FF14で現代ダンジョン 作:黒蓮
『【大革命】底辺でも時給五万! あの「草むしりアカウント」は本物の神だった!!~戦闘ゼロの採集法と最強インゴットの作り方~』
『どうせ嘘だろ』
『ウインドシャードなんて入れたら爆発するって常識だろw』
『でもこのインゴットの輝き、CGにしてはリアルすぎないか?』
最初は嘲笑と疑いが大半だった。
だが、アップロードから三時間が経過した頃、事態は急転直下を迎える。
『おい!!! マジだったぞ!!!!』
最初にリポストした底辺探索者が、血走った目の自撮り写真をアップした。その後ろには、山のように積まれた銅鉱と亜鉛鉱が写っている。
『スライムから逃げ回りながら動画の通りに壁叩いたら、マジでボロボロ鉱石が出てきた!! 戦闘一回もしてないのに、買取所で三万円になったぞ!! 名無しの職人は神だ!!!』
この投稿が起爆剤となった。
失うもののない底辺探索者たちが次々とダンジョンの浅層へ駆け込み、そして数時間後、口々に狂喜の叫びを上げ始めたのだ。
『やばいやばいやばい! 時給五万どころじゃねえ!』
『今まで命懸けでゴブリン狩ってた俺たちは何だったんだ!?』
『ギルドの買取所がパニックになってるぞ! 銅鉱の持ち込みが多すぎて!』
さらに、探索者たちだけでなく、クラフター界隈にも激震が走った。
源蔵の動画を見た中堅クラフターたちが、半信半疑で合成を試したのだ。
『【速報】名無しの職人のレシピ、ガチです。』
そう呟いたのは、登録者数百万人の大物クラフター系インフルエンサーだった。
『今配信で試したんですが……信じられない。不純物が完全に飛んで、市販の鋼以上の強度を持つ黄銅ができました。この理論を編み出した人は、現代の錬金術を百年は進めましたよ……!』
大物のこの一言で、SNSのタイムラインは完全に爆発した。
相沢の動画の再生数は、1万、10万、100万と、恐ろしいスピードで桁を増やしていく。
それと同時に、誰も見向きもしなかった『名無しの職人』の元ツイートに、怒涛の勢いで「いいね」と「リポスト」が雪崩れ込み始めた。
『先生!! 草むしりとか言ってすいませんでした!!』
『神よ! 他にもレシピがあるならどうかお慈悲を!!』
『名無しの職人氏へ。当ギルド(Sランク)と専属契約を結びませんか? 契約金は十億円用意します』
底辺の感謝、インフルエンサーの驚愕、そして大企業やトップギルドの欲望。
あらゆる感情が渦を巻き、『名無しの職人』という名は、わずか半日のうちに現代ダンジョン界最大のトレンドワードとして世界中に拡散されていった。
◆
ギルドの買取所から出てきた相沢と源蔵は、分厚い札束の入った封筒を握りしめ、夜空を見上げていた。
たった数時間、壁を叩き、炉を回しただけで、借金が全額返せる額を稼ぎ出してしまったのだ。
「源さん……俺、まだ夢見てるみたいだ」
「ああ、俺もだ。だが、これは現実だ」
源蔵はスマホの画面を見つめる。
そこには、フォロワー数が秒単位で増殖し続けている『名無しの職人』のプロフィール画面があった。
「なぁ、相沢。この人……一体どこで、何をしてるんだろうな。これだけ世界をひっくり返しておいて、沈黙を貫いてやがる」
「きっと、俺たちなんかじゃ想像もつかないような深層で、世界の真理でも研究してるんだよ。……神様ってのは、そういうもんだろ」
二人は畏敬の念を込め、画面の向こうにいる見知らぬ救世主に向かって、深く頭を下げた。
◆
『+99件の通知があります』
『+99件の通知があります』
「は……? なんだこれ」
ミスト・ヴィレッジの個人宅。そのふかふかなソファの上で、閃は完全に引いていた。
「……嘘だろ。ただの黄銅だぞ? レベル十にも満たない初心者用の素材で、なんで大企業が出てくるんだよ」
閃は頭を抱え、スマホをテーブルに裏返して置いた。
隣で新作のゲーム機をいじっていたミエルが、猫耳をピコピコと動かして顔を覗き込んでくる。
「マスター、外の人間たち、そんなにマスターのこと探してるのにゃ? なら、いっそのこと全部の作り方を教えてあげたらいいのに」
「ダメだ。それは絶対にダメ」
閃は即座に首を横に振った。
「この世界の連中は、まだレベル十かそこらの常識で生きているんだ。そこにいきなり『レベル五十の最強装備』や『エリクサー』のレシピなんて放り込んだらどうなる? 経済のバランスは完全に崩壊するし、力を手に入れた国同士で戦争が起きかねない」
「なるほど。未熟な者に過ぎた力を与えれば、自らを滅ぼすというわけですね」
キッチンで紅茶を淹れていたルトラが、静かに頷きながら閃の前にカップを置いた。
「そういうこと。それに、俺の平穏な高校生活が完全に終わる。国家機関に拉致されて、一生地下室で兵器を作らされるなんてごめんだ」
閃は腕を組み、これからの立ち回りを思考した。
このまま沈黙を貫けば、世界は血眼になって『名無しの職人』を探し出し、最悪の場合、Dランク高校生である閃にまで捜査の手が伸びるかもしれない。
かといって情報を出しすぎれば世界が壊れる。
「……なら、コントロールするしかないな。手の届かない『預言者』を演じるんだ」
「預言者にゃ?」
「ああ。相手が神様みたいに崇めてくれてるなら、それを利用する。世界が一気に進みすぎないように、俺がペースを握ってやる」
閃は再びスマホを手に取り、文面を打ち込み始めた。
狙うのは、現状のトップ層が喉から手が出るほど欲しがっているが、世界を崩壊させるほどではない『レベル二十〜三十帯』の情報。それを、気まぐれに、ごく少数だけ与える。
「週に一回、休日の暇な時だけ投稿する。ちょっと尊大で、俗世に興味がない『気まぐれな神様』っぽい口調でな。……よし、こんなもんか」
閃が打ち込んだテキストは、以下のようなものだった。
『@Craft_God_Unknown
お前ら、たかが黄銅くらいで騒ぎすぎ。
いつまでも低層で壁を叩いてても面白くないから、今日は機嫌がいいし、「アイアン」装備の正しい作り方を一つだけ教えてやる。
鉄鉱3:黒石(ボムの灰)1の割合。炉の温度は黄銅の倍にしろ。
これで今の市販品の五倍は硬い装甲ができる。じゃあな、また気が向いたら来る』
「送信、っと」
ポン、と軽い電子音が鳴り、世界に向けて情報が放たれた。
――次の瞬間。
静まり返っていたテーブルの上のスマホが、再び爆発したように震え始めた。
『+10万件のいいね』
『+5万件のリポスト』
瞬く間に増殖していく数字。タイムラインは、再び世界中の探索者とクラフターたちの狂乱の渦に包まれた。
『神が!! 神が再び降臨なされたぞォォォ!!』
『アイアン!? 鉄鉱石とボムの灰を混ぜるだと!? すぐに行け!! ギルドの全財産をはたいてボムの灰を買い占めろ!!』
『「また気が向いたら」……!? くっ、我々は神の気まぐれを待つしかないというのか……!』
各国のトップギルドは即座に指示を飛ばし、インフルエンサーたちは涙を流して画面の向こうの『神』に祈りを捧げている。特定班は相変わらず「発信源は別次元(ミスト・ヴィレッジ)で追跡不能」と絶望の声を上げていた。
それらの反応を見届けた閃は、「ふぅ」と安堵の息を吐き、スマホの通知をオフにして画面を伏せた。
「……よし。これで一週間はボムの灰集めと鉄打ちで忙しくなるだろうから、俺のことは探さないだろう。毎週少しずつ餌を撒いておけば、暴走することもない」
「流石は閃様。愚かな外の人間たちを、見事に掌の上で転がしておいでですね」
ルトラが感嘆の声を漏らし、恭しく頭を下げる。
「マスター、悪い顔してるにゃー。でもそういうマスターも好き!」
ミエルが笑いながら、再び閃の首に抱きついてきた。
「ははっ、悪い顔って言うな。ただの自衛だよ、自衛」
閃は苦笑しながら、手元のゲーム機のコントローラーを握り直した。
◆
そして数日後……
【速報】名無しの職人氏、神託を投下してしまうwwww
1: 名無しの探索者
キタァァァァァァァァァ!!!!!
今度は『アイアン(鉄)』だぞお前ら!!
2: 名無しのクラフター
鉄鉱石3にボムの灰1!?
おい嘘だろ、ボムの灰なんて今まで「火薬の匂いがするゴミ」扱いだったぞ!?
5: 名無しのクラフター
>>2
さっきギルドの工房で試した。
……泣いてる。なんだこの鉄。俺が今まで打ってたのは泥団子だったのか?
8: 名無しの探索者
近所の買取所、ボムの灰の買取価格が昨日の100倍になってて草
買い占めた奴誰だよwww
15: 名無しの探索者
>>8
アメリカの軍需企業が組織単位でボム狩り始めたってニュースやってたぞ。
もう浅層にボムいねぇよwww
23: 名無しの料理人
おい!! 武器だけじゃねえ!!
昨日の深夜に投下された『料理レシピ』見たか!?
25: 名無しの探索者
>>23
あー、あの「ただの鶏肉も、ダンジョン産のハーブ(特定の雑草)と一緒に塩焼きにすれば筋力が3%上がる」ってやつ?
流石にオカルトだろ。食い物でステータス上がるとかゲームじゃあるまいし。
31: 名無しの料理人
>>25
それが上がるんだよォォォ!!!
今日、ウチのギルドのタンクに食わせて体力測定させたら、マジでベンチプレスの記録更新しやがった!!
これ「ドーピング検査に引っかからない合法バフ」だぞ!!
42: 名無しの探索者
武器の常識だけじゃなく、料理界隈までひっくり返しやがった……。
職人神、全知全能すぎないか?
55: 名無しの特定班
クソッ……! 今日もIPアドレスが追えねえ……!
座標は日本のダンジョン入口を示してるのに、そこから先が「存在しない空間」に繋がってて物理的に干渉できないんだが!?
58: 名無しの探索者
>>55
特定班(笑)
もう諦めろ。あのお方は物理次元を超越した神なんだよ。
73: 名無しのクラフター
今週もまた神託のおかげでギルドの生存率が上がった。
神よ、次はどうか『毒消し』の作り方を……。うちの相棒が毒にやられてからずっと寝込んでるんです……。
77: 名無しの職人(@Craft_God_Unknown)※スクショ引用
『@Craft_God_Unknown:
毒消し? あんなのその辺に生えてる「モコ草」と「毒蜘蛛の脚」をすり潰して煮込めば一発だろ。ついでに麻痺も治るぞ。じゃ、今週はここまで。来週はスチール(鋼)の話でもするかな』
80: 名無しの探索者
ファッ!?!?!?
レス番73の願いが直接届いたぞ!?!?
85: 名無しのクラフター
毒蜘蛛の脚を煮込んで毒消しにするという逆転の発想……!!
天才……いや、やはり神……!!
92: 名無しの探索者
それより最後の「スチール(鋼)」ってなんだよ!!!
アイアンの次があるのかよ!!!
来週まで待てねえええええええええ!!!
110: 名無しの探索者
よく考えたら、俺たち最初この人のこと「草むしり推奨アカウント(笑)」って馬鹿にしてたよな……。
115: 名無しの探索者
>>110
やめろ。二度とその名を呼ぶな。
神の逆鱗に触れてアカウント消されたら、人類のダンジョン攻略はここで百年停滞するぞ。
◆
外の世界では、国家予算が動き、大企業が血眼になって鉄を打ち、探索者たちが新たな知識に狂喜乱舞している。
しかし、そのすべての中心にいる『職人神』は。
「よしミエル、昨日のボス戦の続きやるぞ。ルトラも一緒にやろうぜ」
「はい、閃様。私が敵を粉砕してみせましょう」
絶対安全の楽園(ミスト・ヴィレッジ)のソファの上で、今日も平和に美少女たちとゲームに興じているのだった。
閃のシステムに表示されるレシピはこの世界のレシピであり、大半の素材は閃の見覚えのないものです。