FF14で現代ダンジョン 作:黒蓮華
雲海を破り、巨大な翼を広げて降臨した第七層の階層主――幻獣『オピニコス』。
一般的なグリフィンが前脚に鋭い鷲の爪を持つのに対し、オピニコスは四本脚のすべてが力強いライオンの如き爪足を備えた異形の亜種である。
その圧倒的な巨躯と風を撒き散らす空中攻撃は、本来であれば一ギルドを壊滅に追い込むほどの猛威を振るうはずだった。
だが、結果から言えば――攻略チームは、誰一人として脱落者を出すことなく、この巨獣を討ち果たしたのだった。
「……ふぅ。一時はどうなるかと思ったが、終わってみればあっけなかったな」
戦闘を終え、巨大なオピニコスの巨躯が光の粒子となって雲海へ消えていくのを眺めながら、閃は手にした装備の感触を確かめるように息をついた。
今回は、Aランクパーティとして前線に加わっていた。
前回の『氷獄竜』戦では、攻略チームの半数が命を落とすという凄惨な大敗を喫していたため、一抹の不安を覚えての参加だったのだ。万が一の事態に備え、前線で出しゃばるような真似はせず、後方からさりげなく崩れかけた陣形をフォローしたり、致命的な一撃を掠めるような位置調整を行ったりと陰で手を回してはいたのだが……。
(危なかった場面もあったけど……少し拍子抜けだ)
職人神として自らが投下した『レシピ』により、各々が最高品質の防具と武器を整え、無理のない撤退と交代を繰り返す。閃が致命的な場面を幾度か間一髪でフォローしたこともあり、懸念されていた犠牲者は「ゼロ」。完璧な一発クリアであった。
「全員無事か!? 回復職、負傷者の手当てを急げ! 我々の勝利だ!!」
リーダーの叫び声とともに、ボス部屋の中に大きな歓声が沸き起こる。過酷な第七層を完全に打ち破った歓喜に包まれる仲間たちを余所に、閃は静かに奥へと続く巨大な門を見上げた。
重厚な石門が地鳴りのような音を立てて開き、その向こう側に新たなる世界が姿を現す。
風が吹き抜け、青空の中にどこまでも続く真っ白な雲海。そしてその上空には、大小さまざまな島々が静かに浮かんでいた。
本格的な浮遊島エリア――第八層。
「へえ……ここからが本当の空中探索ってわけか」
雲を切り裂く風を感じながら、閃は口元を少しだけ緩めた。
死闘の緊張感から解放された安堵と、未踏の地に一歩を踏み出す冒険者特有の高揚感。眼前に広がる幻想的な浮島群を眺めながら、閃はこれからの探索へと思いを馳せるのだった。
◆
激しい風が吹き荒れる第七層のボス部屋。雲海を揺るがす咆哮とともに、巨獣『オピニコス』がその巨躯を躍動させていた。
鷲の鋭利な頭部と翼、そして四本すべてが剛力なるライオンの脚。空中からの急降下攻撃と、大地を砕く爪の連撃は、まさに悪夢そのものだった。
前衛の最前線で盾を構えるのは、国内屈指の大手ギルド『月光騎士団』の代表にして、Sランク探索者の桜井だ。
「くっ……! 抑え込むぞ、後衛は詠唱を急げ!」
振るわれる爪の衝撃を大盾で受け止め、重厚な金属音とともに火花が散る。氷獄竜戦で多くの仲間が犠牲になった苦い記憶が脳裏をよぎる。あの惨劇を二度と繰り返すわけにはいかない。桜井は歯を食いしばり、必死に前線を維持していた。
だが、オピニコスが不吉な翼の羽ばたきとともに大きく跳躍した瞬間、戦局が揺らいだ。
狙われたのは、体勢を崩した左翼のBランク前衛部隊。急降下する巨獣の爪が、無防備な探索者の頭上へと一直線に振り下ろされる。
(間に合わない……っ!)
桜井が叫び、盾を握る手に力を込めたその時——
影のように滑り込んだのは、黒いジャケットを着た一人の青年だった。
派手な大技ではない。青年は背後からその前衛の襟首を掴んで間一髪で引き寄せると、オピニコスの爪が空を切る絶妙な位置へと退避させた。さらにすれ違いざま、リボルバーの付いた奇妙な剣の一撃が、獅子の足首の腱を正確に撫でる。
『ルァァァッ!?』
体勢を崩したオピニコスの巨体が、大きく横へと流れた。
急所に致命的な隙が生まれた瞬間だった。
「——今だ、叩き込め!!」
桜井の叫びとともに後衛の魔法が一斉に放たれ、豪快な爆炎がオピニコスを包み込む。そのまま押し切る形で、七層の階層主は光の粒子となって消滅した。
言葉通りの「一発クリア」。そして何より、怪我人は出たものの死者は「ゼロ」という、前回の惨状が嘘のような完璧な勝利だった。
歓喜に沸く攻略チームの喧騒の中、桜井は一人、長剣を鞘に納めながら深い息をついた。
(……あいつ、何者だ?)
視線の先には、戦闘が終わるや否や、目立つことなくすっと壁際に身を引いた黒ジャケットの青年の姿があった。
表向きはAランクパーティに同行していたただのサポート役。だが、桜井の目は誤魔化せなかった。
戦場全体を俯瞰し、陣形が崩れかけた「一番ヒヤヒヤする場面」に必ず現れ、最小限の動きで完璧に被害を未然に防いでいた。あの的確すぎるポジショニングと判断力は、到底並のAランク探索者の領域ではない。
前回の氷獄竜戦では死屍累々だった前線が、今回は奇跡的に誰一人欠けることなく突破できた。
(……運が良かったんじゃない。あの黒ジャケットの少年が、陰で全員を生存させていたんだ)
桜井の背中に、じわりと冷や汗が伝わる。
自らが率いる月光騎士団の精鋭や、他ギルドの有力者たちすら気づいていない戦場の「支配者」。
静かに冒険者たちの輪から外れていく青年の背中を見つめながら、桜井は知らず知らずのうちに、握りしめた拳に強い力を込めていた。
◆
【朗報】第七層・階層主『オピニコス』一発討伐完了! 死者ゼロの快挙!!【第八層開通】
1:名無しの探索者
キタアアアアアアアアアアア!!!
第七層・オピニコス討伐完了のお知らせ来たぞ!!!!!
4:名無しの探索者
マジかよ!!? あの第六層の『氷獄竜』で全滅寸前まで追い込まれて犠牲者出しまくったあの攻略組が!?
今回はまさかの「死者ゼロ」の一発クリア!!?
11:名無しの探索者
オピニコスの画像上がってるけど、四本足全部がライオンの爪なの凶悪すぎて草。
前評判だと「空中から急降下して前衛を一撃で噛み砕く鬼畜ボス」って言われてたのに、どうやって被害出さずに勝ったんだよ……。
18:名無しのAランク探索者
現地からの情報だけど、前回の惨劇を踏まえて各ギルドが【職人神】のレシピで作った最新装備を完璧に揃えて挑んだらしい。
無理なゴリ押しを避けて、しっかりと撤退・交代のローテーションを組んだのが勝因だとさ。
25:名無しの探索者
>>18
なるほどなー!
第六層の反省を生かして、みんなが職人神の高性能防具でガチガチに固めて防御重視の立ち回りを徹底したのか。
やっぱり装備の質の底上げとチームワークって神だわ。
32:名無しの探索者
それにしても『光の騎士』様無しで死者ゼロで突破できたのは凄いわ。
あの人がいないと前線崩壊するんじゃないかって危ぶまれてたけど、日本のトップ攻略組もちゃんと地力がついて成長してるんだな。
45:名無しのBランク探索者
そして速報で送られてきた「第八層」の最初の画像……ヤバすぎだろこれ。
雲海の上に大小さまざまな島がポコポコ浮いてるんだがwwww
52:名無しの一般人
>>45
見た見た!! 天空の城ラピュタみたいな世界観でめちゃくちゃ幻想的!!
青空と白い雲海の中に浮かぶ古代遺跡っぽい島々、ロマンがありすぎる!!
61:名無しの探索者
ロマンはあるけどさ……これ、足滑らせて落ちたらどうなるの????
下、何もなくて一面の雲海なんだけど????
68:名無しのCランク探索者
>>61
普通に数千メートル落下して第一層の地面に激突★即死じゃないですかね……。
高所恐怖症の探索者、ここで引退説。
75:名無しのギャザラー
雲海エリアだから『ズーホルン』で空飛べるマウント持ってる奴ら以外は無理だと思う。
歩いて島渡るにしても、細い岩の橋とか滑ったら終わりだし高層風で煽られそう。
83:名無しのSランクファン
月光騎士団の桜井代表のコメント来たぞ。
「無事に全員生還できたことが何よりの戦果。装備と連携の重要性を再認識した。第八層は未踏の空中探索になるため、入念な準備をして臨む」とのこと。
代表、本当にお疲れ様……!
94:名無しの生産職
第八層の素材、絶対に未知の高純度鉱石とか激レアな高山植物がいっぱい採れるよね!?
浮遊島特有の素材とか落ちてたら胸熱すぎるんだが!!
108:名無しの探索者
第六層で絶望に叩き落とされた人類が、第七層を完封してついに第八層の空中大陸へ……!
いよいよファンタジーの真骨頂って感じがしてきたな!!
119:名無しの一般人
落ちたら即死の恐怖と隣り合わせの空中探索、見ている分にはワクワクが止まらねぇ!!
攻略組の皆さん、第八層のエリア解明も期待してます!!
124:名無しの探索者
お、おい!?今職人神がツイートしたぞ、お前ら見たか!?
131:名無しの生産職
え、何?また新しい情報?
140:名無しの一般人
は、はぁぁぁぁぁ!?マジかよ!?
155:名無しのギャザラー
おい誰か詳しく説明してくれ!!
職人神様が何を投下したんだ!? タイムラインが凄まじい速度で流れていって追いつかねぇ!!
158:名無しの探索者
>>155
言葉で説明するより自分で見に行った方が早いぞ!!
ロビーに急げ、また祭りの始まりだ……!!