魔法……?
彼が手をかざすだけで火がついた。
メカニズムが分からない。魔法としか言えない。
「…Qent Jam un grahapak?」
と、自分の驚く様子を見て、彼は困惑したように口を開いた。
いや、驚くだろ魔法は……と、言いたかったが、言い方が分からない。
「………はぁ、」
諦めた。
少しすると、空が赤さがより強くなっていき、青空が暗くなり始める。
森全体が影に覆われ始めている。
この周辺にだけ温かな光が溢れる。
虫が寄ってくる。しかし、虫は躊躇なく火に飛び込んでしまった。
「…これが、とんで火に入る夏の虫か…」
ことわざってちゃんと現実にあったんだ。そう感じた。
もう、空の赤さも消え始めた頃、彼がさっき釣った魚を串刺しにして持ってきた。
地面に串を刺して、火に近づける。
火のパチパチとした音と共に、魚の脂がフツフツと液体化して、油が火に落ちる。
落ちた油で心なしか火が強くなったように思えた。
次に、彼は川から水を容器に汲む。
そして、細長い筒と、からの容器、水を汲んだ容器を並べる。
細長い筒の中身は何だろうと覗いてみると、大きな石や砂などが入っていた。
なぜこんなものが?と思っている内に、彼は水をその筒に入れる。
少しのタイムラグを経て、空の容器に水が落ちて、入り始める。
……あ、ろ過か。
ポタポタと、容器に落ちる音と、火の音、川の音がただ聞こえた。
筒からほとんど水が出なくなり、空だった容器が水で満たされた。
彼は、その容器を火に近づける。
確かに煮沸しないと菌で危ないからね。
魚の良い香りに、思わず顔を向ける。
魚の表面は少し炭化しているが、ちゃんと焼けている。
「Zant keterorm.」
…やっぱり、Zantかketerormが食べるって意味だろうなぁ、
でも、今は飯が優先だ!
と、自分が釣った魚の串を持ち…
手が反射的に引っ込んだ。
「あっつ!」
そりゃそうだ。熱いに決まってる。
「……」
何やってんだこいつみたいな目で彼が見つめてきた。
踏んだり蹴ったりだよ。
彼は、布越しに串を触って、火から離す。
少し冷ますためだろう。
さっきみたいにならないように。
でも、ちょっと待たないとなぁ…。
「えぇーっと、」
と、そう言って、彼に呼びかける。
「Qunt?」
「コレ、なに、コレ」
日本語だから伝わる筈がないのだが、魚を指さす。
「Jot un ghobandis.」
グ、グホバンディス?思ったより魚って言葉が長い。
…覚えられるかな………
ちょっと経って、魚が触れるくらいになっただろう。そのタイミングで、彼が魚に塩をかけ始めた。
塩の一部が地面に落ちて、勿体ない。でも、しょうがないか。
串を持って食べる。
程よい熱さで、ホクホクとしている。
でも、骨が多い。この魚は生きていたのだと、再認識した。
容器に入った水はちょうど沸騰し始めていて、湯気が立ちこめる。
ふと、空を見てみる。
星が空一面に広がっている。その中に1つ月が浮かぶ。
魚を食べる音が、やけに大きく聞こえた。
魚を食べ終わった。
よくよく考えると、ずっと、彼の名前が分かってない。
名前が分からない。絶対分かってたほうがいい。
そう思った。でも、自分から名乗らないとな…
確か、Jaが私、unがbe動詞なはず。たぶんそう。
「えぇーっと……Ja un Kento.」
少し間がある。
「Ou,Jam un Kento.」
ちゃんと伝わったようで安心した。
「Mol,ja hanjiet jamon.」
……?jaしか分からないが…
「Ja un Karlun.」
カールン。それが彼の名前なのか。
少しだけ欠け始めた月は、輝きを増したようだった。
カールンがランプを消す。
昨日と同じように、テントの隙間から火の光が漏れる。
でも、昨日とは違って、よく寝付けそうだった。