FF14で現代ダンジョン 作:黒蓮
数ヶ月後。
ミスト・ヴィレッジの自宅にて、ノートパソコンを開いて現代ダンジョン探索の最新ニュースを眺めていた。
『――ついにSランク合同パーティが、第六層への到達を宣言! 雪と氷に覆われた未開の領域で、謎の巨大な水晶を発見しました!』
『しかし、第一層から第六層までの道のりは険しく、片道だけで二週間の行程。物資と疲労の限界により、本格的な攻略は難航を極めています』
閃が公開した『デジョンの呪符』のおかげで、探索者たちは死なずにロビーへ帰還できるようになった。その結果、人類の攻略最前線はかつてないほどの深層へと到達していた。
しかし、デジョンで一瞬で帰れるとはいえ、再び最前線である第六層へ向かうためには、またロビーから二週間かけて歩き直さなければならない。これでは攻略のテンポが遅すぎる。
「……そろそろ、出し時だな」
閃は両手を上げて伸びをしながら呟いた。
「マスター、また外の人間に新しいおもちゃをあげるのにゃ?」
コタツの向かい側で、ミエルが猫耳をピクピクさせながら首を傾げる。
「ああ。前に『素材が高級すぎて量産は無理』って出し惜しみしてたアレだ。第六層まで行けるようになった今のあいつらなら、材料がギリギリ調達できるはずだからな」
閃はログインしたままの『名無しの職人(@Craft_God_Unknown)』のアカウントを開き、キーボードを叩き始めた。
今回は、深層の雪原で採掘できる『精霊銀鉱』と、高純度のクリスタルを用いた特殊なインク。そして、これまでとは桁違いに複雑な『テレポ用魔紋』の画像である。
「閃様。このような規格外の移動手段を授けてしまえば、また外の世界がひっくり返るのでは?」
キッチンから温かい緑茶を運んできたルトラが、心配そうに尋ねる。
「まあ大騒ぎにはなるだろうけど、これはどうしても必要なんだよ。片道二週間も歩いてたら、俺が見たい次の素材がいつまで経っても市場に流れてこないからさ」
閃は至極自分勝手な理由で笑うと、エンターキーをターンッ!と叩いた。
『@Craft_God_Unknown
お前ら、第六層到達おめでとう。でも毎回歩いて行くのは流石にダルいだろ?
というわけで、約束通り『テレポの呪符』の作り方を置いておく。
第六層で見つけた「巨大な水晶(エーテライト)」に一度でも触れていれば、ロビーからそこへ一瞬でワープできる。
インクの材料は精霊銀鉱と高純度クリスタルだ。魔紋はデジョンの十倍複雑だから、失敗して素材を無駄にするなよ。じゃあな』
「よし、これで良しっと。……ミエル、ルトラ、そろそろゲームの続きやるか!」
「わーい! マスター、今日は負けないにゃー!」
世界が再び激震に見舞われることなどどこ吹く風。
閃はノートパソコンをパタンと閉じ、今日も美少女たちと共に平和なコタツライフへと戻っていった。
◆
【速報】名無しの職人氏、ついに『テレポ』を解禁。探索の概念が壊れるwwww
1: 名無しの探索者
キタァァァァァァァァァァァ!!!!
テレポだあああああああああああああ!!!
2: 名無しの探索者
マジかよ……!!
第六層まで一瞬で飛べるってことか!? 片道二週間の地獄の行軍が、ゼロ秒になるってことかよ!?
8: 名無しのクラフター
画像見た。
……魔紋が複雑すぎる。これ、俺たちクラフターに対する挑戦状だろ。
一ミリでも線が震えたら、数億円分の素材(精霊銀鉱)がパーになるプレッシャーの中で手描きしろってか……?(歓喜)
15: 名無しのSランク
『巨大な水晶(エーテライト)』って、あの青く光ってるデカい石のことか!
昨日たまたま触ってて良かった!! これで最前線から攻略が再開できるぞ!!
24: 名無しのクラフター
おい、買取所の精霊銀鉱が一瞬で市場から消えたぞwwwww
大手のギルドが資金力に任せて全部買い占めやがった!!
31: 名無しの探索者
デジョンで一瞬で帰って、テレポで一瞬で最前線に戻る。
……これもう、実質ダンジョンが俺たちの「裏庭」になったようなもんじゃねえか!
33: 名無しの探索者
>>31
いや、値段を考えろ、上位の連中じゃないと無理だぞ。
42: 名無しの探索者
職人神、完全に俺たちの攻略進度を見てレシピ出してるよな。
「第六層到達おめでとう」とか、完全に上から目線で見守られてるのがたまらん……!
49: 名無しの特定班
今日も特定不能! ヨシ!
もう俺たち特定班は、神の回線が途切れないようにお祈りする係になってるわ。
60: 名無しのクラフター
ウオォォォ! 今、手が震えながら三時間かけて魔紋描いた!!
ギルマスの前でテスト起動してくる!! 失敗したら俺は借金で首が飛ぶ!!
65: 名無しの探索者
>>60
生きて帰ってこいよwww
88: 名無しのクラフター
>>65
……成功した。
ギルマスが光に包まれて消えた後、第六層から「無事に着いた」って無線が入った。
泣いてる。俺、職人やってて本当に良かった……。
92: 名無しの探索者
うおおおおおおおお!!! 歴史が動いたぞ!!!!
これからはエーテライト周辺に前線基地を作れる!!
115: 名無しの探索者
俺たちを地獄から解放してくれて、本当にありがとう、名無しの職人様。
これでまた、俺たちはもっと奥へ進めるよ。
待っててくれ、あんたが驚くようなドロップ品を必ず持ち帰ってみせるからな!!
◆
相沢と源蔵が切り盛りする裏路地の小さな工房には、今や深夜であっても明かりが灯り続けていた。
かつてはスライムの粘液を握りしめて途方に暮れていたDランク探索者の相沢と、酒を煽りながら失敗作のクズ鉄を叩いていた源蔵。
『名無しの職人』から授けられた黄銅の知識で借金を返済した二人は、いまや中堅探索者やクラフターたちの間で「神の直伝を受けた伝説の第一発見者」として、絶大な信頼を寄せられていた。
「おい、相沢! 『精霊銀のインク』の温度管理はどうだ!?」
「バッチリだ源さん! 氷のシャードの粉末で冷やしながら、寸分違わず均一な温度を保ってる!」
工房の中央で、源蔵は拡大鏡を覗き込みながら、汗をだくだくと流していた。
彼の目の前にあるのは、特注の厚手の羊皮紙。手に握る羽ペンには、第六層の雪原でしか採れない精霊銀と高純度クリスタルを溶解させた、青白く輝く魔法インクが滴っている。
一ミリの線のブレ、一滴のインクの滲みが、数千万円単位の素材を灰に変える。
それどころか、転移事故を引き起こせば買い手の命すら奪いかねない。
だが、源蔵の手に迷いはなかった。
「……できた。完成だ……ッ!」
最後のひとすじを描き終えた瞬間、羊皮紙の上に刻まれた十倍複雑な幾何学模様――『テレポ用魔紋』が、ふっと淡い青色の光を放ち、紙の中にスーッと吸い込まれるように馴染んでいった。
「うおおおお……! 本物だ、本物の『テレポの呪符』だ……!」
作業台を挟んで息を呑んでいた依頼主――探索者パーティ『銀翼の旅団』のリーダーが、震える手でその紙切れを見つめた。
彼らは、Aランク到達目前の中堅上位のパーティだ。
彼らの目的は、第六層の雪原に生息する凶悪な魔物『アイスゴーレム』のコアを持ち帰ること。病に倒れたメンバーの妹の治療薬を作るため、どうしてもその希少素材が必要だったのだ。
「源さん、相沢さん……本当にありがとう! これがあれば、片道二週間の極寒の雪山を歩かずに済む! 行き帰りの物資で全財産を破産させずに、いきなり最前線で戦えるんだ!」
「礼なら『名無しの職人』様に言いな。俺たちはその神託を形にしただけだ」
源蔵は疲労困憊の顔でニッと笑い、手ぬぐいで汗を拭った。
「だがお前ら、ちゃんと六層のエーテライトに触れてるんだろうな?触れて交感しておかなきゃ、テレポは繋がらねえぞ」
「ああ当然だ、全員が触れている。テレポさえあればロビーと第六層を一瞬で行き来できる……まさに夢のカードだ!」
彼は深々と頭を下げると、宝物でも扱うように呪符を懐に収め、工房を後にした。
◆
ダンジョン入り口――通称『ロビー』。
熱気と緊張感が渦巻く広場で、彼ら『銀翼の旅団』の四人は円陣を組んでいた。
「みんな、準備はいいか? これより『テレポの呪符』による、第六層への即時展開実験を行う!」
「リーダー、本当に大丈夫なんだよね……? 壁の中に埋まったりしない……?」
ヒーラーの少女が不安そうに身をすくめる。
「信じろ。あの『名無しの職人』様が嘘をつくはずがない。それに、俺たちの命を救ってくれたデジョンの呪符を作った、あの源さんたちの手製だ!」
リーダーは胸ポケットから、青く微光を放つ『テレポの呪符』を取り出した。
周囲の探索者たちが「おい、あれって……」「マジかよ、テレポの呪符か!?」「マジで使う気か!?」と騒ぎ始め、瞬く間に人集りができる。
彼は意を決し、両手に力を込めて――バリッと羊皮紙を二つに引き裂いた!
―――!!
澄み渡る鐘の音のような空間震動がロビー全体に響き渡った。
引き裂かれた呪符から溢れ出したのは、息を呑むほど美しい、螺旋を描く幾何学的なエーテルの帯。
それが瞬時に四人の身体を包み込み、光の柱となって天井へと突き抜けた。
「うわああああっ!?」
「光が――!」
眩い閃光が収まった時。
そこには、誰一人として残っていなかった。
ただ、静まり返ったロビーの石畳の上に、微かな青い光の粒子がチラチラと舞い落ちているだけだった。
「……消え、た……?」
「おい……本当に一瞬でワープしやがったぞ……!!」
静寂ののち、ロビーは割れんばかりの歓声と叫び声に包まれた。
◆
ザザーッ……。
猛吹雪の音が耳を打つ。
吹きすさぶ極寒の風、視界を覆う一面の銀世界。そして――目の前に鎮座する、天を突くほど巨大な青い水晶。
「ハぁっ……ハぁっ……!!」
リーダーは激しく喘ぎながら、自分の手足を見た。
さっきまで蒸し暑いロビーにいたはずなのに、一瞬の浮遊感のあと、自分たちは極寒の第六層に立っていた。
「生き……てる! 身体もどこも欠けてない!」
「すごい……! 本当に第六層だ! 一瞬で着いちゃった……!」
メンバーたちが抱き合って歓喜の声を上げる。
二週間の行軍で擦り切れるはずだった疲労も、消費するはずだった大量の防寒具や食料も、すべては「ゼロ」。
完全に万全な万全の状態で、彼らは最前線の地に立っていたのだ。
リーダーは光輝くエーテライトを見上げながら、拳を固く握りしめた。
「よし……! これで次回からは、いつでもここへ一瞬で来られる!」
彼らはその日、万全の体調で目標のアイスゴーレムを撃滅。目的のコアを手に入れると、予備で持ってきていた『デジョンの呪符』を破り、一瞬にして安全なロビーへと帰還したのだった。
――「行きはテレポ、帰りはデジョン」。
彼らの成功体験と動画は、またしてもSNSを駆け巡り、全世界の探索者に決定的なパラダイムシフトをもたらした。
かつては「命をすり減らす地獄の遠征」だったダンジョン攻略が、今や「本拠地から日帰りで通うダンジョン通勤」へと塗り替えられたのだ。
最前線のエーテライト周辺には、瞬く間に各国の前線基地や補給所が建設され、人類の攻略スピードはこれまでの何十倍にも加速していった。
◆
……それから数日後の、ミスト・ヴィレッジ。
「マスター、外のニュース、すごいことになってるにゃ!」
コタツでぬくぬくしながら、ミエルがタブレット端末の画面を閃に見せてくる。
画面には、第六層の雪原で『アイスゴーレムのコア』を掲げて感涙する彼らの姿と、持ち帰った未知の雪原植物『氷霜草』の画像が映し出されていた。
『特報! テレポの呪符により第六層の新素材が続々と市場へ流出! 新薬や新装備の開発が急速に進行中!』
「速いな……中堅のパーティだからか?まあトップパーティはしがらみとか多そうだしな…」
閃はミカンの皮をむきながらそう零した。
「ふふ、閃様のご目論見通りになりましたね」
ルトラが淹れ立てのほうじ茶を差し出しながら、優しく微笑む。
「ああ。これで俺が欲しかった冷やし系アイテムの素材も、そろそろ競売場に並ぶはずだ。……よし、今夜はみんなで特製アイスでも作って食べるか!」
「わーい! マスター特製アイスだにゃー!」
世界中の大企業や国家が「テレポ革命」に揺れ、歴史的な大偉業だと狂喜乱舞しているその裏で。
すべての元凶である「職人神」は、新素材で作る手作りアイスの味に思いを馳せながら、今日も平和な時間を満喫するのだった。