ミリしら魔法少女アニメ系の男モブに転生したと思ったら、やばい魔導書と契約してTS魔法少女に変身できてしまった 作:春海TMT
三人の魔法少女達が、俺達の方にやってくる。
俺と目を合わせずに、無言で。
当然だ。
先ほどまでの
何よりも敵側、しかも原典である『アポカリプス・グリモワール』のクロウ・クルワッハと契約したのだから。
俺の第一印象は――危機管理力のない、ずぼらなダメお姉さん(お兄さん)だ。
これから一緒に行動するのに好感度はマイナス最低値、ドン底からのスタート。
先が思いやられる。
しかし、俺だって年上、
機動応援課採用試験に集った魔法少女好きの猛者を蹴散らした、面接力を見せてやる!
爽やかな笑みを浮かべ、凛とした女性ボイスで自己紹介をする。
「改めて初めまして。僕は
魔法少女……無言で
ファーストインプレッション、玉砕。
「イツキの魔法少女変身による代償と違って、彼女達の外的変化は負荷を和らげるためのクールタイムだと思ってくれ。一時間で解除されて戻る。決しておじさんの趣味ではない。あったとしてもちょっとだけしかない」
見かねたフラメル司令が場を取り持ってくれる。
三人の魔法少女も普通の制服に戻っているけど、外見は変化したままだ。
魔法少女系世界であっても、みんなの髪はカラフルなバリエーションに富んではいないし、獣人や天使がいるわけでもない。
地毛は黒で、至って普通なのだ。
そして真紅のウルフカットに、狼耳と尻尾を生やした魔法少女が静かに一歩前に出る。
「あたしはフェンリル・スカーレット――本名は
「え? 狼神って、もしかして近所の狼神さん……?」
驚いて思わず出た言葉に、狼神さんの狼耳がピクリと反応し、強ばっていた表情を和らげる。
「……うん。そうだよ。よかった。ちゃんと覚えててくれたんだ、お兄さん」
ようやく俺を見つめてくれる、氷を思わせる
今も挨拶をする程度の仲でしかなかったけど、切れ長の目やクールな雰囲気はそっくりだ。
「普段はあたしのことはシンクって呼んでね。魔法少女の身バレ防止のため。もちろん、さん付け禁止」
「分かったよ、シンク」
「うん。これからよろしくね、お兄さん……あ、そっか。今はお姉さんか」
シンクは尻尾を揺らし、おかしそうに笑った。
俺はその呼び方でいいのか? と疑問が残るけど、今はいいか。
続いて白銀のポニーテールに、細長い耳、黒い翼を生やした魔法少女が堂々と一歩前に出る。
「私はアザゼル・プラチナム――本名は
「え? 天地って、もしかして我が家の会社を
またしても驚き思わず出た言葉に、天地さんは両手を組んで感激した。
「ええ、ええ! そうですわ! いつも贔屓にしてる天地家の
よく通る声にバッサバッサと羽ばたく翼に圧倒されながら、潤んだ黄金色の瞳を見返す。
「私のことは気兼ねなく、カグヤと親愛を込めて呼んでくださいですわ! 私と婿様の仲ですもの!」
「えっと……分かったよ、カグヤ」
「ええ! これからよろしくお願いしますわ!
許嫁に婿様とか嫁様ってなに? 謎の呼び方に気になりつつもまた後で。
最後にマリンブルーのツインテールに、ギザギザとした歯に鮫の尻尾を生やした魔法少女が勢いよく出てきた。
「マリンはリヴァイアサン・アクアマリン――本名は
「え? えっと……ごめん。どこかで会ったっけ?」
ここまできたらこの子もと思ったけど、今回は心当たりがなかった。
「師匠!? あの時の出会いを忘れちゃったの!? 一番、濃厚だと思ったんだけど!? 思い出してよ、師匠!」
「ごめん、
よほどショックだったらしい乙鮫さんは、本物の鮫を思わせる勢いで食い下がって……あ。
「もしかして、鮫のぬいぐるみの子?」
確認するように影から缶詰を取り出すふりをする。
「そー! そーだよ! やっぱり師匠、覚えててくれたんだ! うん! その時のマリンだよ! マリンはいつでもマリンだから、マリンでよろ!」
鮫の尻尾をビチビチと元気よく揺らし、マリンは紫色の瞳を輝かせた。
「うん。よろしくね、マリン」
「えへへ! これからよろしくね、師匠!」
師匠呼びは……まあ、いい……のか?
またしても新たな疑問ができたけど、また後回し。
なぜなら、なぜかカグヤが高笑いしているからだ。
「おほほほ……まずは脱落者一名のようですわね、マリンさん?」
「だね。マリンは幼なじみ力も思い出力も弱すぎる」
そしてなぜかシンクも同意する。
「はあ!? 今時、子供の頃の幼なじみ路線は負けフラグなんですー! むしろ、思い出力はマリンさいつよじゃね!? そうでなくても初対面系ギャルって勝ち確じゃん!」
マリンの反論にもシンクは淡々と受け答える。
「昨今は幼なじみ系も再評価されてるから。むしろぽっと出ギャルは負けフラグだよ」
「ですが、マリンさんの反論にも一理ありますわ。さいつよは不本意な許嫁からの溺愛系ですわ」
余裕を崩さないカグヤにも、シンクはジト目を向ける。
「カグヤは婚約破棄された悪役令嬢によって、破滅させられるかませ令嬢側じゃ?」
「そーだよ。カグヤはかませ令嬢を演じさせたら、ワールドクラスの主演女優賞レベルだし」
「おほほほ……言うじゃありませんの。これは誰がナンバーワンか白黒ハッキリ付けるべきですわね」
ブンブン、バッサバッサ、ビチビチと威嚇する音が鳴り響く。
……ずっと魔法少女は遠い存在だと思っていた。
でも、間近で見て聞けば普通で、等身大の女の子達だ。
口喧嘩の原因は不明だけど、きっとなんてことのない事柄で喧嘩をしている。
でもまあ、本気ではなさそうだけど……止めた方がいいよな?
フラメル司令や阿部市長は微笑ましそうに傍観しているけど。
これから三人のサポートを日常的にするし、一緒に戦うんだから。
しかし、どうやって止めるべきか。
……クロウ・クルワッハを投げ入れて、サンドバッグとして生け贄に捧げてみるか?
「おい、イツキ。今よからぬことを考え――ムググッ!」
今こいつを解き放つとさらに混沌が広がりそうだからやめておこう。
年頃の女の子のパワーに圧倒されていると、アニメやマンガでしかみたことのないような煙が三人から吹き出し――黒髪の女の子の姿に戻った。
そして遅れて俺も似た感じで煙が吹き出し――男性としての尊厳が復活した。
そのタイミングでフラメル司令が手を鳴らして注目を集めた。
「じゃあ、今日は色々あったし、みんな疲れているからこの辺で解散としよう。後は若い者同士でよろしくやってくれよ」
俺たちの中で一番背が低い女性だけど、中身は一番大人だ。
俺も家に帰してくれるのかな。
機動応援課に就職してからは一人暮らしだから、今日のご飯はコンビニで買ってすませるか。
阿部市長が手をあげて、俺を見た。
「ああ、僕も一つ言い忘れていました。これからイツキさんには彼女達と同じ家で寝食を共にしてもらいます」
「え?」
聞いてない話に思考が停止する。
「平時は『FMS』の専属マネージャーとして活動してもらうと言ったでしょう? 彼女達はまだ高校生になったばかり、やりたいことがたくさんあります。時間はいくらあっても足りない。身の回りのお世話もマネージャーのお仕事ですよ」
「は、はい」
俺は雇われの身。
「彼女達もイツキさんの監督官として役目がありますから。貴方は新米魔法少女であり、未知の領域も多い。万が一暴走した時のために、セーフティは用意しておくべきです。相互監視ですよ。これで他の方達にご理解いただけましたから」
「僕は分かりましたが、彼女達は? 女性に変身できると言っても今は……男ですよ? 一緒に暮らすのは倫理的に問題があるのでは?」
阿部市長に意見を述べて、三人を見る。
嫌そうな顔はしていないようだけど、頬を赤くして困っている。
幼少の頃に面識があったとしても、ほぼ見知らぬ男性と暮らすのはハードルが高すぎる。
「安心してください。彼女達もこの提案に非常に、とてつもなく、前向きですから」
「え? そうなんですか?」
もう一度三人を見ると、さらに顔を赤くしている。
「うん。あたしはお兄さんと一緒に暮らすの、嫌じゃないよ」
「ええ。私は婿様と一緒に暮らしてはいけない道理などありませんわ」
「もち。マリンは師匠と暮らすのちょー楽しみ!」
それでも笑顔を浮かべ、好意的な言葉で歓迎してくれる。
なら、俺がためらう理由はない。
「分かりました。では、そうさせていただきます」
別に下心があるわけじゃないしな。
堂々とし、他人様に言えないようなことをしなければいいだけの話だ。
「はい。必要な物があれば、こちらで用意しますから。遠慮せずに言ってください」
「そういうわけだ。魔法少女として、マネージャーとして、存分に親睦を深めていいぞ。おじさんが許す。期待してるからな、イツキ」
相変わらず糸目で、感情が読めない阿部市長。
ニヤニヤ顔で、怪しさMAXなフラメル司令。
もしや阿部市長とフラメル司令は胡散臭い裏切りそうなポジション――うさぎりペアなのでは?
◆
「マリン達のアジトにとーちゃく!」
「着いたよ。ここがあたし達の家」
「ようこそ、おとぎ荘にですわ」
送迎車で送り届けられた家はデカくて広くて高かった。
俺の
フラメル司令が言っていた、魔法少女――彼女達にはなんでもしてあげたいという現れなんだろう。
絶対に生活で不自由させない意思を感じられる。
三人の案内でオートロックの玄関を通され、リビングへ。
リビングだけで俺が借りているマンションの部屋分、いやそれ以上のスペースがないか?
「おおー……広い――ちょっと散らかってる?」
通学カバンが床に転がり、椅子にはタオルや服が無造作にかけられ、食器は洗い桶に付けたまま、ゴミ箱は今にも溢れそうなほど一杯。
「いや、ちょっとってレベルじゃねーだろ、これは。盗みにでも入られたのか?」
抱きかかえるクロウ・クルワッハの言うとおりではある。
当然、俺がこの家――おとぎ荘に暮らすのなら、こいつも一緒だ。
しかし、今は目の前の惨状に意識をもってかれる。
実家がカゲクラサービスという掃除屋だったけど、おかげさまで家事代行サービスまで手を広げた。
その過程のマニュアル作りを手伝ったりしたこともあり、どうしても気になってしまう。
「きょ、今日は予報になかった緊急の魔災で……ドタバタしてたから。お兄さんが来るって知ってたら綺麗にしてたから」
「そうですわ! 普段はも、もっと綺麗にしていますわ! ハウスキーパーさんも定期的に来ていただけますし!」
「そーだよ! 少なくとも汚部屋ポイントは一カ所だけだから! ね、シンク!」
「うん。マリンの言うとおり。汚部屋は一カ所だけ」
「お二方!? 今は仲間を売っている場合じゃありませんわよ! 一致団結する時ですわ!」
恥ずかしそうに説明する三人を見ても笑ったりしない。
「そっか。そうだよな」
魔災は事前に予報が出され、対応する側も準備する
しかし、今回のような緊急ではそうもいかない。
彼女達は俺達のように仕事として、待機して備えているわけじゃない。
三人は高校一年生になったばかり。
やりたいことがたくさんある女子高生でもある。
時間はいくらあっても足りない――阿部市長やフラメル司令の言っていた言葉を真に理解する。
「じゃあ、今日はささっと片づけて。お兄さんの歓迎会の準備に回そう」
「名案ですわ。今日はザっと隅に追いやって。婿様の歓迎会一択ですわ」
「同意。とりま、パパーっと寄せ集めてぇ。師匠のウェルカムパーティーしよ!」
「まずは――徹底的に掃除しよう」
歓迎してくれるのは嬉しいけど、俺のことより彼女達のことだ。
しかし、なぜか三人が固まって俺を見て、
「なんでぇ!?」
仲良く叫んだ。
「そりゃそーだろ。まずは掃除しよーぜ。寝床は綺麗にしねーとな」
むしろ、クロウ・クルワッハが同意した。