FF14で現代ダンジョン   作:黒蓮

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8:マウント用のアイテムがあった話

 

 季節の風が少しだけ冷たさを帯び始めた頃。先日17歳を迎えた閃は、見た目も立場も相変わらず「Dランクのしがない高校生探索者」のままであるが、この一月で世界の勢力図はガラリと変わっていた。

 

『ジョブ』と『AF装備』を手に入れた探索者たちは、かつてない勢いでダンジョンの未知領域を開拓し続けている。お陰で閃の元にも、これまで市場で見かけなかったような珍しい食材や怪しい素材が、連日のようにオークションへ流れてくるようになっていた。

 

(よしよし、世界は実に順調に回ってるな……)

 

 自室のソファに深々と腰掛け、虚空に浮かぶ自分専用のシステムウィンドウを指先でぼんやりとスクロールしていた時のことだ。

 

「……ん?」

閃の手が、ふと空中のスクロールバーを止めた。

 

 無数の生産レシピがずらりと並ぶ青いウィンドウの隅に、見慣れない項目がひっそりと埋もれていたのだ。

 

『ホルン(マウント用)』

 

『ホイッスル(マウント用)』

 

「あ……」

 

 閃はぽりぽりと頬を掻いた。

 

「これ、たぶん最初からあったやつだな……全然気付かなかった……」

 

 前世のゲームであれば、マウントといえば広大なフィールドを高速移動するための必須アイテムだ。だが、この現代ダンジョンに転移してきて以来、狭い洞窟や一本道を徒歩で探索するのが当たり前になっていたため、意識の枠外に完全に追い出されていたのだ。

 

「マスター、何か珍しいものでも見つけたのにゃ?」

 

 コタツで丸くなっていたミエルが、耳をピクッと立てて顔を上げた。

 

「いや、なんか『マウント用』って書いてあるホルンとホイッスルのレシピを見つけてさ、ちょっと作ってみるか」

 

 閃は立ち上がると、作業台へと向かった。

 

 チェストから取り出したのは、上質な獣の角と、第六層で採掘された精霊銀のインク。

 

 作業台の上に素材を並べると、閃は手に持ったクラフト用の彫刻刀にスッと微かな魔力を込めた。

 

 ――カチ、カチッ、と美しい硬質音が静かな室内に響く。

 

 手慣れた手つきで精霊銀を削り出し、獣の角の表面へ寸分の狂いもなく繊細な魔導回路を刻み込んでいく。仕上げに表面を磨き上げると、ものの数分で重厚な輝きを放つ小さな角笛――『ホルン(マウント用)』が完成した。

 

「ふう、試作完了っと……。でもこれ、手にかざして鑑定してみても、アイテムそのものから魔法が発動して乗り物が召喚されるような気配はないんだよな」

 

 閃は作業台の上から、先ほど試しに試作してみた小さな角笛――『ホルン(マウント用)』を持ち上げた。

 

 手にかざして鑑定してみても、アイテムそのものから魔法が発動して乗り物が召喚されるような気配はない。

 

「これ自体が魔法の乗り物に変形するわけじゃないんだよな。どうやって使うんだこれ?」

 

 お茶を運んできたルトラが、首をかしげながらホルンを見つめる。

 

「閃様、それは音を鳴らして……何かを呼び寄せるための道具ではございませんか?」

 

「呼び寄せる……あ。」

 

 ルトラの素朴な疑問に、閃の脳裏へ「ある場所」の光景がフラッシュバックした。

 

「そういえば……第一層の『森林エリア』に、変な空間があったな」

 

 探索者たちが最初に行き交う第一層。その奥まった樹海の一角に、他の凶暴なモンスターとは異なり、こちらを襲ってこない野生の『アンテロープ』が数匹、のんびりと草を食んでいる不思議な開けた空間があったはずだ。

 

 探索者たちの間では「ただの背景グラフィック」「害のないフレーバーモンスター」として完全に無視されている場所だったが――

 

「あそこ、もしかして『マウント』を手に入れるための専用エリアだったのか……?」

 

 ゲーム時代はNPCから買い求めたりクエスト報酬で貰うのが当たり前だったが、この世界に適応したダンジョンの「仕様」として、あそこでホルンを吹き鳴らすことでテイムが行えるのかもしれない。

 

 閃は作戦台の上のホルンをポケットに押し込むと、ニッと口元を緩めた。

 

「よし。そうと分かれば、とりあえず行ってみようか!」

 

 

◆

 

 

 樹木が鬱蒼と茂り、木漏れ日が緑の絨毯を照らす第一層・森林エリア。

 

 現代ダンジョンにおいて、この場所は「新兵がスライム相手に素振りを練習する初心者用の狩場」でしかなかった。

 

「……ここだ、ここ」

 

 閃たちは、樹海のかなり奥まった場所にある開けた小広場に辿り着いた。

 

 周囲の物々しい雰囲気とは異なり、そこだけはまるで時間が止まったかのような穏やかな空気が満ちている。

 

 木々の隙間から差し込む光の粒の中、数頭の『アンテロープ』がのんびりと青草を食んでいた。

 

 立派な二本角と、引き締まった美しい脚線美を持つ鹿に似た魔物。だが、彼らは閃たちが近づいても警戒して逃げ出す素振りすら見せず、ただ耳をパタパタと揺らしているだけだ。

 

「マスター、本当に襲ってこないにゃ。……でも、これただの野生の動物じゃないのかにゃ?」

 

 ミエルが忍び足で近づき、アンテロープの顔の前に指を差し出す。アンテロープはフシュッと鼻息を吐き、ミエルの手を舐めた。

 

「ああ。今まで誰も『ただの背景』だと思って放置してた理由が分かるよ。攻撃もしてこないし、倒してもロクな素材を落とさないからな」

 

 閃はポケットから、先ほど調合・作成した精霊銀の装飾が施された小さな角笛――『ホルン(マウント用)』を取り出した。

「ルトラが言った通り、これで音を鳴らして意思疎通を図るのが正解っぽいな」

 

 閃は息を整えると、ホルンを唇に当て、静かに息を吹き込んだ。

――フォォォォォン……ッ。

 

 森林全体に染み渡るような、重厚でどこか切なく、澄み切った角笛の音色が響き渡る。

 

 ただの音ではない。閃の膨大な魔力が音波となって波紋のように広がり、樹木を揺らし、空間そのものを優しく震わせた。

 

その瞬間。

 

「……あ」

 

 草を食んでいたアンテロープたちが一斉に首を持ち上げた。

 

 その瞳には、先ほどまでの虚無的な光ではなく、ハッキリとした「意志」の光が宿っていく。

 

 群れの中で最も体躯が大きく、見事な螺旋角を持つ一頭のアンテロープが、ゆっくりと閃の方へと歩み寄ってきた。

 

 カツン、カツン、と蹄の音を鳴らしながら、閃の目の前でピタリと立ち止まる。

 

 そして――澄んだ大きな瞳で閃をじっと見つめると、優しく首を下げ、膝を折って閃の前に首を差し出したのだ。

 

 それは明確な、契約と服従の意思表示だった。

 

「おお……! 通じ合ってる……!」

 

 閃がそっとその額に手を触れると、柔らかな温もりが手に伝わってきた。

 

 同時に、ポケットの中に入っていた『ホルン(マウント用)』が、眩い青白い光を放ち始めた。

 

 キィィィン……という澄んだ効果音と共に、角笛の表面に美しい幾何学的な紋様が自動で刻み込まれていく。

 

 システムウィンドウが開き、アイテムの名称が書き換わった。

『【アンテロープ・スタッグホルン】(※使用するとマウント『アンテロープ・スタッグ』をいつでも召喚・騎乗可能。所持枠を圧迫せず、ホルンを吹くことで一瞬で現れ、移動速度が大幅に上昇する)』

 

「できた……! 名前が変わったぞ!」

 

「すごいです、閃様! 魔法の角笛が、この子との『絆の証』に変化したのですね!」

 

 ルトラが感銘を受けたように胸の前で手を組む。

 

「乗ってみてもいいかにゃ!? マスター、乗ってみてもいいかにゃ!?」

 

 目を輝かせるミエルに頷き、閃は書き換わった『アンテロープ・スタッグホルン』を再び軽く吹き鳴らした。

 

――フォンッ!

 

 一瞬にしてアンテロープが光の粒子となって消えたかと思うと、次の瞬間には閃たちのすぐ隣に再召喚された。

 

 閃がひょいっと跨がると、アンテロープは軽やかにいななき、しなやかな跳躍を見せた。

 

 そのまま森林の中を風のように疾走する。

 

 徒歩での移動とは比べものにならないスピード感、そして一切の振動を感じさせない滑らかな乗り心地。

 

「最高だなこれ! 片道何時間もかかるダンジョンの移動が、これがあれば一気に短縮できるぞ!」

 

 木々をすり抜けながら広場に戻ってきた閃は、満足そうに息を吐いた。

 

 そして、自分の手にある『アンテロープ・スタッグホルン』を見つめ、いつもの悪い癖――いや、素材と効率を求めるゲーマーの血を滾らせた。

 

「……待てよ。第一層のこんな浅い場所で『アンテロープ』が手に入るってことは」

 

 閃はニヤリと口元を歪めた。

 

「三層のドレイク、六層のダイヤウルフはいけそうだな……こういう空間があれば、だけど……」

 

「閃様、また外の探索者たちがひっくり返るような顔をされていますよ」

 

 ルトラが呆れつつも愛おしそうに微笑む。

 

 この後、職人神の投稿に世界中が大パニックに陥るまで、あとわずか数時間のことである。

 

 

◆

 

 

【悲報】第一層の置物(アンテロープ)、まさかの神乗り物だった件。

 

1: 名無しの探索者

おいおいおいおいおい!!!!!

今、第一層の森林エリアから、角笛吹いて『巨大な鹿』に跨がった奴が爆走しながら出てきたんだが!?!?!

車より速いぞアレなんなんだよマジで!!!!

 

2: 名無しの探索者

見たか!? 『名無しの職人』の最新ツイート!!!

『@Craft_God_Unknown

第一層の森林エリアにいるアンテロープ、あれ背景じゃなくてマウント(乗り物)だからな。

精霊銀と角で作った【マウント用のホルン】を吹けばテイムできる。

念じればポケットに入るし、吹けば一瞬で呼び出せるから、ダンジョン内の移動に使え。

ちなみに第三層の岩場エリア奥には【ドレイク(蜥蜴)】用のホルンが反応する奴らがいるぞ』

 

5: 名無しのクラフター

は??????????

あの攻撃もしてこない、倒しても素材落とさない、ただ草喰ってるだけの「背景の置物」が乗り物だっただと……!?!?

 

8: 名無しの探索者

速報!! 『月光騎士団』の桜井衛次氏、すでにアンテロープのテイムに成功!!

巨大な二本角のアンテロープに跨がった写真が公式に上がったぞ!!

カッコよすぎてクソワロタwwwwww完全に絵画だろアレwwwwww

 

15: 名無しの探索者

>>18

見たwwwwww

「我が愛馬よ!」とか言って爆走してて草、馬じゃねえよww。

 

24: 名無しのクラフター

ちょっと待て、レシピ見たんだが【マウント用ホルン】の調合めちゃくちゃ繊細だぞ!

精霊銀の削り出しだけじゃなくて、吹いた時に特定の魔力音波が出るように内部構造を削らなきゃならない。

一ミリでもズレたら、ただのプープー鳴るだけの玩具になる!!

 

31: 名無しの探索者

>>24

頼むから早く作ってくれえええええ!!

今、第一層の森林エリアがアンテロープをテイムしたい探索者で大渋滞起こしてんだよ!!

みんな自作の笛吹いて「プーーー」「パパーー」って間抜けな音鳴らしてるけど、全員アンテロープに無視されてて腹痛いwwwwww

 

42: 名無しの探索者

>>31

地獄絵図で草。

正しいホルン吹いた瞬間、アンテロープが「スーッ……」って寄ってきて膝折るの感動的すぎるだろ。

昨日まで「ただの害のない鹿」扱いだったのに、今や人類最高の相棒扱いされてて笑う。

 

55: 名無しのSランク

うちのギルドのトップ陣で、さっそく第三層の岩場エリア行ってきたわ。

火を吐く凶暴な【ドレイク】の群れがいる奥の隠し部屋でホルン吹いたら、一番デカいドレイクが威嚇やめておとなしく首差し出してきた。

乗ってみたけど……やばい。口から炎吐いて雑魚敵散らしながら爆走できる。

これもう重装甲戦車だろ。

 

68: 名無しの特定班

整理しよう。

・第一層:【アンテロープ・スタッグ(雄)/ドゥ(雌)】(快速・長距離移動用)

・第三層:【ドレイク】(戦闘補助・重装甲)

職人神の言い方からして、確実に他の階層にも「マウント用エリア」が存在する。

第二層の水辺エリア、第四層の砂漠、第五層の洞窟……絶対なんかいるぞ!!

 

75: 名無しの探索者

>>70

おい嘘だろ……。

これまでの「歩いてダンジョンを移動する」っていう概念、デジョン・テレポ・マウントの三連撃で完全に消滅したんだが。

82: 名無しの探索者

しかもこれ、「念じたら手にホルンが出てくる」の凄すぎないか?

ゲームみたいなインベントリを手に入れた気分だ、ホルンが空間に収納される仕様になってるの神配慮すぎるだろ。

これで盗まれる心配もない。

 

90: 名無しのクラフター

【急募】精霊銀鉱と上質な角。

現在オークションで買取価格が十倍に跳ね上がってます。

クラフター全員、今夜は徹夜でホルンの削り出し作業です。職人神様、睡眠時間を返してください(歓喜)

 

105: 名無しの探索者

職人神「マウント用ホルン作ってみた。使ってみ」

人類「車いらんようになったわ」

112: 名無しの探索者

職人神のおかげで、若手探索者でもマウント手に入れて最前線に追いつけるようになってるの胸熱だわ。

移動の疲労がゼロになるから、レベリングの効率が段違いすぎる。

 

120: 名無しの特定班

今日も「背景」だと思ってスルーしてた全国のダンジョンの変な動物たちが、一斉に探索者たちに囲まれて笛を吹かれまくる事態になってて草。

ダンジョンの生態系、職人神のツイート一つで激変しすぎだろwww

 

135: 名無しの探索者

よし、俺もホルン買い取って、ドレイクに乗って第六層の雪原を爆走してくる!!

職人神様、マジで一生ついていきます!!!

 

 

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