世界一優しいストライカーの辞め方 作:かなりゆっくりめ
前半は成早と吉良の活躍によって、二点のリードを奪ったチームZ。
そして、いよいよ秘密兵器・久遠渉がピッチへ!
キャプテン菖蒲田慎吾も、仲間たちの活躍を楽しみにしています。
さて、後半はどんなゴールが生まれるのでしょうか。
「後半開始。選手交代、チームZ。アウト・成早朝日、イン・久遠渉」
久遠君、ようやく出番だね。前半はずっと待たせてしまった。
「うおおおっ!! 頼んだぞ、久遠!! 俺に続いて点獲ってこいよ!」
「よっしゎあああああああッッッ!!!」
「ヒャハッ! いい気合じゃねぇか久遠! うおおおおおおッッ!!」
雷市君まで加わって大騒ぎだ。後半前に喉を潰しても知らないよ。久遠君にはもう十分伝わっていると思うけどな。
「あはは! ウチの皆は元気があって本当にいいねぇ!」
「まあ……少しうるさすぎる気もするけどね。高校野球の応援席みたいだよ」
涼介はそう言うけれど、前半の交代前とは大違いじゃないか。成早君には、今日の試合をずっと覚えていてほしいね。
さて、國神君、雷市君、潔君。この三人はチームX戦で一点ずつ。今日は成早君と涼介も決めてくれた。
残るのは我牙丸君、久遠君、蜂楽君、それから五十嵐君だ。後半の四十五分なら、四人とも間に合うだろう。伊右衛門君にはゴールを守ってもらわないといけないし、千切君を無理に走らせるのも違う。俺の得点? それは後回しでいいよ。
まずはまだの人から。試合を眺めて終わりじゃ、せっかくここへ来た甲斐もないからね。
前半の我牙丸君には、守備でずいぶん助けてもらった。あの足の届く範囲には俺も驚く。けれど、ゴール前でならもっと面白いことをしてくれそうだ。今日は最初からヘディングを頼んでみようか。
「よし!! 我牙丸君、前だーーーッ!!」
「え? ああ!!」
「え〜、慎吾ちゃんまだ攻めるの!? 2点リードなのに欲しがりさんだな〜!」
もちろんだよ、蜂楽君。君の番もちゃんと考えている。涼介とは前半に話をつけてあるし、今さら二点でおしまいにはできない。
開始の笛を聞いて、俺も相手のボランチへ寄せる。後ろを向いてくれるならありがたい。下げる先は、今の視線で分かるよ。
「ひっ……!? な、なんだコイツの踏み込み……!?」
「ほらっ! 貰ったよ!!」
足に触れないように、ボールを前へ。おっと、そんなに驚かなくても大丈夫。倒したりしないって。
我牙丸君はもうゴール前だ。守備の頭を越して、キーパーの手前へ落としたい。高すぎると間に合われるし、足元へ出しても窮屈になる。あの位置なら、少し遠くても任せてよさそうだね。
「我牙丸君、頭ッ!!」
「うおおおおッ!!」
そこから届くんだ! 頭から飛び込んでくれるとは思わなかった。キーパーも右上までは追いつけない。
「うしッ!!」
三対零。うん、まず一人。
本人は平気そうだ。あの跳び方を他の皆にも頼むわけにはいかないな。
五十嵐君あたりに同じ球を出したら、飛び込む前に俺を呼びそうだ。
我牙丸君には我牙丸君の取り方がある。そういうのを順番に見せてもらえるんだから、今日は贅沢だよ。
◇◇
次は蜂楽君にしよう。
相手も俺からのパスを警戒している。中央へ入るたびに三人も来てくれるのは助かるけれど、足を出す順番まで同じじゃ、こちらも困らないよ。
一人目をかわしても、すぐには離れない。二人目の前で速度を落とせば、三人目も間に合う。これで蜂楽君の前には、キーパーまで誰もいない。
十五分も待たせてしまったね。足元へ渡すから、あとは好きにどうぞ。
「蜂楽君、遊んでおいで!」
「わーい! いただきっ! よっと!!」
ああ、そっちへ抜くんだ。俺なら足元を狙うところで、蜂楽君は上を選ぶ。
寄せてくるまで待ってから浮かせるなんて、ずいぶん楽しそうじゃないか。
ネットに収まるまで見届けて、四対零を確かめる。これなら本人も文句はないだろう。
俺のところへ戻ってくる顔を見れば、聞くまでもないね。
蜂楽君に決め方を細かく頼む必要はない。どこからなら遊べるか、それを探してあげればいい。前半みたいに三人で囲まれても、俺へ戻してくれる。その分、こっちもいい場所へ届けたくなるよ。
◇◇
さて、五十嵐君。
さっきから前へ行きたい様子は見える。ただ、俺と同じところへ来てもパスは出しにくいんだ。もう少し右へ。そう、その辺で待っていて。相手をかわすのは俺に任せていいから。
練習なら、外してももう一度で済む。でも得点を狙うとなれば、足も普段どおりには動かないだろう。難しいボールを出して、あとから落ち着けなんて言うのは気の毒だ。
浮かせず、止めず、前へ出る勢いをそのまま使えるように。そう考えているうちに、時計は二十八分を過ぎる。
こぼれ球を拾って中へ入ると、また俺の方へ寄ってくれる。
ここまで来れば、自分で撃つのも簡単だ。でも、それじゃ五十嵐君を走らせた意味もない。
キーパーには俺を見てもらったまま、右へ渡す。ゴールの前を通り過ぎないように、速さは控えめでいい。
「五十嵐君、ここなら誰でも押し込めるよ!!」
「う……うおおおおおおッ! 俺だって……俺だってストライカーだァァァッ!!」
おおっと、すねか。足の内側で合わせるつもりだったんだろうけど、まあ、入れば問題ない。
すぐに飛びつくのは待ってね。まだ線の上だ。キーパーは戻れない位置にいるし、触り直す必要もない。そのまま、そのまま……うん、今なら大丈夫。
「ゴ……ゴーーーーーールッッ!! 入ったぁぁぁぁぁッ!! 寺の跡継ぎ免除じゃあぁぁぁッ!!」
五対零。そんな遠くまで話を進めちゃっていいのかい。お寺のことまでは俺も請け負えないよ。でも、ここで得点できたことは家にも自慢していいと思う。
「……あ…………あ………………嘘だろ…………こんなの……」
雷市君との勝負は、今日いちばん疲れそうだね。ボールをもらう前からずっと隣にいるし、向きを変えても離れない。
俺たちの得点の間も、二人の距離はほとんど変わっていない。
大川君を自由にしないこと。それはハーフタイムに雷市君へお願いした。今のところ、こちらから念を押す必要もない。
持ち場を離れるようなら困るけれど、今日は自分の仕事を続けてくれている。
帰ったら、そこもちゃんと褒めないとね。得点者の名前は残るけれど、守る方の頑張りは放っておくと忘れられてしまう。
◇◇
久遠君には、まだパスを出せていない。
昨日のシュートを試すなら場所を選ぶ。近くへ寄せて押し込んでもらうのでは、本人も張り切って出てきた甲斐がないだろう。
俺の方ばかり見ないでいいよ。練習したところへ先に入っていてくれれば、ちゃんと見つけるから。
「……まだです……! まだ終わっていません!! 1点でも返せば……得点王の道も……勝機もゼロじゃない……! まだ負けてないッ!!」
二子君か。いいね、まだ前を向けるんだね。
五点も離れたら、後ろで時計を見ていてもおかしくない。
それをせずに、味方へ呼び掛けてくれる。次の試合もあるんだから、ここで投げ出さないのは大切だよ。
「うん! 素晴らしいことだ!! 最後まで諦めないその不屈の闘志……ネバー・ギブアップの精神は、スポーツマンとして何物にも代えがたい最高の資質だよ! 二子一揮君!!」
「……え?」
「君のその素晴らしい姿勢に敬意を表して――僕たちの『最後の切り札』を披露しよう!」
手を抜いて終える方が失礼だろう。久遠君も待っているし、最後まで付き合ってもらおうか。
二子君は俺を追ってくる。さっきの言葉どおりだね。蜂楽君への道を閉じながら、前にも足を出してくる。けれど、俺を止めるならもう少し近くないと届かないよ。
抜けた先で寄せる相手にも、パスを見せておく。
五十嵐君の方へ顔を向ければ、そちらを放ってはおけないだろう。
さっき一点、目の前で決めているんだから。
よし、ここまで来れば十分。
ゴールの前には人数も揃っている。蜂楽君も我牙丸君も、そのままでいい。
久遠君の場所は、さっき確かめてある。あとは後ろへ戻す角度を間違えなければいい。見直して相手に教えることもないしね。
二子君の目の前で、俺はゴールに背を向ける。
そこまで不思議そうな顔をしなくても。ここから後ろへ出したって、攻撃は終わらないよ。
◇◇
久遠君に合わせるのは、ゴールから三十八メートルの位置だ。
昨日はずいぶん蹴り直した。近ければいいわけでも、遠ければ威力を出せるわけでもない。本人の走り出す場所から、ボールに触れる位置まで、何度も確かめた。
四十九度。久遠君に伝えた入り方も、練習中には何回かずれた。ゴールへ意識を向けすぎると、最後の一歩を急いでしまう。だから今日は、俺の方で足を合わせやすいボールを返してあげたい。
まだかな、久遠君。いや、ちょうどいい。歩幅を縮める必要もなさそうだ。
前にいた相手の向こうへ顔を出して、コースを確かめる。
キーパーは俺のところへ出る位置にいる。右隅は空いているけれど、ずっと開けておいてくれるわけじゃない。打ち合わせどおり、止めずに撃っておいで。
「撃てェェェェェッッッ!!!!」
自分へ掛け声を掛けるんだね。練習の時より、よほどいい声だ。
芝のすぐ上を通す。蹴り方を掴んでから、久遠君はこっちも繰り返し試したがっていた。
「なっ……!? そん……な位置からァァッ!?」
キーパーの手を避けるように、低いまま右へ。届くかな、とは思わない。俺たちで選んだ場所から、練習どおりに撃てている。
「よっっっし!!! お披露目成功だぁぁぁぁッッ!!」
「よし! これで達成だ!!!」
六対零。待たせた分も含めて、喜んでもらえそうだね。
久遠君にはヘディングがある。それで十分だと決めつけなくてよかった。
鍛えた身体を、別の形でも使えたんだから。本人も、次からはクロスの来ない場所で退屈しなくて済むだろう。
何より、練習に付き合った俺まで嬉しい。
秘密にしておこうと言った時には、こんなに大声で喜ぶ久遠君を想像していなかったな。
「すごいな久遠君! 38メートルの距離からあの低弾道を通すなんて、完璧なスーパーゴールだよ!」
「ナイスシュート」
「うおおお! 俺たち強すぎだろ! 6点だぞ6点!!」
涼介も我牙丸君も、本人に言ってあげてくれる。俺から何度も褒めるより、そっちの方が効くこともある。五十嵐君は、あとで自分の一点も必ず付け加えるんだろうね。
◇◇
『……達成……? 慎吾は今……「これで達成だ」って言ったのか……?』
潔君、輪に入らないのかい。
俺の顔と、得点板と、久遠君と。順番に見比べるほど変なことは言っていないと思うけれど。今日の予定は、さっきので済んだんだ。君にも前半、皆の武器を使う日だと話したじゃないか。
伊右衛門君と千切君も加えたい気持ちはある。でも、それを理由に今の形を壊すのはよくないね。千切君には、走る気になってから機会を作ればいい。伊右衛門君には、このまま零点で守り切ってもらおう。
俺自身は、まだ零点だ。それを気にしてくれているのかな。
だったら心配はいらないよ。自分で撃てるところから渡すのは、別に我慢じゃない。
五十嵐君へ出す前にも、他の選び方はできた。蜂楽君に預けず、そのまま自分で入ってもよかった。
けれど、そうやって俺の名前を増やすより、今日の六人を並べてみる方が面白いじゃないか。帰ってから話すことも増えるし、練習する時にも、実際に決めた場面を思い出せる。
俺へボールを渡せば、自分にも出番は来る。皆にそう思ってもらえたら、次の試合もやりやすい。せっかく走っても見てもらえないなら、誰だって嫌になるものね。
久遠君はもう、次も撃てそうな顔をしている。うん、そのつもりで練習してくれていいよ。今日の一発を偶然で終わらせないように、俺もまた付き合うから。
「さあみんな! 試合終了まであと少し! クリーンシート(無失点)で美しく締めくくろう!」
最後まで諦めない相手と、最後まで付き合う。得点の予定は済んでも、それを忘れたらキャプテン失格だよ。
チームY戦、六対零!
今回の得点者は、成早、吉良、我牙丸、蜂楽、五十嵐、久遠の六名。
見事な全員サッカーですね!
なお、キャプテン菖蒲田慎吾は今回も無得点です。
本人は大満足。
そして何より恐ろしいのは、後半の四得点がほぼ予定どおりだったということ。
仲間を輝かせる最高のキャプテンなのか。
それとも、仲間の活躍まで自分で決めてしまう、とんでもないエゴイストなのか。
皆さんは、慎吾のサッカーをどう思われますか?
ぜひ感想をお聞かせください!