負けない愛が無かったなら作ってしまえ~いれぎゅらぁC~ 作:シロツメクサ
21xx年、高度に考え自ら判断し行動する新たなロボット、レプリロイドが生まれ人々のパートナーとなっていった。
それまでの単純なAIで動き人間の判断を待つ旧来のロボットはレプリロイドとの混在を避ける為、メカニロイドと改められた。
登場し量産が始まってから数ヶ月の間に人類はレプリロイドに依存せざるを得ない程に仕事を割り振っていた。
それまでのメカニロイドが従順な機械であったが為にレプリロイドもまた人類に危害を加えないものと盲信していた。
だが……レプリロイドはあまりにも人間に近い思考回路をしていたが為か……犯罪に手を染める者が出始めた。
想定外の事だが即座にそれらを取り締まる組織が編成された……イレギュラーハンター。
人類社会、レプリロイド社会に害を成す者をイレギュラーとしそれらを狩る者。
レプリロイドによる警察組織と言うべきものだ。
レプリロイドによる犯罪摘発組織があるならば次は軍隊……災害救助や街の防衛を司る組織も編成された。
レプリフォース……陸海空に加えて宇宙も防衛範囲に入る巨大組織になった。
そんなイレギュラーハンター、レプリフォースという巨大組織からイレギュラーが発生するという未曾有の事件が起きた。
後にレプリフォース戦争とも呼ばれる……ハンター側の杜撰な捜査と断定、濡れ衣を払拭しようともしないレプリフォース側……
双方組織の機能不全が招いた悲劇だった。
空中都市スカイラグーン墜落事件を皮切りにレプリフォースが関与を疑われ取り調べに応じなかった事から発展していくこの騒動だったが……
その渦中で悲劇をさらに助長する引き金となる対決があった。
イレギュラーハンター・ゼロとレプリフォース陸軍大将・カーネルとの一騎打ち。
戦士と戦士の果たし合い……聞こえは良いかもしれないが結局のところは殺し合いに過ぎない。
片方は犯罪者の嫌疑をかけられた容疑者を拘束、無力化するために叩き切ろうという戦士。
もう片方は軍人としての誇りを胸に戦い己の名誉を勝ち取ろうとする戦士。
その戦いの火蓋が切って落とされそうになっていた。
が、決闘の舞台になるはずだったレプリフォース、メモリアルホールにたどり着いたゼロが見たのは……
「なっ、カーネル!?どうしたんだその……ボコボコの顔は」
武装解除された挙句顔面をボッコボコに殴られたと思われるカーネルの変わり果てた姿だった。
「ゼロ……か……手酷い、一方的な説教を……受けてな……気をつけろ、奴はまだ近くにいる」
「しっかりしろカーネル!!……くっ……一体どいつがこんな事を」
アイカメラはひしゃげて機能不全、見事なまでに致命傷にはならない様に非殺傷を心がけた暴力を振るわれた跡があった。
四肢は応急修理されているが配線は一切繋げられていない。
軍人としての戦闘能力は卓越していて機動力、パワーどれをとっても一級品のカーネルをこうもボコボコにする相手とは誰か……ゼロをして恐怖を覚えさせられる。
しかし、カーネルの言った「説教」というのがゼロにとっては引っ掛かる。
「簡単よ……軍人とはどういう役職か、本質を忘れていたからそうしたのよ」
「誰だ!」
ゼロの耳にどこか聞き覚えがある気がする女の声が聞こえる。
即座にゼットセイバーを引き抜き、臨戦態勢を取るが……声の主は姿を見せない。
「何処に居る!出てこい!!」
「戦闘する理由が無いわ、誇りを優先しすぎて軍人の本懐を忘れたバカへの説教は終わったもの」
「……どういう事だ、カーネル?」
「むぅ……我々レプリフォースは……レプリロイドの為……戦う、戦士……」
「違うでしょう?レプリロイドと人間、優先順位は違えど守る対象は力ない民の為でしょ……全く、まだ説教が足りんと見た」
怒気を露わにした声の主がゆっくりと姿を現す……その姿を視認したゼロはさらに驚愕することになる。
「なっ……あ、アイリス……?」
「私は似てるだけです……その、アイリスの笑顔幸せ一つ守れない選択して誇りだなんだ……笑わせるってボコボコにしたけど、まーだ分かってないみたいだから……もっかい殴る」
「止せ、これ以上は致命傷になりかねん、叩くならば俺と戦ってもらうぞ」
「……ゼロくん……なんでさ、戦うっていう選択肢しか取れないかな、あと私はね……殺すなんて事は一番嫌いなんだよ、加減くらい分かってる」
「何だと」
「ボコボコにしたその誇りバカは自分の誇りの為だけに組織を、部下を、妹を巻き込んだ……死ぬ必要がない、傷つく事も無かった多数を巻き込んだ!」
そう、何を隠そう顔立ち、声……それらがゼロが保護しハンターベースでサポートしてくれている少女、アイリスにそっくりであった。
ボディは明らかに違う、これみよがしな大型の盾と翼も持っていて明らかに違うとは分かっても動揺を誘う材料にはなった。
浮かべる表情はまるで違う、拳を握ったその構えもすべてあまりに洗練されている。
「ハンターも本質は同じだから問うよ? ハンターは何を守ってる?」
「そんな物……俺が考える事ではない……!!」
「ハンッ……それで隊長ぅ?お笑いぐさにもならないわよ……守ってんの、社会秩序ってモンでしょうが」
鋭い視線がゼロ、そしてカーネルへと突き刺さる。
「ハンターも、レプリフォースも……人をレプリロイドを!!民の平穏を守る為の存在でしょう!?」
「行動を起こすのは結構!その行動によって守られる命は幾つある?なぁ……誇りとやらを守るのにいったい幾つ命を無駄に費やすんだ?」
「お前達が守るのは誇りではなく、命と平穏のハズだろうがよぉ……!!違うか!?」
「特にカーネル!!貴様の場合は何よりも……たった一人の大事に想っている妹を守るのが、先決だろうが!!!」
「指揮官であるなら!その行動に伴う責任を!!結果を考えて動いてよ!!!その結果何人アンタの部下が散った!?なぁ!!」
「第一……コレは私の持論だがなぁ……兵器、武器なんてもんは本来使われないで済んだほうが良いんだよ……なぁ?」
「戦うことは最終手段だろうが……戦って、反抗勢力を皆殺しにして……その先に何が残るんだよ?」
「ときには……恥辱と思っても、武器を置き無為な血を流さないのが軍人として立派なモンだろうが!!」
「そもそも武器を置くのが恥だと思ってんじゃねぇ、生き残って、少しでも民を守るのが立派ってモンでしょ!?」
立て続けに声を大にして綴られる思い。
軍人でもない、ハンターでもない……第三者故の言葉の数々。
カーネルを打ち倒した者とは思えない……夢見がちな甘い言葉だった。
「貴様に……何が……我々レプリフォースの何が……分かる……!」
「軍人の誇りなんて程々にしろって言いたいんだよ、ただの救護ロボットにとっちゃぁね!!!」
「何も、分からないなら……なぜ……」
「分かりたくないね!!命より大事な誇りなんざ!!!大事な存在を戦火に巻き込みかねない誇りなんざ!!!!」
「……ぐっ」
「でもね……軍人が何のために存在しているかっつーのは分かってるつもりなんだよ……だから本質を見失うんじゃねぇって、さてもう一発ぶん殴って……ん?」
カーネルとしてはたまったものではない、軍人としての誇りも鼻っ面も文字通り粉砕骨折してしまった。
武器らしい武器を持っていない少女型レプリロイドに打倒されたのだから。
そして、言葉でも何度も殴られ精神的にはかなり……
もう一発ぶん殴りに歩み寄っていたが……耳に手を当て意識を向ける……通信が入った様子だった。
「……待て、何処に行くつもりだ!」
「私はね守備、救護ロボットなの……私は私の仕事をしに行くんだよ、アンタらが戦って死をばらまくなら私はそれを止める盾になりに行くんだよ」
「待てっ!……行ってしまったか……カーネル、ヤツはいったい何だったんだ?」
「分からん……」
最後にカーネルとゼロを一瞥したあと凄まじい速力で飛び出していった。
謎のベールに包まれたアイリス似のレプリロイド……その存在が新たな混乱を齎した。
しかし……その混乱の傾向は決して悪い方ではない。
「兄さん!ゼロ……よかった、戦ってなか……兄さんどうしたのその顔!?」
「……アイリスか」
「カーネルはこのザマだ、拘束して治療室に連れていく手伝ってくれるな?」
「何を言い出す、まだ……ぐっ、アイツめ……駆動系をすべて破壊してから……ッ!」
本来ならば二度の激突の末に悲劇が不可逆な領域に突入するハズだった運命が変わった。
ハンターベースに担ぎ込まれたカーネルから戦闘データを提供してもらいゼロはその映像を見た。
カーネルが受けた問答もその映像の中にあった、カーネル曰く……不法侵入した上で問答を始めたという。
「ねぇ、カーネルさんや……こういう武装蜂起以外に手段は無かったの?」
「我々は汚名を着せられた!一方的に全員に対してだ!武器を取り戦わずしてどうする!?」
「それが組織を守ると?」
「そうだ、我々レプリフォースは独立を勝ち取らねば未来はない!」
「果たしてそれが本当かな……私はそう思わない、少なくとも……部下の命や上官、妹の命を賭けてまでやるモンじゃないとは思う」
「貴様……」
「動機は……軍人として救助に来たのに疑われた怒りはあるでしょう……そう判断した人間への不信、従うハンターへの不信……それもあるでしょうね?」
ただ、問答の最初に写ったのは……顔をマスクで隠した女であった。
丸腰で止めようとする姿は……駆けつけたアイリスを少し想起させる。
「我々の信じる正義の為、止まれないのだ!」
「その結果が部下の大半の死亡、組織の壊滅だったとして?」
「……貴様、愚弄するのであれば拘束だけでは済まさん」
「軍人であれば常に最悪を想定しなさい、自分が戦闘の末に死んだ場合……守りたいと願った妹がどうなるか、組織がどうなるか……!」
「……」
「だから、今……アンタを止めてレプリフォースの反乱っていうのも最小限に抑え込む……これは、私のエゴ!!」
「抜かせッ!!」
戦闘の火蓋は切って落とされた、カーネルの怒声の次には凄まじい勢いで近寄っていく。
するとアイリス似の謎のレプリロイドは……ただの救護レプリロイドとは思えぬ戦闘機動を見せていた。
最初こそ背中の翼を用いた機動力を使った回避行動や取り出した盾を使った防御が多かった。
サーベルの斬撃を盾で受け、たたらを踏みながらもその目はカーネルの動きを追い続けていた。
「そらそら、どうした!!それで私を!レプリフォースを止めるなど笑止!!」
本気のカーネルの猛攻は凄まじく一見すると防御に専念するのに必死だった……そうとも見える戦闘映像が続いていた。
だが、ゼロから見てみれば……ちぐはぐだった。
防御や回避に専念しているとは言え、一切反撃を講じようとしないのは何だ? 必死な様子に見せながら目線は一切カーネルから逸れない。
動きは一貫して受けに徹している……機動力だけで言えば翼を用いて空中に逃げれば良いのに……とも見た。
「おっと」
「……貴様、その顔」
「吐かせたかったら……私をどうにか倒してみせなよ、大将閣下。出来るもんならね」
サーベルの一閃が回避する顔先をかすめ、マスクを弾き飛ばした。
その下から現れたのは……そう、アイリスそのものと言ってもいい可憐な顔だった。
掠るのも少しばかり違和感が勝った……カーネルの神速の太刀筋にそんなに都合良く顎先が行くものか?
不敵な笑みを浮かべているのも不気味さを助長させた。
そんな……防戦一方の戦闘が開始して5分経過した頃だった。
たった一言、女がつぶやいた事を皮切りに攻守は大きく逆転した。
「解析完了」
その言葉の意味合いは一つだった、カーネルの動き、急所……それらを戦闘中に解析していたというのだ。
「なっ!?グッ、きさ……まぁ!?」
「組織を守るのか、守るべきものを守るのか……そこをっ、履き違えるんじゃ……ねぇっ!!このスカタン!!!」
「クソッこれでは……ゼロとの果し合いも出来ず……殺せ!」
「誰が殺してやるもんか、戦って死ぬことが正義と思うんじゃねぇ!!冥府の門をぶち抜いてでも引きずり出してやる!!」
それまでの動きとまるで変わり、カーネルの斬撃……強襲からの斬りかかりを最小限の動きで避けてみせ、驚くカーネルの手を殴り潰し、足関節を蹴り砕いたのだ。
エネルギー回路を破壊すること無く関節駆動系だけを的確に蹴り砕いたのだ、こんな芸当が出来るのはそうそう居ない。
そこからはもう……一方的な殴打が始まった。 手加減をされた暴力の嵐は凄惨だった。
数回殴られた段階でカーネルのカメラが破損して映像は無くなってしまったが……説教という名の正論の暴力と殴打の暴力は続いていた。
これで分かる、彼女は時間さえ掛けてしまえば素手でイレギュラーを屠るだけの戦闘力を有している。
が、それを一切せず、致命傷は狙って外してカーネルを治療ポッドに縫い付けたのだ。
「俺が相対したら……どうするのが、正解なんだ……?」
同じく相手の能力というのを解析する力を有するゼロだからこそこの脅威が良く分かる。
戦うという選択しかない……そう思っていたが、第三の選択を見せつけられては揺らいでしまう。
ただ破壊するだけならばより早く叩き潰せる、だがこのレプリロイドの様に無力化となれば……少し違う。
「ねぇ……私は貴方に死なれたら凄く困る……絶対に貴方の妹、アイリスは悲しみに沈む……貴方を殺した相手を憎んで憎んで憎悪に蝕まれるかもしれない」
「狂って戦いの戦火に突っ込んでいって燃え尽きる……そんなのも、考えられなくない。だから……ここで止まってほしいんだ」
「誇りを全部捨てろって話じゃない、レプリフォースも存続するべき組織……貴方が戦士である事に異議はない……」
「ただ……貴方には生きて欲しい……それだけなんですよ、恨んで良い……私のエゴですから、配線以外は修理しますから、後はハンターベースで直してもらって下さい」
「それはそれとして、戦いを選んで死のうとした事はアイリスさんに詫びて下さいね……分かったか?」
記憶データの最後にカーネルにかけられていた言葉は……より、深く思考回路に刺さってしまう。
「ゼロ……」
「アイリスか……カーネルはどうだ?」
「兄さんならしばらく安静にしていれば大丈夫ってお墨付きが出たわ、それにしても……誰があんなに……」
悩まないゼロをして悩ませる女……一つの波乱を呼び起こすのは間違いなかった。
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