ようこそ喫茶パンドラへ! 作:とくめい
「相変わらず物騒だなぁここは」
外には銃声や爆発の音が響き渡っている。さすがゲヘナ治安が悪い。
「さっさと行こ」
目指しているのは風紀委員本部、以前にヒナと約束していたスイーツを届けるため向かっている。すでに建物は見えている。
今回作ったのはシュークリーム。生地がいい感じに焼けた自信作だ。もう食えないからうまいかわかんないけど
チュンッ
「危ねぇ~」
俺の真横を銃弾が通り過ぎた、流れ弾かな。こんなんで簡単に死ぬぞ俺は。この世界に来てから何度死んだことか…
ある時は今みたいな流れ弾で死に、ある時は爆発に巻き込まれて死に、不良がカツアゲしてきてそのまま殺されたこともあった。
生き返るから無問題というわけでもない。虚飾の権能は俺が死んだ場合のみオートで発動するが、勝手に代償が払われるクソ仕様である。権能にちゃんと適合していたら代償なんていらないのになぁ…パンドラみたいに。ズルしてもこれぐらいが精いっぱいだった。
っと、もう着いたか。見張りの子たちがいるから、一声かけてこ。
「お仕事お疲れさん」
「あっ、店長さん!こんにちは」
「店長さん、お疲れ様です。本日はどのような用件でしょうか」
度々風紀委員には訪れるのでお互い顔見知り程度にはなっている。名前は…リカとアヤカだったかな
「ほらこれ、届けに来たんだ。」
「配達ですか。いつもお疲れ様です」
「うん今回もお礼だよ。また、ヒナちゃんに助けてもらったからね。」
「はいこれいっぱいあるからリカとアヤカにもあげる」
袋の中からシュークリームを4つほど取り出す
「今は勤務中ですので受け取るわけにはー」
「わぁおいしそー!」
リカはすでに受け取っている。ゲヘナには似つかわしくないほど真面目な生徒、アヤカは顔をしかめた。
「ハァ…お前な」
「先輩はまじめすぎなんですよ。休憩しましょ!ほら、おいしそうですよ!」
「…」
迷ってるな…。甘いものは正義だもんね、わかるよ。
「俺も受け取ってもらえた方がうれしいかな」
「店長…」
「それ試作だからさ。いろんな人に感想聞きたいんだよね」
「そういうことでしたら…」
ようやく受け取ってくれた。うんうん子供はいっぱい食べた方がいいからね!
「じゃあ後で感想聞かせてよ。俺はヒナちゃんたちにこれ渡してくるから」
「はい。ありがとうございます。ほら、お前も礼言え」
「ありがとうございます!」
「どういたしまして、ゆっくり食べるんだよー」
あの二人姉妹みたいに見える。まじめな姉と調子のいい妹、見た目が同じなのも拍車をかけている。言い方は悪いがゲームで見た風紀委員のモブ生徒と同じ見た目だ。ほかにも似たような子は結構いるが、性格は人によってだいぶ違う。当たり前のことなんだけどね。
「よし到着!」
目の前には風紀委員本部につながる大きな扉がある。初めて来たときはかなりテンションが上がったが既に何度も来ているから慣れた。
「みんな、おつかー」
言葉を言いきることはできなかった。
死屍累々、その言葉にふさわしい惨状が広がっていた。机には書類が高く積まれており、それを死んだ目をしながらヒナや風紀委員の子たちが一心不乱にさばいている。イオリを含めた何人かは机に突っ伏して死んでる。
「うーわっ」
地獄かな、ここは。
「こんにちは店長」
「チナツじゃん。その~、元気してる?」
疲れたOLみたいな雰囲気を醸し出しながら、チナツが話しかけてきた。やっぱりこの時期は忙しいっぽい。連邦生徒会長はそれだけ偉大だったということだ。
「見ての通りです...」
うん、全然大丈夫じゃないね!
「あなたまた来たんですか」
「アコ…」
アコもまた、かなり参っているようだ。髪はぼさぼさで眼にはクマがくっきりと浮き出ている。
「大丈夫?女の子がしちゃいけない顔してるよ?」
「喧嘩売ってるんですか?」
「まさか、純粋な心配だよ」
俺は気遣いのできる男なのに。失礼しちゃうねぇ。
「ハァ…」
アコは大きく、本当に大きくため息をついた
「それで何の用ですか。用がないならさっさと帰ってもらえます?見ての通り忙しいので」
「ヒナちゃんにこの前助けてもらったから、お礼にシュークリーム届けに来たんだ。会心の出来だよ!」
バン!と効果音でもつけたい気分で袋を差し出す。黒服さんお手製の異次元袋だから見た目以上にめちゃくちゃいっぱい入ってるぞ!
「委員長を軽々しくちゃん付で呼ばないでください」
「こんな時にもぶれないね~」
ずっと言われているけど直す気はない。幼馴染みたいなもんだからいいんだもーん。小学校しか一緒じゃなかったけどそんなん誤差だよ、誤差。
「アコ」
「委員長…」
ヒナがアコへと話しかける。いつもよりも声に覇気がないのは俺の気のせいじゃない。
「店長と話すのは私よ」
「委員長!?」
ふっ。どうやら、俺の勝ちみたいだな。
「さっさと仕事に戻りなさい」
「うっ⋯了解しました」
去り際こちらをすごい眼光で見つめ、仕事に戻っていった。可哀そうに。
「だいぶ忙しいみたいだね」
「ええ、連邦生徒会長の失踪からずっとこんな感じよ。」
「そりゃあ大変だ。」
やっぱりか。以前に比べ、違法な武器の流通が2000%以上増えたらしい。終わってるよなぁ。
どうにかして元気づけたいけど…先生ならまだしも俺じゃ無理だな。せめて仕事ぐらいは減らしておこう。
「じゃあこれ食べながら休憩でもしたら」
「…ごめんなさい。まだまだ書類が残っているから」
「何言ってんのヒナちゃん」
△▼△▼△▼△
――神様、仏様、名も無き神々様。生涯膝をつかないと誓います。
△▼△▼△▼△
『書類なら全部、みんなで終わらせたでしょ』
「え?」
能力を使って書類を消した。物理的な意味じゃないよ?ちゃんとミスもないようになってる。
「⋯相変わらず意味の分からない力ですね。まぁ助かりましたけど」
「し、仕事がない…!」
「やっと終わったぞおおおおお」
「早く…早く仮眠室に…」
喜びようが半端じゃない。どれだけ忙しかったんだか。
「うるさい…」
あっイオリが起きた
「はっ違う!仕事がまだ…」
「それならあの人が終わらせましたよ」
「アコちゃん。あの人って…」
目が合った。
「おはよう。良く寝れた?」
「お前なんでいるんだ…」
アコ同様かなりひどい顔をしている。寝起きだとしょうがないね。
「なんでって…お菓子持ってきただけだよ。食べなくていいの、これ」
「それは食べたい…でもその前に顔洗ってくる」
「急がなくていいからねー」
ふらふらとした足取りで外へと出て行った。
あんな姿を見られても気にならないのは、俺が恋愛対象として論外だからか、気にならないほどに仲が良くなったと解釈するべきか…できれば後者であってほしい。アコ?前者に決まってるだろ。言わせるなよ。
「ありがとう店長。それじゃあ店長も一緒に」
prrrrprrrrr
「ごめん、電話だ。」
誰だろう。
携帯を見ると、画面にはユメの2文字が表示されていた。
「はいもしもし」
『店長早く戻ってきてぇ。急にお客さんいっぱい来ちゃって一人じゃもう無理だよぉ』
この時間に混むなんて珍しい。用件は済んだし、もう帰るか。
「お店が忙しいらしいからもう帰るね」
「…そう」
「ヒナちゃん大丈夫?なんか元気ないけど」
折角仕事もなくなったのに、何か嫌なことでもあった?
「ううん、なんでもない、スイーツありがとう。みんなでいただくわね」
「おいしく食べてね。あっ、美食研の子たちにもあげてね」
「ええ。私から差し入れておくわ」
できれば直接渡したかったけどしょうがない。どんな反応してくれるか見たかったな。
「じゃあねみんな」
「はい。今度はお店の方に伺いますね」
「二度とこないでくださいね」
辛辣ゥ。でもそんなこと言ったって無駄だ。ヒナから来るなと言われないかぎり何度でもくるぞ。
◇◇◇
「こんなにゆっくりできるなんていつぶりかしら」
「美食研究部も捕まっていますし、しばらくはそこまで忙しくはならないでしょうね」
店長が帰った後、私たち4人は休憩室に移動した。テーブル積まれていたシュークリームも既に残り一つ。
それを手に取ってほおばる。相変わらずおいしい。
「アコちゃんさぁいい加減店長になんか言うのやめたら?」
私も少し気になっていたことをイオリがアコに言う。
「な、何を言ってるんですか!?ここは風紀委員本部!本来部外者は立ち入り禁止でしょう!」
「それ食べた後に言っても説得力ないよ」
何個も食べていたのを私も見た。「こんなにおいしいのは逆にムカつきますね…」なんて言っているのも聞いた。
「…それとこれとは話が別です」
そんなことないと思うけど。というか、
「なんでアコは店長に強く当たるの?」
「え、えーとそれはですね…」
珍しく言葉に詰まっている。
部外者をここに入れるのは良くないのはわかってる。アコが本気で否定したなら許可を出さないつもりでいた。それでもこうしてもらったお菓子も食べているわけだし…嫌っているわけではないはずだ。
「委員長自覚してないのかな…?」
「どうでしょう…私たちから見ても結構わかりやすかったですからね…」
チナツとイオリがこそこそと何か話してる。
「二人はなんでか知ってるの?」
アコがギロリ、と二人を見る。顔には余計なことは言うなよ、と書いてあるみたいに見える。
「アコ」
「ッはい!」
「今回、というか店長がここに来るのは毎回お礼できてくれているの。しかも、美食研究部の誘拐というこちら側が迷惑をかけたにもかかわらず、よ。」
「…はい」
「アコの言いたいこともわかるから、好意的に接しろとは言わないけど。せめて理由は教えてほしい。」
こちら側に迷惑をかけられたことがあったわけでもない。なんでなのか、あまり想像ができない。
「アコちゃんは委員長のことになるとたまに暴走するからね…」
「ちょ、イオリ!?」
「私?」
私のことは今は関係ない気がするけど…
「その、言いにくいんですけど委員長は店長に…えーと、特別な感情?を抱いているわけじゃないですか。そこをアコ行政官は気にされているんだと思います」
「チナツまで何を…!そんなわけないですよね!委員長?」
「…」
「委員長…?」
そういうことか。隠していたつもりだったのに、まさか気づかれてたなんて。
「…いつから?」
「…結構最初からですかね」
そんなに前から。だったらもう話してしまってもいいかもしれない。一人では限界があると感じ始めていたところだ。
「そう。じゃあ隠す必要もないわね」
「い、嫌です!私は何も聞きませんよ!」
「アコちゃん、往生際が悪いよ…」
「行政官、現実を見てください」
みんなにも無関係は話じゃない。いつかちゃんと言おうと思っていたことだ。
「私は認めませんから!委員長があんな男を好——」
「私が店長のこと、監視してたこと」
「「「え?」」」
…なんだか、予想外の反応だ。
「みんななんだと思ってたの?」
「それは——」
「いえ!!!!今!!!私も同じことを言おうとしていました!!!」
チナツの声をかき消すようにアコは答えた
「そうよね」
良かった。何か勘違いでもしてしまったのかと思った。
「いや、アコちゃん。監視だよ?下手したらもっとひどいんじゃ」
「…別に監視といっても大層なことをしているわけじゃない。よく会いに行ったり、いろいろ近況を聞いたりしてるだけ」
言葉選びが少し悪かったかもしれない。
「なんで委員長はそんなことを…?」
なおそれは結局好きということでは…?という言葉を飲み込んだことをヒナは知らない。
…本人のいないところで話すのは気が進まない。でも事情を離さずに協力なんてしてもらえないだろう。
「今から話すことを誰にも話さないと約束できる?…それに聞いてて気持ちのいい話でもない。それでも、聞く?」
三人は顔を見わせた後、困惑しながらもこちらを見た。話していい、ということだろう。
私も覚悟はできた。
「私が大体小学生ぐらいだったころ、店長と同じクラスだったことは前に話したかしら」
「ええ、もちろん。なぜあんな男が委員長の幼馴染なのか…もし私だったらと何度考えたことかわかりません!本当に羨ま——」
「アコちゃん、話が進まないから黙ってて」
自覚しているところがあったのか、不満げながらも口をつぐんだ。
「…続きを話すわね」
「知り合ったきっかけは私が助けたことだった。そんな機会は何度もあったから少しずつ話すようになった」
本当に少しだけだったけど。私はたぶん避けられていたから。
「何度も…?」
「…そうよ」
これこそが私がこのが話を渋った理由。店長にとっては掘り出してほしくない過去。
「店長はいじめを受けていた。それも日常的に、ずっと。」
詳細は語らない。きっと知らない方がいい。
「それは…今の店長からは想像がつかないつかないですね」
チナツの言うことも分かる。初めて会ったのがみんなみたいに最近だったら、私も気づかなかったと思う。
「今よりもずっとおとなしくて、ずっと暗い子だった。…優しいのは変わらなかったけど」
いじめに抵抗するそぶりすら見せなかった。理由を聞いて、「生徒を傷つけることなんてしたくない」なんて言われたときはひどく驚いた。
「ますます想像がつかなくなってきたな。あいつ、ずっと笑ってるから」
「そう。それが私が店長のことを気にかける理由」
「…?どういうことだ?」
ほかの二人もピンと来ていないようで頭をひねっている。
さすがに説明が足りなかったかな。もう少し、話さないといけない。
「当時、数日間店長がいなくなった時があった。詳細は良く知らないけれど…誰かにさらわれたんだと私は思っている」
「誘拐されたということですか…大丈夫だったんですか?」
「ケガもなく無事に帰ってきてはくれた。…でも戻ってきたときから店長はああいう風になっていた」
あの変わりようは普通じゃない。幼いながらもそのことは理解していた。
「…何かあったと考えるのが妥当ですね」
アコの意見に心の中同意する。
その時を最後に私は店長に会えなくなる。学校にも来なくなって、必死に探したけれど見つけることはできなかった。次に会ったのは私が高校三年生になったとき、つまりは3か月ほど前だ。
「明るくなったこと自体は別に悪いことじゃない。でも別人のように変わってしまった店長をこのままにしておいてはいけない気がするの。だからみんなも気にかけておいてほしい、何かあったときに気づけるように」
もう遅いかもしれない。それでもできることがあるならやっておくべきだ。
「もちろんです。店長さんには何度もお世話になりましたから」
「もちろん、私を協力するぞ!」
チナツとイオリは快く了承してくれた。あとはアコだけだけど、どうだろう。別に話を聞いたからって強制する気はない。
「…アコちゃん?」
「そんな目をしなくともわかっていますよ、イオリ」
「ハァ…非常に気は進みませんが私も——」
「大変です委員長!!!」
突如、休憩室のドアが勢いよく開けかれた。
「ゲヘナの飲食店が爆破されました!また、便利屋です!!至急応援、を?」
「「「…」」」
部屋が静寂に包まれる。
部屋に入ってきた風紀委員、リカは部屋を見渡す。わなわなと震えるアコと無言の私たちを見て一言。
「なるほど」
「どうやら私は何かやらかしたみたいですね!」
「いつもいつもタイミングの悪い時に…!」
「絶対に許しませんよ!!便利屋ァ!!」
心の底からアコに同意する。本当に面倒…
「私が向かう。現場のみんなに伝えておいて」
「了解しました、委員長が来るなら100人力ですね!私は行政官に怒られる前に失礼します!」
俊敏な動きでリカは去っていった。
後で呼び出されるかもしれないという考えは彼女にはないようだ。
「イオリ、チナツ私たちも行きますよ!委員長にだけ任せるわけにはいきません!」
「毎度毎度、あの人たちは懲りませんね…」
「私怨で動くのは良くないよ、アコちゃん」
どうやら三人もくるらしい。過剰戦力な気がしなくもないけど、他に何か起こっているわけでもないし大丈夫だろう。
「話はここまでにする。いくよ、みんな」
四人で部屋をでて、現場に向かう準備をする。
銃の手入れ、状況の確認、淡々と作業をしながら考えを巡らせる。
イオリも、チナツも、一応アコも、協力してくれると言ってくれた。これで私が見ていないところで店長に不幸が起こることは、以前よりは少なくなるだろう。
…店長がいなくなったあの日。何があったのか、再開した今も教えてもらってはいない。もしかしたらあの不思議な力はその時にもらったのかもしれない。何もなかったなんてことはない、絶対に。人を大きく変える何か、人知を超えた何かがあったはずだ。
だってそうでなければあり得ない。私が彼の名前を忘れるなんて。
感想、評価ありがとうございました。
めちゃくちゃうれしかったです!