ミリしら魔法少女アニメ系の男モブに転生したと思ったら、やばい魔導書と契約してTS魔法少女に変身できてしまった 作:春海とまと
名だたる才女、お嬢様達が通う男子禁制の高等学校。
一部の女子生徒からは聖域の三乙女と
昼休み、三人はいつものように中庭のベンチで昼食をとる。
三人の昼食会は聖域と定義され、何人たりとも足を踏み入れてはいけない。
クラスメイトさえ声をかけてはいけない暗黙の協定ができていた。
魔法少女としても活動する三人にとっては都合の良い協定だが、
「お兄さんの作ったからあげ、冷めてても美味しい」
「ぶりの照り焼き……これは匠の技。さすが師匠」
「厚焼き玉子もあまあまで、いくらでも食べれますわ。婿様の愛情が込められていますわ」
三人はそんな名称も協定も知らず、伊月が作っていたお弁当を存分に味わっていた。
おかずは同じだが、量はそれぞれ好みに合わせて増減させられている。
「あたしも料理に自信はあったけど……まだまだかな」
「シンクのお弁当もマリンは好きだよ? お味噌汁だっていくらでも飲めちゃうし」
「ええ、決して劣っているわけではないのですから、自信を持ってくださいですわ。シンクのお味噌汁はグビグビ飲めますわ」
マリンとカグヤはポットから味噌汁を出して、ホッと一息ついた。
「二人ともありがとう」
シンクは礼を言って、自分も味噌汁をすすった。
「でもさー、マリン。昨日、師匠が率先してお掃除していたのを見て思ったんだ。一緒に暮らすようになって、シンクに甘えて負担かけてたなって」
「うっ。おとぎ荘の生活環境を害しているナンバーワンとしては耳が痛いですわ」
魔法少女として活動するようになって三ヶ月。
それはおとぎ荘で共同生活を始めた期間でもある。
お互い初対面でありながらすぐに打ち解け、自然と役割分担が構築されていった。
「何度も言ってるけど、負担とは思ってないよ。マリンはあたし達のバランサーだし、色んなことをフォローしてくれるし。カグヤだって難しい事務作業や作戦計画も率先してやってくれれるし。あたしは家事くらいしかできないし」
シンクは穏やかな笑みを浮かべて言った。
「分かってるよ。それでももー少し、協力してあげたらよかったなあって」
「私も手伝えることがあればいいのですが、お片付け以外」
マリンは前向きに、カグヤも後ろ向きなようでちょっとだけ前向きに答えた。
「ありがとう。そう言ってくれるだけで嬉しいよ。今後はお兄さんが助けてくれるから、あたし達の負担は自然と減る。だから魔法少女として、今後のことを考えよう」
「今後は敵の侵攻が本格的になるって予測が出てるし、マリン達もさらにレベルアップしないと」
「ええ。体調は万全にしなければなりませんわ。何事も食事からですわ」
三人は気持ちを引き締め、ご飯一粒、食べ残しが一切ないよう食べきり、綺麗になったお弁当箱を置く。
「そう。本格的になる。そこで一番に問題になるのが、お兄さん。家事全般のエキスパート――つまり、女子力が高すぎるってことだよ」
シンクの言葉の
「う、うん? 確かに師匠、なんでもできるマンだったよねー。一家に一人欲しい」
「そう、ですわね。やはり永久雇用をお願いしたくなりますわ」
「間違いなく、特別天然記念物国宝級物件だよ。でも、今後のことを考えたら大変だから」
ことの重大さに気がついていない二人に、シンクは現実を突きつける。
「この先、お兄さんが変身してお姉さんになったら、世の中の男性が黙っていない。つまり――貞操の危機だよ」
「な!?」
ようやく真意を理解し、マリンとシンクはギョッとした。
「つまりWSSから!?」
「NTRってことですの!?」
お清楚女子校で飛び出さないワードが飛び出すほどの衝撃だった。
シンクは動じずに深刻な顔で頷く。
「そうだよ。WSSからのNTRって言うあたし達にとっての終末厄災」
伊月が魔法少女に変身して投降した後、三人はお互いの思い出を共有していた。
女性に変身した伊月は、同性の自分達でも思わず惚れてしまいそうな絶世の美少女だった。
それでもかつての憧れの人――初恋の相手である、
凛とした声に、整った顔立ち、つい甘えたくなるような雰囲気も、全て男性の時を思わせるものだったから。
女性に変身しても変わらない面影、彼本来の気質なのだと。
だが、それでも自信は揺らぎ、不安が押し寄せる。
それはあくまで自分達だけの話であって、他人には関係ない。
もしもWSSからのNTRが現実になれば、初恋は終わりを迎えるのだから。
マリンは手を震わせ、乾いた笑いを浮かべる。
「で、でもさあ……なくない? 師匠も学生時代の親友や友人に、女性の姿で会おうとは思わないじゃん? 問題は起きなくない? 間違いは起きなくない?」
「そ、そうですわ。婿様の貞操観念は至極まともだと思いますわ。異性? いえ、同性? とにかく男性を色香で惑わすような真似はしないはずですわ」
カグヤも賛同した。
しかし、シンクは二人の現実逃避を否定する。
「いるじゃない、一匹……クロウ・クルワッハが」
「マジ? あの魔導書がWSSからのNTR大本命なの?」
「待ってくださいですわ。TS女子と擬人化異種族恋愛はレベルが高すぎませんこと?」
それでもまだ受け入れきれない二人に、シンクは続ける。
「最初は敵として出会い、反目し合う関係だけど、イベントを通して絆を深め、次第に惹かれあっていく。幼なじみの天敵だよ。既にクー太郎なんて呼ばれてる」
クー太郎!? とフレンドリーワードを聞いたマリンとカグヤに電撃が走る。
「白ギャルには黒ギャルをぶつけるんだよ的な!?」
「主役かませ令嬢には悪役令嬢をぶつける的なですの!?」
ようやく現実に直面した二人に、シンクは重々しく頷き、
「それも全部、あたし達が弱かったから」
悲しそうに言った。
昨日の魔災――終末厄災でもっと早く炎の巨人型オルケプスを討伐できていれば。
伊月はクロウ・クルワッハと契約することはなく、魔法少女として変身することもなく、WSSからのNTRなんて問題も発生しなかったのだ。
シンクはそう二人に目で語りかける。
「だから、あたし達は今まで以上に結束し、強くならなきゃ駄目。お兄さんをお姉さんにしないために」
シンクが右手を前に伸ばす。
それは三人が初めて会い、『フェアリーテイル・グリモワール』と契約し、魔法少女としての誓いを交わした思い出もある。
マリンとカグヤも同じ気持ちで手を会わせ、言葉を重ねる。
「終末厄災から――お兄さんの……お姉さんの貞操を守るために!」
魔法少女――フェアリーテイル・マジカルストライカーとして一致団結し、また絆を深めた三人。
昼休みも残り少なくなり、三人は何げなく中庭の渡り廊下を見て、かたまった。
帽子を被り、黒い作業着を着た――男性。
本来、男子禁制の花園に足を踏み入れてはならない存在。
長い年月、密かに追いかけ続けていた影倉伊月が、担任の
とても、なんだか、凄く仲が良さそうな雰囲気で。
自分達に見せる優しい笑顔と何ら変わらぬ様子で。
瞬間、魔法少女として鍛えていた能力をいかんなく発揮し、二人に接敵した。
「お兄さん、なぜここに!?」
「師匠、突発イベント発生!?」
「婿様、どうして我が学園に訪問を!?」
伊月は申し訳なさそうにしながら、
「ごめん、連絡しようにも止められて。今日はサヴァプラスとして駆除依頼で来たんだ。安心して、入校証もあるし」
スキマ時間バイト『サヴァプラス』のネームプレートに、入校証の名札を見せる。
答えにはなっているが、肝心なところはまだ答えられていない。
三人は先の話題を思い出し、ゆるふわ担任の鳳先生を見る。
「あら? みなさんお知り合いですか? 実は
三人はその言葉を聞いて、今回の件の黒幕をすぐさま察した。
自分達の上司であるフラメル司令の仕業だと。
なぜなら御籠聖女学園の理事長はフラメル司令だから。
肩書きが多すぎるおじさんだった。
しかし、今は目の前のゆるふわ担任に意識が持ってかれた。
自分達が注目の的になっていることを気づかないほどに。
聖域の三乙女の知人――年上の男性。
そうでなくても男子禁制の花園に現れた異性に、中庭や廊下の隅から視線が注がれる。
「狼神さんの……近所のお兄さんで、乙鮫さんの師匠さんで、天地さんの婿さんでもあるんですか?」
「はい。三人とも僕の知り合いです」
鳳先生に対し、伊月は外向けの言葉遣いで対応し、
「はい! あたしのお兄さんです!」
「うん! マリンの師匠だよ!」
「ええ! 私の婿様ですわ!」
三人は負けじと学園全体に届きそうなほどの声で断言した。
「あらあら……それは、大変なんですねえ、みなさん仲がいいですねえ」
鳳先生の脳内に複雑な人間関係が構築され、ゆるふわ頭脳はパンクし、思考を放棄した。
これ以降、御籠聖女学園では聖域の三乙女の謎のお兄さん兼師匠兼婿様――と複雑な人間関係として認識されるようになる。