17歳という人生は、世間的には短いものだろう。
けれど俺という一個人としてはどうしようもないほど長く、そして同時に、つまらないものであったように思う。
なんとなく生きて、死んでしまった。
……まぁ、なんとも呆気ない人生だったな、と思う。
少なくとも、人に誇れるような人生ではなかった。
特技と言えるものは無いし、勉学は底辺、運動は下の中ってところだろう。しかしまさか高卒までに死ぬとは……
職に就く、なんてのも難しいのは分かっていた。バイトなら掛け持ちしたりもしていたが、バイトと正職は別物だ。
あっ、焼肉屋のバイト辞めるって言うの忘れてたな……
まぁいいや、どうせ来月のシフトまだだったし、次の出勤はまだ三日後だったハズだ。人死にの話くらいなら伝わるし、妹が友達とメシ食いに来たりするだろう。
いや、まぁ良いのだ。
俺が死んだとして、悲しむような人はいないだろう。
冗談交じりではあったが、妹には俺がもし死ぬようなことがあったら葬式も墓も必要ないって言ってあるし、俺のお墓の前で泣かないでくれとも言ってある。多分覚えてるだろう。忘れてたら泣く。いやもう確めようなかったわ、あはは。
それにバイトなら俺の代わりなんて幾らでもいる。
人材なんてそんなもんである。気にしない気にしない。
俺と妹を女手一人で育ててくれたお袋も、疲れが来てたのかボケが回ってきていたし、こうして息子が一人いなくなれば酒を止めるきっかけにもなるだろう。そうでなくとも叔母が面倒は見てくれると言ってたし、妹もいる。バイト代で確か80万はあったハズだし、妹の学費も多少はマシになるか。
妹も……あいつ大丈夫かなぁ。
いや、俺のことはどうだって良いだろうが、あいつも中々に荒んできていた。絶賛思春期って感じだったから、あいつもあいつで考えることやストレスもあったろうし、仕方ない。お袋に手を上げるようなことはなかったから良いが、せめて悪い友達とかとは縁を切って欲しいもんだ。
友達なんてのも中学生までで、高校では友達はいなかった。いや、最初友達だった人たちに話しかけられなくなったのは付き合いの悪い俺のせいなんだが、やりきれないな。思えば悪いことをした。最初だけなら、友達になれたのになぁ。
………思い返せば、割と悔いが残ってる。
家族とか、バイトとか、友達とか……
特にやりたいこともなかった、そんなやる気のない人生で、けれど、この死に満足した気にもなっていて……
いや………あーあ、どうしようもなく終わってるな、俺。
満足なんてしちゃいけない。
あの現状に。あの将来に。あの人生に。
甘んじていたのは俺だ。
もっと家族に尽くすべきだった。
もっと今と将来を考えるべきだった。
もっともっと、走って走って走り続けるべきだったのに。
勉強して、運動して、友達と遊んで、可愛い子と恋をして、いずれは仕事に就いて、どこかで誰かと結婚したりして。
そんな幸せな人生を目指すべきだった。
けれど、終わってしまった。
………
いや待て……俺ってば死ぬんだぞ……
もっと……死ぬ前には……楽しいこと考えなければ……
俺の走馬灯よ……頑張れ……気張れ……踏ん張れ……
あー………っと……
家族で行った水族館……楽しかったな……
妹が……まだ小学生で……お袋は……まだ酒飲んでなくて……
えっと……
あぁ、イルカのショーを見たんだよな。
それで、お袋に無茶言って、妹と手を繋いでて、最前列で、すっげぇジャンプするイルカを見て……
全員、びちょびちょになったっけ……
だから言ったでしょってお袋に笑われて、もう一回見るって
妹がごね始めて、もう帰る時間で、だから……
おれの、お小遣い、使って……
イルカの、ぬいぐるみを、かっ、て。
……楽しかったな。
寒い。
そうだ。
風邪、引いたんだった。
あの時に濡れたのが不味かったんだっけ。
寒い。
お袋の卵粥が、好きだったな。
妹が俺のゲーム勝手にしてて、それで怒ったんだった。
寒い。
………ひとりだ。
…………寒い。
太陽が、いやに眩しい。
夕焼けの空が、見下ろしている。
耳鳴りが煩しい。
蝉の鳴き声が聞こえる。
蒸し暑かったはずなのに酷く寒い。
痛みはない。
いや、痛い。
痛い。
全身が鈍く痛む。
眠い。
やっと、ゆっくり眠れそうな気がする。
ちょっと、眠ろう。
そしたら、また。
うちに、帰ろう。