世界一優しいストライカーの辞め方   作:かなりゆっくりめ

14 / 14
一次選考、二戦二勝。

順調に勝ち星を重ねるチームZの次なる相手は、鰐間兄弟率いるチームW。

そして、その二人をよく知る千切豹馬。

キャプテン菖蒲田慎吾は、今回も仲間全員が活躍できるよう、最適な役割を考えています。

もちろん、千切にもきちんと仕事を用意しました。

本人が喜ぶかどうかは、また別のお話ですが。



案山子の屈辱と反乱軍の密約

「次の第3戦の相手はチームW。このチームの最大の鍵は、間違いなくこの二人……鰐間兄弟だ。攻撃の組み立てから前線でのハイプレス、防御に至るまで、全てがこの双子の阿吽の呼吸から始まっている。……でも、この二人については千切君の方が詳しいんじゃないかな? 同じチーム出身だろ?」

 

「なに、そうなのか!? なら話が早いな。千切、アイツらの攻略にはどうすればいい? 弱点や癖はあるのか?」

 

いいところを聞いてくれるね、久遠君。

 

千切君も、これなら困らないだろう。走れと頼んでいるわけじゃない。知っていることを教えてくれれば、それで皆の助けになる。

 

怪我の話をされるより答えやすいはずだ。

俺も今日は、聞かずに済ませたい。

答えの分かっている質問を繰り返しても、仲良くはなれないからね。

 

「…………兄貴(淳壱)の方は無口で一切喋らないが、弟(計助)の方はおしゃべりで煽り魔だ。だけど、アイツらの連携の基本は言葉じゃない。アイコンタクトだ。弟の口車に惑わされず、二人の目線を遮るか、視線の先を読んで判断すれば、ある程度先手を取れるはずだ」

 

「素晴らしい分析だ! なら話は早いね!」

 

ちゃんと答えてくれるじゃないか。

 

質問する方を変えれば、君からも引き出せるものはあるんだね。

うん、今日はその調子でいてほしい。役に立つと分かれば、こちらも優しくしやすいよ。

 

「へッ! なら俺がそのおしゃべりな弟に張り付いて、息も吸えないくらい窒息させてやるぜ! その代わり、前線でボール奪ったら今度こそ俺にシュートチャンスをよこせよ!」

 

「兄貴の方は俺と我牙丸で挟み撃ちだな! 死角を消してやれば連携もクソもないだろ!」

 

「おお。2枚で囲めば何とかなる。飛び道具も止める」

 

あはは、雷市君には先に約束を取りつけられちゃったね。

 

いいよ。守った分も褒めるし、チャンスも作ってあげよう。何が欲しいか言ってくれるなら、俺も応えやすい。

 

成早君と我牙丸君も、それでいい。二人で止めてくれれば、どちらに手柄をつけるかで揉めることもないだろう。

 

皆、それぞれに欲張っているじゃないか。潔君の言うエゴだって、このくらいなら歓迎するよ。どうして君は、俺と相談するところから嫌がるんだろうね。

 

「……役割は決まったな。なら、俺はお役御免(ベンチ)だな…………」

 

「え? 何を言ってるの千切君?」

 

「……は?」

 

「君にはレフトバックで、フルタイムでディフェンダーを頼むよ。君がそこに立っているだけで、相手にとっては十分な抑止力になるんだからさ!」

 

「な…………? 走らない俺を……バックに置くだと……?」

 

そんなに意外かい。君をどう使うかは、俺も考えているんだよ。

 

昨日は席を空けてもらえばいいと思った。それを涼介に止められて、もう少し別の使い道を探すことにした。幸い、次の相手は君をよく知っている。

 

本人は走りたくない。でも、向こうは走ってほしくないだろう。

 

せっかくの食い違いを、使わずにおくのはもったいないじゃないか。

 

「走れないなら、『走るかもしれない』と思わせればいいのさ。相手は君の全盛期の快速を知っているんだろう? なら、たまーに全力ダッシュをするフリだけでも見せてくれれば、相手の右サイドは警戒して上がってこられなくなる。いわば【最高性能の案山子(カカシ)】だね! 助かるよ千切君!」

 

「…………っ!!!!」

 

……そんな顔をするんだね。

 

ほっといてくれと言うから、難しい仕事は頼まないことにしたのに。走らずに役立てるなら、喜んでくれると思ったんだけどな。

 

名前が気に入らないのかな。最高性能とまで言ってあげたんだから、褒めていることは伝わると思うよ。

 

それとも、本当は走りたい?

 

だったら、そう言ってくれればいい。俺は君に走るなと命じた覚えはない。できないと言うから、できる範囲で頼んでいるんだ。

 

ここで怒るなら、君は自分でも満足していないんだね。そこまで分かったのは悪くない。

 

 

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

 

バカにしやがって……!! なんなんだコイツは……!? 俺に配慮してるフリをして……ただの道具としてピッチに立たせる気か……!? ふざけるな……! でも…………!

 

何て返せばいい。走れるとでも言うのか。そんなことを言ったら、あいつは喜んで走らせる。できるなら頼むよって、今と同じ顔で。

 

できない。だから。その程度でいいと笑ってるお前が。

 

鰐間たちの前で、走るふりをしろって? あいつらに何を言われるか、分かってるのか。

 

 

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

 

「あ、慎吾。ちょっと戦術面で気になったんだけどさ」

 

「ん? なに、涼介?」

 

「チームX戦の後半みたいに、リードを奪った後に延々とバックパスを回し続けるあの時間稼ぎ……あまりにも露骨にやりすぎると、JFAの競技規則的に『非紳士的行為(アンスポーツマンライク・コンダクト)』で間接フリーキックや警告を取られないかい?」

 

ああ、そっちの話か。

 

言い方をまた注意されるのかと思った。君に止められたから、俺もちゃんと使い道を考えてきたんだよ。

 

「うーん……現代サッカーのルール上、正当なボール保持である限りは遅延行為の境界線はかなりグレーなんだけどね。今のところ絵心さんの電子主審もノーホイッスルだし、レフェリング基準はザルかと思っていたんだけど……次からはもう少し敵陣のコーナーフラッグ付近でボールキープする形にして、合法性を高めようか!」

 

「うん、その方が賢明だね」

 

千切君のことも、涼介から話してもらった方がいいのかな。

 

いや、頼むのは少し待とう。気に入らないたびに涼介を呼ぶようでは、いつまでも仲良くなれない。

 

明日、二人で話せばいい。皆の前で素直に頷くのは、今さら恥ずかしいのかもしれないしね。

 

言い直してあげよう。君にしかできない仕事だから頼みたい、と。それなら案山子という言葉に引っかからず、聞いてくれるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

 

…………眠れない。……慎吾の言うことは分かる。トータルフットボールも、チームの勝利も、プロとしての契約社会の現実も、全部正論だ。……だけど、どうしても納得できない。俺は……俺はストライカーになりたくて、ここに来たんだ。仲間と手を取り合って綺麗に勝つためじゃない。自分のゴールで前に進むために……。あんな綺麗事の檻の中で飼い慣らされて……本当に世界一になれるのか……?

 

一時か。明日の練習のことまで考えたら、今すぐ戻って寝るのが正しいんだろうな。慎吾なら、そう言う。

 

……いないところでまで、あいつならどう言うか考えてる。何やってんだよ、俺。

 

映像を見よう。あの七点目を、もう一度。自分で決めたつもりでも、見直せば何か違うのかもしれない。いいところも悪いところも、まず俺が見つけたい。

 

ん……明かりがついてる。先に誰か来てるのか。慎吾じゃ――。

 

「……千切?」

 

「……どうした?」

 

「いや……眠れなくてさ」

 

「…………そうか……」

 

ああ、同じ試合を見てるんだな。

 

画面の端にいるのは千切か。俺たちの攻撃を、あそこから見てたんだ。パスをもらいに来ないから、試合中はほとんど気にしなかった。

 

慎吾は見てたんだろうな。走らないなら走らないなりに、使える場所を探してた。そう考えると、キャプテンとしてはよく見てるってことになる。

 

……でも、案山子はねえだろ。

 

役に立つんだから喜べって、俺なら言われたくない。昼間は何も口にできなかったけど、あの言葉に腹を立てるのは普通だと思う。

 

「……なあ、千切」

 

「…………俺は……怖いんだ」

 

怖い?

 

そういえば、膝のことをちゃんと聞いたことはなかった。本人も言いたがらなかったし、慎吾も無理に話さなくていいと言ってたから。

 

俺もそこで、知ろうとするのをやめたんだよな。

 

「右膝の前十字靭帯断裂……。もう一度同じ個所をやったら、俺の選手生命は終わる。医者にもそう宣告された。だから俺は、この青い監獄で適当に理由をつけて脱落して……サッカーを綺麗サッパリ諦めるためにここに来たはずだった」

 

ここで頑張れなんて言えるのか? 俺は千切の膝の代わりになれない。大丈夫だって請け負うこともできない。

 

あいつは、それを怖がりながら毎日ピッチにいたのか。

 

「なのに……昼間のミーティングで、あいつに……『案山子になれ』なんて言われてさ……。 悔しくて……惨めで……。 それと同時に……『走ってアイツらの度肝を抜いてやりたい』って、心の底が滾ってくる自分がいるんだ。 ……その衝動が……また膝を壊すんじゃないかって……怖くてたまらないんだよ……!」

 

……諦めたくないんじゃないか。

 

そう言えば、怒るかな。でも、悔しいってことは、まだ走りたいんだろ。あんな扱いで終わりたくない。お前の速さは、相手を警戒させるための噂なんかじゃないって、見せたいんだろ。

 

俺にも、それは分かる。

 

慎吾はたぶん、千切の足に無理をさせずに済むと考えてる。役に立ててよかったねって、試合のあとにも褒めるんだろう。

 

千切は、その褒められ方が嫌なんだ。

 

俺も同じだった。あいつの言う場所へ行って、いいパスをもらって、点を取る。皆には喜んでもらえる。

自分でもう一度やれる気がしない。慎吾がいなければ、俺は何をすればいいのか分からないままだ。

 

役に立てば、それで満足するはずだって。あいつは俺たちに、そう思ってるのかもしれない。

 

でも、俺は……。

 

「……俺はさ。エゴイストになりたいのかもしれない」

 

「え……?」

 

「チームのためにパスを回して、みんなで仲良く勝つサッカーなんて、もううんざりなんだ。 まだ弱くて、何も持ってない俺だけど……他人の夢を壊してでも、自分が一番前に立つための『エゴ』で……俺は上を目指したいんだよ」

 

慎吾の前なら、最後まで言えたか。

 

うまく言えないけど、これなんだよ。勝ち方を選んでもらう前に、俺がどう勝ちたいか言いたかった。

 

「ふっふーーーっん!!」

 

「のわっっっ!?!?」

 

蜂楽!? 近っ……! いつからいたんだよ!

 

「あはは! 二人で夜中に抜け駆けして逢引〜? 妬けちゃうねぇ、イサギ!」

 

「ち……違うわ!! なんでお前がここにいるんだよ!?」

 

「ああ、心臓に悪い真似するな……!」

 

「だって眠れなかったんだもーん。胸の中の『かいぶつ』がさ、全然満足してないんだよね」

 

……お前も眠れないのか。昼間は、適当に流してたくせに。

 

俺が殴られたあとも、何を考えてるのか分からなかった。楽しかったのは、あの時の俺だけかと思いそうになった。お前はどんなパスだって出せるし、慎吾とも楽しそうにやるから。

 

なあ、あの一本はお前にとっても違ったのか?

 

「俺もさ……慎吾ちゃん個人のプレーはすっごくワクワクするんだよ? 昨日の夜の1on1も、あの速さも、全部最高! ……だけどさぁ。慎吾ちゃんの作る『サッカー』は、めちゃくちゃ退屈でさあ」

 

「……やっぱり、蜂楽もそう思うか」

 

「………………」

 

「点差を守ってパス回しとか、全員に1点ずつ配るとか……まるで先生に言われた通りに並ぶ幼稚園のお遊戯会じゃん? そんなの、俺のかいぶつが全然踊ってくれないんだよ」

 

退屈、か。

 

代わりに、俺が全部できるわけじゃない。あいつの言ってることを、全部間違いだと言えるわけでもない。でも、それと一緒にやって満足できるかは、別の話なんだ。

 

蜂楽は一人でも抜ける。慎吾から道を開けてもらわなくたって、あいつのドリブルなら勝負できる。俺の技術が足りないから、そう感じるんじゃなかったんだ。

 

少しほっとする。こんな話をしたかった。同じ気持ちだと分かる相手が、ほしかった。

 

……いや、三人になったから正しいって話でもないよな。あいつにそう言ったら、何人でやっても勝手なことは駄目だと返される。

 

分かってる。次も逆らえば怒らせる。試合に出す理由がないと判断されたら、俺にも言うかもしれない。

 

「ねえ……次のチームW戦さ。 慎吾ちゃんの言う通りに動くの、やめちゃわない? 俺たち3人の『反乱軍』――エゴイストチームで、ピッチをめちゃくちゃにしちゃおうよ?」

 

反乱軍……。大げさな名前をつけるなよ。慎吾に聞かれたら、また面倒なことになるぞ。

 

けど、俺たちのゴールを先回りして用意することまでは、させたくない。あいつに褒めてもらうための攻撃にはしたくない。

 

蜂楽、お前にはどこが見えてる? 千切、お前はどこへ行きたい?




菖蒲田慎吾は、仲間の才能を無駄にしません。

走りたくないなら、走らなくても役に立つ場所を用意する。

なんて合理的で、仲間思いのキャプテンなのでしょう。

なお、千切豹馬はまったく喜んでいない模様。

そしてついに、チームZ内部で反乱軍が結成されました。

首謀者は潔世一。
共犯者は蜂楽廻。
そして、俊足の案山子こと千切豹馬。

彼らが求めているのは、敗北でも、慎吾の失脚でもありません。

ただ、自分自身の意思でサッカーをすること。

……それだけの話なのですが。

果たしてキャプテン慎吾は、三人の自主性を喜んでくれるのでしょうか。

次回、チームW戦。

チームZの団結力が試されます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

ブルーロック 〜もう1人の天才MF〜(作者:真神楽)(原作:ブルーロック)

全国から主催の絵心甚八による独断と偏見で集められた300人の高校生ストライカー。たった1人の英雄を生み出すため、日本サッカー協会が推し進める青い監獄ブルーロックプロジェクト。▼その会見を偶然見た2人の天才MFは…


総合評価:24/評価:-.--/連載:4話/更新日時:2026年10月16日(金) 00:00 小説情報

護廷の問題児(作者:ニコラス―NICORUTH―)(原作:BLEACH)

▼ え?吾輩、なにかしました?


総合評価:117/評価:-.--/連載:19話/更新日時:2026年10月12日(月) 22:36 小説情報

神酒←「みき」って読めんよね(作者:パルプンテ権左衛門)(原作:ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか)

神様(に)転生したソーマの話。▼オリキャラがちょこちょこ出てきます。▼出来る限り出さないようにします。


総合評価:5507/評価:8.17/連載:42話/更新日時:2026年06月08日(月) 19:00 小説情報

絶対の先制(作者:幻影の塔)(原作:BLEACH)

護廷十三隊どこにでもいる平隊員、だがその実力は最強格あえて実力を隠し平穏に生きてる。これはしがない平隊員が、絶対の先制をもって敵を葬る物語である


総合評価:248/評価:5.33/連載:110話/更新日時:2026年10月04日(日) 03:40 小説情報

神のアクア?、そんなもんより魔剤のが効くぜ(作者:宙の開拓者)(原作:イナズマイレブン)

エナドリってなんか美味しいよね▼無印編完結しました


総合評価:394/評価:6.11/連載:18話/更新日時:2026年07月24日(金) 18:45 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>