FF14で現代ダンジョン 作:黒蓮
凍てつく風が吹き荒れる第六層の雪原。
『テレポ』の呪符によって開拓された前線基地から足を踏み出し、果てしない氷雪地帯の探索を始めてからおよそ一ヶ月。
中堅上位の探索者パーティ『銀翼の旅団』は、分厚い雪を掻き分けながら未踏の領域を歩み続けていた。
「リーダー、風が弱まってきた。……前方、あれを見ろ!」
斥候を務める槍使いのメンバーが、吹雪の向こうを指差した。
リーダーと呼ばれた斧使いの男が目を細めると、白いヴェールの奥から、荘厳な石造りの建造物が姿を現した。それは、氷の山に半分埋もれるようにして建つ、古代の神殿のような遺跡だった。
「建物…、あれは遺跡か……! 警戒を怠るな、進むぞ」
リーダーの号令のもと、パーティは慎重に遺跡の内部へと足を踏み入れた。
内部は外の猛吹雪が嘘のように静まり返っており、冷たく澄んだ空気が満ちていた。魔物の気配はない。長い回廊を抜けると、彼らはドーム状の巨大な祭壇の間へと辿り着いた。
部屋の中央には、青白く発光する巨大な石碑が鎮座している。
リーダーが一歩前へ出て、石碑に手を触れた。
その瞬間、石碑から放たれた光がパーティの全員を包み込んだ。
『――己の魂の形を示せ。真なる力は、試練を越えた者に与えられん』
直接脳内に響く無機質な声と共に、祭壇の空間が歪んだ。
気がつけば、メンバーはそれぞれ独立した幻影の空間に分断されていた。彼らの目の前には、自分自身の姿を模した『影』が、武器を構えて立っていた。
「なるほど、これが試練か。……自分自身に打ち勝てってことだな!」
リーダーは斧を構えて、己の影へと突進した。
重い剣戟が火花を散らす。影の攻撃は苛烈で、これまでの探索で蓄積した疲労や恐怖、負の感情を実体化させたかのような重圧を伴っていた。
だが、リーダーは膝を屈しなかった。仲間を守り、前へ進み続けるという強い意志で斧を振り被り、渾身の一撃で影を両断した。
同時に、別の空間では槍使いのメンバーが空高く跳躍し、影の急所を正確に貫いていた。
支援役のメンバーもまた、魔力の光で影の攻撃を相殺し、己の精神力を証明して見せた。
閃光が弾け、幻影の空間が崩壊する。
再び祭壇の間に戻ってきた彼らの手には、それぞれ異なる輝きを放つ、親指ほどの大きさの『クリスタル』が握られていた。
「なんだ、この石は……頭の中に、力の使い方が流れ込んでくる……!」
リーダーは、手の中にある美しく光る赤いクリスタルを見つめた。
そこに刻まれていたのは、内なる獣を呼び起こし闘う戦士の記憶。
「『戦士』……。これが、俺の選んだ魂の形……!」
「俺の手には、空を駆ける竜の力が……! 『竜騎士』のクリスタルだ!」
槍使いのメンバーが、天色のクリスタルを掲げて歓喜の声を上げる。
「私のも見て。星の巡りを読み取って、運命を切り開く魔法……『占星術師』のクリスタルよ」
支援役のメンバーが、星空を閉じ込めたようなクリスタルを胸に抱き、涙ぐんでいた。
『ソウルクリスタル』
それこそが、ただの剣士や魔法使いを、真の『ジョブ』へと昇華させる証であった。
彼らのステータスは劇的に上昇し、これまでの戦い方とは次元の違うスキルがその身に宿っていることを、全員が肌で感じ取っていた。
リーダーは力強く戦士の斧を天に掲げた。
その顔には、第六層の過酷な探索を生き抜いた誇りと、新たな時代への高揚感が満ち溢れていた。
「またしてもトップの連中を出し抜いてしまったな!よし帰るぞ、俺たち『銀翼の旅団』が、この第六層でジョブを見つけたと世界に知らせるんだ!」
彼らは震える手で『デジョン』の呪符を取り出した。
デジョンの光が彼らを包み込み、新たなジョブの力を宿した探索者たちは、歓喜と共に雪原の遺跡から帰還していった。
これが、『ジョブ』という概念が、世界中の探索者たちに広く解放される、歴史的な第一歩となったのである。
◆
【速報】第六層の遺跡で『ジョブ(天職)』とかいうヤバすぎる覚醒イベントが発見されるwwww
1: 名無しの探索者
おいお前ら、中堅ギルド『銀翼の旅団』の記者会見見たか!?
なんか第六層の雪原で「ソウルクリスタル」って石を拾って、超人になって帰ってきたんだが!?
2: 名無しの探索者
見た見た!!
斧使いのリーダーが『戦士』とかいうのに覚醒してて、赤いオーラ纏いながら巨大な岩山を一撃で粉砕してたぞwww
あんなのもう現代兵器だろwww
5: 名無しの探索者
槍使いの奴の動画ヤバすぎないか?
『竜騎士』とか名乗って、数十メートル上空までジャンプして隕石みたいに降ってきてたぞ。
物理法則どうなってんだよ!!
8: 名無しのヒーラー
ウチのギルドのヒーラー陣、あの『占星術師』の映像見て全員絶望してる。
タロットカードみたいなの引いて、味方全体の攻撃力上げながら同時に回復するとかチートすぎるだろ……。
15: 名無しの探索者
これ、特定の遺跡の石碑に触れると「自分の影」と1対1で戦う試練が始まるらしい。
それに打ち勝つと、自分の魂の形に合った『ソウルクリスタル(ジョブ)』が貰えるんだとさ!
23: 名無しのSランク
今、ウチのギルマスがテレポで飛んで試練受けてきた。
真っ白なオーラを放つ『ナイト』のクリスタル貰って帰ってきたわ。
なんか「数秒間だけ絶対に死ななくなる(インビンシブル)」とかいう意味不明なスキル覚えたらしい。もうアイツ一人でいいんじゃないかな。
31: 名無しの探索者
>>23
絶対無敵は草。ボス戦の概念壊れるぞ。
42: 名無しの魔法使い
アメリカのトップ炎使いが『黒魔道士』になったらしい。
試し撃ちの魔法一発で、第六層のボスが消し飛んだってニュース速報でやってた……。
これまでの魔法使いが手品師に見えるレベル……。
50: 名無しの探索者
続々と報告上がってきてるぞ!
素手の格闘家は『モンク』!
双剣使いは『忍者』!
これ、全員分なんらかのジョブが用意されてるんじゃないか!?
58: 名無しの特定班
ちょっと待てお前ら。冷静になって考えろ。
これまで誰も「ジョブ」なんて知らなかったよな?
60: 名無しの探索者
>>58
ああ、そうだな。
ただ剣を振る、ただ魔力を飛ばすだけの戦い方だった。
65: 名無しの特定班
じゃあなんで、『名無しの職人(@Craft_God_Unknown)』は、このタイミングで俺たちに【テレポ】を渡したんだ?
まるで「第六層のソウルクリスタルを取りに行け」って誘導するかのように。
72: 名無しの探索者
あっ…………(察し)
80: 名無しのクラフター
職人神、絶対にこの遺跡の存在を知ってたな。
俺たちが第六層に到達したのを見て、「やっとチュートリアルが終わったか。じゃあ本当の力を取りに行け」って感じでテレポの呪符を投下したんだ……!
95: 名無しの探索者
職人神、どこまでこの世界のこと見通してんだよ……。
手のひらの上で踊らされてる感半端ないけど、最高にワクワクするわ!!
112: 名無しの探索者
おい、誰か聞いてくれ!!
俺、戦闘スキル皆無のただの荷物持ちなんだけど、試しに石碑触ってみたら……
なんか本とペンが出てきて『学者』っていうジョブになれたぞ!!
可愛い妖精が召喚できて、勝手に回復してくれる!!
120: 名無しの探索者
>>112
ファッ!?!?
戦闘職以外でもワンチャンあんのかよ!!!
うおおおおおお俺もテレポ買って第六層行ってくるううううううう!!!!!
135: 名無しの探索者
人類の進化の歴史が、今日ここから始まるんだな。
全探索者よ、第六層へ急げ!! 自分の『天職(ジョブ)』を掴み取れ!!
◆
ミスト・ヴィレッジの自宅リビング。
閃はソファに深く腰掛けながら、スマートフォンで『銀翼の旅団』の記者会見や、SNSに上げられたジョブ覚醒の動画を眺めていた。
「へぇ……『試練の遺跡』で自分の影と戦って、勝ったらソウルクリスタルが貰えるのか。なんだか王道RPGみたいでかっこいいな」
動画の中では、探索者たちが誇らしげにそれぞれのクリスタルを掲げている。
閃はぽりぽりと頬を掻きながら、小さく息を吐いた。
「俺の前世だと、ギルドのNPCにお使いを頼まれたり、長いジョブクエストをクリアしたりしてやっと貰えたんだけどな。この世界のダンジョンは、ある意味では親切設計にローカライズされてるみたいだ」
この世界のダンジョンは、現実の地球に適応する形で独自の「仕様変更」がなされているらしい。
閃はふと気になって、虚空に指を滑らせ、自分にしか見えないシステムウィンドウを開いた。
画面には、かつての自分が極めた全戦闘職・生産職のレベルが『100』というカンスト状態でずらりと並んでいる。
「俺のジョブはちゃんと全部あるよな……ん? あれ?」
ずらりと並んだジョブのアイコンを眺めていた閃の指が、ある箇所でピタリと止まった。
遠隔物理DPSの項目。吟遊詩人、踊り子――そこにあるはずの一つのジョブが、丸ごと欠落していたのだ。
「……『機工士』が、ない」
銃や機械兵器を操り、オートマトンなどを呼び出して戦うジョブ、『機工士』。
そのソウルクリスタルはおろか、アーマリーチェストに入っていたはずの銃の武器すらも、インベントリから綺麗さっぱり消滅していた。
「閃様? どうかされましたか」
閃が目を瞬かせていると、キッチンで果物を切っていたルトラが不思議そうに振り返った。
「あ、いや……ちょっと俺のシステムから、一つのジョブが消えてることに気づいてさ。機械や銃を使うジョブなんだけど」
ミエルもゲーム機から顔を上げ、首を傾げる。
「機械にゃ? そういえばマスター、この世界に来てから機械の敵を一回も見てないにゃ」
「……あ、そっか」
ミエルの言葉に、閃はハッと気づいた。
前世のゲームでは、ガレマール帝国の魔導アーマーや、古代アラグ帝国の防衛システムなど、機械系のモンスターや兵器が多数存在していた。
しかし、この世界のダンジョンに現れるのは、スライムやゴブリン、ミノタウロスといった純粋な『ファンタジー的魔物』ばかりだ。機械系の敵も、機械部品のドロップ素材も、今まで一度も見たことがない。
「なるほどな……。地球にはすでに銃や機械、近代兵器があるから、ダンジョンの法則がそれを『ファンタジーの異物』として弾いたのか。それとも、単にそういう仕様の世界なのか」
魔法の力を込めて撃ち出す『ガンブレイカー』のガンブレードや、エーテルで操る『賢者』の賢具などはシステム上「魔法」の範疇として残っているのだろう。
しかし、純粋な機械技術をベースとする『機工士』という概念そのものが、このダンジョンの世界線からは初めから存在しなかったことになっているらしい。
「まぁ、別に困らないけどさ。俺が銃を乱射してたら現代の警察や軍隊にガチで追われそうだし、悪用する奴も多そうだしな」
閃はシステムウィンドウを閉じ、苦笑した。
「マスターのガンブレードがあれば、銃なんていらないにゃ!」
ミエルが閃の膝に飛び乗ってきて、すりすりと甘える。
「そうですよ。いざとなれば私が竜槍で、すべて貫いてご覧に入れますから」
ルトラもフッと誇り高く微笑んだ。
「お前らがいれば十分すぎるよ。……さてと、外の連中がジョブを手に入れて浮かれてる間に、俺たちは今日の夕飯の準備でもするか」
ゲーム時代とは少し違う、この世界独自のダンジョンの仕様。
自分が知らない未知のルールがまだ眠っているかもしれないという事実に、閃は少しだけワクワクしながらも、愛する相棒たちの頭を撫でて、今日も変わらない平穏な日常へと意識を戻すのだった。