FF14で現代ダンジョン 作:黒蓮華
ダンジョンの蘇生システム『魂の再構築』によって、命を落とした探索者たちが新たな種族として現代社会に舞い戻るようになってから、一年以上の歳月が経過した。
最初は畏怖と混乱をもって迎えられた『新種族』たちだったが、彼らの中身は紛れもなく地球人であり、かつての家族や友人を愛する人々である。法整備が急ピッチで進められ、今や街角で猫耳のミコッテや、鱗を持つアウラ、長身のヴィエラとすれ違うことは、少し珍しい程度の「日常の風景」として定着しつつあった。
だが、その一年間、世界中の学者、政府、そして一般市民が固唾を飲んで見守っていた「ある究極の疑問」があった。
『地球人と新種族の間に、子供は生まれるのか?』
そして、『もし生まれた場合、その遺伝はどうなるのか?』
ダンジョンの神秘によって完全に書き換えられた肉体。DNAの塩基配列すら地球の常識から逸脱した彼らが、果たして元の地球人との間で生命を育むことができるのか。
探求と希望、そして微かな不安が交錯する中――とある総合病院の分娩室で、ついにその命が解き放たれようとしていた。
◆
「ひっ、ふぅっ……んんっ……!」
「頑張れ、あと少しだ……! 俺がついてる、頑張れ……!」
白を基調とした分娩室の中に、妻の荒い息遣いと、夫の必死な励ましの声が響いていた。
妻の手を両手で力強く握りしめているのは、長身で気品のある顔立ちと、横に長く尖った耳を持つ『エレゼン』の男性だ。
彼はかつてダンジョンで命を落とし、エレゼンとして蘇生した元地球人である。生還後、彼は絶望することなく妻と涙の再会を果たし、再び愛を育んできた。
「よし、頭が見えてきましたよ! 次の陣痛に合わせて、思い切りいきんで!」
医師の力強い声に合わせ、妻が最後の力を振り絞る。
「あぁぁぁぁぁっ!!」
――オギャアッ! オギャアッ!
分娩室の張り詰めた空気を切り裂くように、力強く、生命力に満ち溢れた産声が響き渡った。
「生まれましたよ! とても元気な男の子です!」
助産師の明るい声に、夫の目から大粒の涙が溢れ出した。妻も汗だくの顔で微笑み、安堵の涙を流す。
産声を上げる赤ん坊を丁寧に拭き上げ、助産師がそっと両親の元へと運んでくる。
誕生した赤ん坊の耳は、地球人特有の丸い耳ではなく、父親であるエレゼン特有の「長く尖った耳」の形状を、見事なまでに受け継いでいた。
異種族間の交雑においては、エコーの段階から医療陣を驚愕させていたダンジョンの生命法則が、現実世界の遺伝子学を凌駕し、現実の生命として産声を開花させたのだ。
「あぁ……俺たちの、子供だ……」
エレゼンの夫が震える手で赤ん坊を抱き上げると、赤ん坊は小さな手を動かし、尖った耳をピクッと揺らした。
「可愛い……私たちの、大切な新しい命ね……」
現代社会の「生物学の常識」が、完璧な形で塗り替えられた瞬間だった。
数日後。
母子の経過が極めて良好であることを確認した病院と両親は、事前検査での経過を含めた『地球生まれのエレゼン誕生』のプレスリリースを出した。この奇跡のニュースは、世界中のあらゆるメディアでトップニュースとして大々的に報じられた。
人類の定義が拡張され、新たな歴史のページがめくられた日。世界中のネットワークは、前代未聞の祝福と驚嘆の渦に包まれるのだった。
◆
【祝】地球人と新種族(エレゼン)の間に元気な赤ちゃんが誕生!! 【生命の神秘】
1:名無しの探索者
うおおおおおおおおおおおおおお!!!
ついに!! ついにこのニュースが正式発表されたぞ!!!
2:名無しの探索者
おめでとうおおおおお!!!
母子ともに健康らしいな! マジで良かった!!
5:名無しの探索者
妊娠中のエコー検査の時点で「耳が尖ってる」って分かってたらしいな!
医療陣も無事に生まれるまで情報伏せて大切に守ってたのグッジョブすぎるだろ。
ダンジョンで再構築された新種族の遺伝子、ちゃんと地球人との間で交配して遺伝するのか……生物学の常識ぶっ壊れすぎwwww
12:名無しの学者
細胞学と遺伝学を専攻している者ですが、染色体データを見て教授陣が全員パニックになってます。
異なるDNA構造を持つはずの新種族とホモ・サピエンスの間で、正常な生殖と形質の遺伝が行われた。これは人類の進化という枠を超えた、生命創造の新たなパラダイムです……!
18:名無しの探索者
難しいことは分からんが、つまりミコッテと結婚したら、猫耳の赤ちゃんが生まれる可能性があるってことだよな!?!?
24:名無しの探索者
>>18
そういうことだ!! うおおおおおおお!!
夢が! 人類の夢が広がりすぎるぞ!!!
33:名無しの探索者
ていうか、ヴィエラ(寿命250年)とのハーフが生まれた場合、その子の寿命ってどうなるんだ?
地球人と同じくらいなのか、それとも200年近く生きるのか……?
45:名無しの探索者
>>33
ハーフの寿命とか魔法の適性とか、これから数十年かけて研究されていくんだろうな。
マジでSF映画の世界を生きてる気分だわ。
52:名無しの探索者
アウラとの子供だったら、生まれた時から小さな角が生えてるのかな。絶対可愛いだろそれ。
ララフェルとの子供だったら、ずっと背が小さいままなのかな?
68:名無しの探索者
テレビのインタビューでエレゼンのお父さんが泣きながら赤ちゃんの尖った耳撫でてて、もらい泣きしたわ。
ダンジョンで死んで絶望したこともあっただろうに、こうして新しい命を授かって……本当に良かったな。
80:名無しの探索者
ほんとそれ。一度は失われた命が別の姿になって戻ってきて、さらにそこから新しい命が繋がっていくとか、尊すぎるだろ……。
95:名無しの探索者
これを可能にした『魂の再構築』システム……。
そして、蘇生直後の混乱を防いで新種族の社会復帰の道筋を作ってくれた職人神様。やっぱりあの人は、人類の導き手だわ。
112:名無しの探索者
職人神ってなんで新種族の名前知ってたんだろうな、エレゼンってどういう意味?
エルフとは違うんか?
125:名無しの探索者
何にせよ、これで「新種族」は完全に地球の人類として根付いたってことだな。
新しい地球生まれのエレゼンの赤ちゃん、これからの健やかな成長を全力で祈ってるぜ!!!
138:名無しの探索者
ところでさ……今ふと思ったんだけど。
新種族同士、たとえば『アウラ』と『ミコッテ』の夫婦から子供が生まれたらどうなるんだ???
角が生えた猫耳猫尻尾赤ちゃん爆誕すんの????
145:名無しの探索者
>>138
おいやめろその破壊力はヤバいwwwww盛り盛りすぎるだろwwwwww
152:名無しの学者
>>138
学会でも激しい議論が交わされています。エクスプロレーションのデータ上、交配自体はどの種族間でも可能と推測されていますが、発現する形質が両方の優性遺伝が複合するキメラになるのかは、今後の事例を待つしかありません。
160:名無しの探索者
角と鱗が生えた猫耳の子供とか、もはや幻獣の領域だろwww
でも絶対可愛いに決まってるんだよなぁ……。
173:名無しの探索者
てか、世間の『新種族差別』みたいな怪しい言動をしてた連中、これで完全に息の根止まったな。
「子供が残せないから異物だ」とか言ってた一部の頭古い連中が一番ぐぬぬってなってそう。
185:名無しの一般人
海外のニュースでもトップで扱われてたぞ。「人類、第二の創世記へ」とか大袈裟な見出しついてたけど、実際それくらいの大事件だよな。
199:名無しの探索者
新種族のパートナーがいる探索者たち、今日一斉にプロポーズラッシュ起きてそうwww
「俺たちの子供、作ろうぜ」って言えるようになったわけだしな!
210:名無しの探索者
未来の学校のクラス、人間と猫耳とツノっ子とウサ耳が一緒に勉強してる空間になるのか。
胸熱すぎる時代になってきたな。
◆
南国の心地よい風が吹き抜ける、ミスト・ヴィレッジの白亜の豪邸。
陽光が燦々と降り注ぐテラスのソファーで、閃はスマホの画面に流れるニュースとネットスレの騒ぎをぼんやりと眺めていた。
「へぇ……無事に生まれたんだな、エレゼンの赤ちゃん」
膝の上に置いた端末を指でスクロールしながら呟くと、隣でお茶を淹れてくれていたルトラが、柔らかな眼差しで画面を覗き込んできた。
「ええ。とても可愛らしい、元気な男の子のようですね。無事に誕生して本当に良かったです」
「ふふっ、ネットは大騒ぎだにゃー! 『アウラとミコッテの子供なら角が生えた猫耳になるのか』とか言ってる奴がいて笑うにゃ」
ミエルがふさふさの尻尾をパタパタと揺らしながら、反対側から閃の腕に抱きついてくる。その頭に生えた可憐な猫耳が、興奮気味にピコピコと動いていた。
「……まあ、交配の法則としては俺の知るエオルゼアの理に準拠してるはずだからな。異種族間の交雑の場合、基本的にはどちらか片方の種族の形質を強く引き継ぐ……つまり、生まれてくる子は『完全なアウラ』か『完全なミコッテ』のどちらかになるのが普通だ。世代が進んで多種族が交わっても、キメラみたいに複数の特徴を併せ持つ者は出ないと思うぞ」
「そうなのね……。でも、一度命を落とした人たちが、新しい姿でこうして次の世代へ命を繋いでいけるなんて……本当に素敵なことだわ」
エリカが焼きたてのクッキーを皿に載せて運びながら、感無量といった表情で目を潤ませていた。
だが、そんな穏やかな空気は次の一言で一変した。
「ねえ、マスター……」
ミエルが上目遣いで閃の顔を覗き込み、ほんのりと頬を桜色に染めながら言葉を紡いだ。
「……私たちとマスターの間の子供だったら、どんな子が生まれるのかにゃ?」
「――っ、ブフォッ!?」
閃はむせ返り、すんでのところで口に含んだ紅茶を吹き出しそうになった。
咳き込む閃を気遣う素振りも見せず、反対側からルトラが優雅に、しかし逃げ場を完全に塞ぐように身を寄せてくる。
「興味深いお話ですね。地球人の遺伝子を持つ閃様と、私やミエルのような新種族が交わった場合……やはり私の角を受け継いだ子になるのでしょうか。それとも、閃様のように凛々しいヒューランの姿になるのでしょうか」
「ええっ!? ちょ、ルトラさん、ミエルさん!? 閃くんとの子供の話なんて、私だってまだ想像したことしか……っ!」
エリカが顔を真っ赤にしてパニックになりつつも、クッキーの皿をテーブルに置き、閃の真正面に回り込んでくる。
「わ、私と閃くんの子供だったら、純粋な地球人になるだろうし! 絶対かわいいと思うわ!」
「なんでお前ら、急に『子作り』の話題で包囲網敷いてきてんだよ!?」
閃は慌ててソファーから身を乗り出し、耳の先まで真っ赤にして両手を振った。突然のぶっちゃけ発言の連打に、さすがの「職人神」も形無しである。
「だ、だって気になるじゃない! ニュースがあんなにお祝いムードだから、ついつい私たちの場合を想像しちゃうというか……」
「そうにゃ! マスターとミエルの子なら、絶対かっこいいか可愛いかの二択に決まってるにゃ!」
「ふふ。閃様がこれほど狼狽されるお姿も珍しいですね。ですが、いずれは向き合っていただかなければならない大切な問題ですよ?」
艶然と微笑むルトラに、ぐいぐいと迫るミエルとエリカ。
(このままじゃ押し切られる……! 何か話題を変えないとマジでやばいぞ……!!)
閃は藁にもすがる思いで手元のスマホを操作し、スクロールの果てに目についた「とあるニュース記事」をこれみよがしに突きつけた。
「い、今ちょうどネットのニュースで面白い記事が流れてきたんだ! ほら、これ見てみろよ! 美容品の会社が、俺が以前流した錬金術の基礎レシピを応用して、新時代の『高級美容液』を完成させたらしいぞ!」
画面には、ダンジョンのポーション成分を配合したという高級スキンケア商品の華々しい広告が映し出されていた。
「……美容液… エーテル・ヴェール?」
エリカがピタリと動きを止め、画面をまじまじと見つめた。
「あら。ポーションといえば回復薬としての効用しかありませんでしたが、ついにコスメ分野へと進出したのですね」
「お肌のターンオーバーを魔力で急速促進させるアンチエイジング効果があるとかで、セレブたちの間で予約殺到らしいぞ! いやー、世間の流行りってのは目まぐるしいよな、ははは……」
あからさま過ぎる話題逸らし。
女性陣は一瞬、ジト目で閃を見つめた。
「……マスター、誤魔化すのが下手すぎるにゃ」
「ふふ、閃様らしい不器用な照れ隠しですね。今回はこれくらいで許して差し上げましょう」
「もう、閃くんったら……」
呆れつつも、やはりそこは女性である。画面に映る『ダンジョン素材を用いた究極の美容液』というキャッチコピーには、抗いがたい魅力があったようだ。
「でも、お肌がツルツルになる魔法の美容液なんて、ちょっと気になるわね……」
「そうにゃ! エリカ、これネットで予約できるかにゃ? 私たちも試してみるにゃ!」
「成分の解析も気になりますね。我が家の工房でも似たようなものが作れるかもしれません」
すっかり子作りの話題から脱線し、スマホを囲んで美容トークに花を咲かせ始める三人。
(はぁ……助かった……)
閃は安堵の息を長く吐き出し、ソファーの背もたれに深く体重を預けた。
女性陣の賑やかな話し声を聞きながら、閃の視線は再び、青く澄んだミスト・ヴィレッジの海へと向けられる。
新種族と地球人の間に命が芽生え、新たな歴史の扉が開いた世界。
世間が激動の未来に胸を躍らせる中、この白亜の豪邸には、いつものように温かくて少し騒がしい、かけがえのない日常が流れている。
(……俺と、あいつらの子供、か)
ふと、小さな角の生えた子供や、黒髪の幼い女の子が、この広い庭を元気いっぱいに駆け回る光景が脳裏を過った。
悪くない。いや、それどころか――。
「……まあ、そのうち、な」
無意識に緩んでしまう口元を隠すように、閃は残っていた紅茶をゆっくりと飲み干し、愛すべき仲間たちの背中を優しく見守るのだった。
エオルゼアの種族は、混血がどうなるのかは詳しく語られていませんが、居ないわけではないです。
この小説では、基本的には両親のどちらか片方と同じ種族になり、中間のような姿になるのは極稀である事とします。