ミリしら魔法少女アニメ系の男モブに転生したと思ったら、やばい魔導書と契約してTS魔法少女に変身できてしまった 作:春海TMT
こういったイベント系はマリンが率先して進めるようで、ガイドみたいな旗を持ち出していた。
「一階は共用スペース。洗面所、お風呂、リビング、キッチンなどなど、みんなが利用する生活空間だよ」
メインで掃除するのは一階だろうな。
そして階段を上り、
「二階はトレーニング&ミーティングルーム!」
トレーニングの器具のお手入れや観葉植物を置いてもよさそうだ。
そして階段を上り、
「三階はみんなのプライベートルーム! 個室は完全防音、ウルトラ回線完備! 夜通しドンチャン騒ぎしてもだいじょーぶ!」
寮のように個室が並び、三人のネームプレートがかけられている。
「ここがあたしの部屋だよ」
シンクが自分の部屋のドアノブを回して、ドアを開けた。
「……中を見ても大丈夫?」
「お兄さんに見られて恥ずかしい部屋じゃないし、どうぞ」
入らないとイベントは進行しなそうなので、招かれる。
寒色系のインテリアで統一されているけど、狼のぬいぐるみがベッドに置かれていたり、と女の子の部屋という感じだ。
しかし、個室もやっぱり俺が借りている部屋より十分に広いな。
「お兄さん、これ、覚えてる?」
シンクが小さな宝箱を持ってきて、中身を見せる。
「ニホンオオカミのキーホルダー? もしかして、小さい頃に拾った落とし物?」
正解だったのか、シンクは微笑んだ。
「うん。あの時、お兄さんに拾ってもらったお守り。これのおかげで今のあたしがあるんだ」
言葉に強い思いが込められている気がした。
俺もここから目的が変わり、今この場に立っている。
これから大変だけど気を引き締めていこう、というメッセージなのかもしれない。
「困ったらなんでも聞いてね、お兄さん。近所のよしみだよ」
「分かったよ。頼りにさせてもらうよ」
やっぱりそういうことっぽいな。
「そろそろ次にいかないと噛まれるから、行こっか」
次に訪れたのは、
「ようこそ、師匠! ここがマリンのシークレットドック!」
こちらも鮫のぬいぐるみが一部を占領しているけど、PCなどの現代的な機材も並んでいる。
「それで……師匠。この子、覚えてる、よね?」
あれだけ元気いっぱいだったマリンが急に静まり、鮫のぬいぐるみを顔の前で掲げて見せた。
「もしかしなくても、あの時の公園で持ってた子?」
これまた正解だったのか、マリンは頬を緩めた。
「そーだよ、メガロドドン子ちゃん。やっぱり覚えててくれたんだ。だからマリンは自分の好きを広めようと、Vでゲーム配信もやってるんだ。アルティメットトルネードシャー子! がぶりんこ!」
実際に配信でやっているポーズを交えて、嬉しそうに言った。
「魔法少女に学生に配信って……凄いな」
「うん。まだ慣れないところもあるけど、楽しいから平気だよ。師匠に情けない姿は見せられないし。お悩み相談コーナーはいつでも開いてるから、コラボ待ってるよ」
「分かったよ。その時は相談させてもらうよ」
これまた頑張れとエールなのかもしれないな。
「じゃあ、次は……どうしよ」
なぜかマリンとアクアは顔を見合わせて、気まずそうになった。
このまま順当に行けば、カグヤの部屋なんだけど。
「私の部屋はまた今度で……」
彼女は自分の部屋の前で陣取り、青ざめた顔で言った。
「無理矢理はよくないし、大丈夫だよ。興味本位で覗き見したいわけじゃないからね」
「お兄さんの言うとおりだよ。パンドラの箱は開けないままでいい」
「目に見える死亡フラグは回避すべきだし。玉手箱を開けてお爺ちゃんになっちゃうかもだし」
俺をフォローしているというよりは、カグヤをグサグサ刺しているような言動の二人。
「……や、やっぱり! ちょっとだけ見ていってくださいですわ!」
やけくそになってしまったカグヤは自分の部屋に入り、
「どうぞ、婿様。覗き見してください」
ごくわずかに開けたドアの隙間から言った。
……ここで言い合いをするとまたしてもイベントが進行しなそうなので、覗き見る。
今日見たリビングの比をじゃない、衣服や物の山が。
「こ、これは……深淵!?」
「深淵!?」
思わず口を滑らしてしまったワードに、三人が反応してしまった。
まずい、早くフォローしないと。
「いや、その……深淵というのは実家のカゲクラサービスでの専門用語で」
部屋のゴミや散らかり度を総合評価し、お客様を不快にさせないようやんわりと誤魔化す
他にも暗黒、闇堕ちなどなど……いや、その説明をしてどうする!?
あまりの深淵っぷりに気が動転してしまった。
ここからどう立て直せば……このままだとカグヤを傷つけてしまう。
「なるほど、レベル深淵か。確かにその領域だね」
「マジで見たら引きずり込まれるホラゲ系だよね。マリンも飲まれかけたし」
「深淵でごめんなさいですわ!」
どうやらバレバレだった。
「違うのですわ! これは魔法少女アザゼル・プラチナムの影響なのですわ! 堕天使故、堕落に引き寄せられているのですわ! 私だってしたくてしているわけではありませんわ!」
「そ、そんなデメリットがあるのか……」
フェアリーテイル・マジカルストライカーにもそんな闇が。
「いや、ないよ。変身しても外見以外は影響ないから」
「だよね。マリンも鮫みたいに人をガブっとしたくはないし」
さっそく裏切りにあう。
バタン! とドアが閉められた。
このまま放っておくわけにはいかない。
「カグヤ。片づけができない人にだって、それぞれ事情があって、悩みがあるのは知ってるよ。だから今度、片付けを手伝いながら、聞かせてくれないかな?」
勢いよくドアが開かれた。
「婿様! ありがとうございますわ! ぜひ、永久雇用でお願いしますわ!」
カグヤがポジティブで良かった。
「どさくさに紛れてなにを言ってるのかな、カグヤは」
「マジで転んでもただでは起きない、パワー系お嬢様だよね」
ジト目で呟く二人の視線もなんのその、カグヤは手に持った物を俺に見せてくれる。
「このメガ甘コーヒー牛乳を覚えていらっしゃいますか!?」
ガラスケースに収められ、リボンラッピングがされた缶だ。
「もしかしなくても、まさかの俺が小さい頃に奢った物?」
「そうですわ! 婿様の助言で吹っ切れたおかげで、今の私があるのですわ! 片づけは婿様のご指導ご鞭撻のほど、おいおい頑張っていきますわ……」
「うん。焦らずゆっくり、頑張っていこうね」
間違いなくお互いに困難を前にしても、頑張っていこうというメッセージだ。
「深淵を覗き見るのはこの辺にして。じゃあ、最後にお兄さんの部屋。あたしの隣ね」
カグヤの部屋のお掃除計画を立てながら、またシンクの部屋を通りすぎる。
「……ご近所トラブルにならないように角部屋とったのがミスだったなあ」
「……私はご近所トラブルが恥ずかしいので良かったとしますわ」
同世代の同居生活で、トラブルは避けて通れない。
お互いに気遣いが必要というわけだ。
「ベッドは備え付けのあるから。今日のところは我慢してね。しかし、深淵を覗き見した後だと、部屋が広く感じるね」
シンクの言葉にみんなが無言で同意してしまった。
同居生活の難しさを目の当たりにし、最後に案内された場所は。
「ラスダン屋上にとうちゃーく! 緊急時は発着スペースにもなるよ! 今日もここからみんなで飛び立ちました!」
夜風に当たりながら街並みを眺める。
ドタバタとした歓迎会で温まった熱が冷めていく。
最後を締めくくるのに、一つ聞いておきたいことがある。
「三人は魔法少女になって良かった?」
なった理由を聞くのはまだ早い気がして。
星空の下、キラキラと輝く三人の女の子は笑った。
それが答えだった。
そして、決意を口にする。
「あたし達は魔法少女として夢と希望を――」
「マリン達は魔法少女としてみんなを――」
「私達は魔法少女として世界を――」
三人とも幼少の頃から成長し、性格も変化しつつも根は変わっていない。
「終末厄災から守るよ」
俺は彼女達を影ながら、時に隣に立って支えていこうと誓い――。
「じゃあ、俺は――掃除の続きするよ」
「なんでぇ!?」
また答えを間違ったらしい。