞いていますから。赤の他人、他人のそら似ですよ。世の中には自分と似た人物が三人はいるって話ですから」
実際、本人なので問題ないです。
挨拶をする程度の面識しかなかったはずなのに、勘づいてしまうのはさすが親子というべきか。
「そうなんですね。それにしても管理人さんがこんな美人さんだなんて良かったわね、真紅」
「まあ、うん。そうだね」
茜さんの前だとシンクはいつも以上に口数が少なく、落ち着かない様子だ。
これから聞く内容を考えれば当然だけど。
それとは別に人前でお母さんと話すのが照れくさいのかもしれない。
俺も気持ちは分かる。
「ここで立ち話もなんですし。中にどうぞ」
「買ってきた物入れておくから、お母さんは着替えてきなよ」
「そう? じゃあ、頼むわ。すみません、少し席を外しますね」
シンクがスーパーの袋を預かり、冷蔵庫にしまうのを手伝い、茜さんが着替えるのを待つ。
「お待たせしました」
茜さんが着替えをすませて戻り、仏壇に供えられた二つの線香を見た。
「お線香を供えていただいて、ありがとうございます。宗一さんも喜んでくれていると思います」
「シンクさんに案内いたたいで、あげさせていただきました。優しそうな……人ですね」
「そうですね。少々……優しすぎる人でした」
茜さんは生前を思い出し、静かに口ずさんだ。
落ち着いた雰囲気の中、リビングのテーブルに茜さんと対面で、シンクと並んで座る。
「それで真紅、聞きたいことがあるのよね?」
シンクが茜さんにも事前に連絡を入れている。
聞きたい内容についても。
それでもシンクの口から聞く必要がある。
数十秒の沈黙の後、シンクが口を開いた。
「……お父さんの事故について、教えてほしい」
「宗一さんの事故ね」
茜さん自身、最愛の人を失った事故。
話すだけでも心苦しいはずだけど、下を向かずに語り始めてくれる。
「真紅が産まれて夜泣きも落ち着いた頃かしら。真紅は他の子よりも夜泣きが短くて、手のかからない赤ちゃんだったわね」
「……あたしのことはいいから」
ジト目で牽制するシンクに、茜さんはくすりと笑って続ける。
「そうね。だから、宗一さんも安心しちゃったのかしらね。仕事先で出会った依頼人と一緒に……山にフィールドワークに行くって話で。当日の朝、シンクと一緒にいってらっしゃいって言って……宗一さんがいってきますって、私とシンクを抱きしめて。それが、最期の挨拶だったわ」
茜さんも当時を振り返ると、段々と悲しげな語り口調になる。
今もなお瞳の奥に焼き付いて消えない思い出なのだと分かる。
……だから、俺は黙って聞くだけだ。
まずは家族同士、シンクに任せる。
「……それでお父さんが山で事故にあった時、助けようとした依頼人って誰か知ってる?」
「ええ、そう……依頼人、の方ね。病院まで宗一さんを運んでくれて、霊安室で一緒に
茜さんの様子が明らかにおかしくなり、虚ろな目で額に手を当て、考え込む。
「確か、鈴木……佐藤……いえ、松本、林……なんて名前の人、だったかしら? そもそも……病院に……霊安室にいたかしら? ごめんなさい、今、思い出すから……」
「茜さん」
一度手を叩き、茜さんの意識をこちらに向けさせる。
茜さんの瞳を見返す。
非常事態なので、さすがに口を出させてもらう。
「すみません。依頼人については大丈夫ですから。無理に思い出さないで、今のことは忘れてください」
「え、ええ……? そう、ごめんなさい」
茜さん自身、魔法が使えない一般人と聞いている。
不必要な負荷はかけたくない。
なによりもシンクの家族なのだから、細心の注意を払うべきだ。
茜さんのヨハネス・ファウストに関する記憶や認識は、おそらく消しゴムのように抹消され、上書きされている。
そういう魔法、暗示をかけられたのなら、相手にもそうしておきたい意図がある。
それを破られた時どう動くか分からない。
逆に言えば記憶から抹消され、存在しない男のままなら、茜さんに危害が及ぶ可能性も減る。
だから、ヨハネス・ファウストの写真を確認してもらうのも、今の反応をみると危険すぎる。
フラメル司令が集めた情報も共有して、判断を仰いでからの方がいいだろう。
シンクと目を合わせ、今回はここまでやめることにした。
ヨハネス・ファウストについては、今は聞くべきことがなくなった。
「依頼人のことは気にしないで、忘れていいよ。だから、それとは別に、ただ……」
それでもシンクは話を続ける。
まだ聞きたいことが残っているはずだから。
前髪に指を絡ませ、言葉を選んで考え、
「お父さん、のこと教えてほしい。事故の話じゃなくて……もっと前の、私が産まれる前の、昔のこと」
気まずそうに、言った。