ミリしら魔法少女アニメ系の男モブに転生したと思ったら、やばい魔導書と契約してTS魔法少女に変身できてしまった   作:春海とまと

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第25話 昔と今を繋いで

 宗一(そういち)さんが茜(あかね)さんと出会った頃から――シンクが産まれた頃まで。

 

 それは今、茜さんの異変の負荷を和らげる意味もある。

 思惑どおり先ほどと違い、茜さんの顔に生気が戻ってくる。

 

 やはりヨハネス・ファウストに関すること以外は、正常な記憶として扱われているみたいだ。

 

「真紅が宗一さんいついて聞くなんて、いつぶりかしら」

 

 嬉しそうに微笑んで、明るい声で語り始めてくれる。

 

「宗一さんは……一言で表すなら小さな野良犬かしら。パグとかチワワとかポメラニアンとかダックスフンドとか。狼はもちろん、シベリアンハスキーやドーベルマンとかって感じじゃないでしょ?」

 

 だから真剣に聞こうとして、開始直後に困惑させられてしまった。

 思わず隣のシンクを見て、目があった。

 シンクもいまいちピンときてないらしい。

 

 中型や大型の野良犬、狼ならイメージしやすいけど、小さな野良犬は想像しにくい。

 果たして野生で生き残れるのかと、あんな可愛いわんちゃんが。

 

 そんな俺達を見て、茜さんは楽しそうに笑う。

 

「大学で出会った時なんて私の目の前で、木から落ちてきたのよ。雛(ひな)が産まれる瞬間を見たかったからって、頭にその巣を乗っけて、親鳥に突(つつ)かれて、フンまでもらって。それがもうおかしくて、笑っちゃって」

 

 当時を思い出して暖かく、熱がこもったおかしそうな声。

 事故の話と比べたら全てが違う。

 

「それから面倒を見るようになって……いつからか、この人は私が首輪してリードしておかないと心配だわって思って――あ。今のは比喩(ひゆ)だから、勘違いしないでね」

 

 茜さんは口元を手で隠し、含み笑いを浮かべる。

 茜さんも想像よりもだいぶ愉快な人みたいだな。

 

 本当に元気でたくましい、お母さんだ。

 シンクが健やかに育ったのも頷ける。

 

 と、茜さんはここにきて落ち着いた表情に戻り、一度間を置いた。

 

「……それで宗一さんが絶滅種の研究を始めた理由は、『終わりの悲劇、過ち、儚さを知るからこそ、今を生きる命の尊さ、大切さを知ることができるから』、ってよく口にしていたわ」

 

 それがヨハネス・ファウストの共感を得たのだろうか。

 

 解釈の仕方は人それぞれ。

 宗一さんにしたら迷惑な話だろうけど、予想だにしない方向に解釈されることだってある。

 

 ……どうして魔法が使えなかったシンクを魔法少女にしようとしたのかは、まだ想像がつかないけど。

 

「だから、私の中に真紅が宿って、貴方の人生が始まったと知った時は泣いちゃうくらい喜んでいたわ。そのくせ産まれたら抱っこ一つであわあわして、本当おかしな人よね」

 

 ショッピングモールでシンクが見せてくれた画像、家に飾られている写真は、確かにそんな情景が思い浮かぶ一枚だった。

 

「でも……真紅が、宗一さんが。今を一緒に過ごせなかったことだけは悲しいわ」

 

 最愛の人を悼(いた)み、最愛の娘を慈(いつく)しんでいるからこそ、茜さんは複雑な心境で語り、

 

「だから、二人をよく知っている私が二人の分まで話して、繋げてあげるわ。だって家族なんだから」

 

 それでもシンクを愛おしそうに見つめ、微笑んだ。

 

「そう、だね」

 

 シンクは戸惑いながら受け止め、答えた。

 

「今はそれで十分よ。真紅が今日聞いてくれただけで嬉しかったわ。宗一さんもそう思っているから」

 

 茜さんは一度、仏壇の方に目をやった。

 

「ありがとう、お母さん。ちょっとはお父さんのこと、知れて良かった」

 

 シンクはさっきよりもハッキリと、でもちょっとたどたどしく言った。

 

「また今度話しましょう。一日で話しきれる思い出でもないし、もったいないものね。イツキさんも聞いていただきありがとうございました」

「いえ、お礼を言うのは僕の方ですから。自分が同席した上で話を聞かせていただいてありがとうございます」

 

 頭を下げる。

 

 ……比べるものじゃないと分かっていても、やっぱり敵(かな)わないな。

 だからといって、へこたれてもいられない。

 

「そんなことありませんよ。シンクもだいぶ懐(なつ)いているようですし。イツキさんにも一緒に聞いてほしいから、来ていただいたのでしょうし」

「それは……まあ、色々あるから」

 

 クスクスと笑う茜さんに、シンクはムッとしながらそっぽを向いた。

 まあ、本当に色々あるからなあ。

 こればかりは俺も愛想(あいそ)笑いを浮かべて、ごまかすしかない。

 

「フフフ、仲良しね。さて、もういい時間だし……そうだ、晩ご飯食べていく?」

「晩ご飯……お姉さん、どうしようか?」

 

 シンクはおとぎ荘で留守番をしてくれているマリンやカグヤを気遣い、俺に判断を委(ゆだ)ねた。

 

「今日は食べていっていいんじゃないかな。久々のお母さんとの晩ご飯なんだから。おとぎ荘には俺から連絡しておくよ」

 

 二人も笑ってそう言うはずだ。

 

「ああ、そうよね。奮発(ふんぱつ)してビーフカレーを作ろうと思ったから、余った分をおとぎ荘の方の分で持って行ってあげて」

「カレー……お母さん。あたし、もう高校生だから」

「別にカレーなんていくつになって平気でしょ。小さい頃はあれだけカレーにシチューの交代制をおねだりしてたのに」

「だから、それは小さい頃の話でしょ」

 

 なにやら恥ずかしがっているようだけど、話としては分かりやすい。

 カレーならタッパーを借りれば持ち帰りやすいし。

 

「じゃあ、僕も手伝っていいですか?」

「ありがとうございます。せっかくですし、三人で作りましょうか。今度は真紅の話、聞かせてほしいわ」

「だから……はあ、しょうがないか。分かったから」

 

 三人だとちょっと手狭なキッチンで料理を始める。

 広々としたおとぎ荘とはまた違う、近すぎる距離で料理するのも楽しいな。

 

 ◆

 

 ビーフカレー、サラダと味噌汁、定番セットが完成する。

 

「ビーフカレーって言っても市販のルーで申し訳ありませんけど」

「そんなことないですよ。とても美味しいです」

 

 おかわりしたくなるほどの美味しさだけど、我慢する。

 留守番してくれているマリンとカグヤも、カレー待ちをすると言っていたからだ。

 

「気に入ってもらえて良かったです。真紅も美味しい?」

「まあまあ美味しい」

「美味しいようでよかったわ」

 

 ぶっきらぼうに返事をし、スプーンを口に運ぶシンク。

 どんどん減っていくビーフカレーを見て、茜さんも誇らしげに笑って食べ進める。

 

「あ、そうだった。夜美(よみ)さんからまたおはぎを貰ったのよ。デザート、真紅とイツキさんも食べる?」

「もちろん、食べるから」

「え? は、はい。では一つだけ……」

 

 夜美さんとは間違いなければ、影倉(かげくら)夜美。

 俺の母さんの名前で、得意料理暗黒(あんこく)おはぎ。

 俺も好物ではあるけど。

 

「あの、茜さんは……その夜美さんとは親しいんですか?」

「ええ、そうねえ。もうかれこれ十年くらいかしら? 仲良くしているわ。お得に清掃サービスもしてくれてるし、本当に助かってるわ」

「そう、なんですね」

 

 なにそれ知らない。

 ミリしら魔法少女系世界だけでなく、俺は家族のことを知らなかったのか。

 なんか急にお腹の調子が。

 

「すみません、ちょっとお手洗いを借りてもいいですか?」

「ええ。場所は分かるかしら?」

「はい。分かりますので。では」

 

 トイレを借り、スマホを取り出し、アプリのチャットを開く。

 

『カゲノマ』

『カゲノマ』

 

 影倉家だけに通じる挨拶をすると、すぐに母さんから反応があった。

 

『母さん、近所の狼神(ろうかみ)さんって知ってる?』

『知ってる。茜さんと真紅ちゃん』

『どうして俺には教えてくれなかったの?』

『教える必要がなかったから。口止め――』

 

 口止め部分が削除された。

 

『何も見なかったことにして』

『あ、うん』

 

 考えてみれば俺が面識があるのなら、母さんだってあってもおかしくない。

 むしろご近所付き合いなら母さんの方が上手だし。

 でもそれなら、教えてくれたらいいのに……いや、俺も聞かなかったからな。

 

 ……宗一さんや茜さんの言葉に習い、過去を悔やんでもしょうがない。

 今を大切にして知っていこう。

 

 そうは思うけど、なんか知らないうちに外堀が埋められているような気が……気のせいかな。

 家族についての話を聞かされ、俺も感傷的な気分になっているのかな。

 

『父さんやみんなは元気にやってる?』

『やってる』

『そっか。母さんも身体には気をつけてね』

『伊月(いつき)もね』

『うん。また時間ができたら顔を見せに行くから』

『待ってる』

 

 果たして俺が女性から男性に戻るのはいつになるのやら。

 しばらくはチャットがメインになるかな。

 

『カゲノマ』

『カゲノマ』

 

 そういえば……カゲノマ挨拶もどういった経緯(けいい)で生まれたのか聞いたことなかったな。

 確か俺が産まれる前から――――――――――――――――――――――――――――そうだ、俺が産まれる前から、父さん母さんの謎の挨拶としてあったのかな。

 

 俺も両親のことを全部を知っているわけじゃない。

 親孝行なんてほとんどできてないし、いつかしようと思ってトイレを出る。

 

「戻りました。じゃあ、お言葉に甘えておはぎも一つだけいただきます」

 

 ビーフカレー、サラダに味噌汁を食べきってから、暗黒おはぎをいただく。

 うん……間違いなく、母さんの暗黒おはぎの味だ。

 あんこの圧縮具合、それでいてモチモチの米なんかまさにそうだ。

 

「相変わらず美味しいわ。この圧縮具合、私じゃ出せない味なのよね」

「うん。夜美さんのおはぎはいつでも美味しいよね。カグヤじゃないけど、これならいっぱい食べられるから」

「あはは……そう、なんですね」

 

 茜さんはもちろん、シンクもわりと食べ慣れてるご様子で。

 世の中、俺の知らないことなんてたくさんあるというわけだ。

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