ハイキュー世界でハイキューの漫画を描いちゃった話   作:テン吉

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恋愛要素強めになりました。

苦手な方はUターンどうぞ。


孤爪視点

 

 

俺が7歳。小学2年生の頃。

クロが引っ越してきた。

 

クロんちが祖父母と父親しか居ないので誰もいない時は俺の家にきた。

 

「……」

「……」

 

引っ込み思案、人見知りと言っても当時クロのほうが酷かったと言っても過言では無い。本人は覚えてないけど。

 

そんなクロが何も喋らず俺にゲーム付き合ってばっかりだから、俺は「何かやりたいことないの?」と聞いた。

 

そしてクロが恐る恐る持ってきたのがバレーボール。

ゲームで、って意味だったのに。

 

仕方ないからやってみたら案外クロは下手だった。

ちゃんと飛んでないし、ボールは水溜まりに飛ぶし。

 

ただ、腕に出来た俺の内出血を見て、『ただの』内出血っていうワードはちょっとカッコよかったけど……。

 

その後、とあるおじさん___後に知った音駒高校のバレーボール部猫又先生と出会い、クロは急激にウザ……バレーボールが大好きになった。

 

バレーボール公式試合のCDを家に持ち帰ってきては、俺の部屋で見るものだから最初はルールとか分かんなくて。クロの相手とかよくさせられるし、俺がセッター向いてるとか言うから、よく調べるようになった。

 

「なに……これ」

 

小学5年生になった頃。

当時流行ってたブログサイトに出会うことになる。

 

バレーボールで検索したら3番目か4番目くらいにヒットした、おすすめサイト一覧ってやつ。その中に「漫画で分かるバレーボール」と紹介されているサイトが貼ってあった。

ゲームが好きだから2次元の方が馴染みやすいかも……と思ってリンク先に飛ぶと、出てきたのはバレーボールをやっている高校生の青春を描いた漫画で。このサイト主はどうやらひっそりとやっているタイプらしかった。サイトが見つかってしまったらしい感じだった。まあそのおかげで俺もこのサイトに辿り着けたんだけど。

 

サイトのプロフィールに書いてあった、「趣味です」とは裏腹に実際に載せられている作品はバレーボールを熱く語る青春の漫画だった。

 

「孤爪研磨と黒尾鉄朗……俺たちの名前?」

 

一つだけ引っかかったのが、名前。

あの音駒高校の名前も出てるし、俺たちの名前だって出てた。気になってコメント欄を見れば俺以外にも名前が同じって人がいて……。

 

偶然にしては嫌な予感がして、俺もその日からネコって名前でコメントを打つようになった。

 

____この幼なじみコンビはもう出てこないのですか?

____トサカ頭よりセッター出して欲しいです。

____ゲームの漫画ください。

 

最後に関しては俺の何気ない一言だったけれど、このサイト主は筆が早いのか1週間経たずに、孤爪研磨が大人になってゲーム配信をしてる漫画を出してくれた。大人になった孤爪研磨はバレーボールの世界には行かなかったものの、YouTuberになってゲーム配信を中心にバレーボールを紹介していた。コヅケンって言うらしい。

 

それ、俺が今使ってるハンネなんだけど。

 

少しドッキリした。見透かされてるんじゃないかって。

 

俺が小学六年生の頃。

そのサイト__「二次創作まとめ」は原作も何もないのに何が二次創作なのかという謎を残したままサイト終了を迎えることになる。

 

なんとサイト主が漫画を見初められ商業アカウントを設立したのだ。

 

____今後こっちに専念したいので終わります。念願の夢でした。

 

事前に告知してあったので、俺は孤爪研磨と黒尾鉄朗が写っている漫画だけコピーして保存した。どうせ個人用にしか使わないし。あと……何が起きるか分からないから。

 

俺はその人の商業アカウントを見に行った。もしかしたら私生活が見れるかもと期待して。

けどあったのは「よろしくお願いします」の一言のみ。漫画はどこにも無かった。

 

……隠すの、上手いんだ。

 

いや、別に隠してるわけじゃないんだろうけど。

 

俺はこの人が描いた漫画を全部持ってる。何度も読み返して、セリフを覚えて、更新された日付だって覚えてる。

 

なのに、俺はこの人の名前すら知らない。

 

なんか、不公平だ。

 

俺のことは好き勝手に描いたくせに。

 

すっごいモヤモヤする。

 

あれだけ好き勝手に俺のこと描いておいて、よく黙って出ていけるよね。

 

そんなクロにも心配されたイライラした1年後、中一の頃に俺は目を見張ることになる。

 

普段更新しないから通知オンにしてた作者のアカウントから2件の通知。

 

_____漫画賞受賞しました。

_____このアカウントは担当さんに任せます。

 

「はぁ"???」

 

思わず低い声が出て、隣にいたクロが布団から落ちた。

 

「どうしたんだ、研磨」

「………………別に」

「何でもないって溜め方じゃないだろ。あとそれ俺も知ってる」

「はぁ!?!?」

 

クロが「それ」と指したのは俺のガラケーで。そう、作者モブのことだった。

 

「なんでクロが知ってるわけ?」

「……クラスメイトに言われたんだよ。似てるって」

 

……名前が。

そう零した時のクロの顔は乙女ゲーに出てくる主人公みたいな顔だった。恋をしてるみたい。思わずサブイボが立って嫌な顔をすると、クロが傷ついた顔で「なんで!?!?」と大きな声を出す。顔もうるさいクロ。

 

そんな風に、その日からクロと作者モブについて語るようになった。俺データ持ってるし。クロは幼なじみ特権ってやつで見せてあげたら酷く喜んでた。

自分が漫画に出ていることも、俺と並んで描かれていることも。

……いいよね、クロは。

俺と違って、描かれている自分をそのまま喜べるんだから。

 

俺は、俺が描かれていること自体は嬉しかった。でも、それだけじゃ足りなかった。

 

もっと見てほしい。

もっと知ってほしい。

 

俺が何を考えて、何を選んで、どこへ行くのか。

……クロには、こんなこと考えてほしくないな。

 

 

 

そしてさらに数ヶ月後。

 

「は???」

 

作者モブは連載をスタートしていた。そういえば読み切りで連載権獲得したって言ってたっけ。

俺はすぐに本屋さんに行って買った。数時間後には週刊少年漫画は売り切れてた。この人新人なのにここまで話題なのかよ……と呆れたけど。

名前はハイキュー。やっぱりこの人らしいバレーボール漫画。

 

だけど___主人公は俺じゃない誰か。

二次創作まとめの時は俺のこと結構出してくれたのに。

……なんで?

 

俺の名前を使って、俺の性格を考えて、俺の未来まで勝手に描いておいて。なのに、どうして今度は知らない誰かが主人公なの。

 

別に主人公になりたいわけじゃない。

ただ、俺を描いていた時間まで、なかったことにされたみたいで。それが、すごく嫌だった。

またモヤモヤする。

 

連載1年目に差し掛かる頃、ようやく転機が訪れる。

俺が中学生の時だった。

 

____そしてネコがやってくる。

 

それはとある男子高校生が東京駅に居る背中の絵だった。背中しか書かれておらず、だけどこの特徴的なトサカヘッドと金髪の髪はクロでさえも分かった。クロが部活終わりにすぐ連絡来て叫んでたのも知ってる。

 

ああもう!!なんで週刊なの!?

 

待ち遠しくてイライラしたその翌週には、取り置きしてもらった週刊少年漫画を食い入るように見た。

ネコ高校の男子生徒とカラス高校の主人公がやっと出会うシーン。

 

小瓜研磨と黒子鉄朗。微妙に違うけど、ほぼ俺たちだって分かる名前。

 

____俺たちは血液だ、滞りなく流れろ、酸素を回せ、脳が正常に働くために。

 

「なんか、クロってポエミーだよね」

「はぁ!?漫画ですし!?!?」

 

クロがニャアニャア鳴き叫ぶけど、俺はクロにそっくりだと思ったよ。あと多分高校上がっても一言一句間違えずに言いそう。

 

そのあと俺は音駒高校に入学した。

単行本4巻29話の通り、俺は先輩に目をつけられていた。セッターとして3年に初めて指示した時、偉そうだって言われてから俺は何も言わなくなった。唯一の救いなのはクロとあの漫画だけ。

 

どうして1年とか2年早く生まれただけで偉そうにするんだろう。

 

あの時の小瓜と同じ感想を抱く。

作者モブは一体どんな気持ちで描いたんだろう。

 

クロが辞めんなよと言うけど、俺は原作の小瓜より辞めるつもりないよ。だって攻略本(原作)があるから。

 

高校2年生になった時、3年が消えてクロたちが3年になってから空気が変わった。あの血液ポエムはクロのお気に入りらしく練習試合でも言うようになったので、やっぱりと思った。

 

そんな最中、猫又先生が宮城へ遠征すると言ってピンと来た。

 

案の定、迷子になった。

漫画みたいに宮城で迷子になったから、まあ主人公と出会うか……と楽観的に見てたのもある。

 

「俺!!日向翔陽!」

 

あ……、あの主人公だって思った。

 

俺のこと回収しに来たクロも分かったらしく早々にマークしてた。

 

体育館に向かう途中でニヤニヤ顔のクロから「で? 研磨が羨ましがった主人公くんはどーですか?」と聞かれた。

 

「相手の攻撃分かってるし、性格もパターンも知ってる。勝てるんじゃない?」

「いや!!そういうことじゃなくて!」

 

慌てたクロが言おうとしてることは分かる。俺が作者モブに執着してて、その矛先を奪った主人公はどうかってことくらい。

 

けど言わない。言う相手は作者モブだって決めてるから。

翔陽は悪くない。

そんなこと、分かってる。

翔陽は自分の意思で動いているだけだし、俺に何かしたわけでもない。

でも、翔陽が主人公である限り、作者モブは翔陽を見ている。

翔陽が笑ったら描かれる。

翔陽が悔しがったら描かれる。

翔陽が何かを変えようとしたら、その変化に意味を与えてもらえる。

……いいな。

俺だって、変わろうとしてるのに。

俺だって、漫画の中の俺とは違うことをしたいのに。

それでも、俺は主人公じゃない。

 

 

「はああああああ、ムカつく」

 

作者モブが男だったら例え老人だろうがクロと一緒にバレー試合に申し込んでボコボコにするし、頭脳戦で勝ってやったって言いたい。女だったら____どうしよう。勝負は出来ない。

 

……結婚したらずっと俺だけ見ていてくれるだろうか。

かなりぶっ飛んだ感想だと思う。でも合法的にずっと一緒にいられる方法って言ったらこれしかないよね。

 

厄介オタクってこんなこと考えるのかな。

 

初めての決戦は音駒高校の圧勝____ではなく原作通りとなった。烏野高校も漫画を知っているらしく、特に翔陽と影山。あの二人は原作に抗おうとしてた。

 

俺も原作通りに行くのは癪なのでツーを出したりトスで視線でフェイント取ったりしたけど。試合に勝ったけど勝負に負けた感じだった。

 

第2試合、第3試合と、翔陽から「もう1回!!」と言われて辟易とする。猫又先生が「新幹線の時間もあるから!!」と言われるまで、翔陽は悔しい顔をしてた。

 

試合が終わった時、翔陽から声を掛けられる。

 

「小瓜って研磨のことだよな!?」

「あーウン。そうなんじゃない?」

「やっぱり!? 研磨もこの漫画ムカつくよな!」

「ムカつく……?」

 

作者モブに対してはムカつくけど、漫画自体にはムカついた感情は無かった。俺のこと実況するならシリーズ最後まで実況しろよっていうゲーマーみたいな感覚でしかなかったから。

 

「だってさ、どう足掻いても同じになっちゃうんだよ? _____それって面白くなくない?」

 

面白くない。

それは新感覚の感想だった。

確かに攻略本見ながらのゲームは、達成感が消える。

ゲームの最大の快感は、「どうすれば勝てるか」「どう進めばいいか」を自分で考え、何度も失敗した末に自力で突破できた瞬間にある。攻略本を見ることは、あらかじめネタバレや手順を知ってしまうことと同義。冒険している感覚ではなく、指定された作業を消化している作業ゲーに変化してしまう。

作業ゲー、嫌いじゃないけど飽きるんだよね。

 

何でイライラしてたのかようやく分かった。

 

俺は攻略するのは好きだけど、攻略されるのは好きじゃない。

作者モブ恐るべし。俺って攻略されてたんだ。

 

なんか……ムカつく。

 

「確かにムカつく。ありがとう、翔陽」

「エ!いや、いいえ!」

 

変えられるのはセリフのみ。

じゃあ俺がイレギュラーになればいい。

 

そしたら作者モブは俺のことを見てくれるだろうか。

心の中の薄暗くてドロドロした気持ち悪い何かが成長したように蠢く。

 

*

 

そして時は過ぎ、春高。

主人公にとっては3回戦目。

俺たちはようやくゴミ捨て場の決戦を行うこととなる。

攻略本のおかげで、烏野高校が例の速攻を極めているのも知ってるし、エースがスパイク極めてるのも、リベロが極めているのも知ってる。

 

なのに俺たちは負けた。

汗を拭いてもらっても、ラリーは続いて滑った。あの漫画みたいに。

 

まさに圧倒的攻略。

 

「ははっ……たーのし」

 

本当に楽しかった。

 

攻略本に書かれていたことが、目の前で起きている。俺が知っているはずの未来を、俺自身がもう一度経験している。

 

……ねえ。これも描いてくれる?

 

俺が負けたことも。

悔しかったことも。

それでも楽しかったことも。

 

俺の知らないところで、俺の知らない作者モブが、俺のことを描いている。

 

そう考えると、負けたことすら惜しくなかった。

だって、まだ続きを見てもらえるかもしれないから。

 

クロがぎょっとした目で俺のことを見る。

攻略本を見たのにゲームに負けた。ゲームオーバーは嫌いじゃない。だって終わりじゃないから。

 

終わらないで欲しいと思った。何度も願った。

クロにとっての最後の試合は終わったけど、俺はまだ1年と攻略本がある。

まだ連載中だから分からないけど、二次創作まとめサイトを知っているからこそ分かる。あの作者モブは絶対主人公が大人になっても描くってことぐらい。

 

 

*

 

 

そして俺は高校を卒業した。

俺はコミュニケーション能力がないし、人間関係なんて面倒くさいから、会社に就くのはやめて企業を立てた。あとは小瓜がYouTuberやってたのもあって、コウケンの名前で配信を始めたのもある。俺はコヅケンにした。正直有名作品と被るから、名前を変えようかと迷ったけど俺は俺だから。どうせ漫画でしょ。って思ったけど未来を語る伝説の漫画と言われているから、不思議と不安は無くなり、コウケンの人気にあやかって俺もコヅケンとしてその道に進むことにした。

 

そんなことがあって数年後。

連載は終わっており、ようやく完結した。主人公の太陽が日本代表に選ばれてアルゼンチンと戦うシーンで終わっている。このアルゼンチンに居る日本人キャラクターも人気みたいだから勝ち負けはあえて伏せて終わらせたのかもしれない。

 

あの時みたいに終わらないで欲しいと思った。

 

俺は知っている。

この人は、一度俺たちを描くのをやめたことがある。

そして、戻ってきた。

だから今回も、いつかまた描いてくれるかもしれない。

……そう思って、ずっと待っていた。

連載が終わったら、もう俺の知らない未来は描かれない。俺が何をしても、何を考えても、どんな選択をしても。

 

それでも。

 

俺は、あの人が描いた俺を捨てられなかった。

 

 

さらに2年後、翔陽が原作通りオリンピックに出た時にボーナスステージが現れることとなる。

 

____第1回サイン会。

 

俺はすぐに仕事関係先で出会った編集者に連絡した。

 

俺は起業してゲーム配信もしてるので、仕事関係で出版社の人間と知り合っていた。

例えば、ゲーム関連の企画や配信イベントなどで。

前々から作者モブのことが好きだって伝えてたんだよね。

だけど、やっぱり作者モブは人気らしくて、編集者が個人的にサイン会の当選枠を自由に渡せるとは限らなかった。けど、何年もコラボするという破格の対応で見事に勝ち取る。ズルいって言われてもいい。

 

____でも最初に手を出したのはアンタ(作者モブ)だから。

 

サイン会に来た時、沢山の人がいてそのうち有名人の列はこっちと言われて並んだらスポーツ現役選手ばかりで思わず「うげ……」という低い声が出た。

 

本当に作者モブは色んな人を引っ掛けるのが上手いらしい。みんな目がギラギラしてるのが分かる。

 

 

さて、会ったらなんて言おうかな。

 

どうせコラボすることは決まってるし、会う(編集者からもぎ取った)って分かってるけど、俺のことを視界に入れて欲しいよね。

 

ペロリと舌なめずりする。

 

あーあ。かわいそうに。

俺のこと描かなきゃ良かったのに。

 

 

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