FF14で現代ダンジョン 作:黒蓮
閃が十八歳を迎えた頃、人類によるダンジョン攻略は深刻な停滞期を迎えていた。
先遣の合同攻略チームは第七層の広大な樹海エリアを突破し、その先に広がる荒々しい山岳エリアへと足を踏み入れてはいた。しかし、攻略の進捗はそこで完全に足止めを喰らっていたのである。
原因は、絶望的なまでの移動時間と補給の難しさにあった。
樹海エリアの内部には未だ転移拠点となるエーテライトが発見されておらず、探索者の身を守る拠点すら設置できずにいたのだ。そのため、探索者たちは挑むたびに広大な樹海を徒歩で何日もかけて踏破しなければならず、山岳エリアに到着した頃には体力も物資も大きく削られているという最悪の悪循環が続いていたのである。
「せっかくの最前線なのに、往復だけで大半の物資を使い果たすなんて……」
「くそっ、エーテライトは何処にあるんだ?」
世間の探索者たちがかつての膠着状態に頭を抱える中、閃は解決策を思い付いていた。
山岳エリアの特定域に棲息する巨大な怪鳥――『ズー』。
通常のルートである山道を奥へと進んでいくと、注意深く観察しなければ完全に見落としてしまうような、細く険しい小道が崖の横へと伸びている。その極小の険路を登りつめた先にひっそりと存在する、隠された秘密の崖庭。そこにこそ、ズーを呼び出し、飛行マウントとして契約を交わすための試練の秘境が存在していたのだ。
ズーを従え、その強靭な大翼で上空を移動できるようになれば、あの広大な樹海エリアを一気に飛翔して山岳エリアへ直行できる。攻略の停滞を打ち破る決定的な突破口になるのは間違いなかった。
(まあ、地上を歩いて体力を減らすより、空を飛べた方が圧倒的に楽だしな……)
閃はさっそく、いつものアカウントで淡々とツイートを投下した。
『名無しの職人(@Craft_God_Unknown)
第七層の樹海で毎回へばってる奴らに朗報。山岳エリアの標高1200m付近、3つ目の岩陰にある細い抜け道の先に怪鳥ズーの巣がある。そこで『ホルン(飛行マウント用)』を吹けば『飛行マウント』として契約可能。樹海の上空を一気に飛び越えられるから、行ってくるといいよ。ホルンのレシピも置いとく。ただし、出来の悪いホルンだと怒って攻撃してくるから注意して。』
そんな救世主のツイートは、投下された瞬間に世界中を激震させた。
◆
【朗報】職人神、ついに『空を飛ぶ権利』を授けてしまう【空中マウント爆誕】
1:名無しの探索者
おいおいおいおい!!!
職人様(@Craft_God_Unknown)がまたしてもとんでもない神情報を投下したぞ!!
4:名無しの探索者
見た!!
『飛行マウント』だって!?
あの狂った広さの樹海エリアを空からスキップできるとかマジかよ!!
12:名無しの探索者
毎回、樹海を三日間歩いて山岳エリアに着いた瞬間に疲労困憊で撤退してた俺たち攻略チームの苦労は一体何だったんだwwwww
18:名無しの探索者
「出来の悪いホルンだと怒って攻撃してくるから注意して」
さらっと恐ろしい注意書き書いてあって草。
これ、品質の低い粗悪品のホルン吹いたら、契約どころか巨大怪鳥ズーにそのまま食い殺されるやつだろwww
25:名無しの探索者
ズーってあれか?
確か、巨大な鳥型モンスターが空を通り過ぎたのが目撃されて『推定レベル55以上』って言われてた超絶危険モンスターだぞ。
そんな化け物を呼び出すアイテムで粗悪品使うとか自殺志願者以外の何物でもないわ。
33:名無しの探索者
でもさ、今回職人神が教えてくれたホルンのレシピ見たら、必要素材がまた絶妙にエグい。
第七層の希少鉱石と、あの樹海の最奥に生息する高位鳥類の羽が必要らしい。
41:名無しの探索者
職人様、完全に「自力で最奥まで行ける実力があって、まともなクラフトができる奴だけに配給する」っていうフィルタリングかけてるな。
毎度ながら完璧すぎる導線だわ。
52:名無しの探索者
ていうか、山岳エリアの「3つ目の岩陰にある細い抜け道」ってどこだよwww
今、先遣チームが必死こいて現地を探してるらしいけど、崖の横の極小の険路とか、普通に探索してたら一生気づかないだろ。
65:名無しの探索者
職人様、なんでそんな誰も行かないような秘密の崖庭知ってんだよ……。
やっぱりあの人、僕らが樹海でヒーヒー言いながら徒歩移動してるのを、はるか上空かどこかから「あいつらまだ歩いてんのか」って呆れながら見てたんじゃないだろうなwww
78:名無しの探索者
これは探索の在り方が完全に塗り替わるぞ。
樹海の巨木も崖も全部無視して、上空から一気に山岳エリアの最奥までダイレクトアタックできるな。
89:名無しの探索者
今、競売所でホルンの素材買い占めが始まってて草。
粗悪品作ってズーに突っつかれたくないから、トップギルドの専属クラフターたちが血眼になって最高品質の『ホルン(飛行マウント用)』を作ろうと必死になってる。
104:名無しの探索者
【朗報】某大手ギルドのクラフター、テンパりすぎて品質未達の「粗悪なホルン」を完成させてしまい、ギルド長から「死にたくないから絶対に吹くな!!」って怒鳴られて没収された模様www
115:名無しの探索者
>>104
草生えるwwww
そりゃ下手したらギルドが壊滅するからなwww
128:名無しの探索者
数日後には飛行マウントで空を飛ぶ探索者が出てくるのか……。
地上でチョコボ走らせるだけでもテンション上がってたのに、ついに大空開拓時代が始まると思うと胸熱すぎるな!!
◆
「ふふっ、ネットは案の定、大騒ぎだにゃー!」
テラスのカフェテーブルで、ミエルがスマホの画面を眺めながら楽しそうに猫耳をぴこぴこと揺らしていた。
「『粗悪なホルンでブチギレられる』って部分にみんな怯えてますね。まあ、ズーからすれば、音色の狂った粗悪品を吹き鳴らされたら激怒するのも当然ですが」
そう言って上品に紅茶を口に運んだのはルトラだ。
その傍らでは、絶品の手製スイーツを美味しそうに頬張るエリカが、満面の笑みを浮かべていた。
「でも、本当にすごいわ……。私たちが一足先に最奥へ向かう時に乗せてもらったけれど、あの樹海を上空から一気に飛び越えた時の爽快感といったら……! 閃くん、本当に最高のアイテムを作ってくれたわね!」
「いや、俺としては毎回樹海をトボトボ歩くのが単純に面倒だっただけなんだけどな……」
ジャージ姿の閃は苦笑いを浮かべながら、手元にある美しく研磨された角笛——最高品質の『ホルン(飛行マウント用)』を弄んだ。
すでにルトラ、ミエル、エリカの3人は、自分専用の完璧な【ズーホルン】を所持しており、ひと足早く広大な大空を優雅に飛翔する快適さを享受していた。
ちなみに閃は最初から習得した状態である。他にも多数のマウントを所持しているが、目立ち過ぎるので下手に乗れないのだ。
「まあ、これで世間の攻略チームも数日中にはズーを従えて、山岳エリアへ進出できるようになるだろ。徒歩での行軍に比べたら、体力も物資の消費も段違いに楽になるはずだ」
「そうですね。山岳エリアの中腹あたりにはエーテライトもありますから、彼らもそこまでは一気に進めるでしょうね」
ルトラが優雅にカップを置くと、閃は「あ」と何かを思い出したようにポンと手を打った。
「そういえば、一つ忘れてたな……」
「ん? 何か忘れ物でもあったのかにゃ、マスター?」
ミエルが首を傾げると、閃はスマホを取り出しながら苦笑いを浮かべた。
「いや、ズーに乗れたからって、調子に乗ってそのまま山岳エリアの頂上まで直行しようとする奴が絶対に出てくるだろ? あの上空、かなり凶暴な飛行型モンスターが縄張り作ってるからな」
「あ……! 確かに、あの山頂付近に棲息する『ワイバーン』の群れですね」
ルトラが静かに頷く。
「あの手のモンスターは上空での縄張り意識が異常に強いですから。自分の適正レベルに達していない探索者がズーで無闇に高度を上げれば、一斉に襲撃されて墜落死するのが目に見えています」
「上空で落ちたら、流石にひとたまりもないわね……」
エリカが少し身震いしながら、真剣な表情で言った。
「だろ? 『ズーに乗ればどこでも飛べるぜー!』って調子に乗った奴らが、上空で叩き落とされて全滅するのは後味が悪いしな。適正レベルを超えてる奴なら威圧で襲われないけど、今の攻略チームのレベルじゃ確実に獲物扱いだ。……一応、追記で警告だけでも出しておくか」
閃は慣れた手つきで文字を入力し、ツイートの返信欄にひょいと追記を投げ込んだ。
『名無しの職人(@Craft_God_Unknown)
あ、言い忘れてた。ズーに乗れるようになったからって、そのまま山岳エリアの頂上まで飛ぼうとするなよ。一定以上の境界上空には凶暴なワイバーン群が縄張り作ってる。自分のレベルが適正に達してない奴が上空に立ち入ったら、即座に袋叩きに遭って墜落死する。山岳中腹のエーテライト解放までは、大人しく高度を下げて移動すること。』
送信ボタンを押した直後、画面の通知欄が爆速で狂ったように跳ね上がり始めた。
「あはは! さっそくネットが悲鳴あげてるにゃー!」
ミエルが画面を覗き込みながら、楽しそうに尾をパタパタと揺らす。
「ふふ、相変わらず手厚いサポートですね、閃様。……さて、彼らが追いついてくる前に、私たちはそろそろ山頂の『さらに奥』の探索に向かいましょうか」
ルトラが立ち上がり、洗練された動作でズーホルンを口元へ寄せた。
「うん! 閃くん、私、今日も全力で背中を守るわね!」
エリカも気合十分にレイピアを腰に挿し、愛らしい笑顔を閃に向ける。
「よし、じゃあ行くか。――空の旅は快適だしな」
ミスト・ヴィレッジの澄み渡る大空へ向けて、美しく研磨された角笛の音色が清らかに響き渡る。
それに応えるように、雲を突き抜けて舞い降りてきた巨大な怪鳥たちの羽ばたきが、心地よい風となって四人の髪を優しく揺らしたのだった。