世界一優しいストライカーの辞め方 作:かなりゆっくりめ
全国から集められたストライカーたちによる、チーム対抗のリーグ戦。
もちろん、勝ち残れるのは一握りです。
果たしてチームZの面々は、厳しい生存競争を勝ち抜けるのでしょうか。
なお、菖蒲田慎吾は今回もやる気満々です。
ようやく十一人でサッカーができるのですから。
絵心はモニター越しに十二人を見下ろしている。手には菓子の袋、デスクには胃薬まで置いてある。
『……あー、才能の原石ども。いよいよ一次選考(ファーストセレクション)を始める。ルールはシンプルだ。この伍号棟にある5チームによる、総当たりリーグ戦を行う』
『上位2チーム、計24名が無条件で二次選考へと進出できる。……だが、敗退した下位3チームの計36名はその場で即刻脱落だ。――ただし、救済システムが一つだけある』
『敗退した下位3チームであっても、各チーム内で最も多くゴールを奪った「チーム内得点王」の3名だけは、個人の力で二次選考へ生き残ることができる。……仲間と仲良しごっこをして沈むか、味方を蹴落としてでも自分が点を奪って這い上がるか。お前たちのエゴを見せてみろ』
「ねえ、菖蒲田。いつもみたいに『労働基準法がー』とか『教育的に良くないよ』みたいなこと、今回は言わないのか?」
「ん? 言わないよ。だってこれ、すごく良心的なルールじゃないか」
「えっ……良心的!?」
「うん。スポーツ競技である以上、勝敗がついて勝者と敗者に分かれるのは当たり前のことだからね。それに、もしチームが負けてしまっても、最後まで諦めずに結果を出した個人を拾い上げてくれるなんて……運営側の温かい【救済措置】だよ。絵心さんも、本当はすごく情に厚い人なんだねぇ」
潔は口を開けたまま、慎吾の笑顔を見つめている。
『救済措置……!? 仲間を裏切らせるためのルールを、あいつ、ただの温情制度として受け取ってやがる……!!』
雷市の怒鳴り声に、成早は肩をすくめる。
「あァ!? 救済だろうが何だろうが関係ねぇ! 結局、蹴落としてでも点を取った奴が生き残るシステムじゃねぇか! 俺がFWでゴール決めなくてどうするんだよ! 誰が他人にパスなんて出すかよ!!」
「でも雷市君。全部勝てばいいだけの話だよ?」
「あァ!?」
「もし負けて、君一人だけが得点王で勝ち上がったとしよう。周りから何て言われると思う? 『あいつ……チームを勝たせられなかったくせに、自分の点だけ稼いで生き残ったのか』 『仲間を見捨てて一人だけコソコソ上がってきた、残り物のカスだな』 ……なんて陰口を叩かれて、君のプライドは平気かい?」
「平気なわけあるかよォォォッッ!!!」
「でしょう? 君は誰よりも誇り高い本物のストライカーだものね! なら、みんなで全部勝とうよ。全勝したチームのイレブンとして、堂々と胸を張って次のステージへ進む。……すごくいい響きだと思わないかい?」
「ぐ……ッ! そ、それは……そうだけどよ……!」
雷市は拳を膝へ押しつけ、慎吾から顔を背けている。
「確かに……下位チームから得点王で這い上がるより、上位2チームに入って11人全員で勝ち上がる方が、確率的にも圧倒的に安全だ」
「そうだな……。俺も賛成。全員で勝つ方が肉も美味い」
「俺も俺も! 慎吾の言う通り全勝して、全員で生き残ろうぜ!」
「ああ。小細工なしで正々堂々と勝つ。それが一番だ」
久遠に続き、我牙丸も五十嵐も慎吾のそばへ寄っている。國神まで頷く中、潔は腕をさすり、その輪を見つめている。
『雷市を……、一瞬で丸め込みやがった……! 『全員で勝つ』という耳触りのいい理想論を、プライドという劇薬を使って全員に呑ませた……。 この人……やっぱりただの善人じゃない……!』
伊右衛門は話の切れ目を待ち、皆の顔を見渡している。
「よし、全員で勝つ方針は決まった。……で、最初の試合のスタメンとポジションはどうする? 1人は控え(ベンチ)に入らなきゃいけないルールだけど……」
「あ、俺は最初、控えでいいよ!」
「「えっ!?」」
「みんなそれぞれ、得意なプレーをアピールして活躍したいだろうしね! 僕はベンチの外から相手の戦術やフォーメーションを分析して、みんなに的確なアドバイスを送るよ。監督代行みたいなものさ!」
潔は吉良へ顔を向ける。吉良は慎吾を止めようともせず、蜂楽もその隣で慎吾を見ている。潔は開きかけた口を閉じる。
『慎吾……! それは……!! 昨日の夜、吉良君とピッチを切り裂いてたあんなバケモノが……控えに回るだと……!?』
千切は慎吾から顔を背け、蜂楽は慎吾の首へ腕を回している。
「ふん……やる気がない奴は仕方ないね。勝手にベンチを温めてなよ」
「えーーーっ! 慎吾ちゃん出ないのー!? 俺、慎吾ちゃんのパス受けてみたかったのになぁ〜!」
「あはは、ありがとう蜂楽君。試合の途中でちゃんと交代して出るからね。君のドリブルが一番活きるスペースを、外からじっくり探しておくよ」
「はーい! 約束ね〜!」
慎吾は蜂楽の頭に手を添え、吉良へ笑いかけている。
「うん、菖蒲田君がそう言ってくれるなら甘えよう。とにかく……勝てば何の問題もない。 『ワン・フォー・オール、オール・フォー・ワン(一人はみんなのために、みんなは一人のために)』。チームスポーツの基本だね」
「お! 吉良君、いいこと言うね! まさにスポーツマンシップの真髄だ!」
「へへっ、まあ……慎吾がそう言うなら、俺も全力で走るぜ!」
「ああ! 正々堂々と、チームのために戦おう!」
五十嵐と國神も笑っている。潔は口を閉じたまま、皆の顔から目を逸らす。
『『ワン・フォー・オール、オール・フォー・ワン』……。 あの言葉……監督がずっと言っていた言葉だ……。 みんなのためにパスを出して、ゴールを逃して……。 なんであいつは……菖蒲田慎吾は、あんなにも眩しい顔でそれを肯定できるんだ……!?』
「よし! 方針も決まったことだし、最後はキャプテンにビシッと締めてもらおうかな?」
「キャプテン??」
「お! 吉良ァ、テメェもたまには分かってんじゃねぇか! 俺様のリーダーシップに――」
「お前でないことだけは確かだ」
「痛ぇなクソ筋肉! なんだとコラァッ!!」
國神に頭を小突かれても、雷市は食ってかかるばかりだ。久遠は二人に苦笑し、慎吾を指している。
「ふふ、満場一致で菖蒲田君だね」
「俺!? いやいやいや、困るなぁ! 吉良君みたいな実績のあるスター選手がいるのに、僕なんかがキャプテンだなんておこがましいよ!」
「何言ってるんだよ。警察を呼んで俺たち全員の権利を守って、食事の環境を勝ち取って、今こうしてバラバラだった俺たちを一つにまとめたのは君だ。……責任を取ってもらうよ、キャプテン!」
「ん〜……まいったな。みんながそこまで言ってくれるなら……わかった!」
慎吾は吉良の腕から離れ、皆へ顔を向ける。十二人で円陣を組み、胸の前に拳を掲げている。
「みんな!! 絵心さんは『サッカーをゼロから作る』なんて言ってたけど、そんなの間違いだ! サッカーはゼロから作るものじゃない! 一人ひとりの持っている個々の力を足し算して、十一人の力を『百』にして勝つんだ!!」
「「「おおおおおッッッ!!!!」」」
潔の拳は震えている。隣の雷市にも気づかれず、慎吾から目を離せない。
慎吾は皆へ笑いかけている。潔も拳を下ろすものの、指は握り込まれたままだ。
絵心甚八、ついに菖蒲田慎吾から褒められる。
……おめでとうございます。
なお、本人はまったく嬉しくない模様。
そして、とうとうチームZのキャプテンに就任した慎吾。
その横には、誰よりも頼もしいエース候補の吉良涼介。
一見すると、実に理想的なチームが完成しました。
一見すると。
ただ一人、潔世一だけは、まだ何かが引っかかっているようです。
さて、いよいよ一次選考。
今度こそ本当に、十一人でサッカーをします。