負けない愛が無かったなら作ってしまえ~いれぎゅらぁC~ 作:シロツメクサ
エニグマの改修を行う為のパーツが一気に3つも納入されてダグラスは急いで改修作業に入った。
残る一つ、ハンターベースに程近い海から海水を汲み上げ電気分解を行い水素を作る必要がある。
そのためには海の治安維持を担当している海洋警備レプリロイド、タイダル・マッコイーンの協力が不可欠。
また、海中では巨大なメカニロイドのデスエベンジが大暴れ中で海中の環境が著しく破壊されていっているという。
「俺が行ってくるよ、ゼロはハンターベースの守備を頼む!」
「了解だ、油断するなよエックス」
交渉にはエックスが出向き、デスエベンジの破壊も含め任務に出ていった。
……残る私はといえば、ホタルニクス博士とクラーケンの修理、診断……そしてトリアージ。
ゼロが相手したクラーケンはものの見事にダルマにされた上で触手も叩き落とし電源をぶち抜いてる……えげつない。
というかコレ私のやり方のかなり……手際が良いやり方ぁ……
メモリの状態、コア、動力炉すべてキレイな状態で停止させて連れてきてるからおっそろしいこと。
エックスが相手したホタルニクス博士はワクチンプログラムを摂取した後進んでスリープモードに落ちてくれた様で……
メモリ内部のDNAデータもかなり良好、これは万が一があっても復元が出来そう。
グリズリーの方も本人のDNAデータがかなり頑丈なんでしょう、これも復元が可能なレベル……
問題はクラーケンのメモリ……これは……
「クラーケンは、どうだ?」
「……残念ですが、中核にウィルス侵食が見られて、復元は怪しいと思われます」
「そうか……」
嘘偽り無く言えば……ほぼ黒判定、助かる見込みはほぼ無し。
DNAデータを見てみると殆どシグマウィルスのプログラムコードに侵食され書き換わっているのが確認されている。
メモリに完全に巣を作っていて……修復してもまた苦しめるだけと思われる。
ここまでだと……ドップラー、ケイン博士の両名がいま必死に作り上げている抗体が出来ても……もう……
ハンター時代のバックアップデータも無い、こうなると残念ながらクラーケンは助けられない。
「作業が一段落したら検査を受けてこい、お前も外に出たんだ影響が出ていてもおかしくない」
「えぇ……そうします」
……そういえばゼロはウィルスとの接触があったんでしょうか。
私の向かった先にはウィルスの残滓は無かったんですけど……他の地域が同じとは限りませんし。
検査を受ける際についでに聞いてみましょうか。
もしもこの時点でパワーアップなどの兆候が確認されていたら非常に……マズい事になると思います。
……解析データからエックスやゼロに有用に使えそうな物をピックアップして各々に合わせた設計図を引いて、それで作業は一旦終わりにしましょう。
あまり……詰めすぎても作業効率が悪くなっていく一方ですからね。
本当……こういうところはレプリロイドも人間と同じですよ……
グリズリーのあの突進力と岩盤を掘り進んでもびくともしないあの頑強さ……
ホタルニクスの光学科学のデータ……そしてクラーケンの帯電、放出……
グリズリーの頑強さはこの内部構造で衝撃を打ち消し……あぁ、なるほど。
ショックアブソーバーの図面はすぐに引けそうですね……やはり直で解析してるのが大きい。
エイリアさんは私たちが持ち帰ったアーマープログラムの解析に大忙し……アイリスがオペレーターとしてエックスのサポートに回っている。
本当に大忙しですよ……衝突回避可能とされる16時間の間は休む隙無しですね。
『あーテステス、聞こえてるかな?ハンターの皆サン。あんたらに恨みは無いんですけどねぇ……仕事なもんで、お邪魔しに行きますわ』
予定より早く作業が進んでいてもやはり邪魔は入りますか。
シグマの差し金によるダイナモの妨害は起こる……たぶん、エックスの帰還とほぼ同時に来るでしょう。
しかしまぁ……お調子者というか舐め腐っているというか……オープンチャンネルでハンターベース全体に通信を入れてくるなんて。
ただ、この未曾有の事態にこんな通信なんてイタズラと思われるのが普通……でしょうね。
警戒に回せる人員は数人は居てもあまり動かしすぎるとイレギュラー化のおそれがあるから動かせない!!
メカニックも動けるのがダグラスに私……解析もエイリアに私……オペレーターはエイリアとアイリスくらい……
うぎぃぃぃ……マンパワーが全然足りてない……!!
「出来たっ……あとはダグラスと共有して……よし、私は私で検査に行きましょう」
……えぇ、まぁ検査しても特に異常は見当たらずオールオッケーと。
ゼロの事は聞いても渋い顔で機密だと門前払いされましたよ……チッ、こっちもレスキューなんだがぁ?
救急にも患者の情報の共有ってのもしてほしいんですがねぇ?
憤慨して退室するクロエを見送ったライフセーバー達はホッと胸を撫で下ろす。
現状ゼロとクロエ……両名があまりにも影響を受けなさ過ぎている事に疑問を呈していた。
ゼロに関してはさらに危険な兆候として若干のパワーアップが見られていた。
「どう見る?」
「現状は二人共観察するしかない、しかし……ゼロはすでに怪しい」
「イレギュラー化の兆候が見られた場合はシグナス長官に進言せねばなるまい」
「クロエに関しても同じだな」
この事実を確認しても当人に伝えるのは憚られるような内容だった。
急いでチェックをしたエックスですら接触した影響は少し見られたというのに。
驚異的なのはエックスの場合はコア部分は強固なプロテクトが施されていてウィルスですら手が付けられないといった物だった事。
クロエの場合は接触したとしてエックス同様コア部分のプロテクトが強固な上……プログラムの自己修復がある。
耐性が高い上にそれだから表面上影響ゼロに見えなくもない。
それを知る由もないライフセーバー達は困惑し危険信号と見る。
――――すでにイレギュラー化しているのではないか……
シグマウィルスの影響から逃れられるとするならば、現状それしか考えられないからだ。
少なくともクロエはある意味生まれながらのイレギュラーではある。
そしてゼロもまた、今の状況がある意味イレギュラー……内情は混迷を極めて行っていた。
検査終了後、クワンガーと出くわした。
試作品のワクチンプログラムの先行投与を受けて動いているとのことで。
「これはこれは、こうしてゆっくりと相対するのはタワー最上階以来ですね」
「そうですね……あの時に言った通りで戻ってからじっくり観察するのも悪くはなかったでしょう?」
「物足りなさは否めませんが……待ちなさい、無言で拳を振り上げるんじゃありません」
「ジョークですよ、貴方と同じで」
「ククッ、これは手痛い返しですね……クラーケンの様子はどうです?オクトパルドが何時にも増して奇妙な言動をしてましたので」
なるほど、クワンガーが出向いてきたのはこういう事ですか……
オクトパルドは残念ながらスリープ処理中……シグナスが判断した結果パワー、スピードともに優れたクワンガーを起こせる択を取ったと。
そして……担ぎ込まれているクラーケンの様子も……ですか。
ゼロにも恐らくは聞いている、その上で聞くとなれば……率直な所感が聞き出したいんでしょう。
「率直に申し上げます……もう、手の施しようがありません……それだけDNAデータが侵食されていました」
「……そうですか」
「念の為にDNAデータの修復は試みますが……どこまで彼を戻せるかは未知数です。そもそも……意識として成り立つかすら怪しい」
「……残念です……シグマ隊長の言う可能性に惹かれていたんですが、こんな事に繋がるとは」
計算高いクワンガーであってもこの未曾有のウィルス災害……いえ、シグマの中核がボディのコアやメモリではなくウィルス等とは思いますまい。
そして……やはり同僚が病に死ぬのは思う所があるんでしょう。
担ぎ込まれた様子からしてある程度は察していたんでしょう……驚いた様子はなく、静かに受け止めていた。
「まだ復旧を試してみて回復の兆しがなければ……停止させます」
延命を続ければ助けられる手段が見つかるかもしれませんが……同時に限られているリソースを費やし続ける事にもなる。
有り余っている状況ならそれでもいいかもしれない……ですが、今の状況は重い。
全世界的にスリープ処理で延命を試みているレプリロイドが居る、当然早期にスリープに入り進行を抑制している方が助かる見込みは多い。
クラーケンのようにイレギュラー化する程侵食が進んだのは……もう、ゾンビと言っても良い。
簡単に諦めたくないのもそうですが……私を突き動かしているのは……
シグマウィルスという悪意に負けるのが嫌だったから……結局は私のエゴですよ。
「エックスもそうですが、貴女は随分と……甘いですね」
「結構、そちらは警戒に戻って下さい……バカな愉快犯がうろついているかもしれませんので」
「そうですね……では、失礼しますよ……ゼロの代わりに防衛に当てられていますので」
諦めが悪いとも言いますがね……何か見落としている可能性もある……
だから、もう少しだけ悪足掻きをさせてもらいましょう。
やはりというか、ダイナモが襲来……ゼロを相手に指名してきましたが知ったことかとクワンガーが相手取り撃退。
理由は興味が勝ったそうですが……本人がまるでやる気を感じさせない有様で興ざめと言って必殺のデッドリフトで退場させたと。
『そんな児戯をしたければスクラップヤードにでも行っていなさい、少なくとも私を本気にさせられない程度でしたらエックス、ゼロは出てきませんよ』
『こんなのがまだハンターに残ってるなんて聞いてないぜぇ……チッ、仕事も全然だしこりゃ大目玉だなぁ……面ァ、覚えたよん』
『結構、失せなさい』
まさに歯牙にも掛けないって感じ、歴戦の強さを見せてくれましたよ。
まぁダイナモも小手調べだったんでしょうけどね、あとはエニグマによる破砕がうまく行けば良いんですが……
「オマエ!オマエ!!オマエモバラバラニシテヤル!!オマエモ、クルシメバラバラ!!イレギュ、ギュッ……ガアアアッッ!!」
「……くそっ……ごめんなさい……!!」
復元パターンJ……これでもだめ、破損したDNAデータではやはり……くそっ……!!
クラーケンは何ら悪くないというのに……処分しなければならない……?
シグマの悪意に……負ける……?
「……自分が決めた事……ですが……」
経過している時間を見る……エックスが帰還する時間にもなっている……
強制停止させたクラーケンを見下ろし……もう、二度と蘇生が出来ない処置に入る。
動力炉とメモリの破壊処理……そして誰にも悪用されないように葬る事。
「私は、無力だなぁ……くそぉ……」
やるせなく、机を叩いて八つ当たりするしかない……なんて……
この無力感……ゼロの応急修理を初めてやろうとした時と同じだ……
大本のワイリーのプログラムから独自進化を遂げているコイツは……おのれ、ケツアゴ……!!
『こちらダグラス、たった今エニグマの改修作業が完了した、突貫工事だったがバッチリ最大出力で発射可能だぜ』
ともかく、コロニー落としの阻止がどうなるか……
「エイリア、ちょっとデータを回して下さい……こちらでも射撃データの算出をしてみます」
『分かったわ、コロニーの落下予想データとエニグマの稼働データをそちらにも回すわ……貴女すごい顔してるわよ』
「……今は気にしないで下さい」
少しでも作戦成功確率を上げるために今は私も尽力を尽くしましょう。
エックスが帰還して水素生産が完了したらすぐに発射出来るようにしないと。
コロニーの破砕は……失敗に終わった。
大部分は粉砕できても残ってしまった部分が大きく、これをまた細かく砕かなければ地表に激突、大損害が免れない。
……計算は合っていたけれど破片からして……コロニー側が変な改造を加えられていて妨害を予想していた形になっていた。
計算に用いるデータそのものが違っていたら破砕は無理ってものですよね……クソッ……
「エニグマの再発射は可能か?」
「発射途中で爆発するぞ、あれでも出力の120%までブーストしたんだぞ」
「補強したフレームにも歪みが出ていて……再発射には耐えれないと思います」
「そうか……だが、この結果は無駄ではない……次の作戦に移行する、エイリア」
「現在再計算中だけど……エニグマによる破砕で勢いが少し殺されたと思われるわ」
「時間は伸びたかもしれんが雀の涙程度だ、早急に行動に移ってもらう」
頭を切り替えていけ、ここで私個人の感情で振り回しても何の意味もない。
シグナスが私に向かうようにと示したのは……オービターウィングが置かれているレプリフォース空軍基地。
多数の要救助者が居る上にウィルス被害が酷いという。
エックスが残り、ゼロがオービターエンジンを取りにジャングルの発射基地跡へ。
また、クワンガーの治験データや現状のシグマウィルスの生のデータを入手し研究した結果バージョンアップしたワクチンプログラムが配布された。
暴れていてもこれを打ち込めば沈静化出来る可能性が……ある……と……
私はっ……何のためにっ……クラーケンの命を奪ったんだ!!
「出撃します……速攻で取ってきます」
この、溢れんばかりの哀憎は……どうしたら良いんです……!!
憂さ晴らしが欲しいが為だけに……私は転送装置に乗った。
イレギュラーとは……もしかしたらこういう物の成れの果てなんでしょうか……?
軋む心の……悲鳴の果……
Next:零空間