FF14で現代ダンジョン 作:黒蓮
第三層 荒野
第三層は荒々しい岩肌と渓谷が剥き出しになった【ザナラーン】を思わせる荒野。
「ふぅ……今日の採取はこのくらいでいいか」
陽光を遮る切り立った岩壁の狭間。
岩場エリアで、閃は、腰の剣に手を添えながら大きく息を吐いた。
世間的には、彼は『Dランク探索者』であり、自称・剣術士。
だがその実体は、かつて前世のゲームで全戦闘・生産職を極め、この世界に転移してきたレベル100のカンストプレイヤーだ。普段は目立たないよう、ソロで第三層あたりの浅〜中層を散策し、錬金術や料理に使う素材をのんびり採取していた。
閃が岩肌に腰掛け、水筒の水で喉を潤していたその時だった。
ズズズ……ッ!
地響きとともに、目の前の岩壁の一部が歪み、崩落した。
舞い散る土煙の奥に現れたのは、これまでどの探索者のマップにも記載されていない、地下へと続く石造りの階段だった。
「ん? なんだこれ……隠し通路?」
閃は首を傾げつつ、足元に気を配りながら階段を下りていく。
ひんやりとした冷気が肌を刺す長い階段を抜け切ると、そこには古代の神殿を思わせる壮大な地下空間が広がっていた。壁面に埋め込まれた青い魔導光が、神秘的な光を湛えている。
「……あー、なるほどな」
神殿の意匠を目にした瞬間、閃はピンと来た。
先日、第六層で『ソウルクリスタル』が発見され、探索者たちに『ジョブ』が解禁されたばかりだ。それに呼応するように、今まで封印されていた神殿が開放されたのだろう。
神殿の中央へ進むと、台座の上に鎮座していた一体の巨大な石像――『ガーディアン・ゴーレム』が、重々しい音を立てて目を覚ました。
赤く光る眼光が閃を捉え、身の丈を超える巨大な石の剣を振り上げる。
「試練の番人ってところか。まあ、ちょうどいい」
閃は一切動じることなく、静かに腰の剣を抜いた。
彼が名乗っているのはただの『剣術士』。だが、彼の中に眠る本当のジョブは、パーティの絶対的盾であり聖なる騎士――『ナイト』だ。
ガーディアンが地を揺らしながら突進し、一死を免れない強烈な一撃を振り下ろす。
閃は避ける素振りすら見せず、左手に実体化させた盾を静かに掲げた。
ズガァァァンッ!!
激しい衝撃波が神殿内を吹き荒れる。
しかし、閃の足元は一ミリたりとも動いていない。
「よし、動作確認終了」
閃は短く呟くと、剣に聖なる光の属性を纏わせた。
一瞬の踏み込み。閃光のような一閃がガーディアンの胸元を駆け抜ける。
――パリンッ!
一撃。
何重もの防御結界を打たれたはずの石像は、まるでガラス細工のように脆く砕け散り、光の粒子となって消滅した。
静寂を取り戻した祭壇の中央。
ガーディアンが消えた跡には、重厚な宝箱がポツンと残されていた。
「さて、中身は……」
閃が宝箱の蓋を開けると、中から眩いばかりの純白と銀色に輝く、一揃いの防具一式が現れた。
洗練された意匠、優美でありながら一目で絶大な防御力を誇るとわかる白銀の甲冑――『ガラントシリーズ』。
ナイトの象徴たる、専用のアーティファクト装備であった。
「うわ、懐かしい!ガラントサーコートか! やっぱりナイトのAFと言ったらこれだよな!……にしてもコルタナとホーリーシールド付きとか親切すぎるだろ……」
閃は童心に返ったように目を輝かせ、甲冑の質感を確かめるように触れた。
この世界のダンジョンは、ジョブが解禁されたことで「そのジョブ専用の強力な装備」が各層の隠し神殿にドロップする仕組みへと拡張されたらしい。
「なるほどな……。第六層でソウルクリスタルを手に入れた奴らが、次に欲しがるのは『そのジョブに見合った専用装備』だろ。でも、こんな第三層の変な隠し神殿まで全部自力で探させるのは、さすがに可哀想か」
何より、探索者たちの装備が強化されれば、より深い層への攻略が進み、自分の元へまだ見ぬ魅力的な素材が届くスピードも上がる。
「よし」
閃はフッと口元を緩めると、ポケットからスマートフォンを取り出した。
カメラを起動し、神殿の入り口にある特徴的な岩の配置をパシャリと撮影する。
「これを『名無しの職人』のアカウントで投下してやるか、さて、なんと書こうか……」
己の飽くなき素材への探求心と、ほんの少しの悪戯心を込めて、再び世界を混乱と歓喜の渦に巻き込むための文章を打ち込み始めるのだった。
◆
『@Craft_God_Unknown
ジョブ(ソウルクリスタル)を手に入れた奴ら、おめでとう。
だが、貧弱な装備のまま浮かれてる場合じゃないぞ。
ダンジョンの第三層には、これまで隠されていた『試練の神殿』が開放されている。
中の番人を倒せば、それぞれのジョブ専用の強力な武具――『アーティファクト(AF装備)』が手に入る。
画像はその隠し神殿の入口だ。腕に覚えのある奴は行ってみるといい』
閃がスマートフォンの画面をタップし、画像の添付と共に送信ボタンを押した、まさにその瞬間。
――都内某所、日本最大規模を誇るクラン『月光騎士団』の作戦本部。
「なんだと……っ!?」
静まり返った会議室に、激しい怒号が響き渡った。
声を張り上げたのは、日本のトップ探索者にして『月光騎士団』の代表、桜井衛次だ。
先日、第六層の雪原で『ナイト』のソウルクリスタルを手にし、無敵のスキル『インビンシブル』を開花させたばかりの、名実ともに人類最強の剣士である。
彼の目の前では、モニターに『名無しの職人』の投稿が映し出されていた。
「桜井さん! 第三層の画像が解析できました! 荒野エリア、中央渓谷の北東にある崩落岩壁です!」
「すぐに出撃態勢を整えろ!!」
桜井は愛剣の柄を握り締め、鋭い眼光で集まった幹部たちを見渡した。
「前回の『ジョブ』の件では、安全確認に手間取り、中堅の『銀翼の旅団』に手柄を奪われた! 世間からは『Sランクは慎重すぎる』とまで囁かれているんだぞ! 二度も遅れを取るなど、この『月光騎士団』の誇りが許さん!」
「し、しかし桜井さん! 相手はたかが第三層です。BランクやCランクの探索者どもが大押し寄せてパニックに――」
「だからこそだ!」
桜井は幹部の言葉を遮り、言い放った。
「『テレポの呪符』を全枚数解放する! 第三層の転移石へ即座に飛び、他パーティよりも一秒でも早くその神殿に到達するぞ! 職人神が提示した『アーティファクト』……ナイトの頂点に立つこの俺が、絶対に一番乗りで掴み取ってみせる!!」
「「「はっ!!!」」」
数分後。日本トップのSランクパーティ『月光騎士団』の本隊は、惜しげもなく超高価な『テレポの呪符』を破り、光の柱となって第三層へと一瞬で転移した。
◆
第三層の荒々しい荒野。
猛烈な熱気と砂嵐が吹き荒れる中、桜井率いる五名の精鋭パーティは、地形を無視するような圧倒的な脚力で岩場を駆け抜けていた。
「桜井さん! 見えました、あの崩落した岩壁です!」
斥候役の『忍者』が指差した先には、確かに『名無しの職人』が投稿した画像と寸分違わぬ、地下へ続く石造りの階段が存在していた。
「よし! まだ他パーティの影はない! 一番乗りだ!!」
桜井の胸に熱い高揚感が込み上げる。
階段の周囲には、足跡がいくつか残っていた。おそらく第一発見者が立ち去った後だろう。だが、中に他の探索者が入った気配はない。
「突入するぞ! 遅れるな!」
ひんやりとした冷気が漂う地下階段を駆け下りると、そこには青い魔導光に彩られた、荘厳極まる古代神殿が広がっていた。
広大な祭壇の間。その中央へ桜井たちが足を踏み入れた、まさにその時だった。
ズズズズズ……ッ!!
神殿全体が激しく揺動し、奥の台座から凄まじい威圧感が溢れ出した。
崩壊したはずの光の粒子が集積し、巨大な石の巨兵――『ガーディアン・ゴーレム』が重々しい音を立てて現れる。
赤く不気味に発光するゴーレムの眼光が、桜井たちを捉える。
身の丈を超える石の巨剣が持ち上がり、第三層のモンスターとは思えない、周囲の空気を歪めるほどの絶大な魔力が練り上げられていく。
「くっ……! なんだこのプレッシャーは! 本当に第三層のモンスターか!?」
後衛の『黒魔道士』が息を呑む。
だが、桜井は怯むどころか、獰猛な笑みを浮かべて前に出た。
腰から抜いた長剣――そして左手に宿る、聖なるナイトの威光。
「ハ、ハハハッ! これでこそ『神殿の番人』だ! 生半可な奴らなら一瞬で全滅するレベルの試練……! これなら遅れを取った甲斐があったというもの!」
桜井は深く腰を落とし、足元に眩い純白のオーラを放った。
「『月光騎士団』の底力、見せてやる! ナイトの真なる力、ここで証明してみせるぞ!!」
――ガキィィィンッ!!
地響きと共に振り下ろされたゴーレムの巨剣を、桜井はナイトのスキルで真っ向から受け止めた。
激しい衝撃波が神殿の壁を穿ち、Sランクパーティと試練の番人による、熾烈な『AF争奪戦』の火蓋が切って落とされたのだった。
◆
……同じ頃。
「うわ、もう『月光騎士団』が第三層の神殿に突入したって速報が出てる。ジョブの件が悔しかったのかな?」
SNS上は「Sランク本気出しすぎワロタ」「今度こそ一番乗りか!」「AF装備ってどんな見た目なんだろ!」と、大盛り上がりを見せている。
「ま、あのガーディアンなら、今のSランクがパーティで当たればちょうどいい歯応えのバトルになるだろ。ナイトのAF……桜井って人に似合うといいな」
閃は呑気に呟くと、ミカンの皮を置いて、ルトラが淹れてくれた温かいお茶に口をつけた。
「マスター、今夜の夕飯は何にするにゃ?」
「そうだなあ。今日は第三層で美味い岩塩が採れたから、特製塩タレの焼肉にでもするか」
「わーい! マスターの焼肉だにゃー!」
世界中のトップ探索者たちが血眼になって神殿を攻略し、歴史が塗り替えられようとしているその渦中で。
閃は今夜の献立に満足そうな笑みを浮かべ、穏やかな放課後の時間を満喫するのだった。
◆
【速報】月光騎士団・桜井衛次氏、第三層の隠し神殿を制覇!! ナイト専用AF『ガラントシリーズ』の威容が公開されるwwwww
1: 名無しの探索者
ウオオオオオオオオオオオオオ!!!!!
月光騎士団の公式チャンネルで『ガラント装備』のお披露目配信きたあああああああああ!!!!!
2: 名無しの探索者
見たか今の映像!?
純白と銀色の洗練されすぎた甲冑……カッコよすぎて鳥肌立ったわ!!!
これまでのゴツゴツした武骨な鎧とは次元が違うだろ!!
5: 名無しのクラフター
ちょっと待て……あの剣、美術品にしか見えんぞ!?
あれで斬れんの?と思ったらめっちゃ斬れてる!?
12: 名無しのSランク
現地で見たが、桜井氏がガラントサーコートを身に纏った瞬間、周りの魔力の密度が一変した。
ただの『防御力が高い鎧』じゃない。着ているだけでステータスが跳ね上がり、ナイトとしての神聖な威圧感が物理的なオーラとなって溢れ出してる。
18: 名無しの探索者
速報動画でゴーレムの攻撃受けてたシーンヤバすぎw
さっきまで手こずってた巨兵の連続撃ち下ろしを、ガラント一式着た桜井氏が盾で「カンッ」って軽く弾いてて草。
固すぎるだろwww
25: 名無しの探索者
>>18
前回のジョブで攻撃性能が跳ね上がって、
今回のAF装備で防御性能と存在感がカンストした感じだな。
33: 名無しの特定班
職人神のツイートから『月光騎士団』が第三層に到達して神殿クリアするまで、まさかの「一時間未満」。
テレポの呪符を全枚数投入して強行突破したらしいな。
前回の『銀翼の旅団』に手柄を奪われたSランクの意地と執念を感じるわwww
42: 名無しのクラフター
画像見て泣いてる。
職人神が言ってた『アーティファクト』って、単なる強い防具じゃなくて、「そのジョブの歴史と象徴そのもの」を形にした装備なんだな……。
マジで神々しすぎる。
50: 名無しの探索者
おい!!! 海外からも続々と報告上がってきてるぞ!!
アメリカのトップ黒魔道士が、第何層かの神殿で黒いトンガリ帽子と漆黒の法衣『ウィザードシリーズ』を手に入れたらしい!!
燃え盛る炎を纏った姿が完全に大魔道士そのものだとさ!
58: 名無しのヒーラー
えっ、じゃあ白魔道士のAFもあるの!?
あの赤と白の可愛くて聖なる感じの衣装、絶対欲しいんだけど!!
どこにあるの!
65: 名無しの探索者
>>58
「第三層の隠し神殿」に配置されてるっぽい。
他にもこういうのがあるかも知れないよな、第一層から最前線まで、マップの隅々まで探索し直すしかねえな!!!
72: 名無しの探索者
職人神、マジでどこまでこのダンジョンの仕様を把握してんだよ……。
「貧弱な装備のまま浮かれてる場合じゃないぞ」って煽っておいて、
こんな超絶カッコいい神装備を用意してくれてるとか、ツンデレがすぎるだろwww
85: 名無しのクラフター
職人神様のおかげで、クラフター界隈も大騒ぎだわ。
あのAF装備を間近で見せてもらうために、大手ギルドへの専属契約の応募が殺到してる。
いつか自分たちの手で、あんな神の領域の防具を作れるようになりたい……!
92: 名無しの特定班
第一発見者の足跡が神殿内に残ってたらしいけど、ガーディアンは崩落して再リスポーンした状態だったらしい。
ってことは、職人神本人が第三層の神殿をソロでサクッとクリアして、ゴーレムを倒して箱を開けた後にあの写真を撮ってツイートしたってことか……?
105: 名無しの探索者
>>92
あっ……(察し)
あのプレッシャー凄まじいゴーレムをソロで撃破して、優雅に写真撮って去っていった奴がいるってことか……。
相変わらず底が知れなさすぎるわ職人神www
118: 名無しの探索者
よし、俺たちCランクパーティも速攻で第三層と四層の怪しい壁を壊しに行くぞ!
125: 名無しの探索者
人類、マジで無敵の英雄集団になりつつあって草。
職人神様、本当にありがとう!!!!!