世界一優しいストライカーの辞め方   作:かなりゆっくりめ

6 / 6
いよいよ始まる一次選考。

全国から集められたストライカーたちによる、チーム対抗のリーグ戦。

もちろん、勝ち残れるのは一握りです。

果たしてチームZの面々は、厳しい生存競争を勝ち抜けるのでしょうか。

なお、菖蒲田慎吾は今回もやる気満々です。

ようやく十一人でサッカーができるのですから。


全勝すればいいだけですよね?

絵心はモニター越しに十二人を見下ろしている。手には菓子の袋、デスクには胃薬まで置いてある。

 

『……あー、才能の原石ども。いよいよ一次選考(ファーストセレクション)を始める。ルールはシンプルだ。この伍号棟にある5チームによる、総当たりリーグ戦を行う』

 

『上位2チーム、計24名が無条件で二次選考へと進出できる。……だが、敗退した下位3チームの計36名はその場で即刻脱落だ。――ただし、救済システムが一つだけある』

 

『敗退した下位3チームであっても、各チーム内で最も多くゴールを奪った「チーム内得点王」の3名だけは、個人の力で二次選考へ生き残ることができる。……仲間と仲良しごっこをして沈むか、味方を蹴落としてでも自分が点を奪って這い上がるか。お前たちのエゴを見せてみろ』

 

「ねえ、菖蒲田。いつもみたいに『労働基準法がー』とか『教育的に良くないよ』みたいなこと、今回は言わないのか?」

 

「ん? 言わないよ。だってこれ、すごく良心的なルールじゃないか」

 

「えっ……良心的!?」

 

「うん。スポーツ競技である以上、勝敗がついて勝者と敗者に分かれるのは当たり前のことだからね。それに、もしチームが負けてしまっても、最後まで諦めずに結果を出した個人を拾い上げてくれるなんて……運営側の温かい【救済措置】だよ。絵心さんも、本当はすごく情に厚い人なんだねぇ」

 

潔は口を開けたまま、慎吾の笑顔を見つめている。

 

『救済措置……!? 仲間を裏切らせるためのルールを、あいつ、ただの温情制度として受け取ってやがる……!!』

 

雷市の怒鳴り声に、成早は肩をすくめる。

 

「あァ!? 救済だろうが何だろうが関係ねぇ! 結局、蹴落としてでも点を取った奴が生き残るシステムじゃねぇか! 俺がFWでゴール決めなくてどうするんだよ! 誰が他人にパスなんて出すかよ!!」

 

「でも雷市君。全部勝てばいいだけの話だよ?」

 

「あァ!?」

 

「もし負けて、君一人だけが得点王で勝ち上がったとしよう。周りから何て言われると思う? 『あいつ……チームを勝たせられなかったくせに、自分の点だけ稼いで生き残ったのか』 『仲間を見捨てて一人だけコソコソ上がってきた、残り物のカスだな』 ……なんて陰口を叩かれて、君のプライドは平気かい?」

 

「平気なわけあるかよォォォッッ!!!」

 

「でしょう? 君は誰よりも誇り高い本物のストライカーだものね! なら、みんなで全部勝とうよ。全勝したチームのイレブンとして、堂々と胸を張って次のステージへ進む。……すごくいい響きだと思わないかい?」

 

「ぐ……ッ! そ、それは……そうだけどよ……!」

 

雷市は拳を膝へ押しつけ、慎吾から顔を背けている。

 

「確かに……下位チームから得点王で這い上がるより、上位2チームに入って11人全員で勝ち上がる方が、確率的にも圧倒的に安全だ」

 

「そうだな……。俺も賛成。全員で勝つ方が肉も美味い」

 

「俺も俺も! 慎吾の言う通り全勝して、全員で生き残ろうぜ!」

 

「ああ。小細工なしで正々堂々と勝つ。それが一番だ」

 

久遠に続き、我牙丸も五十嵐も慎吾のそばへ寄っている。國神まで頷く中、潔は腕をさすり、その輪を見つめている。

 

『雷市を……、一瞬で丸め込みやがった……! 『全員で勝つ』という耳触りのいい理想論を、プライドという劇薬を使って全員に呑ませた……。 この人……やっぱりただの善人じゃない……!』

 

伊右衛門は話の切れ目を待ち、皆の顔を見渡している。

 

「よし、全員で勝つ方針は決まった。……で、最初の試合のスタメンとポジションはどうする? 1人は控え(ベンチ)に入らなきゃいけないルールだけど……」

 

「あ、俺は最初、控えでいいよ!」

 

「「えっ!?」」

 

「みんなそれぞれ、得意なプレーをアピールして活躍したいだろうしね! 僕はベンチの外から相手の戦術やフォーメーションを分析して、みんなに的確なアドバイスを送るよ。監督代行みたいなものさ!」

 

潔は吉良へ顔を向ける。吉良は慎吾を止めようともせず、蜂楽もその隣で慎吾を見ている。潔は開きかけた口を閉じる。

 

『慎吾……! それは……!! 昨日の夜、吉良君とピッチを切り裂いてたあんなバケモノが……控えに回るだと……!?』

 

千切は慎吾から顔を背け、蜂楽は慎吾の首へ腕を回している。

 

「ふん……やる気がない奴は仕方ないね。勝手にベンチを温めてなよ」

 

「えーーーっ! 慎吾ちゃん出ないのー!? 俺、慎吾ちゃんのパス受けてみたかったのになぁ〜!」

 

「あはは、ありがとう蜂楽君。試合の途中でちゃんと交代して出るからね。君のドリブルが一番活きるスペースを、外からじっくり探しておくよ」

 

「はーい! 約束ね〜!」

 

慎吾は蜂楽の頭に手を添え、吉良へ笑いかけている。

 

「うん、菖蒲田君がそう言ってくれるなら甘えよう。とにかく……勝てば何の問題もない。 『ワン・フォー・オール、オール・フォー・ワン(一人はみんなのために、みんなは一人のために)』。チームスポーツの基本だね」

 

「お! 吉良君、いいこと言うね! まさにスポーツマンシップの真髄だ!」

 

「へへっ、まあ……慎吾がそう言うなら、俺も全力で走るぜ!」

 

「ああ! 正々堂々と、チームのために戦おう!」

 

五十嵐と國神も笑っている。潔は口を閉じたまま、皆の顔から目を逸らす。

 

『『ワン・フォー・オール、オール・フォー・ワン』……。 あの言葉……監督がずっと言っていた言葉だ……。 みんなのためにパスを出して、ゴールを逃して……。 なんであいつは……菖蒲田慎吾は、あんなにも眩しい顔でそれを肯定できるんだ……!?』

 

「よし! 方針も決まったことだし、最後はキャプテンにビシッと締めてもらおうかな?」

 

「キャプテン??」

 

「お! 吉良ァ、テメェもたまには分かってんじゃねぇか! 俺様のリーダーシップに――」

 

「お前でないことだけは確かだ」

 

「痛ぇなクソ筋肉! なんだとコラァッ!!」

 

國神に頭を小突かれても、雷市は食ってかかるばかりだ。久遠は二人に苦笑し、慎吾を指している。

 

「ふふ、満場一致で菖蒲田君だね」

 

「俺!? いやいやいや、困るなぁ! 吉良君みたいな実績のあるスター選手がいるのに、僕なんかがキャプテンだなんておこがましいよ!」

 

「何言ってるんだよ。警察を呼んで俺たち全員の権利を守って、食事の環境を勝ち取って、今こうしてバラバラだった俺たちを一つにまとめたのは君だ。……責任を取ってもらうよ、キャプテン!」

 

「ん〜……まいったな。みんながそこまで言ってくれるなら……わかった!」

 

慎吾は吉良の腕から離れ、皆へ顔を向ける。十二人で円陣を組み、胸の前に拳を掲げている。

 

「みんな!! 絵心さんは『サッカーをゼロから作る』なんて言ってたけど、そんなの間違いだ! サッカーはゼロから作るものじゃない! 一人ひとりの持っている個々の力を足し算して、十一人の力を『百』にして勝つんだ!!」

 

「「「おおおおおッッッ!!!!」」」

 

潔の拳は震えている。隣の雷市にも気づかれず、慎吾から目を離せない。

 

慎吾は皆へ笑いかけている。潔も拳を下ろすものの、指は握り込まれたままだ。




絵心甚八、ついに菖蒲田慎吾から褒められる。

……おめでとうございます。

なお、本人はまったく嬉しくない模様。

そして、とうとうチームZのキャプテンに就任した慎吾。

その横には、誰よりも頼もしいエース候補の吉良涼介。

一見すると、実に理想的なチームが完成しました。

一見すると。

ただ一人、潔世一だけは、まだ何かが引っかかっているようです。

さて、いよいよ一次選考。

今度こそ本当に、十一人でサッカーをします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

グロキシニア転生者が行くHUNTER×HUNTER(作者:霊槍って、良いよね)(原作:HUNTER×HUNTER)

 七つの大罪の世界でグロキシニアとして転生し、チャンドラーと相打ちになるという大金星を上げた主人公が気付けばHUNTER×HUNTER世界の暗黒大陸の世界樹の元にいた……というところから始まる話。▼ 


総合評価:7489/評価:8.38/連載:16話/更新日時:2026年10月03日(土) 20:15 小説情報

伏黒宿儺に「そろそろ狩るか…♠︎」する転生者(作者:羂索は踊り狂って死ぬ♠︎)(原作:呪術廻戦)

▼ 呪術廻戦を知らない転生者が伏黒宿儺相手に「そろそろ狩るか…♠︎」するだけの話。▼タグは随時追加


総合評価:5973/評価:7.44/連載:7話/更新日時:2026年08月06日(木) 18:19 小説情報

禪院家の影法術使い(作者:りー037)(原作:呪術廻戦)

 禪院家相伝「十種影法術」。その術式を受け継いだのは、呪術師としての誇りも野心も持たない、怠惰な男だった。▼


総合評価:2610/評価:8.11/連載:13話/更新日時:2026年10月09日(金) 15:32 小説情報

ようこそ原作主人公抜きで頑張る教室へ(作者:灰色の)(原作:ようこそ実力至上主義の教室へ)

▼よう実の世界に転生した青年、しかし物語の鍵となる原作主人公がいなかった。▼自分の能力も分からない中、彼は必死に足掻いて行く。


総合評価:3840/評価:7.9/連載:43話/更新日時:2026年08月14日(金) 21:23 小説情報

日向ヒカゲ忍法帖(作者:鍋川太一)(原作:NARUTO)

 NARUTOの世界に転生した、男の物語。木の葉の名門に生まれた彼の運命やいかに?▼ 作者の独自解釈がてんこ盛りです。主人公はいろんな事に疑問を抱いている。苦手な方は戻って下さいな。▼ NARUTOを読んでいないと分かりづらいと思います▼ 続かないかも知れないし続くかもしれない。


総合評価:3402/評価:7.7/連載:58話/更新日時:2026年10月08日(木) 19:00 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>