異世界転生して2日目。
ごめん、同級会には行けません。
いま、クソ理不尽な異世界にいます。
この私を体の一部にしちゃうバイオな生物に私は同居しています。
本当は、あの頃が恋しいけれど……。
でも、今はもう少しだけ知らないふりをします。
私を取り込んだこのクリーチャーも、きっといつか、誰かのロケランに焼け死ぬと思うから。
P.S. かゆうま
《いや早くッ!助けてくださいお願いしますよぉ!》
死ぬ。心が死んでしまうぞ杏◯郎ッ!
早く誰か適当な主人公を連れて来いよ!
勇者でも柱でも何でもいいかさぁ…。
飽きたんだ。ミギー宜しくこのモンスから色々知り得るものも有った。だけど、それとこれとは別問題に気付いてしまったんだ。
コイツ、強いよ、マジで。
適当なサイコロステーキ先輩なら一秒で4人分卸せるくらい強い。1人当たりが弱過ぎて比較にならない?それはそう。
――ドスッ……ドスッ……――
何なんだ。お前は一体。何なんだ。
くっ…。季語がない。これだから平安最強につまらん認定されるのだぞ小僧。
こいつの移動速度はたかが知れてるが、ルートはランダムでたまに野生のマ◯ハンドを追いかけっこをするくらい。決まった道を歩いて居るようなら即叛逆コースを探さなければならなかったが、そうでもないので様子見に徹していた。
だがコイツに勝てそうな野生のミ◯・ジョヴォヴィッチは一向に現れる事なく。むしろコイツの快進撃が続いてくばかり。
余りにも面白みのない光景にハンドサインでブーイングしてみるが効果はない。ぶーぶー!
《このまま心中はいかんぜよ。…およよ?》
無感動に浪費する時の歩みに諦観を感じながらも、何かきっかけとなるものを探していた私に、その時は突如として訪れた。
《上がって回って回って…んんン?何じゃぁアレは》
鬱蒼とした茂みより上の天空の彼方、目に映り込んだのは一つの影。眩い逆光に遮られるものの、その飛翔体は明らかな速度と狙いを持って空を駆ける。その勢いは他のものを圧倒するのに十分で、大気は靡き、草木は騒がしく蠢きだす。
停滞してた時が急速に回転し始めるのを横目に、私はその正体を暴こうと無い眼を凝らした。
――空を撫でるように舞う人の姿。
――尾の如く続くのは燦々と輝き散っていく光の粒子。
――その不可思議に名を付けるのならば、それは――
《……魔法?》
そう、“魔法”である。
ファンタジーならば必然的にセットな単語。
如何なる異世界だろうと、なんなら現代に限りなく近いものであろうと、不可能なものに適当な都合をつける際にとっても便利なのが魔法という代物だ。
火やら、時間やら、生命や精神などなど。正しく、なんでもござれの万能薬。なんでも出来過ぎるが故に、“才能”とか云うもので制限を付けがちな不遇で扱いずらい子でもあるのが魔法というものである。
さぁーてさてさて、ここで問題。
魔法が使える仮称“魔女っ子”ちゃんが“見るからに化け物”の頭上にカッ飛んでいるとします。
次に起こるだろう碌でもない景色を思い浮かべてみて下さい。
…はい。もうお分かりですね。
――…?!?!!??!!‼︎…――
“みなまで言うな”、だろう。
――ガァ゛ァアアアアアアアッ!!!――
その大口から飛び出す咆哮に荒ぶる気持ちは加速して行く。
その心情は皆同じくしていただろう。
誰もが逆らう事できず君臨し続けた暴君が、たった1人の
「――見つけたッ!」
滑空ではなく、更なる加速による落下。
小柄な身を押し出すその力は、赤く脈打ち溢れるプリズム。
微かに届いた声にはまだ幼さなさが残るものの、その気迫は唯ならぬものであった。
推進力は阻む筈の大気の壁を押し除け、前へ前へと直進する。だが相対するその巨体の持ち主も、ただ茫然と惚けるばかりではない。
四足獣にあるまじき二足での自立歩行を可能とする骨格は、その剛腕を自在に振るうことを是とするもの。更には、その背丈を伸ばすことにより上段の有利、視野の確保など、戦闘における様々な恩恵すらも会得していく。まさに、成るべくして成った“王”。暴君に相応しい純粋な力を化け物は保有していた。
しかしそんな力の摂理に反目する者が、ついぞ現れようとする日が来ようなどと、“王”は考えもしなかっただろう。
「――ぜんりょく!!ぜんかい!!」
轟く雷鳴に近い地響きに、世界は我を忘れていたかのように静寂を鳴らし続けた。
数にして1秒――否。瞬きに等しい光の中で決着はついていた。
「――――ぁ」
勝負にすら、土俵にすら上がること叶わず。
王は強者であるから王なのである。立ち塞がる壁に臆する者は喰われ。敗れる者は踏みつけに処す。
この森に潜む者全ては王の餌に過ぎず、それは彼方上空であっても同じこと。
その瞳はただ弱者を映すためのもの。その牙はただ食すためのもの。それは変わる事のない不変の事実と過去。塗り替えるにはその牙を折らねばならない。だが、今日もまた、その現実は変わらない。
「――――――…ゃ、いや」
飛来した少女、その結末はこの森ではありふれたものに違いなかった。
《なんでや!!即落ち2コマか!?テメェはよッ!?》
私は激怒した。
必ず、かの期待させ出オチ少女を引っ叩かなければと決意した。
◆――side.魔女っ子――◆
“おねぇちゃんはね!すごいのよっ”
わたしは、その言葉に応えてあげたかった。
「――――――…ゃ、いや」
耳の奥がドクドクと蠢いている。頭も、ものすごく、痛い。
なんで…わたしは倒れてるの?
そんな声も誰のものなのか、瞬きの間に忘れ去ってしまう。
騒がしい孤児院では今みたいな静かさは稀で、寝静まった後がやっとだった。
朝から夕暮れに渡る忙しい日々の何処かに、こんな時間は有ったのだろうか。もしそうなら、戸棚の奥に隠したとびきり甘い菓子を妹と食べよう。本当はいけない事だけど、いつも苦労を掛けているお詫びの一つくらいしても、きっと神さまは許してくださる…筈だ。
(あれ…?でもお菓子、他の子がたべちゃったんだっけ。そしてそのあと、確か――)
思い出した。許されない許されるわけがない許しちゃいけない許されちゃダメなんだ。嗚呼なんでこんなこと、わたしは忘れてたんだ。
わたしは、もう後悔なんてしたくなかった。
それだけはもう忘れない。
だから、立って、もう一回戦わないと。あの子の為に、みんなの為に、そして仲直りをする約束の為にも。
「――ぁ。ぁぁ゛あ゛ぁああああっ」
握っていた指の感覚が、地に突き立てたはずの右手が――無い。その脈動を地面は直に吸い上げていく。溢れるソレに、わたしは黙って見つめる他ない。
顔を上げ、その場に流れ出た先の血溜まりに気を取られるも、視線を無理やりずらす。すでに立ち上がる力すら残っていなかった。
それでも、無いものは工夫で補ってやりくりする。それがわたし達の孤児院の流儀だ。それを此処でも実践するだけの、とっても簡単な話。そう難しいことではない。だから、私はできる。やってやれない事はない。絶対にできるって言い張ってでも――それが自分を鼓舞するだけの嘘だとしても――立ち上がれ。それが“おねぇちゃん”であり続ける理由なのだから。
「――――――。」
だが、見えている現実は以前変わりなく、冷たく死の宣告を投げつけるばかりだった。
覚悟はしてきた筈だった。戦う準備も万全の筈だった。
だが、“殺し合い”においては、相手が何枚も上手であった。
――ドスッ……ドスッ……――
警戒心など微塵も残していない。転がる石ころを追うような仕草で歩く姿には、先程までの闘気は感じられなかった。
地に前脚をつけた姿勢で、もう直ぐそこまで近づこうとしているのに、身体は震えるばかりで残された左の拳は握れずにいる。
思い通りにいかないことなんて初めてだった。やろうと思えばなんでも出来た。やれると思えばなんでもこなせた。
なのに何故、あの子達の敵討ち一つ出来ていないんだ。
――ドスッ…………――
足の音が止まる。
風一つ吹くことを躊躇う静寂。その静けさを足蹴に鳴らす低い呼吸音。その口端から落ちただろう唾液の一つがわたしの頭に落ちる。今まで嗅いだ事のない臭いに鼻がむず痒さを覚えた。髪の隙間に流れ伝う不快感を感じながらも、震えた体は動くことができない。
ゆっくりと、わたしの身体は陰に呑まれていく。被さる様に怪物の腹の下に収まろうとする恐怖が、残されていた抵抗心を塗り変えてしまう。
“みんなの”おねぇちゃん、“みんなの”大好きなおねぇちゃんが、何でもない、ただの飾り同然のナニカに置き換わろうとしている。
(嫌だ。いやだイヤだっ。わたしは、わたしは――っ!)
何か考えがあったじゃない。むしろ何もなかった。何も無かったから手を伸ばした。縋り付くものを追い掛けようと伸ばした先には深く、生暖かい泥の感触だけが広がった。次第に腕から頭も呑まれて息も出来なくなって、叫ぶことも出来なくなって、最後は泣いた。
いくら時間が経ってもわたしの声は何処までも続いている。みっともなく、誰にも聴かせられないくらい、シスターにすらこんな姿は見せたくないと思う程に泣いた。
泣いて、泣いて、泣いて、泣いて、泣いて、泣いて、泣いて、泣いて、泣いて、そして泣いた後――――――。
気が付いた時には、わたしは知らない場所にいた。
「え、どこ…ここ」
白いなにか、とっても広い…部屋だろうか。
壁のような、区切るものは見えない。果てしないその場所にわたしは頭を打ったような目眩を覚えた。
その時、わたしは誰かに、倒れる込むような形で抱き留められた。
「…ぇ。だだだ、だれっ!?」
驚き顔をその人の方へ向けると、そこには女の人が此方を見つめていた。
黒い髪の毛を肩まで伸ばした少し年上の女性。初めて見た“イコク”風の顔立ちに物珍しさを覚えながら急いで距離を取った。そのまま身構えた姿勢で、再度声を掛けてみる。
「あの!どうやって此処に…この森を抜けて来たんですか?」
今度は落ちつきながら、彼女を刺激しないように注意を払う。誰もあの森には住めないのに、人が――それも見るからに強くはなさそうなのに――一人で来られるなんて絶対に可笑しい。見た目とは裏腹に普通には見えない不気味さが、わたしの荒んだ心を逆撫でる。
しかしその人は、なんだか困った様な表情をした後、なにか諦めた様にあからさまに肩を落とした。
そして姿勢を正すと、次はわたしに向けて右手を差し出していた。
「えぇと、その、掴めばいいんだよね…?」
名も知らない相手で正直怖かった。けど、言う通りにしないと何かされるのでは思うと拒むことも出来なかった。
恐る恐る触れた手は人と同じ体温を感じさせるもので、その一瞬でわたしはこの人に騙されたと知った。
「――!――――?」
「痛っ!やめて!離してください…!」
訳のわからない音の羅列。何かを言っているが、何を言っているか分からない。ソレと同時に襲った理解できるできないを超えた“痛み”という恐怖にわたしはパニックになる。
蓋をした筈の涙も溢れ始める。孤児院を出る前のわたしはこんな泣き虫じゃなかった。もう昔のわたしに戻れないかもしれない。それでも帰りたい。何も無くなっても、何も得られるものがなかったとしても、あそここそがわたしの居場所で、もっとも安全な場所に違いないのだから。
「ごめん、なさい…っ」
「――?!?!――、――、――――――!!」
手が開放される。それでもわたしは既に逃げる気力すら、もう尽き果てていた。
「もうお菓子、隠れて食べようなんてしません…。もう下の子にお漏らしした事イジって揶揄ったりしません…。だから、もう許して下さい…」
「――――――――――――」
泣いて謝り続けた。目の前の誰かが何かを言ってもわたしの耳には届かない。ただただ家に帰して欲しいという想いで謝った。
そしてもう一度、女の人はわたしに触れる。今度は痛くはなかった。それでも震えは増すばかりで、今度は何をされるのかと構えるわたしを他所に、その腕はわたしの身体を抱きしめだした。
意味が分からない。何をしたいのだろう。込み上げる疑問と恐怖がぐちゃぐちゃに掻き回されて今にも吐いてしまいそうだ。
「――――――――!!!!!!!!!」
「いきなり大きい声出さないで!意味分かんないよ!!」
《それは本当にごめんなさい》
「こいつ直接脳内に……!」
久しぶりの人の声。それはわたしの頭の中に語り掛けられたものだった。