ようこそ喫茶パンドラへ! 作:とくめい
"疲れた⋯"
目の前には書類の山。朝からずーっと仕事をしているはずなのに全く減る様子がない。
私がここ、キヴォトスに来てからの最初の仕事は制御権を失ったというサンクトゥムタワーの奪還だった。生徒の助力のお陰ではあるが、何とかやりきった。
問題はここからだ。私の所属するシャーレは超法規的組織。それ故に処理しなければならない書類が山ほどあった。
最初に見た時は思わず乾いた笑いを漏らしてしまった。シャーレの当番という生徒から助力を得られるシステムがなければ過労死していたかもしれない。
「ファイトですよ!先生!アロナは精一杯応援してます!」
"ありがとう⋯"
アロナ、この子も不思議な子だ。私しか使えない『シッテムの箱』に住んでいる?AI?ということしか分からない。いい子なのは十分によくわかっているから、特に心配はしていないけど。
「先生、何か言いましたか?」
"あぁごめんね、ちょっとアロナと話してたんだ"
今日の当番はユウカだ。セミナーに所属しているだけあって私よりも仕事が早い。
「アロナ⋯、どこの生徒さんですか?」
"いや生徒じゃなくてね。このタブレットにいるAIなんだ"
"私にしか見えないんだけどね"
ユウカが仕事をしている中私だけ休んでいる訳にはいかない。気合いを入れ直さないと。
「先生!」
"わっ!"
いきなりガシッと肩を掴まれた。
"ユウカ、どうしたの⋯?"
俯いており表情は見えない。まさか、私が先週買ったロボットのレシートが...
「ごめんなさい、先生。そこまで追い詰められていたなんて私、気づきませんでした⋯」
"ん?"
なんだか嫌な予感がする。
もしかして、
"ち、違うよ!?幻覚とかじゃなくてちゃんといるんだよ!"
「はい、大丈夫です。私はちゃんとわかってますから」
にっこりと優しい笑顔向けられる。
絶対にわかっていないやつだ。
「ほら休憩しましょう?そろそろお昼ですし」
"あ、ほんとだ"
時計を見ればちょうど12時を指していた。お腹も空いてきたしちょうどいいかもしれない。
⋯誤解をとくのは今は無理そうだし、後にしよう……
"それじゃあお昼でも食べに行こうか。もちろん私の奢りだから!"
「ちゃんと自分の分ははらいますよ」
"いいの!当番のお礼ぐらいさせてよ"
「そういうことなら⋯。ありがとうございます、先生」
こういう所で甲斐性を見せるのが先生というものだろう。まだ、懐には余裕がある。
"決まりだね!じゃあどうしよっか、出前でも頼む?"
私は来たばかりだから、このあたりのことはあまり詳しくない。コンビニという選択肢もあるが、奢ると言っておいてコンビニ飯ではカッコがつかない。
「先生がよろしければ、喫茶店なんてどうでしょう?近くに私のおすすめがあるんです」
"そうなんだ。じゃあそこにしようか"
最近は忙しくて外食なんてできていなかったからちょうどいい機会かもしれない。
「良かったです。名前は『パンドラ』って言ってキヴォトスでも結構有名なんですよ」
◇◇◇
歩いて迎える距離らしいので、私たちはあの後すぐにシャーレを出た。
"それでそこはどんなお店なの?"
「いい意味で普通の喫茶店という感じです。店内の雰囲気も落ち着いていて⋯。前に行った時はコーヒーとケーキを頼みましたが、とても美味しかったです」
"それは、楽しみだね!"
職業上、と言っていいのかは分からないがコーヒーは私も飲むことが多い。そのおかげか最近はコーヒーの味の違いが分かるようになってきたから、期待が高まる。
「ああほら。ユイさんっていたでしょう。あの人が働いているところですよ」
"そうなの?"
ユイはシャーレ奪還と時に協力してくれてくれた生徒だ。こんなこと言うのは良くないが、少々奇抜な格好をしていた。近くに働いているお店があると言っていたが、この店だったらしい。
「それと珍しいことに店主さんが男の人なんです。年は…たぶん私と同じぐらいだったと思います」
"へぇー"
それは確かに珍しい。高校生でお店を開いたということだろう。色々と勇気を必要だったろうに。
"それはすごいね。中学を卒業してお店を開いたってこと?"
「いや、それも凄いんですけど。もっと重要なのは男性ということです」
"男性なのが、重要?"
「先生⋯まさか気づいていないんですか⋯?」
"えーっと?"
なんのことだろう。キヴォトスは銃の件を始め色々と常識が違うことが多い。色々調べなきゃいけないのはわかってるけど、あれからずっとシャーレで仕事をしていたからな…。
「はぁ⋯キヴォトスで男性というのはほとんどいないんですよ。私は知っている限りではその店主さんと先生だけです。」
"そんなに少ないの!?"
少なッ!2人だけ!?
「はい。ですから彼目当てで来るお客さんも結構いるみたいですよ。」
"そうなんだ⋯"
知らなかったなぁ。
「あっ私は違いますからね!?確かにちょっとはかっこいいななんて思ったりもししたまけど、ただご飯も食べに言っただけで。そ、それに私は先生の方が⋯」
"大丈夫!わかってるって!"
ユウカはそんな野次馬みたいなことしないだろう。そこまで付き合いは長くないけど、ユウカがまじめでとってもいい子だっていうのはわかってる。
「もうっ!ほら、早く行きますよ。仕事はまだ残ってるんですから!」
"あっちょっとまってよ"
「ほら、ここですよ。ってあれ?」
そこには『臨時休業』と書かれた紙がはりだされていた。
"休みみたいだね"
「そんな⋯ごめんなさい先生。私の確認不足です」
"臨時って書いてあるし、なにか急用でもあったんじゃないかな?しょうがないよ"
"一旦シャーレに——"
戻ろうか、と言い終わるまえにお店の扉が開かれた
「あー!やっぱり先生とユウカちゃんだ!いらっしゃい!」
店の中から元気よく飛び出してきたのはユイだった。恰好は前と同じ、着ている服はおそらくこのお店の制服だろう。そこは別に問題ない。問題なのは目がイってる変な鳥の仮面をつけていることだ。やっぱりちょっと変だよな…
まあ趣味なんて人それぞれだしユイがいいのなら触れないでおこう。
「ユイさん。入っても大丈夫なんですか?」
「うん!今店長さんから連絡あってね、もうすぐ戻ってくるってさ~」
どうやら丁度いいタイミングだったらしい。
「それじゃあ、行きましょうか先生」
"うん"
店内の雰囲気は聞いていた通りザ喫茶店という感じだ。外から日差しが入りやすい構造になっているらしく、太陽の光が差し込んでいる。
「先生も来てくれてありがとう!」
「ちなみに私のおすすめはオムライス!店長さんの作るオムライスはすっごく美味しいよ!」
あいかわらずの明るい性格で、こっちまで笑顔になる。
しかし開店前のお店に入ったのは初めてだ。店内を見回ししてみるが、従業員はユイ一人しかいない。ちょっと心配になってきた。
"それにしても本当に大丈夫?先に入れてもらっちゃって⋯なにかトラブルでもあったんじゃないの?"
「うーんトラブルっちゃトラブルだけどいつものことだから大丈夫!店長さんが誘拐されちゃっただけだから」
"え!?"
それは一大事じゃないか!
「まあでもよくあることだから大丈夫!」
"そ、そうなんだ⋯"
キヴォトスでは割と起きるものなのか⋯?やっぱりまだ慣れないな⋯
「あの、先生?勘違いしないように言っておきますけどキヴォトスでも誘拐は普通に犯罪ですからね?」
"あれ?そうなの?"
じゃあやっぱり不味いんじゃあ⋯
「ユイさん。もしかして今回もまた美食研の犯行ですか?」
「そうだよ!」
「ハァ⋯。そろそろちゃんと注意した方がいいと思うんですが⋯」
「えー?大丈夫だよ!ハルナちゃんたちいい子だし!」
「いい子は誘拐なんてしませんよ⋯」
どうやら誘拐犯とは知り合いらしい。なぜ知り合いに誘拐されるか気になるところではあるが、特に困った様子もないようなのでそこまで聞く必要もない、かな?
キィィィ、と車の止まる音が外から聞こえた。
続けて会話が聞こえてくる。
「いやぁ、ごめんね。ヒナちゃん毎度毎度迷惑かけて」
「そんなこと気にしないで。ゲヘナの生徒がやったことだから私が来るのは当然でしょう?」
ちらり、と窓の外をみる。
1人は男性。おそらくこのお店の店長だろう。髪は白い短髪で中性的な見た目をしている。最初に見た感想に、綺麗という言葉が出てくる程度には女の子っぽい。
もうひとりは角の生えた白い長髪の小さな女の子。どこかで見たことがあるような気がするような…
「今度お詫びのお菓子でも作って持っていくから、ハルナたちにもそう伝えといて」
「⋯そんなことするから攫われるんじゃない」
「だって、みんな美味しそうに食べてくれるからさ。つい」
「はぁ⋯まぁいいわ。伝えておく。...私も楽しみにしてるね」
「じゃ、またね~」
会話を終えた彼はこちらへと向かってくる。
チリン、というベルの音が鳴った。
「おかえりなさい!店長!」
「ただいま、ユイ!お店は大丈夫だった?」
どこにもケガはないみたい。余計なお世話かもしれないが、誘拐と聞いたら心配してしまう。
「はい!ユウカちゃんたちが来てたので通しておきましたよ」
「お久しぶりです。店長」
「おぉ、久しぶり~」
喫茶店の店長というから、物静かなイメージを持っていたが随分と明るい性格だ。ユウカとも気楽に挨拶を交わすぐらいには仲がいいらしい。
「それで」
顔こちらに向けられた。青い瞳と目が合う。
「こっちの人は?」
「会うのは初めてですよね。こちらはシャーレの先生です」
”よろしくね”
ここでは先生自体かなり珍しいということは知っていた。だからできるだけ柔らかい雰囲気であいさつしたつもりだ。
「…」
それでも返事は帰ってこなかった
”えっと…”
もしかして怖がらせちゃったかな。同じ男性だから他の生徒よりも慣れてると思ったんだけど、
「ああごめん、ごめん。俺以外の男の人って珍しくてさ~。」
「よろしく!先生」
◇◇◇
これが先生か~ユメから先生と一緒に戦ったって聞いてたからそろそろ会えるとは思ってた。わざわざシャーレができそうなとこ調べて、近くに店を作ったかいがあるもんだ。
それにしてもイケメン!アニメでみたまんまの姿で感動するね!これで内面も完璧なんだから生徒がとりこになるのも無理はない。
「はい!オムライス二個。おまたせしました!」
”わあ!”
「おいしそうですね」
先生たちが頼んだのはオムライス。包丁で真ん中を切ったら割れて中からふわふわの卵が出てくるタイプのやつだ。俺一番の得意料理である。
「じゃあ、ごゆっくりどうぞー」
去り際先生にバレないようにユウカにグッドマークを送っておく。邪魔はしないよ!気を使って個室にしたんだから先生との仲を深めておいてね!の意だ。
なにやら顔を真っ赤にさせていたが、そんなんじゃ先生はおとせないぞ!あいつクソボケだからな!知らんけど
”ごちそうさま、おいしかったよ店長”
「あれもう食べ終わったんですか?」
”このあとまだ仕事が残ってるんだよね…”
「あぁ~なるほど」
やっぱりシャーレは忙しいらしい。もう少し先生と話したかったなぁ
「ねぇユウカちゃん」
「どうしましたか?」
ユメがこそこそとユウカに話しかける
「やっぱり先生のこと好きなの?」
「なっっ!?何ですか急に!そんなわけないじゃないですか!!!」
わあ、顔が真っ赤。そんな大声出したら先生が
”ユウカどうかしたの?”
ほらぁ気づいちゃったじゃん
「先生!?い、いやあなんでもありませんよ?」
”そっか。”
それで終わり?生徒が挙動不審なんだよ?いつもだったらもっとぐいぐいいってない?
「大丈夫だよぉわかってるから。私は応援してるよ!」
…俺に聞こえてるんだから先生にも聞こえてる気がするんだけど
”お会計にカードって使える?”
聞こえてないのか…。っていうかユウカもうおとされてるんだ…
「…先生」
”どうしたのユウカ——さん?”
わぁ顔が怖い。めちゃくちゃ怒ってらっしゃる…
「私はユイさんと話したいことがあるので先に戻ってもらってもいいですか?」
「え?」
”もちろん!ゆっくりしてきてね”
顔が取れそうなほどブンブン顔をふって了承する先生。わかる、俺でもそうする。
「あの、ユウカちゃん?なんか怒ってない?」
「さあさっきの部屋で話し合いましょうかユイさん。大丈夫ちゃんと注文はしますから」
ユメはガシっと首をつかまれずるずる引きずられていく
「ひぃーん…助けて店長〜」
「ユイ…」
「店長…」
まるで希望を見つけたかのように表情は明るくなる。
「恋バナ、楽しんで来いよ!」
「店長?」
こっっっっっっっっわ
「店は任せろ!俺一人でまわして見せる!」
ごめんな俺にはどうもできないみたいだ。
バタン!
最後に見えたユメの顔は絶望に染まっていた。南無南無
「カードは使えますよ」
”話続けるんだ…”
カードを受け取り支払いを済ませる。
「大丈夫ですよ。喧嘩するほど仲がいいってやつです」
”そういうことなら…”
ユウカも本気でユメを怒るつもりなんてない。多分本当に恋バナしてるんじゃないかな。ユメは面倒見がいいからいろいろ相談にのってるだけだろう。
さて、思いかけず話すチャンスができたな
「先生、忙しいとは思うんですけど~ちょっと一つだけお願いがあって」
”遠慮なんてしなくていいよ。生徒のお願いを聞くのがシャーレだからね、なんでも言ってよ”
さすが先生。聖人と呼ばれるまではある。学校に通ってない俺は生徒とは言えないと思うんだけど、まあいいか。
「そのタブレット、一瞬貸してくれません?」
”シッテムの箱のこと?別に大丈夫だけど…”
先生は素直にシッテムの箱を渡してくれた
自分で言っておいてなんだけど警戒心なさすぎじゃない?これが先生の生命線なの自覚してる?
「おぉ…これが連邦生徒会長の遺産…」
一回触ってみたかったんだよな、これ。やっぱり画面越しで見るのと、実際に触れてみるのとじゃ全然違う
”店長は会長と会ったことがあるの?”
「ほとんど他人みたいなものですよ。1回しかあったことありませんからね。しかもそんときは勝手に来て、一方的に話して帰っていきましたよ」
”えぇ…”
あんときは驚いた。店じまいしてたらいつの間にかいたからな。
さて、それじゃあ1つだけ試してみますか!
「…我々は望む、七つの嘆きを。…我々は覚えている、ジェリコの古測を」
”え?”
なーんちゃって。一応元先生だし行けるかなと思ったけどそんな簡単にいくわけ…
「え?」
「…スーッ」
目の前には天井のない教室と前世のガチャ画面で死ぬほど見た青い髪の少女。思わず天を仰ぐ。視界いっぱいに雲一つない晴天が広がる。きれいだなぁ
「な、なんでここには入れるんですか!?先生しかここには来れないはずなのに!?」
「行けちゃったよ…」
なんて言い訳しよう…
うーん⋯会長から聞いてたことにしようかなぁ。でもさっきほぼ他人って言っちゃったしな。ほかにシッテムの箱に関係ある人は...リンちゃんぐらいか。リンちゃんから権限もらいましたっていえば信じてもらえるかなぁ。まぁ本人にすぐに確認できるからボツだけど。
「ちょ、ちょっと聞いてますか!?あなたにいってるんですよ!!どうやってここに!?」
「あばばばばちょっと揺らさないで」
俺の体をつかみブンブンと体を揺らしてくるアロナ。
なんかめんどくさくなってきた…なかったことにしちゃうか!
△▼△▼△▼△
――神様、仏様、名も無き神々様。生涯、甘いものをたべないと誓います。
△▼△▼△▼△
『■■■■がここにいるはずがない。彼は認証に失敗したのだから』
”それじゃあ、またね店長”
「うん、バイバイ先生。またのご来店を~」
よし、成功!認証に失敗した現実に書き換えた。このまま先生を見送れば万事解決——
「ちょっとまってください!」
”アロナ、どうしたの?”
あっれ~?おかしいななんか本来聞こえちゃいけない声が聞こえた気がするぞー?
「あの人さっきシッテムの箱の中に入ってましたよ!」
”え!?”
「先生も見てたじゃないですか!覚えてないんですか?」
”私は何も見てないけど…”
覚えてますやん!!!!えっ何!?まじでどういうこと!?主人公補正!?
”店長ちょっと変なこと聞くんだけど、このタブレットから声って聞こえている?”
「…別に何も聞こえませんけど?」
待て、落ち着け…。能力自体が無効化されたわけじゃない。じゃなきゃ俺はシッテムの箱の中にいるはずだ。
シッテムの箱の認証に成功したことは書き換えられなかったが、俺自身がシッテムの箱に入ったことは書き換えられた。つまりはこういうことだろう。
シッテムの箱には俺の能力は無効化される⋯?ふざけんなよチートアイテムが!!!
不幸中の幸いは認識を書き換えできなかったのはアロナだけということだ。まだ誤魔化せる…!
”って言ってるけど…”
「でも確かにいたんですよ!触ったし会話もしましたよ!」
”うーん…本当に何も見えない?”
こちらへと画面を向けてくる。
そこには画面の中からバンバン画面をたたくアロナがはっきり映っていた。
「ちょっと先生に何したんですかぁ!この天才アロナちゃんは誤魔化されませんからね!」
「…やっぱり何も映ってませんよ?」
ダメだ、反応するな。ばれたら非常に面倒なことになる…
”そっか、ごめんね。変なこと聞いて”
「先生!?」
ヨシッッッッ!ぎりセーフ!
”後でちゃんと聞くから、”
「でもぅ」
「ほんとにいたのに…」
…なんか泣きそうになってない?
あああああああああああ心が痛い!
「はぁ本当はしゃべっちゃいけないんですけどしょうがない」
”え?”
咄嗟の思い付きだがうまくやるしかない…!がんばれ俺の頭…!
「本当のこと、話してあげますよ」
◇◇◇
”つまり店長は連邦生徒会長に私を隠れながら私をサポートしてほしいって頼まれてたってこと?”
「はい全く持ってその通りです。」
たまたま訪れた喫茶店の店長がまさかそこまで重要な人物だったとは思わなかったな。
「やっぱり聞こえてたんじゃないですか!無視するなんて酷いです!」
「うっ、ごめんね…会長に絶対にばれないようにって言われててさ…今度お詫びにいっぱいお菓子持っていくからさぁ、許してくれない?」
「え!いいんですかぁ!」
アロナも喜んでいるみたいでよかった。話す人が私だけなんて寂しいからね。
”あれ?じゃあなんで私の目の前で認証なんてしたの?”
「…」
店長の表情が険しくなる。聞いちゃいけないことを聞いてしまったのかもしれない…
「実はこれにはふかーい事情がありましてね…」
”そ、その無理して答えなくてもいいんだよ”
「あ、まじですか?じゃあ話しませんよ」
途端、表情は以前の明るいものに戻った。生徒から無理やり聞き出すなんて先生としてするべきじゃない。
「はっ違う違う!」
「もので釣ろうとしたってスーパーアロナちゃんは騙されませんよ!先生に使ったあのよくわかんないやつは何ですか!?」
そういえばさっき何か言っていたな。私がなにか覚えていないとかなんとか…
「うーん。どうしようかな?」
”さっきも言ったけど話したくなければ、話さなくていいんだよ?”
「いや、話しますよ。これぐらいなら大丈夫なんで」
さっきほど追い詰めれている感じもしない。無理に話そうしているわけでも無さそうだし大丈夫そうだ
「さっき使ったのは虚飾の権能という能力です」
”超能力みたいな感じ?すごいね!”
キヴォトスには超能力まであるのか!ちょっとわくわくする
「だいたいそんな感じであってます。実は本家は俺じゃないんですけど、そこは省きますね」
かなり気になる情報がさらっと出たが聞くのはやめておこう。
「んで能力の詳細は一言でいえば事象の改変です。俺は現実を自分の好きなように書き換えられるんですよ」
”「えぇ!」”
アロナと叫び声が重なる
そんなのなんでもありみたいな能力あるの!?
「さすがに制限はありますけどね」
思考が冷や水をかけられたように冷静になる。
確かに、これだけの力だ。何かとてつもない代償が必要なんじゃないか…?もし、仮にそんなことがあるならば虚飾の権能とやらをこの子に使わせるわけにはいかない。
”制限ってなに?”
これだけは無理やりにでも聞き出さなければならない。
「…めっっっっっっちゃ疲れる」
”…”
「へ?それだけですか?」
私にはわかる、これは嘘だ。
「それだけなんてひどいこと言うねぇ。結構つらいんだよ?」
「あっごめんなさい…」
「いいよ。最初に聞いたらそう思うのもわかるし」
アロナは素直だから、信じてしまったみたいだ。わざわざ隠すぐらいだからきっとよくないものに違いない。
「店長」
「ん?なんですか、先生?」
「それって本当?」
些細な反応も見逃さない。絶対にここで——
「心外ですよ、俺が嘘ついたっていうんですか」
△▼△▼△▼△
――神様、仏様、名も無き神々様。生涯、誰も傷つけないと誓います。
△▼△▼△▼△
『先生は俺のことを信用してる』
「そう思ってたんですけど、違いますか?」
「…そう、だね」
何を馬鹿な事を考えていたんだ。生徒の言葉を疑うなんて。
「あれ先生まだいらっしゃったんですか?」
”ユウカ”
ちょうどユウカも戻ってきたみたいだ
”そろそろ私たちはシャーレに戻るよ、長居しちゃってごめんね店長”
「全然!この時間はいつも暇なんで大丈夫ですよ」
「ユウカちゃん、ファイト!」
「ッもう!先生早くいきますよ!」
”う、うん”
いろいろと考えたいことはあるけどまずは仕事だ、よし!気合い入れて頑張るぞ!
「権能が効かないのはアロナだけ」
「しかも権能が効かないだけで、使ったことが気づかれる訳じゃない。例えそれが目の前で行われても」
「それならまぁなんとかなるかな」