「徹底的な正義」を掲げ、一切の情けも妥協もなく、民間人の犠牲すらも厭わず海賊たちを駆逐していく海軍元帥「赤犬」ことサカズキ。
彼をここまで突き動かす信念とは何か。果たして過去に何があったのか。決して語られることのないサカズキの過去を物語る短編小説。

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第1話

 これは海軍元帥赤犬ことサカズキの決して語られることのない若かりし日の物語である。

 

 時はさかのぼること二十数年前サカズキがまだ海軍本部大佐であった時のこと。任務へと赴くサカズキに対して軽口をたたきながら近づく一人の男がいた。

 

「よう!サカちゃん!今日も辛気臭い面してんねえ。どうよ、今から一杯ひっかけに行く?」

 

 彼の名前はトックリ。サカズキと時を同じくして海軍に入隊し、ともにゼファーを師に持つ男である。彼は普段の飄々とした態度からは想像つかないが、みなから一目置かれ、【流星】の二つ名を持つほどの実力を持つ海軍本部大佐である。また、訓練兵時代からサカズキと実力、体格ともに肩を並べる男であったため、サカズキのことを一方的にライバル扱いし、“自称”無二の親友を語る男でもある。

 

「うっとおしいのおトックリ。わしに構うな。自分の部隊のところに行かんかい。そもそも今から依頼じゃけえ酒なんぞ飲んどれんわいアホンダラ」

 

 トックリからダル絡みをされたサカズキは明らかに不機嫌そうな顔をしてトックリを遠ざけようとする。

 

「サカちゃんつーめーたーいー!せっかくマグマグの実なんて言うちょー強くて、ちょー熱い悪魔の実を持ってるのに冷たいぞー!あ、もしかして、俺ちゃんが酒代踏み倒して奢ってもらったこと根に持ってる?ゴーメーンよー!いつか返すからさあ、機嫌直してチョ」

 

 遠ざけようとしたはずなのにさらに距離を縮めてくるトックリにサカズキは切れる寸前まで感情が高ぶっていた。

 

「ああ、もう、ほんにうっとおしい。誰が3年前の海軍酒場【桜】での出来事のことを根に持っとるっちゅうんや。それに、顔を合わせるたびに『いつか返す』と言ったっきりちいとも返しやせん。お前さんにゃあ今さら期待もしとらんわい」

 

 サカズキからの返答にトックリはさらにテンションを上げて返す。

 

「キャーッ!サカちゃん覚えていてくれたの!?俺ちゃんうれしい!し・か・も、どこで飲んだかまで覚えていてくれるなんて。流石俺ちゃんの無二の親友だあね!」

 

 いい加減ブチ切れそうになりサカズキはプルプルと震えていた。

 

「トックリ…!貴様いい加減にせえよ!大体これから貴様んとこの部隊との合同での依頼じゃけえ呼び出したが、どうやら間違いじゃったようじゃのお。わしは今から貴様の口をマグマで溶かしてつなげることをせにゃならんかのお」

 

 流石におちょくりすぎたことを悟ったトックリは慌てた様子で謝罪をし、話題をそらすかのごとく部下に声をかける。

 

「おおっと。ごめんよサカちゃん。俺ちゃんもふざけすぎたことは反省してるからそんなに怒らなくてもいいじゃんか。ね?このとーり!ああ、そこの君。今回の作戦についてまとめるように言っておいたよね。まとまってる?OK。じゃあ軍艦の中で作戦会議だ。行くよサカちゃん」

 

 軍艦の中に入り、目的地に向けて出航したサカズキとトックリは会議室にて今回の掃討作戦の会議を行っていた。

 

「トックリとかいう馬鹿な上官とは違ってお前さんのとこの部下は優秀じゃのお。改めて今回の作戦の核となる人物はこいつじゃ。【[[rb:邪 > よこしま]]なる正義】の二つ名を持つ海軍本部准将崩れの海賊『シン』じゃ。話によれば奴は根城にしている王国周辺の自治権を掌握し、世界政府の介入すらも拒む独立国家の設立を勝手に宣言したらしいのお。全く、『正義』をはき違えとる」

 

 サカズキの解説に補足を入れるようにトックリが声を上げる。

 

「サカちゃん、馬鹿とは失礼だなあ。さて、シンの厄介なところは奴が悪魔の実の能力者だということだ。やつは『ジャスジャスの実』の『[[rb:正義 > ジャスティス]]人間』とでも言うべきかな。奴はやることなすことすべてを『正義である』と認識を変えさせる能力者だ。故に今まで派遣してきた海軍支部の者たちからの報告も『異常なし』『彼は正義である』ばかりだ。

 だが、現にやつには7億8000万ベリーの懸賞金がかけられている。本当の意味での『正義』を執行している奴ならそもそも懸賞金なんぞかけられるはずもないけどねえ。ま、奴の非道な行いの数々はばっちりと記録されている。幸いなことに報告書越しや、電伝虫越しの映像では『正義である』と誤認させることはできないようだね。

 え〜っとなになに?うわ~、こ~れなんてひっでえぞ?【民間人、数千人規模での大量虐殺、首謀者は『彼らは未来のための贄となったのだ。故に私は正義である』と供述】だってよ。

 ああ、もう。報告書を呼んでいるだけで[[rb:腑 > はらわた]]が煮えくり返りそうだぜ...何が『正義』だ。こんな奴が元海軍将校だったことが信じられねえ」

 

 トックリの報告書を持つ手が震えており、顔は普段のおちゃらけた顔からは想像つかないほどに怒りの形相で歪んでいた。その様子を見たサカズキはトックリに声をかける。

 

「おいトックリ。お前さんの怒りの気持ちはよお分かる。わしとて罪の無い民間人が犠牲になるのは堪忍ならん。じゃが、ここでその報告書を破いたとて何も変わりゃせん。今からその元凶を叩き潰しに行くんじゃろうが。その怒りはそん時ぶつけりゃええ」

 

 サカズキの声を聞いたトックリは冷静さを取り戻し、いつもの調子でサカズキに返答する。

 

「お?サカちゃん、たまにはいいこと言うじゃーん!じゃあ、今回の依頼が完了したら飲みに行こうや。もちろん俺ちゃんの奢りだゾ?その代わり、3年前の酒代はチャラにして?ね?」

 

 トックリからキラキラとした目で見られたサカズキはあきれつつも少しばかり口角が上がってしまい、照れ隠しなのか顔を窓のほうに向けてしまった。

 

「ふっ、わかったわい。これが済んだら久方ぶりに皆で思いっきり飲もうかのお」

 

 普段とは違う返答が帰ってきたことに驚いたトックリはつい声を漏らしてしまう。

 

「え...!サカちゃんが、飲みの誘いに乗った...だと!しかも、『みんなで』だと!?おい野郎ども!今回は気合入れていくぞ!サカちゃんを酔い潰して寝顔を見るまで家に帰さねえからな!」

 

 後ろからトックリの発言と海兵たちの「うぉー!」という騒がしい声が聞こえてきたためサカズキはすかさず振り向いて怒号を発する。

 

「貴様ら!酒の前にやることがあるじゃろうが!気を抜いとんじゃないわいアホンダラども!」

 

 蜘蛛の子を散らすように会議室からトックリを筆頭に海兵たちが退散する。

 

「うわ〜サカちゃんが怒った〜!よおし皆の衆、サカちゃんの寝顔のため、今回の依頼もやったるぞ〜!なあに、サカちゃんと俺ちゃんが手を組んだんだぜ?解決できない依頼なんか無いって!」

 

 そんな騒がしい船内での航行を続けること数日。軍艦はシンが縄張りと主張する【バラ・クラーバ王国】の領域に入る。今回の目的は「シンの捕縛」場合によっては「シンの討伐」である。

 一応【バラ・クラーバ王国】には正式な書状を送ってはいたのだが、シンの統治がどこまで浸透しているかわからない以上王国軍との大規模な海戦も予測されていた。しかし、そんな予想とは裏腹にあっさりと国王の住む本島の港へと停泊することができた。

 それどころか国民から異常なほど歓迎をされたのである。道行く人からは差し入れとして食料や水や金品を手渡されるだけではなく、王国の伝統工芸品も多量に贈られた。

 

 王国民からの予想外の歓迎を受けたサカズキとトックリ率いる海軍部隊は国王の住まう城に行くと番兵より「王と謁見ができるのはこの軍隊の責任者のみである」と伝えられた。確かに【バラ・クラーバ王国】からの返しの書状にも同じことが書かれていたため特に疑うことなくサカズキとトックリは兵士たちを城の外で待たせ、二人して王の間に入って行った。

 

 すると王がいると聞いていたはずの王の間には誰の姿もなかった。その違和感に気が付いた時にはもうすでに遅かった。二人の背後から薄気味悪い声がしてきたのだ。

 

「じゃっじゃっじゃ…!いやぁまんまと引っかかってくれましたねぇ。『絶対なる正義』を勝手に掲げている愚かで間抜けな海軍様」

 

 二人が振り返るとそこには身長3.5m、細身で、顔の中央に大きくバッテンの傷を持つ黒髪色白の男が立っていた。今回のターゲットである【邪なる正義】の「シン」である。シンに対して最初に言葉を発したのはトックリであった。

 

「てめえが『シン』だな?なあにが『引っかかってくれましたねえ』だよ。国王はどうした…って聞きてえところだが、億超え札付きのてめえがこんなところにノコノコやってこれるってこたあ…」

 

 ここまで言いかけたトックリに対してシンはニタニタとした笑顔で答えた。

 

「えぇ、えぇ...!あなたの想像のとおりじゃあないですかねぇ?とっくの昔にこの王国は俺様の手のひらの上さ!ただ、国王は生かしとかねぇとさすがにまずいから、五体満足で生きてるよ。まあ最も精神のほうがまともかは別の話だけどねぇ!今では俺様の操り人形さ。

 でも、今の操り人形状態もいいけど、最高だったのは心を壊されたときの顔だったなぁ!いやぁ、あの時は愉快だったよ。なにせ国王の目の前で妻から孫に至るまで拷問したうえで惨たらしく殺してやったからさぁ。あの時の絶望の顔といったらたまらなかったなぁ。まあこれもひとえに『正義のため』さ。俺様が『世界の王になる正義のため』だがな!じゃっじゃっじゃっじゃっじゃ!」

 

 完全にブチ切れたトックリは自身の得意とする六式《[[rb:剃 > ソル]]》で間合いを一瞬で詰め、渾身の力を込め、武装色の覇気を纏わせた拳でシンの顔面を思いっきり殴りつけた。

〈バゴォ!〉

 すさまじい音共にシンは数十メートル吹き飛び、地面にあおむけで倒れ伏した。

 

「てめえは…この世に生きてちゃいけねえ『悪』だ!『絶対的正義』の名のもとにてめえに引導を渡してやるよ。うん?動いてなくね?あっけねえな。一撃で吹っ飛んだぞ?今意識がねえならこのまま連行するだけだが?」

 

 吹っ飛ばされたシンは相変わらずニヤニヤした顔のまま立ち上がった。

 

「あぁ、痛ってえなぁ。流石は海軍本部【流星】のトックリ大佐だぁ。流れるような一撃に意識が飛ぶところだったぜ。だが、意識は飛ばなかった。俺様の勝ちだ!」

 

 サカズキとトックリは「何言ってんだコイツ」と不思議そうな顔をしていたが、立ち上がったシンに対して同時に言い放った。

 

「【邪なる正義】のシン!今ここで貴様を討つ!」

「【絶対なる正義】であるシン様!今ここで貴方をお守りします!」

 

 そう。二人は同時にまるで反対のことを言ったのだ。サカズキはシンに対して討伐宣言の声を上げ、トックリはシンに対して忠誠の声を上げた。この言葉に最も困惑していたのは“トックリ本人"だった。

 

「な...!俺ちゃんは、こんなことを言うつもりじゃ…!サカズキ!お前ナラ俺ちゃんのコト、を、わ、わかってクレル、わわわわ、訳ねえよな!シン様の敵なんだもんな!...!」

 

 サカズキはとっさに距離を取り、怒りの形相でシンを睨みつける。

 

「貴様!いったいトックリに何をしよった!貴様の持つ『ジャスジャスの実』の弱点は『絶対に曲がらない信念を持つこと』!そうすりゃあ貴様の支配下に置かれることはないはずじゃ。貴様のような『[[rb:邪 > よこしま]]な正義』程度に折れるトックリじゃないわい!貴様、一体何をしよった!」

 

 さらにニヤニヤとした顔をさせたシンは能力のさらなる効果を語りだす。

 

「じゃっじゃっじゃ!あぁ、確かにそいつはジャスジャスの実の能力者への抵抗としちゃ間違ってねぇ。つよい信念で支配権を上書きされないってのはな。だがな、抵抗に対する対抗策だってあるんだよ!それは『能力者とのつながりを深く持つこと』だ。どんな関係でも構わない。愛による関係だろうが、憎しみによる関係だろうが、戦いによる関係だろうがね。

 俺様はあえて貴様らを煽ったうえでトックリの一撃をノーガードで受けた。それによって“憎しみ”と“戦い”、それに加えて俺様自ら“相手を受け入れる愛”を実践して見せたのさ。

 いやぁ、ここまでやって将校に関してはトックリ一人しかこちら側に引き入れられないことはちょっと想定外だが、まあいい。貴様らの部下は国民から“愛のある贈り物”を受け取ったのだろう?あぁ...その顔だよぉ。その何もかもが終わって絶望する顔が見たかったのさ!そうさ!サカズキ、もうすでに貴様を除くこの島にいる全員が俺様を『絶対的正義』とあがめる信者となったんだよ!じゃっじゃっじゃっじゃっじゃ!」

 

 シンによるこの言葉を皮切りに国王の間に味方であるはずの海兵がなだれ込んでくる。全員恍惚とした表情で「絶対的正義なるシン様万歳」「サカズキさん、あなたもこちら側へ」と迫ってくる。

 サカズキはマグマグの実の能力を使わないようにしながらなんとか海兵たちを振りほどき、《[[rb:月歩 > げっぽう]]》で空中へと退避する。しかし、自分よりも六式の扱いが遥かに上手であるトックリによって即座に追いつかれてしまう。

 

「トックリ!わしじゃ!サカズキじゃ!しっかりせえ!お前さんは能力の術中にはまっておる!正気を取り戻せ!」

 

 しかしサカズキの声を聞いていたトックリは不気味な笑顔のままこう答える。

 

「な~に言ってんのさサカちゃん。俺ちゃんは正気だよ?サカちゃんこそ変だよ?ほら、『絶対なる正義』であるシン様のもとに行こうよ。逃げたことは俺ちゃんも一緒に謝ってあげるからさ。ね?」

 

 トックリの目からは微塵の正気も感じ取れない。しかし、トックリ含めた海兵たちは全員サカズキの仲間である。故にサカズキは本来の実力を一切出すことができず、防戦一方となるばかりである。

 

「じゃっじゃっじゃ!俺様の正義を馬鹿にした海軍の将校同士がやりあうのを見ているのは実に愉快だ!ただ、思ったよりも拮抗しているなぁ。おい、そこのお前。そうだ、お前だよ。お前も《[[rb:月歩 > げっぽう]]》であそこに混ざってこい。サカズキを俺様のところに連れてきたら褒美をやろう」

 

 シンに指をさされた海兵はキラキラとした笑顔で答えた。

 

「はっ!シン様の役に立てることは至上の喜びであります!しかし、申し上げますと、私は《[[rb:月歩 > げっぽう]]》をまだ習得しておりません!ですので、銃による援護を…」

 

 海兵が最後まで言葉を言い終わらないうちにシンは能力によって生成した光刃で海兵の首を切り落としていた。

 

「《[[rb:罪人への刃 > ラ・ホージャ・クリミナル]]》。あ?いつ俺様に意見して良いって言ったよ。俺様は『《[[rb:月歩 > げっぽう]]》で混ざってこい』って言ったんだよ。使えねえグズが。っていっけねえ説教する前に殺しちまったよ。いやあこれも『正義のため』とはいえついカッとなるとやっちまうんだよなぁ。なぁおもしれえだろ?お前たち?」

 

 その言葉を聞くや否やそこにいる海兵たちにどっと笑いが起きる。一通り笑いが起きると今度はシンの近くにいた数十人の海兵の胴体が真っ二つにされる。

 

「お前らうるせぇ。俺様がうるさいと思う前に笑うのをやめろ。そんなこともわからねえのか?あ゛あ゛!?」

 

 吐き気を催すような光景を見ていたサカズキは堪忍袋の緒が切れてしまい、シンに向かってマグマによる拳を放とうとするが、目の前にトックリが現れて邪魔をされてしまう。

 

「どけえトックリ!あのゴミに引導を渡してやらねばならんけえのお!《[[rb:流星火 > りゅうせいか]]》…!」

 

「ちょっと待ってよサカちゃん。その拳振り下ろしたらさ、海兵全員皆殺しだよ?上官であるサカちゃんがそんなことしていいのかな?ま、そもそもシン様にその拳を向けさせるわけにはいかないんだけど…ねっ!」

 

「ゴフッ!」

 

 トックリの武装色を纏った拳がサカズキのみぞおちにクリーンヒットしたことにより、マグマの拳が解除されてしまう。そしてすかさず顔面、顎、胸、四肢の関節、下腹部などに連続で打撃を受けてしまう。

 

「サカちゃん、これ苦手だもんねえ《[[rb:武装流星拳 > ぶそうりゅうせいけん]]》訓練兵時代には一回も捌き切れなかったもんね!」

 

 トックリによる連撃の最後の締めとして両手で握り固めたこぶしを頭頂部にたたきつけられ、サカズキは地上へと落下してしまう。すると海兵たちが一斉にサカズキに向かって殴る、蹴る、剣で切りつける、銃を撃ち込むといった攻撃を加え始めた。しかし、サカズキは[[rb:自然系 > ロギア]]マグマグの実の能力者。覇気を纏っていない攻撃であるならばダメージは一切ない。この光景に腹を立てたシンは海兵たち全員を横薙ぎに一刀両断しつつこう言い放った。

 

「はぁ~[[rb:自然系 > ロギア]]に覇気無しで挑むとかほんと使えねえクズだな。お前らの部下はよぉ。まあいいや。《[[rb:罪人への刃 > ラ・ホージャ・クリミナル]]》で殺した罪人どもは俺様の力として吸収できるのさ。俺様という『絶対なる正義』について来れなかった罪人も死して俺様の役に立てるんだ。本望だろうなぁ!じゃっじゃっじゃ!」

[newpage]

 完全に頭にきたサカズキはシンに向かって怒号を発する。彼の全身からは煮えたぎるマグマが滴り落ちており、怒りの感情に呼応するかの如く煌々と紅く燃え滾っていた。

 

「おどれぇ...!絶対に許さん!『絶対的正義』の名のもとに貴様に引導をわたしてやるけえの!」

 

 シンはニヤニヤした顔を一切崩すことなくサカズキに向かって《[[rb:罪人への刃 > ラ・ホージャ・クリミナル]]》を向けている。

 

「じゃっじゃっじゃ!許す許さねえを決めるのは俺様だ。お前は黙って罪を受け入れろ。そんでもって"俺様"という『絶対的正義』のもとにひれ伏しな!このトックリのようにな!」

 

 空中から降りてきたトックリはシンの横に立ち、戦闘態勢を解くことなく笑顔を向けている。

 

「ええ、もちろんでゴザイマス。シンサマ。あなたのオヤクに立てることこそ至上のヨロコビでございますので」

 

 トックリの言葉の不自然さはサカズキ、シン、ともに気が付いた。シンは《[[rb:罪人への刃 > ラ・ホージャ・クリミナル]]》をいきなりトックリの顔に浅く突き立てた。

 

「おいトックリ。お前言葉が変だぞ?まさかとは思うが、俺様に逆らおうなんて思ってねえよなぁ?」

 

 トックリは笑顔を崩さずシンに向かって返答する。

 

「滅相もございません。シン様。あなた様の断罪の光景があまりにも素晴らしかったものですからつい見とれてしまったのです。どうかお許しください」

 

 トックリからの謝罪の言葉を受けたシンは改めてサカズキに向き直る。

 

「ま、いいか。そういえばサカズキ、まさか、お前、俺様が武装色の覇気を使えねぇなんて思ってねえよな?残念ながら使えるんだなぁこれが。それも、俺様はもともと武闘派でねえ。六式と覇気だけで准将にまで上り詰めた男だぜ?たぶんトックリ君と同じかそれ以上に覇気を使いこなせるのさ。

 聞けば、覇気の練度に関してはサカズキはトックリ君に一度も勝ったことがないそうじゃないか!そうなればもう勝ち目はないねぇ!おとなしく降参することをお勧めするよ。あ、そうそう。俺様はさっき罪人どもから力を吸収したから、うーん、そうだねえ。君のような無能でも分かりやすく言うならゼファー先生と同じくらいの強さかなぁ?勝ち目なんてあるわけないよなぁ!じゃっじゃっじゃ!」

 

 サカズキはシンに向かって全力で突進する。それはさながら火山の噴火のごとき勢いであったが、肉体の強化されたシンにあっさりと止められてしまう。そのうえ、シンによって身動きが取れない状態になればトックリによる連撃がサカズキを襲う。武装色の覇気によって防御を試みるも、練度の差によってじわりじわりとダメージを受けてしまう。

 

「おどれえ!いい加減目を覚まさんかい!トックリ!」

 

 サカズキがトックリに反撃をすればシンによる光刃がサカズキの肉体を切り裂く。悪魔の実の能力と覇気によって胴体の一刀両断は免れたものの、大きなダメージを負ってしまう。

 

「じゃっじゃっじゃ!ほらほら、わき腹ががら空きだよ?」

 

 サカズキのトックリに対する反撃はいともたやすく避けられてしまう。それもそのはず。トックリは悪魔の実を食していない故に六式と覇気を極めた男である。同期の海兵の中にはトックリ以上の六式使いはいないのである。身のこなしはサカズキの比ではないゆえにサカズキからの反撃はまるで通用しない。

 

「だ~か~ら~俺ちゃんは初めっから正気だよ?サカちゃんこそ目を覚ましたらどう?『絶対の正義』はどこにあるのかってことをさ」

 

 シンの攻撃を防げばトックリからの攻撃を防げず、トックリに反撃すればシンから攻撃を受ける。一切休まることのない防戦一方の戦いを強いられているサカズキの体力はもうそこをつきそうになっていた。

 

「はあ、はあ、はあ、おどれら…!ガフッ!」

 

 膝から崩れ、這いつくばる姿勢になってもなおシンを睨みつけていたサカズキであったが、シンの蹴り上げをまともに顔面にくらってしまい、地に付してしまった。

 

「はあ、はあ、じゃっじゃっじゃ!海軍本部の大佐ともあろう人間が情けねえなぁ!部下は一人も守れず、首謀者を目の前にしても捕らえられず、同期にボコボコにされるなんてなぁ!あぁ、笑いが止まらねえぜ!じゃっじゃっじゃっじゃっじゃ!」

 

 サカズキは半ば諦めかけていた。文字通り手も足も出ない。「[[rb:邪 > よこしま]]」とさえ言われている正義に「絶対」の正義が屈服している。いったい、「正義」とは何なのだ。もはやサカズキは考えるのをやめそうになっていた。

 

「こんなところで終わっていいわけねえだろうが!サカズキ!」

 

 突如響いた声。サカズキはハッとして体を持ち上げ、顔を上げると、なんと能力の支配下に置かれていたはずのトックリがシンを羽交い絞めにしていたのである。

 

「サカズキ!お前の『正義』はこんなクソ野郎に負けるほど薄っぺらいのか!?ちげえだろ!ゼファー先生のもとで何を学んだ!正式に海兵になった現場で何を感じてきた!お前の中に『正義』の答えはあるはずだろ!」

 

 この出来事にシンは心底驚いていた。

 

「じゃじゃ!?トックリ!お前は完全に俺の能力の支配下に落ちたはず!なぜ俺に歯向かえる!なぜ自分の言葉を発することができる!なぜだ!」

 

 トックリは怒りの形相で叫ぶ。

 

「いくら支配下に落ちたからってなあ、心の底の底まで支配されてるわけじゃねえんだよ!てめえ、俺たちの部下の命を、自分のくだらねぇエゴのために切り捨てやがって...!あまりの怒りでてめえの支配なんざ振り切ってやったよ。そのうえなんだてめえの語る『正義』ってやつはよお!なにが『世界の王だ』なにが『支配者』だ!てめえのことを王として認める馬鹿はこの世に一人だっていねえんだよ!自分のエゴを『正義』として祭り上げて振りかざすゴミクズ野郎が!」

 

 トックリの羽交い絞めから逃れようとシンは光刃をトックリに突き刺して抵抗するも、トックリは一切その力を緩めない。そしてトックリは言い放つ。

 

「サカズキ!俺ごとやれ!俺は、こいつを押さえつけるのに精いっぱいだ、だが、ぜってえ離さねえ。だから、お前が引導を渡すんだ!」

 

 サカズキはたじろいでしまった。いくら悪を断ずるためとはいえそこに仲間の犠牲があっても良いものかと迷いが生じた。しかし、トックリはその迷いを持ったサカズキを全力で叱咤激励する。

 

「甘えるなサカズキ!ここでこの悪を仕留めることができなければ、また振り出しに戻るだけだ!仕留められる悪はお前の手で仕留めろ!悪を断ずるのがお前の正義だろ!」

 

 トックリからの言葉で目が覚めたサカズキは意を決して全身に煌々ときらめく紅いマグマを纏い、構える。

 

「ああ、トックリ。お前さんの言う通りじゃけえ。もうわしは揺らがん。悪を徹底的に断ずるのがわしの『正義』じゃあ!」

 

 迫るサカズキに対してシンは情けなくわめき散らす。

 

「お、お前、『絶対なる正義』であるこの俺様を断ずることが、でででできるわけねえだろぉ!お、俺様こそがこの世の『正義』だ!『正義』は必ず勝つ!だから、お前は負ける!負けをおとなしく認めるなら見逃してやらんこともない!ああもう!お前の掲げる薄っぺらい『正義』なんぞに『世界の正義』である俺様が負ける道理がないんだよ!」

 

 シンの目の前にまで迫ったサカズキはシンに向かって毅然たる態度と鬼の形相をもって言い放つ。

 

「貴様の持つ『正義』がなんぼのもんじゃい。わしら海軍の持つ『絶対的正義』の前には貴様の『正義』なんぞ紙切れほどの薄さも持ち合わせておらんわい。『正義』の名のもとに引導を渡す!《[[rb:犬噛紅蓮 > いぬがみぐれん]]》!」

 

 サカズキはあふれ出るマグマを右手に集結させ、犬の形に模倣する。その刹那シンに向かってその拳を突き立て、猛烈な勢いでマグマが放たれる。あまりの勢いで戦っていた国王との謁見の間は太陽の中心と見紛うほどに赤く輝き、窓も壁も天井も全てが溶け落ちていった。シンは全力で武装色の覇気を展開して防御を固めるも、「絶対的正義」の重さを背負ったサカズキの拳を止められるはずもなく、武装色の覇気を貫通して胴体に風穴をあけられてしまう。そして、シンを全力で羽交い絞めにしていたトックリもまたサカズキによるマグマの拳で胴体を貫かれてしまう。

 

 シンは胴を貫かれた直後絶命した。しかし、トックリにはまだかろうじて息があった。膝から崩れ、背中から地面に倒れ伏しそうになっているトックリをサカズキは抱きかかえていた。サカズキのその顔には普段のサカズキからは考えられないほどの大粒の涙が浮かんでいた。その光景を最も近くで見ていたトックリは普段と何一つ変わらない笑顔を浮かべていた。

 

「おいおいサカズキ、お前泣いてんのか?俺の体にぽたぽた涙を滴らせるなんて珍しい光景だこりゃ。ああ、俺の胸ポケットに入っていたリアルタイム映像送信小型電伝虫が生きていりゃこの顔を海軍にいるあの馬鹿どもに見せれたんだがなあ。あいにくお前さんの強烈な一撃で焼け死んじまったようだぜハハッ…げほっごほっ」

 

 サカズキは大粒の涙をこぼしながらトックリに答える。

 

「馬鹿を言えトックリ、誰がお前さんなんぞのために涙を流すんじゃ。これは…その、酒じゃ。ほれ、お前さんとここへ来る前に馬鹿な約束しとったじゃろ『わしを酔い潰して寝顔を見る』とな」

 

 トックリはサカズキからの返答にいつもの調子で答えた。

 

「はっは、そーだったなあ。いやあ、それにしてもコイツは俺には上等すぎる酒だなあ…それに、熱燗だなんてお前らしくもねえ。いつもは冷酒でひっかけてただろ?あ、サカちゃんを酔い潰すには俺ちゃんも酒を出さなきゃいけねえじゃねえか。しまった、持ってくんの忘れたぜ。俺ちゃんとしたことが。テヘッ。ああ、そうだ。サカちゃん。さっきの電伝虫さ、焼け死ぬ直前までの映像は送られてるはずだから、上官からはたぶんお咎め無しだと思うぜ?なにせ、この惨状よ。部下は一人残らず惨殺、俺ちゃん真っ黒。これ、証拠なかったらいくら大佐でも重い処分だよ?俺ちゃんに借りができちまったなサカちゃん」

 

 いつもの調子で喋っているように見えるトックリであるが、もう彼の四肢に力は一切入っていない。目も虚ろとなり、かろうじてサカズキの顔を見ている程度であった。しばらくの沈黙の後、サカズキがつぶやいた。

 

「なあトックリ。わしはこの酒に誓う。今後二度と『正義』を揺るがせはせん。『徹底的な正義』を貫き続けることをここに誓う。じゃから、安心せえトックリ」

 

 サカズキからの言葉を受けてトックリは最後の力を振り絞って笑顔を向けた。

 

「そいつは頼もしい…これなら海軍は安泰だな。そうだ、今度会ったときにさ、とびきり美味い酒ごちそうしてやるよ…俺ちゃん秘蔵の隠れ家的名店だぜ?…そこの酒がまた美味くてよ…二人と言わずによ、部下や…同期のみんなと…一緒に…楽…しく…の…も…」

 

 ここまで言いかけたトックリはついに息絶えてしまう。先ほどまで壮絶な死闘を繰り広げていたとは思えないほど穏やかで安心しきった笑顔のままサカズキの腕の中で眠りについた。

 

 トックリが息を引き取ったのを見届けたサカズキは誰にも聞こえないような声で、しかし、決して忘れることのないようにつぶやいた。

 

「もう…誰かに酒を注いでやるのはお前が最後じゃよ…この大馬鹿野郎な親友よ…」




最後までお読みくださりありがとうございます。
個人的になぜここまで赤犬が過激になったのかを妄想した結果このような小説を執筆いたしました。
感想等ありましたら是非お書きください!

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