ミリしら魔法少女アニメ系の男モブに転生したと思ったら、やばい魔導書と契約してTS魔法少女に変身できてしまった   作:春海とまと

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第26話 あたしだけの勇気の魔法

「ごちそうさまでした。とても美味しかったです」

 

 玄関まで見送りに来てくれた茜(あかね)さんに挨拶をする。

 

「お口にあって良かったです」

 

 茜さんが朗(ほが)らかに笑ってから、真面目な顔で頭を下げた。

 

「イツキさん。真紅(しんく)のことをよろしくお願いします」

 

 俺がシンクと一緒に戦っているとは知らない。

 それでも年頃の可愛い娘を預ける親の気持ちを考えれば当然だ。

 本当なら一緒に暮らして、同じ時間を共有したい。

 

 茜さんも……宗一(そういち)さんだって、シンクが危険をおかして戦うのは心配に決まっている。

 

「お任せください。責任をもって預からせていたただきます」

 

 だからまたこの家で、ただいまとおかえりが言えるように――覚悟をもって宣言する。

 

「はい。真紅も気をつけてね」

「うん。いってきます」

 

 シンクと茜さんは短く言葉を交わす。

 もう十分に話し合ったからか。

 家族だから少ない言葉だけでも通じ合えるのか。

 

 家族の数だけ向き合い方があるんだろう。

 その分茜さんはシンクの頭を軽く撫でてて微笑んだ。

 

「いってらっしゃい」

 

 茜さんに見送られ、狼神家を後にする。

 

 あとはお土産のビーフカレーと暗黒おはぎが入った保冷バッグを持って、おとぎ荘に帰るだけ。

 

「……お姉さん、少しだけ寄り道していい?」

「少しくらいならいいよ」

 

 だったけど、シンクのか細い声を聞いたら断れなかった。

 人気のない公園に寄り道し、ベンチに座る。

 シンクは夜空を見上げ、なにか考えてから、

 

「お姉さん。今日は一緒に来てくれてありがとう」

 

 俺を見つめてお礼を言った。

 

「どういたしまして。と言っても、同席しただけだからな。シンクが頑張ったからだよ」

「ううん。それでも、一緒に来てくれて嬉しかった」

 

 角が取れた、茜さんに似た朗らかな笑み。

 

 やっぱり家族、お父さんの話を聞いて、シンク自身思うことがあった。

 今日の思いを吐き出したい。

 そう感じ、耳をかたむける。

 

「中学に上がった頃、お母さんからお父さんの話……事故について聞かされたけど、その時は今回みたいな異変は起こらなかったんだ」

 

 多分、とぼそりと口にして。

 

「あたしが興味なくて聞こうとしなかったから。ただ聞くだけ聞いて、聞き流したから」

 

 クー太郎がまた俺の影から顔を覗かせた。

 

「間違っちゃいねえよ。さっきのシンクの親がおかしくなったのは、記憶操作の魔法で間違いねえ。特定の対象に関する話題に触れようとしても、既に消去されているから必要な情報が出てこなくフリーズする。逆に言えば、追求しなきゃなんの問題もねーよ」

「やっぱりそんな感じか。でも、それがある意味、そいつがいた証拠にはなるよな」

「そーだな。ま、そんなところだ。で、イツキ。さっきのおはぎってやつ? あとでオレ様にもくれよな。クロワッサンにあいそーだ。じゃーな」

 

 クー太郎はまたしても邪道チャレンジャーな言葉を残して、影に潜っていった。

 今はクー太郎よりもシンクのことなので、彼女の方を見る。

 

「クロウ・クルワッハ言うとおり、間違ってないから。正直、お父さんのこと知らない方が楽だった。小学生くらいからたまに気を使われたけど、知らないからあたしも平気でいられたんだと思う」

 

 自分の考えを整理し、向き合いたいような独白。

 

「もしもお父さんともっと一緒にいて、知っていたら……また違って。辛かったと思うから」

「そっか。知った分だけ辛くなるのは苦しいよな」

「どうだろ。まだぼんやりとしてて、分からない。お母さんにはああ言ったけど、ちょっと知れたからって。じゃあ、もの凄く悲しくて辛いってわけじゃないから」

 

 一瞬のできごとで価値観が変わる時もあれば、長い時間をかけても変わらないことだってある。

 

 人の数だけ考え方があるから。

 その人なりの考え方で答えを出すしかないのかもしれない。

 

「でも、お母さんがいなくなったら、もの凄く悲しくて辛くて……寂しいのは分かるから。あの日も」

 

 シンクは遠い昔を噛みしめ、膝元で握りしめた手に目を向ける。

 

「お母さんが珍しく半休で迎えに来てくれて、学校から一緒に帰って、ちょっとした寄り道もして。その時、まこちゃんをなくしたことに気がついて……正直、見つからなくてもよかったんだ。ただ……お母さんと一緒にいたい口実にしたかっただけ」

 

 茜さんの話、今まで見てきたシンク。

 手のかからない、一人でなんでもできてしまう大人びた、優しい子。

 それでもまだ子供で、わがままの一つだって言いたくなる。

 

「だから、お姉さんがまこちゃんを見つけてくれて嬉しかった」

「どういたしまして。当時の俺を褒めてやりたいな」

 

 大切な思い出の片隅にいた脇役だとしても光栄だ。

 

「ありがとう。それからは気を使う必要がない、使わないお姉さんとの挨拶が気楽で、心地よかった」

「そうだな。俺も知らなかったから当然だけど」

 

 そういった気遣いが煩(わずら)わしい、面倒だって思う人もいるよな。

 

「昨日、お父さんの件で気を使ったのはよくなかった?」

「ううん。やっぱり嫌じゃなかったから。ほとんど知らない人でも、よく知ってる人でも変わらなかった。でも、お母さんと違って、お父さんの全部を知ったとしても。全部が分かる日は来ないんじゃないかなって。そういう意味では怖い、かな」

 

 逆にいなくなった人を知るのは難しい。

 もうこの世界には存在していないのだから。

 

「全部に全部、今すぐ答えを出す必要はないんじゃないかな。それこそ始まりから終わりまで……お母さんと話して知って、色んな思い出に触れて、たくさんの経験をして、溢れるくらいに積み重ねて。最期に答えが出るかもしれないし、出ないかもしれないけど」

 

 人の数だけ、家族の数だけ答えがあったとしても。

 俺に言えることなんて限られているけど、考えて絞り出す。

 

「シンクが納得できるのなら、どんな形でもいいんじゃないかな。俺も普通の人にはできない経験をしているし」

 

 親指を立てて自分を指さし、決め顔を作る。

 

「危機管理力のない、ずぼらな世話のかかるダメお姉さんを絶賛体験中だからな。まだまだ進化もするし、退化だってするよ」

 

 渾身(こんしん)の自己アピールにシンクはおかしそうに笑い、夜空を見上げた。

 

「そうだね。あたしだけの思い出や経験を積み重ねていくしかないよね」

「今日がその一歩、新しい思い出に経験ってことだな」

「じゃあ、また一つ。あたしの思い出にはお姉さんも入ってることだよね」

「そうなるな。これもまた光栄だよ」

 

 俺も一緒に夜空を見上げる。

 まだ四月も下旬、夜も深まると寒くなってくる。

 

「もしも。お父さんが世界を変えた一因だったとしても。あたしが魔法少女の始まりの一因だったとしても。平気だよ。あたしはみんなと出会えて、おとぎ荘に来て良かったと思うから。魔法少女になって後悔はしてないから。大変な時もあるけど、毎日楽しいから」

 

 ヨハネス・ファウストが茜さんにかけた記憶操作の魔法。

 フラメル司令が書き換えた魔法少女が認知され、戦うのが当たり前の世界。

 ある意味表裏一体で、善か悪かの違いだけなのかもしれない。

 

 だからって三人の分まで俺が全部背負って一人でやるのは……違う気がする。

 それは彼女たちのためにならない、間違った選択だと。

 だから同じ場所にいて、一緒に戦ってあげよう。

 

「それにだって」

 

 柔らかく暖かいものが頬に触れ、隣を見る。

 

「今も昔も――側にいてくれる。あたしだけの勇気の魔法があるから」

 

 シンクが俺の頬を優しく撫でる。

 

「あたしもそんな魔法が使える魔法少女になって、誰かを助けたかったから」

 

 真紅の魔狼にして、孤高の赤ずきんの魔法少女――フェンリル・スカーレットとして。

 

「だから、あたしたちが必ず敵の野望も終末厄災も終わらせる。そうすればお姉さんも安心してお兄さんに戻れるでしょ?」

 

 一人の女の子として。

 

「そうしないとあたしの夢が叶わなくて困るから」

 

 涼しげな笑顔で優しく呟いた。

 

「それは、困るな」

 

 前を見て、立ち向かう彼女たちの意思や想い、夢を尊重してあげようと。

 この世界は知らないことだらけなのに、なぜかそんな風に思える。

 

「なら、帰ろうか。俺が一人占めにして風邪をひかせたら、みんなに怒られちゃうからな。マリンもカグヤもビーフカレーにおはぎを心待ちにしているし――」

 

 頬に触れていた手がアタックフォルムに変わり、ギュッと人差し指で突かれる。

 

「え? シンク、どうかした?」

「はあ、そうだね。お姉さんは危機管理力のない、ずぼらな世話のかかる鈍感ダメお姉さんかもしれないから。身の回りには気をつけてね」

「……分かりました」

 

 鈍感が付け加えられた意味が分からない時点で、俺はそんなお姉さんである。

 だけど、頬を膨らませていたずらをする、年相応のシンクが見れたのなら鈍感でもいいのかな。

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