ミリしら魔法少女アニメ系の男モブに転生したと思ったら、やばい魔導書と契約してTS魔法少女に変身できてしまった   作:春海TMT

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第3話 TS魔法少女クロウ・クルワッハ

「鴨井(かもい)さん、浅葱(あさぎ)さん!?」

 

 簡単には変形しない特殊装甲車両の装甲がひしゃげ、歪んでいる。

 後ろ側にあるリアゲートが蹴破られ、浅葱さんが顔を出した。

 

「私は大丈夫! それより先ほど炎の巨人がさらに二体出現し、そして今、小型の――」

「炎の巨人ならぬ、火の小人の軍勢が現れたというわけか」

 

 甘熊(あまぐま)班長が防護シールドと対魔ブレードを展開し、敵と対峙する。

 燃え盛る人型オルケプス達が前方からやって来くる。

 

「浅葱さん、鴨井君の容態を確認!」

「意識不明! ですが、どうにか……影倉君手伝える!?」

「了解です! ごめんね、少しだけ、ここでじっとしててくれるかな?」

 

 女の子に焦りが伝わらないように、慎重に声をかける。

 

「うん……」

「いい子だね。待っててね」

 

 女の子の頭を撫でてから特殊装甲車両に向かい、浅葱さんと一緒に鴨井さんを運び出す。

 

 意識を失ってはいるが、五体満足。

 座席に足を挟まれて骨折をしているが、まだ治る。

 

 浅葱さんが治癒魔法をかけてる間に、影から緊急治療キットを出して応急処置を済ませる。

 

「応急処置、終わりました!」

 

 一人でオルケプスの進軍を抑えてる甘熊班長に声をかける。

 

「影倉君、脱出地点は分かるな!?」

「はい! 商業施設を抜けた先、三百メートル地点です!」

「班長命令だ! ここは俺に任せて、君達は先に行け!」

 

 一瞬、判断に迷う。

 

「浅葱さん、女の子を頼みます」

 

 それでも指示に従い、鴨井さんを背負う。

 甘熊班長は元魔法執行官で経験値が違う。

 

 この程度なら切り抜けられる。

 そうと信じられるはずなのに、なぜか今回は良くないと頭の片隅でなにかが訴えかけている。

 

「心配するな! また皆で魔法少女談義がしたいからな! 俺は死なないぞ――!」

 

 床にいくつのも魔方陣が広がり、オルケプスが召喚されていく。

 甘熊班長が討伐した倍の増援が送られてきた。

 

 このまま見捨てれば――甘熊班長は。

 

 でも、俺の影魔法は倉庫にしか使えず、戦闘に参加すれば女の子を危険にさらす。

 

 焼け石に水――と思った瞬間、真紅の氷柱が立ち上っていく。

 全てのオルケプスが凍結し、粉砕された。

 

「そこの施設にいる機動応援課の皆様! 今のうちに逃げてくださいですわ! プラチナムからお願いですわ!」

 

 遠くから良く通る女の子の声が聞こえた。

 

「さすが魔法少女だ! 脱出するぞ!」

 

 無事に全員で商業施設から逃げおおせる。

 しかし、背後からはまた増援のオルケプス達が迫っている。

 

 甘熊班長が息を吸い込み、叫ぶ。

 

「ここの要救助者はもういない! お好きに暴れちゃってどーぞ!」

「りょ! 【タイダルフェスティバル】!」

 

 一瞬で現れた膨大な水がオルケプスをまたも押し流し、消滅させた。

 

「やっぱり魔法少女はかっこかわいいな」

「フェアマジ、かっこかわいいー!」

 

 甘熊班長の呟きに、あれだけ暗い顔していた女の子も明るい声だ。

 

 やっぱり彼女達こそ、この世界で光輝く主役だ。

 そんな彼女達を影ながら支えられる誇らしい。

 

 後は脱出地点から――となぜか影が濃く、広がっていく。

 黒い空を見上げれば、また虚空から新たな炎の巨人が――三体召喚された。

 

 退路が断たれた。

 

「全員、さっきの施設に戻れ!」

 

 甘熊班長の命令に従い、また商業施設内に避難すると、氷の防壁が出入り口を覆った。

 

「申し訳ございませんわ! 討伐を終わるまでそこで避難をお願いしますわ! プラチナムからお願いですわ!」

 

 どうにか難を逃れたけど、振り出しだ。

 

「こりゃあ……魔災レベル6にも匹敵するんじゃないか」

 

 今まで気丈に振る舞っていた甘熊班長の口から、初めて畏(おそ)れと絶望がもれた。

 

 魔法少女達はまだ一体目の炎の巨人を倒したばかりだ。

 炎の巨人が氷の防壁を攻撃する度に、地響きで施設が揺れる。

 

 下手をすれば、押し切られるかもしれない。

 そうすれば反転結界が崩壊し、現実に火の海が広がる。

 

 どうすれば――。

 

「そう心配するんじゃねーよ。全員が助かる方法ならここにあるぜ?」

 

 声は俺の横から。

 いつの間にか現れた鍵が付きの漆黒の本からだ。 

 

「オレ様は『アポカリプス・グリモワール』のクロウ・クルワッハ様だぜ。よろしくな」

 

 誰も返事ができなかった。

 その分、思考を動かす。

 

『アポカリプス・グリモワール』って、魔法少女が変身に使ってる『フェアリーテイル・グリモワール』の反対の存在ってことか?

 

 さすがに魔法少女ミリしら知識の俺でも、悪役側ってことだけは分かる。

 

 だから、今は――。

 

「ちょ、おま! 待て待て! てめェの影に突っ込むんじゃねえ!?」

 

 俺の影に封印して、後で魔法管理局の判断を仰ぐ。

 

 ただでさえピンチなんだ。

 問題を増やしたくない。

 

「てめェ、自殺願望者で飽き足らず、こいつら巻き込んで無理心中してえのか!? まあ、オレ様の話を聞けって! 損はさせねえ!」

「悪魔のささやきに乗るとでも?」

 

 あまりに口が悪いので、つい反射的に言い返してしまった。

 

「悪魔? ちげーな。オレ様は邪竜――だから、影にいれようとすんな!」

 

 こいつ自身に俺達をどうこうできる力はないのか?

 

「ったく、乱暴な奴だな。原典の魔導書であるオレ様を敬(うやま)えって……まあ、聞け。この窮地(きゅうち)を脱する力が欲しいんだろ? オレ様がくれてやるぜ」

「だから契約しろって? すると思うか?」

「するさ。それがたった一つの方法だから――って、なに調べてんだ?」

 

 背負っていた鴨居さんを一度、甘熊班長に預けてタブレットで情報収集を行う。

 

 魔法執行官や機動応援課に配布されているタブレットには、物語検索機能がついている。

 

 オルケプスは空想上の存在をモチーフとする場合もあるので、いざという時は索引して弱点を探す。

 

 聞いたことのない名前だけど、ヒットした。

 時間が惜しいのでざっと要約する。

 

 ――クロウ・クルワッハ。もしくはクロム・クルアハ。忌まわしい三日月とも評される。

 

 ――アイルランドで信仰されていたとされ、戦いと死と太陽を司る神。

 

 ――そして人身御供(ひとみごくう)、つまり生け贄を求める邪竜、邪神とも伝えられている。

 

 やっぱり悪役側、しかも絶対厄ネタ関連だろ。

 

「力を与える代わりに、生け贄を差し出せってか?」

 

 強大な力を得る代わりに、誰かが傷つき、命を落とす。

 最悪な取引だ。

 

「ま、そういう契約方法もあるわな。自力で見つけた努力に免じて、特別サービスだ。てめェが好きな代償で力を与えてやるよ。そんなに他者を犠牲にしたくないなら、自分が傷つくもよし、記憶の一部を失うもよし。さあ、どうする?」

 

 ククク……と邪悪な笑い声を漏らすクロウ・クルワッハ。

 また影に沈ませてやりたいが、こらえる。

 

 正直、俺はネームドモブだと思っていた。

 だからこんな選択を迫られるとも思わなかった。

 

「影倉君、こんな奴と契約する必要はないぞ。危険すぎる。封印処置をしよう」

「そうよ。魔法少女を信じましょう」

「きっと『フェアマジ』なら助けてくれるよね?」

 

 みんなの言うとおりだ。

 こんな奴の口車に乗せられてはいけない。

 

 今も外で戦ってくれている魔法少女を信じればいい。

 俺はせいぜいネームドモブなんだから。

 

 でも、それでいいんだろうか。

 そもそもこいつを野放しにするのも不安だし。

 

 ……なぜか幼少の頃、ささいな人助けや相談したことを思い出す。

 

 あの時の俺と今の俺。

 どっちが勇気のある一歩を踏み出せているのか。

 

 俺だけが犠牲になってみんなを助けられるとしたら、足踏みする必要なんてあるか?

 

 でも、その選択はみんなが喜んでくれない。

 哀しませてしまうのを覆(くつがえ)すには……そうだ。

 

 どこかで小耳にはさんだ逸話(いつわ)を思い出す。

 本当にこの世界が魔法少女系世界なら、絶対的な存在は魔法少女。

 

 これなら別に俺も平気だし、誰も傷つかないし、安全なんじゃないか?

 

「なあ、代償ってのは肉体的でも精神的でもいいんだよな?」

「ああ、ジャンルは選ばしてやるよ」

「じゃあ――両方だ」

「ほう……欲張りだな、てめェ。でも嫌いじゃねえぜ。条件を言ってみな」

 

 嬉々として聞いてくるクロウ・クルワッハに、恥辱にまみれた風に答える。

 

「……代償は男性としての尊厳だ」

「そうか。分かったぜ。男性としての尊厳だな……えっと、つまり、どういう代償だ?」

「男性としての尊厳を失うってことだ。つまり――俺を魔法少女にしろ」

「え!?」

 

 三人は驚きの声を上げ、クロウ・クルワッハは本を震わせるほどの好感触だった。

 

「ククク! なるほどな! 男が女になって苦しむ! 正に肉体的にも精神的にも代償だな! 面白え! 契約成立だ! てめェの名前を聞いてなかったな! 言ってみろ!」

 

 防護ヘルメットを外し、素顔を晒す。

 

「影倉伊月(かげくらいつき)だ」

「いい名前だな! じゃあ、イツキ! オレ様に手をあてな!」

 

 みんなから距離をとり、クロウ・クルワッハ――『アポカリプス・グリモワール』に触れる。

 

 自分ではない、別の存在である圧倒的な魔力が逆流してくる。

 知らない知識が流れ込み、何を発し、すべきか理解できた。

 

「始まりから終わりまで――これは俺だけの物語だ」

 

 目の前に漆黒の鍵が現れた。

 

「それはオーバーライドキーって言うんだ! 適性のある者にしか現れねえ! やっぱりてめェを選んだオレ様の目に狂いはなかったぜ!」

「【オーバーライド】」

 

 オーバーライドキーを『アポカリプス・グリモワール』に差し込み、回し、開封する。

 

「さあさあ! クソッタレな封印が解かれ、禁断の扉が開かれた! 共に最高最悪の物語を始めようじゃねえか!」

 

 ページが開かれ、光となって消えたと思えば、俺の足下に広がっていた。

 また閉じられ、内部に取り込まれる。

 

 一面の闇。

 

 感覚だけが研ぎ澄まされる。

 身体が変質する感覚が駆け巡り、男性としての尊厳が消えていくのが分かった。

 

 そして禁断の扉は開かれる。

 

「影倉君が」

「女の子に」

「なっちゃったの……?」

 

 甘熊班長、浅葱さん、女の子が流れるように言った。

 俺は男性から女性に変身した。

 

 短かった髪は腰まで届き、下を向けば……おお、立派な双丘が。

 思わず手で確かめ……おお、柔らかい。

 

 なによりも男性としての尊厳がスカスカのスカスカだ。

 空虚な空間が股下にある。

 

 でもまだ終わりじゃない。

 

「【アポカリプススキン――クロウ・クルワッハ】」

 

 ページが捲(めく)られる度に、側頭部から角が生え、背中から翼が生え、尾てい骨から尻尾が伸び、ネイルもバッチリ決めて、ゴシックドレスを身に纏い――邪竜を模した漆黒の魔法少女に変身した。

 

「どうだい、相棒! 男性としての尊厳を失った気分は!」

「あー……」

 

 これはこれで悪くない、と思う。

 実際、二度目の人生だし、女性になるのもまあ、悪くない。

 

 不謹慎ではあるけど、良い感じとさえ思える不思議な感覚だ。

 でも、こいつには代償と認識させないとダメだからな。

 

「クッ! こんな姿で戦わないといけないなんて屈辱だ!」

 

 声質も高めの凛とした女性ボイスだ。

 

「な、なんてことだ! 影倉君が影倉ちゃんに……!」

「こ、これはなんて恐ろしいんでしょう! 男の子が女の子になってしまうなんてご褒美、じゃなかった! 悲しいわ!!」

「また……『フェアマジ』が増えちゃったの?」

 

 俺の棒読みをフォローすべく、三人も即興をうってくれる。

 

「いいねえ! ゾクゾクする悲鳴だぜ!」

 

 しかし、俺のヘタクソ芝居に騙されるとはこいつ、案外ちょろいのか?

 

「契約は守れよ」

「当然だ。契約不履行(ふりこう)は『アポカリプス・グリモワール』の名折れだからな。好きに暴れていいぜ」

「そうさせてもらう」

 

『アポカリプス・グリモワール』の機能なのか、元が魔導書であることから戦い方が頭に浮かぶ。

 

 影を束ね、刀に変身させた。

 

 外にいる、敵――オルケプスの位置を影から把握。

 一歩踏み込み、翼で飛ぶ。

 

 商業施設の外に出た瞬間、

 

「【三日月斬り】」

 

 影の斬撃を飛ばし、残っていた炎の巨人を一刀両断した。

 

「マジかよ。一撃とは恐れ入った。とんだ魔力量の持ち主だな」

「まあ、機動応援課に入るために、影の中に物を入れまくってトレーニングしてたからな」

 

 刀を影に戻し、着地する。

 反転結界内は鎮火され、静けさが戻った。

 

「しかし、本当に力を貸してくれるんだな」

 

 最後の最後で裏切られると思ったけど、今のところそういう気配は感じない。

 

「バッカ、さっきも言ったじゃねーか。契約なんだから不履行だめだろ。つーか、オレ様もあいつらムカツクしな! 一番上を敬えってんだ!」

 

 こいつ、仁義は通すヤンキー系か?

 

 クロウ・クルワッハと話していると、強大な魔力の気配が三つ降りてくる。

 

 狼耳にフサフサの尻尾を生やし、マントや煌びやかなドレスを身に纏った、真紅のウルフカット――フェンリル・スカーレット。

 

 ギザギザとした歯に鮫の尻尾を生やし、セーラー水着を身に纏った、真っ青なツインテール――リヴァイアサン・アクアマリン。

 

 細長い耳に背中から黒い翼を生やし、和服を身に纏った、銀髪のポニーテール――アザゼル・プラチナム。

 

『フェアリーテイル・マジカルストライカー』である魔法少女達が俺を取り囲んだ。

 

「で、どうするよ、相(・)棒(・)》。今のてめェは異端にして異形。敵も味方もいない。頼れるのはオレ様しか――」

 

 クロウ・クルワッハは無視して、両手を挙げる。

 

「機動応援課第十班所属、影倉伊月です。信じてもらえないと思えますが、男です。人命救助のために契約しましたが、反抗の意思はありません。投降します」

「おまっ! バカ野郎! 焚書(ふんしょ)されるぞ!」

 

 影倉伊月……? と三人の魔法少女がなぜか目を見開いて驚き、

 

「お兄さんが?」

「師匠が?」

「婿様が?」

 

 知らない設定を呟いた。

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